無色透明色彩


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「ご苦労様です、はじめまして」

 普通に対応している。やっぱり順応能力高いよなぁ…。
 心配になるような、安心するような…。

 「いやー、アクセサリー屋さんと薬局ですか、凄いですねぇ」
「どうもです」
「…男性ですよね!?
 いやぁすみません…今の時代ですからね、男性もね、美容などされてますよね…いやぁ驚いた、後でお話したいです〜」

 マジで詐欺手法だな…。

「あ、すみません!私メディカル・法人ひまわり会の間宮と申します」
「…長谷川です」

 …波瀬くん、げっそりした気がする…。

 始めは間宮の体験語りの営業…いや、詐欺特有の長くてダルいトーク。

「こちら新人でしてね、すみません、今日は練習として…」

 薬の説明は長谷川に投げることにしたらしい…。抜け目ないな、安全圏だ。

 波瀬は臨機応変に「本日はありがとうございます。|岩室《イワムロ》製薬の…」と袋やリーフレットを出した瞬間、波瀬はこちらを意図的に見た。

 何か、間宮だけの独断行動だと暴くつもりか。確かに押されるだけでは同罪だ。

 薬棚を眺める。
 波瀬の説明と薬棚を見て漸く、波瀬も使っている製薬会社だと理解、立証が出来た。

 …営業トークが絶妙だ。本当はもう少し詳しはずだが、補足が必要であろう絶妙なラインで語り、間宮に説明させる機会を与えている。
 間宮はそれに…なるほど、利点しか説明していない。波瀬がデメリットを補足しようとすれば遮る勢いだ。

 透花も良いタイミングで「そうなんですねー」とテキトーな返答をするし、喋りやすいのだろう。

 確かに営業職は…捉えようによってはそんな一面もなくはないのも事実だろうが、これは過剰だ。どの職でもこれでは、営業管理担当がブチ切れる。

 ふと…間宮が袋の奥から“プレゼント”を出し透花の手に直接握らせた…。

「これ、銀座のチョコレートなんですが」
「あれ、間宮さんそんな物を用意してたんですか?」
「ん?
 ほんの気持ちです。貴金属は体力も使うでしょう?リラックス効果があると…」
「…抜け目ないですね、間宮さん。甘い物は」
「これなんですが」

 なんと、間宮自身がその箱を開けた。よく見えないが、恐らく下段のやつで…。

 波瀬が透花を見、間宮自身が「これ、蜂蜜に見えるでしょ?」と、謎の物を取り出した。
 これは、決定的な証拠の瞬間だ。

「我が社も事業拡大し、製薬開発中でして。こちらはサンプルです。まだ試作段階なんですが、もしよければアンケート用紙も入れておきますので、ご感想の程をお聞かせくださいませ。
 効能としてはリラックス効果や多幸感、美容にもいいですし、活力や精力なども付く薬を開発中です。宜しければひまわり製薬の商品も一緒にご検討ください。個人取り寄せも、言って頂ければ…」

 盛り盛りじゃねーか。

 透花がこちらを見、「それでは一度…わかるようにあっち置いてきてもいいですか?」とたどたどしく言う中、波瀬が少し頷く。
 透花はそれを持って奥へ来た。

 黙って頷き親指を立てグッド!と合図をすれば、ふぅ、と息を吐き波瀬の作業机だろう、書類が置かれた机にそれを置き、またカウンターに戻る。

 透花も…言ってしまえば同じような商売もしていた、ピンと来てくれたようだ。

 間宮が透花の手を握り「もしご契約頂ければ、値段も上と話して安くします」と念押しし、「それではまた!」と、二人は帰って行った。

 戻って来た透花の表情が強張っている…さっと、側にあった…台のような物に座らせ落ち着かせようと、背をさすりながら「ごめん、協力ありがとう…よく頑張ったよ」と声を掛ける。
 何かがフラッシュバックしたのかもしれない。

「…大丈夫?水はあっちに」
「あの人、あんなに喜んで…でも、僕だって…」
「今は違うんだから」
「アンジさん、なんで僕を…呼んだの?」

 あ。
 これはネガティブモードかも…。

「嫌味とか当て付けだと思ったなら、それはごめん、本当に。
 今回は急遽こんな形になった、意図せずに。でも、じゃぁ…現状はこれなんだ」
「……僕は、」
「責めるつもりじゃない。透花のおかげで今回は未然に防げそうだよ。でも怖かったよな、ごめん。
 …少し、外に出ようか?」

 実際、こうであることを変えるのは不可能に近い。だからこそ、避けてもいつかはぶち当たる問題だ。

「俺も神経質だったな。だからより、敏感になっちゃったんだよね。
 …気付いて、考えてくれていた深い傷に塩を塗ってしまった、ごめん、嫌で怖かったと思う。
 だからいいってわけじゃなくても…」
「……うん」
「俺の仕事も至らないから存在しているわけで…だから…。
 お互い自分のペースで整理して行けたらなって…勝手かもしれないけど…。俺はそんな君を見たし見捨てない…大丈夫だと思ってるんだ」

 透花の顔を覗けば当たり前に余裕のない表情をしている。
 思いが伝わればいいなんて、都合の良い偽善だよなと自虐心が過ぎったが、透花はぎこちなく笑い「…はい、」と言ってくれた。

「…許してくれる?」
「でも僕が悪いことを」
「いや相打ちだからそれぇ…。俺も透花には早く出会って…もっと上手く、被害も少なくとか…」

 こんなことを言えばまた、偽善も自虐も重ねていくだけなのに、なんでこうも…。

 歯痒くてもどかしい。黙るしかない。過ぎたことでも…未来があるんだから。

「……思いつかないなぁ、言葉が」

 言葉をなくしたのはお互い様で。
 黙った透花に耐えられなくなって抱き寄せ…なんて、ズルい方法なんだか…。

 でも。

 すりすり頭を撫でていればふと「お互い様…てことです…かね?」と、絞り出したように言う透花の勇気に。

「…今も未来も幸せに、より良くさ、」

 やはり何かをと思えばシンプルで。

「はい、」

 透花にほんの少し笑顔が戻った…。

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