無色透明色彩


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 …消印すら、法要の1週間前とか…。

 会場の指定すらないハガキ。
 送り元の住所検索をしてみる。

 多分、公営団地だろうか…なりすましでもなさそう、1Kくらいか…。住所に覚えはないが…当然か、父と母は離婚している。
 自分が青春時代に過ごした祖母の一軒家は、売却したのかもしれない。

 こりゃあ金の無心をされでもしたらウザイなぁ…。

 平良が喫煙ルームに入ってきた。

「あ、海江田さんだ。
 坂下がさっきなんか探してたけど」

 …あ、多分今日の昼か何かに透花がお礼をしに行ったのだろうな…。

「あー、先日世話になりまして…奥さんが夕飯をね…」
「…透花ちゃんは大丈夫なのか?」
「まぁ、はい…オリバー先生がマジで優秀で」

 横目でこちらを見る平良は「それ、昨日届いたんだよ。終業間際に」と…珍しい、気を遣ってくれている。

「あぁ…聞きました朝。
 平良さん、1年残留だそうで…」
「次は単身になりそうで、神奈川に」
「…あれ、学くん、3年生でしたっけ」
「そう。微妙な時期ではあるがまぁ…俺が暫くいない状況なんて当たり前というか慣れてはいるし…向こう3年と考えると」
「確かに。中学一年で落ち着いて…進路、的な時に戻る方が、まだいいの…かな…?」

 小さい子を持つのも大変だな…。

「ここの補佐は海江田さんにと、1年間で引き継ぎしたくて」

 …ゆったり構えてくれたようだが…。

「確かに、俺の異動とも被りそうな時期ではありましたね…まぁ、神奈川ならこちらにちょこまか来るのかな?」
「流石にこの、あと一歩なところで海江田さんまでポンっと異動ってのはさ…。
 次はきっと…そうだな、誰だろう…」
「………鴻池さんを寄越す…はないか。あの人見ないし、関西かどっかにでも」
「すでに辞めてる」

 …え?

「それって、」
「それでいて江崎があんな感じ」

 近年の事件を思い返す。
 平良と江崎の始まりには、鴻池も関わりがあった…んじゃなかったっけ?当の鴻池の情報屋疑惑があった花咲組の案件は現在も進行中で…。

「…江崎さんにヒントを与えた、とか…?」
「ご想像にお任せしますよ」
「それってサトイくんは…」

 …随分キナ臭い話だが「あー、あれは大丈夫大丈夫」と言った。

「出会った当初、俺はあいつに言ったんだ、お前を守るのが仕事だと」
「あんた的にはまだ、やっぱり慧くんに」
「…少し違うかな。
 あいつはあいつが守るし、そいつがあいつを守ると…幸いこちらにはアレに関して…シモキタな。ある程度固めてあるから」

 あぁ…なるほど…。
 この人、キレ者だが…下手だなぁ、そういうこと。

「あんたがあの人に元何かを託した理由、やっとわかった気がするかも」
「いや、あいつが最初に言ったんだよ。
 はは、思い出しても…面食らったもんでね。あの男と俺を前にして「誰がこの人を守るんですか」なんてさ、笑っちゃうよなぁ」

 懐古する平良の笑いは…穏やかなものに見える。

「もうその瞬間から俺たちの配置なんて、決まってたんだろうなって」

 …そうだったのか。

「…意外と人情派なんすね。力量もわかってるから補い方もわかってる」

 あんたが余程…周りを信頼しているのはわかった、そして人選にミスがない…。
 本来ならその微温湯のような温泉に浸かっていたいところなんだろうが、こちらには規約がある。

「……抱え込む前にガス抜きまで出来るんじゃぁ…ホントにもう…。
 俺、あんたのこと少し嫌いでしたよ、正直」
「はは、だろうな」

 …地固めはした、と…。

「1度離婚して名前変えて…こっちに戻る頃にはまた、お前も坂下もきっと同位かな?そしたら別部署かもしれないけど」
「出世して帰ってくる気でしょ?あんた」
「どうかな。辞めてるかもしれないし…生きているかわからないだろ?この仕事」
「………確かに」
「出世するならきっと今だと…一番早そうなのは坂下だろうなぁ」

 …なるほど。

「…勝手だなぁ。でも、まぁ…」

 多分あんた、この仕事辞めないタイプではあるよ、自分より…。
 平和な泥濘の地固めは…後一歩というところか。

「後悔は後先に立たないから」

 平良は「じゃ、」と先に喫煙室から去って行く。

 自分たちがいなくなった後の部署…というのは所長が組み立てねばならないが平良さん、多分ね、所長だって出世はするんだよ。

 それぞれ、未来があり歩む道が違う。
 そっか、と再びハガキを見た。多分これは後先に立つ後悔に繋がると思う。赴いても良い思いはしないだろうけれど。
 後悔も満足も紙一枚。そんなもの、さして変わらないものなんだろう。

 コーヒーを買って部所に戻れば丁度、応援要員の坂下が「あ!海江田!」と…本当にいつも通りだ。

「妻からメールきた〜、透花ちゃんに礼言っといて!」
「あ、はい…とは言ってもこちらもお礼なんで…」
「今日は透花ちゃんの揚げ出し豆腐らしいんだわー」
「俺も後で作って貰お…」
「ん?今日は?」
「外食なんですよ、たまたま…」

 喪中ハガキに目がいったらしい。
 特に何も言われないがもう、「あー、俺のばあさんの三回忌らしいです」と開けっぴろげる。

「あれ、三回忌って…」
「葬式お知らせすら来ていない謎の法要ハガキが職場に、とか、呪いのなんちゃらっすよね」
「いや不謹慎だがわからなくねぇなぁそれ…この現状だけで複雑だっつーのは、わかるわ…
 ま、いいんじゃね?それより平良マジで結婚してたんだな」

 坂下のふとした話題転換。

 「知らなかったのか?」と所長、「そんなに言いふらしてないんでっ!」と…いつも通りの光景…。

 それでも着実に世界は、進んでいる。今度は自分事に回ってきただけだ、ただ。

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