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「奥さん、ビアンらしいっすよ。だから恋愛は自由らしい」
「……えぇえ…。命惜しくないんすかあんた」
「惜しかろうが惜しくなかろうがこの人はふ……福山風味には勝てなかった負け犬で…っ!奥さんも財布程度でしか見て」
「お前もだろーがこの変態サイコパスが!」
…すっげー人のこと言えない気がするこの人…。
「あ、ちなみにリョータは俺ね。波瀬亮太っす。
あの指輪、皮膚痕とか残ってたから、流石に直してやりたくなって」
「皮膚痕…」
「…マナブは妻の想い人の忘れ形見なんだと」
「…え、ここに来て人情派になろうとか無理臭くないですか。急に倫理観とか出す?普通」
「っはっ……っは、こ、この人っ…今までで一番キッツイっ……っ!」
波瀬のツボを刺激したらしい。
え?何この異空間。
「…ここ、ミックスバーの跡地だったりします?」
「よくわかったね、正解」
「やっぱりかー…既視感が…。
君はあれだよね、この辺が開発されてきてカオスだった頃に出頭した」
「流石マトリっすね。それも正解」
「あー……なるほど見えてきたけど……」
薬物患者支援的な名目なんだろうと思ったが…波瀬は普通に仕事してそうに見える…。
「あ、思い出した。透花の院外処方箋持ってきましたよ平良さん。波瀬さんに渡せばいいんですか?
確か波瀬さんって、書類送検されたけどあっさり何もなく…で合ってます?」
「このドS眼鏡とあのヤクザ屋さんに尽力頂きましてね」
「そーゆーこと」
あー…確かにこの人めっちゃ手柄上げてたわ…うわぁ、なんてエグい…。
タバコに火を点ければ「そんなに吸われると吸いたくなるだろーが」と、マナブくんから顔を背けてタバコを取り出す…。子供の前ではあまり吸わないのねあんた…何そのバグった感受性。
「…ミステリアス通り越して宇宙人っすね平良さん…」
「俺のことはもーいーだろ。あ、お前と一緒で俺も今迎えに行った帰りなんだわ」
「……つーか、あの子可愛いすぎっすね、何人?天使じゃん超可愛い。あんたのコレ?」
卑猥なジェスチャーをする波瀬に「違うけど」と普通に答える。
「波瀬さんもどっちも系なのね…なるほど」
「……あんた怖いわ順応能力も高いしビビるんだけど」
「俺のことはミックスバーだと思ってください。わりとよく言われるんで」
「ザ、マトリだ。このドSよりマトリだ」
「…この子はなんです?マトリ新人希望かなんか?」
「じゃ、そういう認識でいーよ」
「雑っ。
いや流石にそのへん詳しく聞かないと作戦立てて貰うにしてもこっちが立てるにしても難関すぎますよ」
「今日は顔繋ぎ…って、おい海江田あれ」
パッと見ればいつの間にか波瀬は子供側に行き「マナブ、それ閉まっときな?こいちゃんもそう言ってんでしょ?」と指輪を見ながら「…首から下げるようにチェーンつける?」と優しい…。
かと思えば今度は透花に「君、可愛いね。まるで天使みたい」だのと口説いている。
…チャラいなぁ…。
「…アレはなんなんすか…反応に困る子だな…」
「サイコパス特有のチャラさだよな。あーやって誑かすんだよ」
マナブが「か、髪きき綺麗、め、ビー玉、みたぃ」とキラキラする中、波瀬は透花に触れながら「甘い飴細工みたいな髪だね、舐めていい?」とか言っている。
「…お前、あの子とはマジでなんもないの?」
「まだ家にすら帰れてねーし病院から真っ直ぐこのカオスっすよ?何があるんすか」
「じゃあこれから新同居生活ロマンスが」
「うっわぁ、クソ似合わねー…。なんかキメました?メチルフェニデートとか」
「キメてねーよ。変なカマ掛けしやがって喧嘩売ってんのか。
アレは、あの件で恩売って情報屋にしたんだよ。謎の薬あっただろ?」
…記憶を少し遡…らなくてもすぐパッと出「マジっすか」と驚く。
「え、そっちの件と繋がりが…?」
「あれ本体は知っての通り、第2種の製薬会社と組を鎮圧した、で終了だけど?」
下北沢開発の際に平良がちょこまかと検挙率を上げていた最中、突然押収してきたメチルフェニデート、商品名“リタリン”はどこの物か…というのは確かに曖昧だったのだ。
同時に確か…薬機法に引っ掛からない、最早“新薬”と売り込みをしたいくらいに見事な薬物も上げてきて…結局、大元を叩くに至らないままいつの間にか警察がその件を持って行った。
なるほど。自首した、というのはそれか。
結局警察でも、書類送検したはいいがメチルフェニデートも“バランスの良い薬物”も、違法に精製し配ったという事実や、こちらが追っていた薬物事件に関連性があるという事実も上がらなかった、だからこうなっているのだろう。
そして、こうして情報屋として監視している、と…。
「鎖つけたわけですか。
その割に処方箋と一応表記させるとは…まぁ微妙ですが。見事な支援ですね」
「嫌味かよ…まぁ、スパッと言うところ、案外嫌じゃねーのが不思議な男だな、お前は」
「Mなんすか?まぁ俺、口じゃねーと感情出ないって」
「あぁ、だから胡散臭いのか」
少し、イラッとする。
「…目は口ほどに物を言う派っすか?あんた。
察して察してって構ってちゃんじゃねーのかも、俺はね」
「言葉に出来ない感情って、知らねーの?」
……逆説。だから喋ってねーといられないんすけど。
「俺たち実は相性いーかも知れねーっすね」
「…今日は饒舌な方だな?なんかあったんか?」
「ありまくり、今」
「そうじゃなくて。あ、復帰おめでとう」
「はいどーも、」
あまり喋りたくないな。
さっと立ち、「少し赤くなった、可愛い」と言いながら透花の髪やら耳に触れ硬直させている波瀬をいい加減「やめなさい」と制する。
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