無色透明色彩


7


 胸を撫で下ろしただただ「うん…」と言っては飲み込んで…。

 波瀬からすぐに「18時で帰社することにしたから」と来た。なんだ、“することにした”って…。
 「食いたいもの考えといて」と送り、時計を見る。

 …16:30…少しあるなぁ。

「波瀬くん、18時に終わるってさ。どうしよっか…」

 ふと透花は「そういえば」と、置きっぱなしになった紙袋を持ってきて「鍵と…」と、中身を見せてきた。

 …一枚だけ忍ばせたらしい、コンドームの包装が目に入り「あのクソガキっ!」とつい悪口が出た。

「なんのつもりだよあいつ!」
「お薬と間違えたんじゃ」
「これは絶っ対違う!
 確かにな?薬棚にもあるよ?見た目がこれっぽい薬。でもぜってえ間違えねーからっ。透花!あーゆー下半身バカに騙されんなよマジで!」
「…ユーモアだったり?」

 あぁあ。

「君はちょっと寛容すぎるというか天然なんでなんか…まぁ、本当に自然に出来た妖精なのかもな…」

 こんな子にあのバカ…やっぱ会わせないブラックリストインだ。

「…波瀬さん、凄くお喋り上手だった。僕のお薬わかりやすくて」
「詐欺師より上手かったよなあいつ」
「…ははっ、」

 透花は笑い「なんだかアンジさん、可愛い」と言うのに…ははぁ〜…と、何故だか今日の鬱憤やら緊張感が抜けてしまった。

「…まいっかぁ…飯奢る約束しちゃったし」
「気が抜けたら眠くなったかも…」
「寝てもいいよ、起こすから。
 あ、先生が言ってた、お昼寝の時間決めるといいかもってさ」

 台にコテっと寝転んだ透花の髪を撫でながら平良に連絡し、どうせならと波瀬の勉強ノートやら論文を読んでみる。
 なるほど、没収しようかと思えばいつの間にか時間が過ぎたらしい。
 透花を起こし、波瀬と待ち合わせた。

「お待たせ…」

 波瀬は少し…安心したような少し柔らかい表情を見せ「…息抜き出来たみたいだね」と言った。

「そうだ海江田さん。後でいつもの岩室領収書と今回の見積もり見せるわ…ボってる。蜂蜜上乗せならあれ、8,000円なんだけど」
「…ご苦労様。どう?MS」
「もういいよね?やりたくない」
「わかった、伝えとく」
「透花ちゃん、お疲れ様。君、そんなに良い子だとこの人パンクするから、俺みたいにちゃんと言うんだよ。
 俺はもう自作の薬とか売らないって決めたんだ、ね?海江田さん?」
「…本当に協力ありがとう」
「じゃ、すっげぇ美味いラーメン屋紹介する」
「…え?ラーメンでいいの?」
「ラーメンが今食いたいのマジで疲れたから。どーしても俺に高級料理食わせたいなら後で。もう腹減った無理ラーメン。
 あ、透花ちゃんもいい?」
「はい、お疲れ様です」
「よし。はい探して海江田さん」
「行きつけではないのね…」

 仕方ないなとマップで調べ「これは?」「お洒落なのはいーから」だの「油最近微妙」だのと注文をつけられながら、結局普通のラーメン屋になった。

「はじめてだ…」
「そうなの?」
「はい」

 波瀬が何かを言いたそうに見てくる。

「透花は外食に行く環境じゃなかったんだよ」
「……へー、そうなんだー。
 透花ちゃん透花ちゃん」

 手招きした波瀬に着いて行く透花は商品を眺めている。

「…たくさんある…」
「無難なやつはこれだけど、」

 機会をピッと押し次の画面が出てくる。
 「玉子と…ネギ?」と戸惑う透花に「どっちも捨て難いから入れちゃえ入れちゃえ」と選んでやっている。

 二人が選んだ後に安慈も選び、食券を渡そうとしたが…沢山出てきたな…と眺めれば「ネギと卵と塩が透花ちゃん」と波瀬が食券を振り分ける。

「波瀬さん」
「ん?」
「髪の毛染めたんですね」

 ふと言った透花に一瞬間を置き「はっ!」と波瀬は吹き出した。

「今なん、それっ!」
「お店では声でわかりました」
「スプレーした。忙しくて取れないか不安だったんだよね」

 「透花ちゃんはこっちのが好き?」とニヤける波瀬に「向いてると思うけど、詐欺師よりトーク力あるし」と言ってみる。

「いやトークとかじゃない、ブラック過ぎる。
 MRって何やんのよMSとの作業比率ヤバくねぇ?労基やべぇよあんたら屋上でちんたらタバコ吸ってたよね」
「喧嘩売んなよ同じ営業職ね。管理管理。アレみたいにメリットしか先方に言わないタイプもいるから」
「アレずーっと透花ちゃんの手ぇ握ってたよ?保護者さん」
「払っちゃダメなんだろうなって思って聞いてましたけど…」
「あぁ…ありがとマジでごめん…今の時代?セクハラで訴えられればいいよ」
「引用っすかそれ」
「やっぱりお誘いのやつでしたか?」
「目が特に」
「…え、そんなに近くにいなかったからわかんなかったけどそんなに?」
「海江田さんって束縛タイプじゃないんだね。俺なら目ぇくり抜いてるよ?」
「…さらっと怖いこと言うよね、君」

 真偽は確かじゃないけど…。

 ラーメンが来て嬉しそうに「いただきます」と手を合わせた透花に倣いつつ「俺の好きだったやつもよくそれやってた」と波瀬は言った。

 間宮の“お気持ち”は押収した。

「良ければ成分表だけ後で見して、興味ある」
「ん?普通にダメ」

 君のロマンも没収しようかと思っていたところだよ、サイコパス波瀬。

「その人に飽きたら俺んとこ来てね、透花ちゃん」

 軽口を叩いて帰って行った。
 まぁまぁ、有難かった。

「星、ない…」

 ふと、透花がそう言った。
 言われてみて夜空を眺めれば、月はハッキリと見えた。

「……ほっそい月だなぁ…」

 夜に侵食されてしまいそう。
 …そうだ、思い出した。

「ねぇ透花。プラネタリウムいつ行こっか?」
「あ、そうですね」

 会話は自然体に戻り「帰ろっか」と言えるこの瞬間。夜はどこか胸が寂しくなるから。

 深呼吸をしてみる。昔は夜の匂いを感じたのになと、安慈はタバコに火を点けた。

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