無色透明色彩


6


 透花が俯いて手を握ってきた。
 怖かったのだろうかと思ったが、震えはなく。

「…新鮮でした、なんか…」
「それはよかった…」

 複雑な心境は残るが自分にも…良いか悪いかは別として刺激ではあるよな…と考え手を握り「…夕飯、外食でいい?」と聞いた。

「え、あ…はい。
 …一応昼間ですし、何か作りま」
「いや今日は疲れたっしょ…俺だけ?もしかして。
 荷物はそうだ、検証とか送検も終わったし、返ってきた物は運んであって…」

 透花が暮らしていた家で乱射事件があった。
 残念ながら透花の元自宅の…仏壇やらなんやら、壊れた物が多く、服や布団等しか返ってこなかった。

 事件前にあの福山風味ヤクザ、江崎に「貴重品やらタンス預金やら持ってけ!」と言われたのはこういう所でも役に立った。

「あと家具とか…まぁ布団とかね。そのへんは揃えておいたよ」
「何から何まで…」
「ただ……うーん…」

 言おうかは迷うが…でも結局家に帰れば向き合うことかと、「仏壇はごめん」と言っておいた。

「…あぁ、」
「どうするか話し合おうかなって思ってたんだけど…俺宗派とか詳しくない上に、なくなっちゃってたから…」
「…宗派…」
「わからないよね〜…。
 お墓は都営のところになった。後で落ち着いたら行こう。
 そんなわけでジイちゃんの位牌がまだね…お父さんのは、ジイちゃんの持ち物にあったんだけど」
「そうなんですね」
「ま、一回帰らないとな。
 部屋もあるから、必要なものがあればその都度」
「部屋…?」
「うん…て、そっか、透花は押し入れ暮らしだったもんなぁ。部屋にはクローゼットとベッドが」
「んん?」

 まぁ…そうなるよなぁ、今まで部屋という概念がなかった子だし…。

「具合悪かったりしたら俺の部屋、リビングの真横だから、すぐ呼ん」
「同じ部屋では、ない?」
「あー、うん、そうなる。でもまぁ、いざという時の対策とか」
「ん?」
「ま、まだあんま物はないけど行こ行こ。
 スーパーとか地理がちょっと…向かいの棟に坂下先輩がいるからなんとかなるかな…」
「……坂下さん、あの、刑事の…」
「実は刑事じゃなかったんだな〜…。内緒ね、一応。社外秘的な」
「わ、わかりましたっ!」

 驚いてるなー…。まぁ、そうか。
 てゆうかそう考えると平良の存在とか、より一層驚いたんじゃないか…。

「平良さんのこととかも…」
「何回か病院に来た人…もしかしてあの人が眼鏡要員?」
「まさしく…あの人職場ではコンタクトなんだよね。多分透花も会った時眼鏡じゃなかったでしょ?
 たまに残業で帰れなくてよっぽどな時だけ掛けるけど、滅多にない」
「…そうなんだ。慧さんと一緒に」
「あー…」

 元セフレらしいよ、なんて言えないわ…。

「あの二人のことも内緒にしといてあげて…絶対江崎さんの名前も…多分出すと平良さん怒る…」
「…仲良しじゃないんだ…」
「じゃないっぽいね」

 普通マトリとヤクザと一般人は繋がらないからねーっていうのも、中々難しいかな…。

「…俺たちの仕事、命掛かるからまぁ、内緒なことが多くてね。家帰ったら秘密保持契約ってのにサインを貰いたい」
「わかりました…」
「制約は多いけど…これで安全だから」

 そのまま二人で某所の社宅へ向かった。

 教えなくとも透花はオートロックやチャイム等の使い方を既に知っていた…多分、透花の“客”であった成金カモ変態おっさんの家が一等地のタワマンだったからだろう…。

 それほど高層階でもないし、引っ越したばかりであまり生活感がない中、キッチンの水切り棚に引っ掛かっていた星のコップに「あ」と透花が気付く。
 そういえば、家を出る前に洗っておいたんだった。

 透花の元自宅から返ってきた食器は…実はないに等しかった、なんせ乱射され入るのも大変な状態だったから。

「…ジイちゃんが持ってたから…」
「そうだったんだ…」

 唯三郎救出の際に、通帳やらと一緒に病院へ持ち込んだと…そういえば知らないのかもしれない。

 透花は事件で情緒不安定だった為、面会制限がある病室に運ばれた。持ち込んだはいいが、自傷や自殺防止の観点から、このガラスコップを使わせて貰えなかったのだ。

 …それ故に、このコップは唯三郎が最期まで使っていた。

「…気に入ってたからって、持ち出したんだよ」
「…水を入れると綺麗なんです。
 そっか、おじいちゃんが使ってたんだ」
「うん…」
「じゃぁ、おじいちゃんにあげようかな」
「…いいの?」
「はい」

 …そうか。
 つい、頭をくいくいと撫で「同じのあるかわからんけど、後で買いに行…」話してる中「テレビ!?」とリビングに向かってしまった。

 はは。
 どうやら本当にいいらしい。

「の、横に空!」
「あ、そういう感性なのか…」

 じゃあ、とリビングに行き「これ実はベッドにもなる」と、向かいに置いたソファベッドを倒してみた。

「寝ながら観れる」
「え、凄い…」
「自由に使ってい」

 いよ、と言う前にさっと、用意しておいた部屋に行き……毛布を持ち込んできた。
 あぁあ…それはとても贅沢で自堕落だ…。

 あまりにキラキラとこちらを見るので「まぁ、リラックス出来るようにね…」と言っておいた。

 持ち込んだ毛布を綺麗に畳み横に置き「アンジさんの部屋はそこ?」と、真横の部屋を指した。

「そうそう」
「ベッドと机?しかなくないですか?」
「んーまぁ前もそうだったってか…寝に帰る感じだったんだよね。あの団地なんてほぼ帰ってないし」
「そうだったんですね…」

 単身者向けなら1Kでも良かった、あの団地みたいに。
 ニュースが見れてベッドがあってテーブルがあるような…元々そうだったし。

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