無色透明色彩


7


「アンジさんいつも、綺麗に美味しそうに食べてくれますよね」
「ん?うん」
「今だって」
「え?マジで美味いよ?シチューも新感覚だけど何故か馴染みもあるような感じでさ、」
「……よかった」

 いつも美味しいと言ってくれるけどさっき本当に不安になったんだよな…。

「飯ってひとりで食うのと人と食うの、全然違うんだって最近気付いた」
「確かに。病院でも寂しかったのかも…」
「あぁ、作ってくれる人にもよる、てのも気付いたかも…ちなみに病院の飯はあまりって大体聞くんだけど…食ったことなくてわからん…」

 毎日何故かほうれん草のおひたしが出たし…多分、誤飲防止なのか汁物は冷めていた…機械的なのかもしれない。

「栄養バランスは確かにありそうでしたけどね…」

 特に不味いとも美味しいとも…考えなかった。

「…なるほどねぇ」

 心地良い、スプーンとナイフ、フォークのカチカチ音。

「シチューもっかい食おうか迷ってるんだけどわりと腹に溜まってて勢いな気がしてるんだけどどう思う?」
「え、」
「いやさぁ、ルーだけ一口食べたらさ、あーこれは納得飯あっての料理だと思ったのね?
 けど飯とシチューをもう一杯食うだけの腹が空いているのか…と、ロールキャベツ1個、皿半分の今の時点で自分を測りかねていて」
「…あ、はい」
「まー自分で考えろよ!のヤツだわな。食いたいけどどうなんだ葛藤…」

 ふ、と紅茶を飲む彼を見て、よくよく考えたら組み合わせは確かに謎かもしれないけどつい「ふっ、」と笑ってしまった。
 ふいっとこちらを見るので正直に「なんか可愛い…っ」と感想を述べた。

「…自分でも今、子供っぽいこと言ってんなって自覚ある…」
「いやなんか、よかったなって…たくさんあるので明日も…パンスタイルしてみようかな?
 僕も今ガクッときたかも…」
「明日も食える楽しみが増えた」

 安慈がふう、と一息吐き「なんか充実してるかも…」と言いこちらを見る。

「…実は今日、仕事で機嫌悪かったんだけど、」
「え?そうだったんですか?」

 そうは見えなかったけど、待ち合わせの時から。

「途中から「あー早く透花と遊びに行きたいからも〜〜絶対時間通りに終わらしてやる」ってことしか考えずにひたすら文書いてたら押してたっていう…」
「あ、そうだったんですか!?」
「そうそう。ぱぱぱーって無難に書いときゃいいのにそう思った瞬間「絶対ノーは出させないモード」に入ったらしく凝っちゃったんだよね、医療辞典まで引っ張り出して」
「…わぁ、僕も」
「そうそう、電話したらどうやら透花も同じ感じみたいで、帰りで一気に鬱憤飛んで久々にはしゃいじゃったよ」

 はしゃいだ…とは言ってもプラネタリウム…。

「……僕は始めの、オリオン座の話気になって」
「あそうそうそう!でも軽く流されたよな。いやペガスス座も確かに、だったんだけど超新星爆破の話は知ってたからそっちに気が」
「知ってたんですね!?」
「話題になったからねぇ、何年か前。あれはでも、まだ研究中で爆破してないかもしれない説がある」
「えっ!
 あ、でも、それなら肩あるんだ…よかったねオリオン…あ、まだ仮説なのか…」
「脱臼してるかも?くらいに捉えたわ…」
「…脱臼…」

 ふぅ、と食べ終え「ごちそうさまでした…」とソファベッドに寄り掛かり「あ、やっぱり結構キてるかも…」とマイペースな安慈にやはり、脱臼という例えがくつくつときて「だっ、脱臼…っ!」とツボに入れば確かに、わりとお腹がいっぱいだと確信した。

「…あれ」
「た、例えが斬新…っ!」
「あそう…?」

 暫く笑っていたらついにしゃっくりが出て、満腹感が増す。
 「え、落ち着いてー」と背をさすられ「すみません…」と落ち着いた瞬間ふと、肝心なことを再び思い出した。

「安慈さんっ突然、ですが、ぼ…っく、す、スーパーて働…………っいたらっ、みたいっ、か」
「落ち着いてから喋って!全然わかんねぇ!」
「……はい、いや、そっ、卒倒軽げっ…んしとこって、騙し討ちっました、いまっ」
「わかった、わかったちょっ、倒れないでな、今超怖いからそれっ!息止めて息!一応それも横隔膜の痙」
「っく、す、すみません、とっ」
「はい一回思いっきり耳抑えるよー。深呼吸してー」

 はあっ、と息を吸った瞬間、耳の下の方をぐっと押され、ついはあ、と出してしまったがなんか閉鎖感っ!
 少しだけ押さえつけられたあと「はい、ほら止まってるかな?」と言われて気付く。

「…止まった…っ!」
「…飯食ったばかりだしまぁ楽だったかな。
 えー、まぁ後で聞くわ、今ので確かに卒倒軽減したかも…策士だなぁ、今の方が卒倒しそうだったわ…ちょっと外来まで待ってな」
「あ、はい勿論。あのさっきのは」
「無理とか遠慮なら止めるけど、俺のシチューご飯体験と同じなら…個人的には前向きでいいな、とは思う。心配はするけど…距離感も慣れが必要だしね」

 なんでしゃっくりが止まったか気になったのだが、凄く真面目に考えてくれているようなので「…はい、」と返事をして留めた。

「うん、風呂入っといで。今日はありがとう、疲れただろ」
「あいえ、僕の方です…」

 ヒョイっと食器を流しに持って行き当たり前に洗ってくれる安慈に感謝をしながら風呂に入った。



 ……ガンっ、と腹が圧迫され目が覚める。

 「う゛っ」と暗闇に目を凝らすと…透花が腰に乗っている。

 その・・透花は目が合うと、丁度腹に両手を付き体重を傾け…いや多分消化は始まっているけど…あれからの時間を感じた。互いに眠って…多分日付は跨いだのだろう…。

 ニヤッと満面の笑みでこちらを見るそれ・・は、「あ、起きたぁ?」と無邪気にそう言った。

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