無色透明色彩


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「俺はいいんだけどそうだなぁ…。
 嫌じゃなければほら、青空日記も先生は見ているし、それでいてユリシスもそっちもちゃんとメモしてくれているから先生もどれくらいの頻度で人格が現れるとか、そういうカルテはあって診てくれているから…。
 互いに嫌じゃなければ試しに…交換日記、先生に見せてみない?」
「…え」
「んまぁ、プライベートだから、気になる点とかを透花が書き出してみて、聞くのもありだとは思う」
「…………」

 ……なんだろう。

「俺もこまめに、なんというかケータイにメモってるんだけど、その“症状”は」
「あ、そうなんですか…」
「もしかすると、薬、強くなるかもしれないな、って俺は覚悟してるんだけど、透花もそれは考えておいて…多分、いまは悪さをしていないし生活に支障はないから、マイナー…あ、えっと、強すぎる薬に移行しないとは、思うけど…それは俺が見ていてってだけの話で、透花に支障が出ているならそれも正直に」
「なんだかモヤモヤしてしまうんです」
「ん?」
「気持ちの問題で、そういう事じゃなくて、」
「……何?」

 クイッとこちらを見た透花は「なんか、ユリシスが僕の…余計なこととか話してないかなって」と少し不機嫌そうな表情をする。

 おっ。

「余計なこと?」
「…なんか、別に特別あるわけでは」
「透花、今もしかして不機嫌中?」

 透花の気持ちとか聞いた方がいいよ。

 ユリシスの言葉が浮かんだ瞬間「…んえっ?」と、語尾も若干強めだ。

「…あ、いやごめん、初めてかもなって思って」
「………あれ、」
「よし。先生云々じゃないな。よしよし話を聞こう。何が不満か不安か」

 少し考えるように俯く透花の頭をふいっと撫でて「俺は今、言っていいかわからんが若干嬉しい」と素直に言葉にする。

「え、なん」
「素直に向けられるその気持ちが。俺はちゃんと知りたいと思っているから、透花の気持ちを」
「………えぇ……?」

 急に尻込みする複雑な表情。

「当たり前じゃん。
 まぁ、全部を全部話せとは言わないし俺もそう、人間みんなそうだから。ユリシスなんて特に言わねーし、」
「……何、を」
「透花に聞けーだ話をしろーだのと、ふは、まるで母ちゃんみたいでさ。
 でもいま確信した。透花は何かを抱えている、と」
「……えっと……」
「急に動揺したな。いやー俺も頑張って信用は勝ち取りた」
「ユリシスからの信用ですか?」

 少し、声帯が震えている。
 すっと髪を撫でて離し、「今は透花、君と話してるじゃん」と答えれば、なんとなく不安そうに見上げるので、今日はここまでかな、と「ゆっくりでいいよ」とゆったり言う。

「気が向いたらいくらでも我慢せずぶつけて。待ってる」
「………んんっと………」

 ちょっと荒療治過ぎたなと「焦らない焦らない、悪かった」と謝っておいた。

「…んー………」
「何か思いついたらメモっておいてさ。聞かせてよ、いつでもいいから。
 メッセージでもいいよ。まずは聞かなきゃわからないか」
「ユリシスとはえっと、どんな仲なんですかっ」

 ……ほ?

「……ん?」
「いやあのその今日もだってなんか」
「あーあー、待った、落ち着いてコーヒーまず飲んでな、落ち着け落ち着け」
「だって、えっと」
「そっかそっか、あれ覚えてるんだっけ……」

 最初の夜這いだ……。こんなに急にデリケートな話をぶち込まれるとは予想外だったな…。

「…あれ以降、記憶はないのね……。
 うーん、襲われてないよ、だから嫌いになることもないし…いや別にというか俺もトントンだったし…ごめん、あれ気にしてたのか、ずっと?逆に透花は傷付いたりしてない?」
「えっ、いやえっと傷付い…あ、そっかアンジさん、そういうのあんまり……あっ、」
「いや俺のことは気にすんな、大丈夫だけど…。ただ……なんと言おうかねぇ……ユリシスはなんというか」

 …考え、「なんっつーか最近友達感がある」と言えば「へ?」と更に読みにくい表情。

「まずは違いを明確に言うと…ユリシスってちょっと女子高生?男子高生?ノリがあるから扱いが難しいが「まぁ、こんなだったよな」って認識なんだけど、透花は家族…?感があるから微妙に違う」
「………高校生…家族………」
「子供と伴侶…いや友達と家族…俺もよくわかってないけど、でも違いって知りたかったところ?」
「え」

 考え、「そうではないかも………」と疑問そうだ。
 ……なんせ女子高生…なんというか変な煽り方をしているからなぁ、あのクソガキ人格…。

「……伴侶!?」
「うーん、俺の家庭がほら、アレだったからなんともだけど兄弟もいないし子供とかいないけど親子…?とは思っててさ、それは歳とかではなく。上手く言えないけど…。
 …まぁ、取り敢えず仕事行ってくるけど…」
「あっ、すみません、そうだ、」
「焦らないでな。俺もそうする。
 …薬必要なら一つ置いてく。少しリラックスするといいかも。勉強疲れもあるだろうし。
 なんなら、食いたいもん考えておいてよ。帰り買い物してくる。今日は俺の日だし」

 透花に高卒認定を勧めてから、家事比率を変えてみたのだ。有難いことにデスクワークが増えたからだが…まぁ、これは期間限定ではある。

「……はい」

 朝の割に感情を昂らせてしまったので、「昼寝は15時〜16時」と決めた透花に「ちゃんと忘れず昼寝をしなさい」の意味も込めて薬を渡し、出る準備をした。

 玄関先で「…アンジさん、」と、なんだかやはり浮かない顔の透花に「ん?」と、何事もなさそうに接してやるのが恐らく最善だ。

「…僕のこと嫌い…気持ち悪くないんですか?」

 ……今日は本当に珍しい。
 ふっと…なんでだろう、こんな内容すら嬉しくもあるが…いいのだろうかという気持ちはあれど、ただ、伝えねばと「何言ってんだよ」と、ふっと抱擁しておいた。実際、いたたまれなさもあるし。

「そんなん言ったことないでしょ。大丈夫」

 パッと離し目を見て…なるほど、と確信に迫りつつある透花の感情へ穏やかに笑い「そんなんだったら一緒にいないよ」とハッキリ言った。

「好きなことしかしないって決めたんだ、人生」
「好きな、こと…」
「……悩むのは良いことだし結構好きなんだわ、俺。悩んで考えて答えを見つけよう。じゃ、行ってくる」

 ぼんやりだったとしても一歩進めたから、やっと、何に悩むか考えることも好きになれたんだよ。

 悲しい顔は嫌だ、穏やかな笑顔は好き。

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