7
昼食を終え、まずはBを探す。
ケータイのマップは近くで案内を辞めてしまった、結論Bは15まであり…。
少し迷いつつ、「ここか、ここだな、13」とよく確認をしてから…久しぶりすぎてこれもまた見つけるのに一瞬迷った「父 良優」へ電話を掛けたが、出ない。
仕方なく、ドアの前でSMSを送る。
慌てたように掛かってくる電話の音。間髪入れずにチャイムを押した。
「…安慈…か?」とドアの向こうから聞こえる。
警戒心だけは一般常識並みだなと、「そうだけど」と返す。
ドアが開いた。
10年少しぶりの父親は相応に歳を取り…昔と変わらず無愛想かと思えば透花を見、「あぁ…まぁ、入れ」とだけ言った。
「………」
挨拶をしようとしたのだろう、何かを言う前にそんな態度をされた透花に「気にしないで」と安慈は言う。
「お…お邪魔します……」
…まぁ、予想通りだ。
家の中は相変わらず、母親と住んでいた頃のように、生活能力がないとわかる有様。
仏壇やら、それらしきものが見当たらないなと思えば、父は押し入れをさし「こんなんだが…」と…ダンボールの上に祖母の遺影がある、それだけだった。
「線香とかはいいの?」
「あ、あぁ…そういえば…」
「まぁ、来ると思わなかったんだよな。あのさ、意味わかんないハガキを送るの止め」
ハッと気付いてつい口吃る。
…随分と、父親が小さくなった…いや、佇まいがそうなだけだろうが…。
透花がこっそりクイッと服を掴んだので「…墓の場所教えてくんない?」と聞くに留めた。
「えっと…あぁいや、乗せて…えっと、そちらは安慈の」
「養子」
「………養子!?」
「親父」
要領を得ない態度に少し苛立つし態度を隠すつもりもないが、透花が恐縮してしまっているのも気になる。
「悪かったな、今更……」
「…連絡事項として、後に職場から書類が届くから返信して。
ごめんハッキリ言うけど、俺も家庭があるし、こういう気紛れも困るから今回が最後。金もない」
「いや、その、金は……。
えっと…安慈、母さんと連絡は取ってるか…?」
あぁ、本当にわかり合えないらしい。
グッと堪え、「取ってない」とだけ声が出る…押し潰したせいか低い声だなと、どこかで思っていて。
「連絡先は」
「知らない。あの、やっぱ……もうい」
「悪かった悪かった!行こう、連れてい」
「もういいよ。婆さんによろしく祈っといて欲しい」
「安慈、」
「悪いな、こんなところに付き合わせて」
「アンジさん?あの…」
「帰ろう。これ以上は」
耐えているけれどどうにも、上手くいかなくなってしまうから。自分の心が告げている、この人は平気で癇に障ってくる人で、お互いよくないんだ。
部屋もそう、遺影もそう。本当に人を呼ぶ気があったのなら、もっとそれっぽく繕うだろう。そんなこともわからない人を相手にしたくない、真意もわからないし。
「久しぶりなんだし…その、養子のこととか、お前のこととか、」
「うんそうだね。身体に気を付けて」
踵を返そうとしたが、透花の方が「…いいんですか?」と聞いてくる。つい、わかってくれと目で訴えかけてしまうが。
彼の目は純粋に真っ直ぐ…とても綺麗だ、真っ向から目を合わせてくれるのだから。
「墓…タクシー呼ぶよ。先に出て」
「………そうか、」
ガクッと肩を落とし「わかったよ」と言う父に少し…冷たすぎるかなとも思うが、でもどうしてもダメらしい。
花や線香すら調達出来なかったので、用意した香典を渡した。
「……悪い、死んだ時に伝えなくて」
「別に。過ぎたことだし」
父が最後、透花を見て「あの…」と言うのに「はい…」とだけ返す重い空気。
「…困ったことがあれば…」
「じゃあね」と、父の車を見送る。
恐らく意味は汲んでくれていないけれど、血は切れないものだから。
ふと見上げてくる…空のように深い青い瞳。
不思議だ。空なのに近くて、見下ろしているような感覚。
そのまま墓前に座り、ただ手を合わせてみれば、思い出すこともあるけれど。
隣でそれに倣った透花に「ありがとう」と感謝を述べた。
「どうしたって、わかり合えないと思うとなんだかな、と思えるようには、なったみたいで…」
立ち上がり手を伸ばす。
また、透花の瞳とぶつかる。時計が目に入りふっと力が抜けた。どうやら自分は気を張っていたらしい。
「お疲れ様です」
「透花は…」
どうしようかと迷うけれど。
ここまで来たならきっちりしようと、「…産みの親に、会いたい?」と聞いてみる…声が、潰れそうだとわかっているけれど。
「いえ」
あっさり返ってきた言葉に「そう……」と言いつつジワジワと、なんで聞いてしまったんだか…だなんて焦燥すらし始めたけど。
「記憶の初めからいないので…」
「…そっか…」
なんとも言えなくなってしまったなと思ったが、「さて!」と、透花が明るく手を叩く。
「今日は、何が食べたいですか?」
気を取り直すように言ってくれた透花に「…あぁ、そうだね…」と返す。
なるほど。
見上げた、青い空。
陽が長くなり始めたようだ。出会った頃は、この時間はもう暗くなっていたのに。
いつだって普遍であるように見える日常。
けれど、本当は同じ場所に立ち尽くしていられるわけではないから。
タクシーを待つ間、ふと思い出した。
「…揚げ出し豆腐」
間があり、「そういえばお披露目してなかったですね、まだ」と、穏やかで、少し嬉しそうな声色。
「楽しみだったんだ。俺はこの前買った薬味チューブで…教えてくれたさ、生姜焼きに挑戦する」
「はい、是非」
少しだけ吹き抜ける風に、眩しさと、締め付けられるような心地良さに、深呼吸をしてみる。
……わかったような気がするな。
透花を見ればやり場がないような……少しソワソワした様子で俯いていて。
病める時も健やかなる時も。
安慈は緩く、透花の手を握り返した。
Next, After Story.
- 49 -
*前次#
ページ: