2
「失敗したかな、また」
どうやら本当に…まぁそうか、ユリシスだって同じ倫理観だとたったさっき自分が決めつけたじゃないか。
つい、「…まぁ、いいんじゃない?」と声を掛ける。
大人はみんな矛盾で生きているんだよ、純粋くん。
「そうやってわかっていくのが人間だし」
「私は」
「君は箱に詰めすぎている。その溢れた物が透花に刻まれているんだと思うよ。
いいよ、たまに話そうか。これはどちらとかではなく、君を見て思った」
「……けっ、」
あっ。
子供っぽいかも。
「……マザーテレサにでもなんの?あんた」
「ただの公務員で充分かな。
『我々は、必要なもののためよりも、不必要なもののために努力し、働こうとする』って知ってる?
「米国の盲目妄想野郎」
「君よか盲目じゃないな、“ありのままの自分とは異なる存在になるためには、自分が何者であるかについての認識が必要である”」
「だから、」
「“人間の社交本能も、根本は本能ではない。孤独が恐ろしいからである”」
「ナチは黙れよっ、」
「………“人間のみが獣にも神的なものにもなれる”」
「……なるほど?」
「イタ公はいいんだ…」
「別に差別主義じゃないし」
「ふはっ、」
笑ったら振動が…「何、」と言われたので起き上がり唇を舐めてみた。
「………は?」
「“真の男のなかにはひとりの子供が隠れている……」
ポカーンとしてしまったその表情が面白く、つい下唇を少し食めば我に返り「だから、」と言う隙にパタッと、真横に倒し顔を間近で見てやり…多分自分でもこれだな、と「この子供が遊びたがるのだ”」と続ける。
我ながら似合わないな、哲学なんて。
「な、」
「はー眠……ちょっと貸して」
くるっと背中を向け抱き枕にすれば「…何?するの…!?」と、誘ってきた側とは思えない反応で。
「いや明日仕事だし…あー…安眠に丁度いい温度かも…お前も寝ろよ、クソガキぃ……」
本当に心地よい温度…きゅっと縮まり当たる腕の感触が…流石若いな触り心地がいー…。
眠りかけた時だった。
胸にグリグリと感じる強い圧迫と…ガッと腕を掴まれ「いって、」と起きた。
側を見れば「……アンジ、さん?」と…透花だ、震える目をしてグッと頭をグリグリしてきては……。
震えている、しかも、強い震え…痙攣に近いかも。
「…透花…?」
さっと背を撫でスマホを取り病院の番号を呼び出したが、ぱっと払われ「あっ、」と、たまたま透花の頭に直撃してしまった。
『はいもしもし、日本アルバータ』という音声に透花が「はなさないで、」と、叫ぶような声で言う。
「捨って、ないで、お願、」
「待って喋るな、舌噛むから」
スマホを取り「すみません、そちらのオリバー・ブラウン医師に罹っている青木透花の保護者、海江田安慈と…」と話せば「…やめて、お願いっ、」と、痙攣しつつも意識はあるらしい。ガンガンと頭をぶつけてくるのに仕方ない、と、少し離し背を撫でる。
「お願い、はなさないで、お願い、殺さないで、」と言う透花に苦労をしながら『どうされました?』「意識混濁と痙攣発作を起こしていて」と話を進める中……。
「オリバー・ブラウンに会わせろ、」
はっきり言った透花はぐだっとし、ばっと震えが酷くなった。
「い、意識が今…」
『わかりました緊急車両でそちらに向かいます、その間』
「少しなら応急処置が可能ですが、ええとはい、お願いし」
『藤沢です、海江田さん』
それを聞いて…安心した。
『先生には大至急こちらから連絡致します、救急車も迅速に…。
確か、社宅にお住いでしたよね…私も同行し付近では鳴らさずに行きます、普段は15分の距離ですよね』
「はい、」
『5分で到着します』
切れた。
「透花…、」
…ヤバい、声が震えるなと気を取り直し「おい、透花」と反応があるかを待つが…。
ピタッと痙攣が止まりはぁ、と、すぐに透花は目を開けた…。
「透花っ!」
…ぼんやりしている。
「…聞こえたら手を…」
手をちょんちょんとすれば指が動いた。
「………抜けた、」
そう言った透花の意味を理解出来ず「大丈夫か?」と聞けば「死ぬ…かも」というのにハッとした。
はなさないで………離さないで、か。
「……もしかして、」
汗ばんだ顔でふと目だけで見上げ、頷く。
「……ユリシス…が?」
「これで………終わりって、」
「…………」
「ぜんぶ、おもいだした」
………人格の融合…?
混濁?
透花は顔をぐしゃっと歪めて「ずっと……僕を、」と泣き始めてしまう。
「……そうだね…」
しかしそうなるなら…。
「…先生のところに行かないと、透花」
抱き締め「よしよし…」と背を撫で呼吸を促しているが、ひっくひっくと泣かれるのでヒヤヒヤするけれど…。
「なんで…っ!どうしてみんな殺すのっ、嫌だって……っ!」
バシバシ叩かれる……藤沢さん、多分今最強に元気かも、この子…。
「まだわからなっ、いから、」
痛ぇ。
グズグズ泣く透花に何故か自分も引っ張られて泣きそうに…堪えてるから鼻が泣いてるわ鼻水…と鼻を少し啜ると、腕の中の透花はわかりやすくピタッ、と止まった。
「…泣いてる?」
聞かれたらしょうがない…「何故か泣いてるよ…っ」と鼻水を啜った。
「………痙攣…は、治まった、よね?名前言える?」
「…青木とーかっ、」
「もうひとりは?」
「ユリシスヴ…うぇるいぇえっ」
「…確かに言いにくいよね…。寒くなるから毛布を…」
ソファーベットの毛布を掛けひゅっと背負う。多分5分は経った。
足はまだ少し痙攣中…汗とか涙とかで血液成分が足りないのもありそうだが…。脈を測りながら降りる、これ前もあったよなぁ…と思い出したりして。
引き金はユリシスが話してくれた。彼は…礼を言いに現れた。
それを否定したけれど…。
- 30 -
*前次#
ページ: