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安慈がウトウトしている最中、一通りの検査は終わったらしい。椅子の前に透花のストレッチャーが来た。
「あ、」
目が少し冴えた瞬間、「どーだったぁ!」と無邪気に起き上がる透花…あのスナッフフィルムの時のような笑顔、これは恐らくユリシス人格だ。
「あっ、痛たたた…」と額を揉んでいる。
ずっと脳波を眺めるオリバーは「Shut up!」と一括した。
仕方なくユリシスと見つめ合えば「あ、いまは」と言うので「わかってるよ…」と答える。
「どーゆーことか説明してよ」
「ん?あぁ……予想通り。透花から抜けたらなんか、透花に記憶が入っ」
「でもお前は健在だよな?」
「…残念ながらねー…」
おどけて言うユリシスに「やっぱり怖かったんじゃん」とオリバーは振り向いた。
「いや、マジで消える5秒前な感じだったんだけど…これってなんで?」
「あの時“殺さないで”って言ってたのは透花…?」
「そんなこと言ったの?」
「あー、こりゃ乖離しちゃったね、アンジ」
「つまり?」
「癲癇と解離性同一性障害…統合失調も付くかどうか。
面倒臭いのがいつ現れるか。現れたり去ったりする度に神経壊してちゃ…あ、血液検査でも癲癇時の筋肉破壊は確認出来たよ。
さて?困ったな、クソガキ」
「……もうしない。ごめんな」
「多分オマエの意識下じゃない。あれほど言った、奪い合うなと」
「…私にもわかりませんけどぉ?」
うわぁ、開き直りやがった、やっぱ若干幼いんだな…。
その割には博識なことで…。あざといやつだ。
「オマエにとってトウカは神なんだ、わかるか?オマエを創造したのはトウカね。だから、オマエは取って変われない」
「ミスターオリバーはプロテスタント?ユダヤ?」
「カトリック。
…しかし、悪いとも叱れきれないのは何だこの3日監禁されてセックスドラッグ打ち込まれまくった並みのドーパミン量は」
オリバーにジロっと見られ「は?なんですかその4日目のネズミみたいな症例」と口を吐く。あれは痙攣も起きていた…。
そもそも透花はその薬物被害(重度)認定なんだが。
「幸福ホルモン」
「正解。なるほど、オマエが言ったのも間違っちゃいないようだ。
トウカの脳波には苦痛がない。アンジ、オマエ心当た」
「そうだ爆笑してしゃっくりしてたから止めた…!」
間。
「今ずっと考えてたのそれ?」
「…キスしたじゃん!」
「は?してないよ、舐めただけじゃん」
「それをフレンチキスって言う!」
「あ、確かに」
「………なるほど。
で、それはユリシス、オマエの意思?」
「…勘違いしているようだから言っとくが、私の意思は透花の身体とは別物だ、…始めから」
「ではオマエの意思はどこに帰属するか、はい天才くんに問題。間違えたらオマエ封印する」
…厨二病臭ぇ……。
「…だから、」
「オマエが勝手に切り離してたろ?」
「…え?」
それは…。
「複雑だがユリシスがトウカを切り離してたんだ、多分。以前の話から導いたけど」
「え?」
「普通は逆だからこうして自覚がない。そうなら最早融解に近いし曖昧だったが…今回はナニユエ?」
「…いつも外から見てるからわかる。透花がこうしたいと願った時に私はそこに行き、」
「うん」
「あまりにもどかしくて、この男はどうして透花の愛をわからないんだって意地悪したくなった」
「………へ?」
「なんでわからないかな、あんた透花をどう思ってんの?」
「素直で飯が美味い。けど、心配になるくらい優しくて控えめで順応能力高いから流されやすい面があり」
「じゃなくて!いいからそういう分析とか今!好きじゃないのかって、」
「え?だから好きだよ?」
「だったらなんでなのっ!」
…考える。このクソガキは一体何に対してこんなにキレているのか…若干口調が女子高生っぽいな…。
「……女子高生だったりする?君」
「はぁ!?」
「あ、時間差で来たなるほど…うーん、君に俺言ったよね、別にいいけどって。ただ、感謝なら違うよ?ってさ」
「あー、なるほど私がまとめる。ユリシス、アンジは性と愛が」
「聞いた!」
「じゃ、オマエの独断になるけど、トウカの意思はどこ行った」
「……透花の…意思?」
…まるで予想もしていなかったかのようなポカンとした表情を見せる。
「オマエの常識、当たり前じゃない、世界。
オマエが見てトウカはアンジを求めてるかもしれないけど、苦痛はない。はい、ここから導き出せる答え簡単、マジで封印5秒間」
覚えたてと厨二病拗らせて間違えてますけどファミリードクター…。
「………どういう」
「ドーパミン。幸福ホルモンに帰属してる」
………。
「ちょっと待った若干聞いてなかったし先生、俺にも難しかった今の!
え?物質じゃん、ドパミンって」
「そうだけどトウカもオマエも私も」
「……物質だわ!」
「ちょっと待って私もわから」
「良い兆候に向かうには。オマエはドーパミンなんだよユリシス」
「え?は?」
「厨二闇医者意味わかんねぇ…」
「つまり。
悪さするならメジャーぶっ込むぞって話。でも、透花は眠りワカラナイ。だからやりたくない。でも離すことも出来ない」
「………ちょっと整理。
つまりユリシスはドーパミンの擬人化?」
「ギジンカ、多分それ」
「今テキトーに答えたっしょ」
「うん。
突き動かすのはトウカの感情の動きだけど、珍しい、ポジティブ置換されたのがユリシス…と。
しかしこのクソガキの副作用、ハイすぎて空回りネガティブ。これで躁鬱の説明終わり。
だから、傷付くのはトウカ本人」
「逆輸入的な?クソガキ何歳?」
「…言わない」
「18」
「言わないでよ!あとクソガキも!」
オリバーは行儀悪くデスクに腰掛け「さて、楽しい話、出来たか?」と言った。
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