無色透明色彩


6


 土曜日の昼、下り線側も混んでいた。
 透花も安慈も頭の中でシュミレーションはしていたが、実際目にすればやはり戸惑いはあるらしい。

 1駅着く前に「大丈夫そ?」と、安慈は透花に軽く聞いてみる。

「……まぁ…病院よりは…」
「…なんかそれ別種類な気はしなくないけどね…」

 椅子の空きはないけれど、立っている人も多くはない車両。

 どうやら車椅子専用車両だったらしい。
 そこに立つ人たちを見て「そっちは吊り革、ないんですね…」と投下はポツリと言った。

「立つのが前提じゃないからね…いや、つり革ある電車もあるけども」
「…あれって満員で、入れなくなったらどうなっちゃう感じなんですかね……?」
「見たことないな…駅員さんと一緒だろうし…でも、想像したら大変だよなぁ。空いてる時間だったら互いに安心は出来るけど、そういう日ばかりじゃないよなぁ…時間や混み具合とかも、駅員さんが見てくれるのかなぁ…?」

 目で見たものを考えるくらいの余裕はあるらしい。少し、そういった事に慣れてくれて安心する。

 次には窓の外を見ている。あまり変わり映えはしないけれど、「そういえば」と思い出した。

「確か車酔いとかは…空見るとマシになるらしいよ」
「え、そうなんですか?」
「うん。
 そもそも、自分は動いてないのに景色が早く流れて脳が混乱するんだよ。そのズレを…遠くの景色や空を見ることでなんとなく抑えるというか」
「あ、なるほど。空は動かない…?ですもんね」
「我慢はしないでね。今不安とか、なんか色々あるだろうから」

 空いた手をふと握ってやった。
 パッと驚いた表情でこちらを見たので「安心出来る?」と聞けばハッと透花はまた外を見て「一瞬酔いそうになった…」と言った。

「あ、そっか近いか、ごめん…」
「いえ…少しこのままで…」
「マジで酔い止め必要になったら言ってね。一旦降りてもいいしさ」
「はい…」

 時計が目に入る。細いなぁ、手首。触るとより感じる。

「あ」
「…はい?」
「危ない空見よ…俺も一瞬キた…あー、天気いいんだな今日、こっち太陽側だったな、眩しくない?」
「…若干…」
「次座れるかなぁ…」

 しかもこれ、特急だ…。各駅の方が1駅間隔が短いし、何かあれば降りれたか…早くは着くけれど…。
 全く楽しみではないがつい「早く着かないかな…」と漏れる。

 しかし特急は特急なだけある。たった数駅で着いた。

 降りたホームで少し休み、透花の具合を確認すれば「案外大丈夫でした…」とは言いつつ、少し疲れは見える。

「昼食うのは帰りがいい?」
「…混みますよね…」
「まぁ…ファミレスなら回転率良さそうだけど、今……カフェでも寄ろうか?テイクアウトとかで」
「あっ!
 タピオカって美味しいんですか?」

 …変化球来たぁ…それは逆に難しい気がする…と思いつつ「…全国チェーンなら生き残ってるかも…?」とマップを見てみる。

 安慈の予想通り、申し訳程度に取り扱っているチェーン店が入っていた。

「一応この駅に入ってるらしい…黒糖ミルク。好き嫌いが分かれそう…」

 写真を見せれば「コーヒー…?」と聞いてきた。カフェインだったら微妙だと思ったんだろう…。

「うーん……あ、牛乳に黒糖てだけっぽいよ。黒糖は好き嫌いありそうだけど」
「それ飲みたい、美味しそう、」

 酔いも感じる少しキラキラした顔で言う透花に、やはりついつい「いーよ」と綻んでしまう。

「意外だね…タピオカブーム随分前な気がする。白いたい焼きよりは最近だけど」
「…白いたい焼き?」
「あー、タピオカと同種…同業種というか、昔あったんだよ。でも不思議、今じゃ白いたい焼きの方が主流になっているような…」
「それも、美味しいんですか?」
「いや普通…もにゅもにゅしてて違う食べ物感がある。
 あ、タピオカ初?」
「はい!」
「1個注意。一気に吸ったら喉に直撃する。
 俺昔…流行る全然前、確か高校の修学旅行の沖縄。珍しい食いもんだって普通に吸ったら喉に詰まりかけたんだよね。死ぬかと思った」
「えっ」
「だからゆっくり飲んでね」
「…っはい!」

 これも良い機会かな…と、安慈も一緒にタピオカ黒糖ミルクを飲んだ。

「……不思議な食べ物?」

 安慈は慎重になりすぎて「な、なんか変!」と透花に笑われた。

「なるほど…もにゅもにゅ?もちもち?食べるのか飲むのか不思議なもんだったんだなコレ…」
「なんか…失礼かもしれませんが、今日も、楽しい…です、」
「ん?失礼じゃないよ、デートデート」
「で……ぇと…」

 気を緩めようと言ってみたのだが、何故か透花は俯いて「それだと緊張するぅ…」と呟く。失敗したようだ。
 自分も…父とこれから会う…実感が全くない訳ではない、頭の片隅に負の感情が根付いているのだが…目の前の事が、楽しい。

「透花に失礼かもしれないけど、透花がいて気が紛れているんだ。高々、父親に会うだけなのにな」
「……まぁ、それも失礼ではない、ですよ?」
「…そっか、」

 タクシーを拾い、目的地より手前のチェーン店を指定する。
 地元に戻ってきたという実感もない、なんせ生まれ育った地域ではなく、知らない場所。しかし見慣れたような見慣れてないような、東京でもない場所で。

「…団地?」
「みたいだね。初めて行くからこの辺知らないんだよね」

 透花と出会うきっかけも団地だったと、随分前のことのように感じる…。

 透花は初めて来た東京以外の場所、に興味があるのか、窓の外を眺めていた。

 横顔も綺麗。それだけで安心する自分がいる。今まであまり人の容姿を特別覚えていたわけでもないのに。

「大きい、あれですよね?」
「多分そう、Bの13の3の8号とあった…」

 Bの13の時点で、どうなんだと思う。

「狭いだろうし、本当にすぐ帰ると思う。精々墓参りするくらいかな」

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