無色透明色彩


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 安慈の方が場所的に近いらしい…待たせてしまうのは確実だが…確か大手町オオテマチという所まではタクシーを使えと言われた。地下鉄に乗れば一発でわかるらしい。

 あ、それと。

「すみません、最短ルートでお願いします」

 これはいつでも言いなさいと改めて教わったが、以前は大体タクシーを使っていたので知っていた。タチの悪い運転手さんはぐるぐる回ってお金を稼ぐから時間が読めないと。
 仕事を始めたばかりの頃、それでお相手を待たせてしまい、お仕置をされた。

「早く会いたいし時間押しちゃうから次からはそうしてね」

 倍額だったらしく、運転手に凄く怒っていた…あの人、「逃げられたかと思っただろウチの可愛い天使にっっ!」と豹変して運転手に平手打ちしてたな…。

 ハイ過ぎちゃってるのかと心配になったしそれから長いこと…本当にハイで大変な思いをしたので、変更連絡があれば絶対に入れるようにしていた。
 それでなくとも雇い主から「アレはもうキてるしあと少しで切るから普段から恋人ごっこしてろ」と言われていた。

 あの人、今どうしているんだろう…。相当寂しがり屋だったんだよな、最後に会ったのはいつだっけ…。

 入院の最中に安慈がケータイを解約しスマホも新しくしてくれたので、以前のあれからを全く知らない。
 安慈の家に来る前の一切合切を置き去りにしている現状。

 それでも特に問題はなく、こうしてゆったりとしているからこそ、時間が歪んで感じる。
 おじいちゃんが亡くなって…安慈と共に過している時間はまだ人生で、遥かに短いはずなのに…。

 …あのコップをおじいちゃんにあげようと思ったのは、寂しい気持ちより「これから頑張るからね」と受け入れて覚悟を決めたからで、お線香をあげる度にそう心の中で言っている。
 自然とコップを目に出来て、お父さんも一緒なんだと…思えるから。

 過去を置き去りにしたけれど、何も変わらないのが事実だと、未練を残さずに今を生きているのは自分だ。

 果たしてそれは、一人だったら受け入れられたのだろうか。
 でも、そんなことを考える意味はあるのだろうか。

 たくさんの高層ビルが見えてきた。
 霞むほどに陽がキラキラしていて暑そうに見えるけど…カーディガンで気付かなかった、運転手はクーラーを付けている。
 …クーラーを付けていればカーディガン、丁度良いのかもしれない。

 地下鉄も丁度良い温度。
 寒そうにしている人もいたので、もしかして今日は寒いのではないかとも思ったが、そういえばお父さんが昔、「フランスは気候変動があまりないから日本はキツイかな?僕はあっち、寒いなって感じたんだよね…」と言っていた…。

 ふと、メールが来た。

祭 にいるから

 ……なんだろう、それ…。

 先に着いているのは確実らしい。
 ふとアナウンスを聞けば、丁度次の駅だ。

 もうす
と打っているうちに着いた。早い。地下鉄凄い…比較的静かだし。

 降りて、祭りとは…?と人の流れに乗ろうとすれば「おっと、」と腕を掴まれビクッとしつつ咄嗟に振り向けば、安慈だった。

 朝とは違う格好…あ、ジャケットタイプ…なんだか安慈も少しだけ、よそ行き感がある…。

「あっ」

 人の流れが去る中「あれあれ」と指差すのは向かいのホームの壁…ホントだ、着物に「祭」の模様…。

「祭だ…」
「そーそー」
「…あれ?駅で待ち合わせって」
「あ、そっか、ホームでって入れるの忘れてた…ごめんごめん」
「あ、いえ!お待たせしました…」
「じゃ、行こっか」

 マスクを外しポケットに突っ込んだ安慈は緩く手を掴みとさらっと「人多いからはぐれないで」言った…ことに少しドキッとしたので、その手を軽く握り返してみた。

「大丈夫?人酔いはしてない?」
「…はいっ」
「よかった。具合が悪くなったらすぐに言ってね。
 車で来てるから、帰りは電車乗らなくても」
「えっ、駅までは…」
「あぁ。
 いや場所がさ、最早駅なんだよね、ああ見えて」
「……ん?」
「タクシーで来たよね?天気も良…コウサ舞ってたらしいからなぁ、よく見えなかったかな…」
「ビルしか見てなかったかも…」
「まー確かに東京長いとそっか、意識しないよね。家からもよく見ているところだよ」

 ………?

「ん?」
「ここは日本で最も高い場所なんでーす」
「……え?」
「まーまー。少し歩けばわかります」

 ここ地下……。
 え、ワケわかんない。

 ぐるぐる考えているうちにすぐ着いてしまった。

「ホントだぁ……」

 見上げるともう、わかんない、なんとなくしか。ライトアップもないし景色が違いすぎるけど、ホントだぁ…。

 安慈が少しケホケホし再びマスクをしながら「確かにコウサ凄いのかも…」と、マスクを渡してくれた。

「コウサ……」
「あ、大丈夫な感じ?…俺もしかして花粉症的なやつあったりして…ちょっと待ってね」

 安慈がふとポケットティッシュを出して目薬をさし「あー染みるっ、」とぎゅっと目を閉じティッシュを充て「あーすげっ、良く見えるようになった…」と目をガン開きする。

「……マジで透花は大丈夫?」
「え、あ、はい…」
「ははっ、透花の方が強いな。
 えーっと、あ、丁度開場時間になったな。7階なんだよね」
「…階で数える…というか、ビル?だったんですね、これ…。ちなみにてっぺんって何階って概念なんですか…?」
「それな。634mっていうのは知ってる」
「634…」
「元日本一位さんの倍近く。元一位さんは333mなんだよ」
「…へー…し、知らなかった…」

 一階はお土産屋がたくさんあった。いや、むしろ流石「最早、駅」である。お土産屋さんしか見当たらない。

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