無色透明色彩


7


 2LDKか3LDKか迷っていた最中に唯三郎が亡くなってしまった。
 当初の予定より一人減ってしまったけれど…家具を揃えながら、家族が増えるとこうなるんだな、と考えたりもした。

「…僕の部屋、おじいちゃんとお父さんの部屋にしてもいいですか?」
「え?」
「あ、でもベッドある…けど、なんというか」
「…自由でいいよ、あるんだから」

 主にクローゼット扱いになりそうだな…あの部屋。
 でも確かに、こうしてソファベッドがあれば透花の緊急時…気付きやすいかも。

「一緒に考えていこう。使い易さやにくさはこれから出てくるもんだし」
「アンジさん」
「ん?」

 透花はペコッと頭を下げ「何から何までありがとうございます」と言った。

「いや、こちらこそと言うか…。
 あ、まずルールとして。無理はしない、嫌な事は嫌と言う、あとは…なんでも言って。俺もそうするから。
 まずはお互い自由にやってみてから決めよう」
「わかりました」
「まあ…自由!ていきなり言われてもわからなくなるよね、とかいう不安や愚痴も聞くからさ」

 なんかこれ…。

「…なんか同棲始めたての結婚前提カップル臭ぇ…」

 同棲始めたての、戸籍上親子ではあるが…。平良の言葉が思い出されてムカつく…。

「人と住むってこんな感じだよね…」

 いままで殆どなかった。

「…新鮮、ですかね?」
「そーかも…。
 さて、疲れたよな…寝てもいーよ?薬とか眠くなるっしょ…気も抜けたら多分これガクッと来るやつ…」
「テレビ見る」
「…あんま覚えてないんだけど、もしかしてテレビなかった?」
「はい。受信料が」
「うわぁマジかあの母親…まぁ確かにホントにないんじゃ受信料取れ…ないんだっけ?」

 じいさんも透花も少し「世間擦れ」を感じてはいたがなるほど…。
 洗脳にはよくある…電波遮断。ケータイはあったわけだがそれはそれで偏向的になるし。

「…俺の日課として一個言っとくと…受信料払って国営放送はよく見る…クソつまんねーかもしれねーけど国会とかの…。あとニュースは一応毎朝と…夕方か夜のも見はする…」
「そうなんですね」
「職業柄ね…。
 それ以外はそんなに興味ないから…あー、ニュースとドラマやバラエティ被った時とか用に、録画のやつ買ってくる?暇っしょ」
「んー…」
「あ、料理するならね、物価高の節約時短術!とか、料理紹介とかあったりするよ」
「え!そうなんだ!」
「ちなみにいつも料理は何を作ってたの?」
「普通の物ですよ?煮物とか焼き物とか…おじいちゃんがいたのでバランスとか考えられる日は…」
「…めっちゃ主婦じゃん…もしかして昼は家事とかも?」
「そうですね。無料アプリゲームだけだと限界が」
「…透花ぁ〜っ!」

 ついつい抱きしめポンポンしてしまう。

「よしよしテレビもたくさん観ような、これから不自由なく過ごそ、幸せに…」
「え?あ、はい」

 パッとテレビをつけたらたまたま、長寿ドラマの再放送がやっていた。

「あ!勘違い防止でひとつ!ニュース以外は大体フィクション…作り話だからね!現実こんな窓際部署で勝手に殺人事件捜査とかやってないからね!」
「あ、施設にはテレビあったので…小さい頃ですけど…なんとなーくはわかります…ハイ」
「そっかぁ、OK」

 まぁ、幸せは人それぞれか…。どんな形でも本人が不幸だと思わなければそれでよし…と。

 久々にドラマを見た。
 フィクションって、わかっているから地味にわかりやすく入り込みやすいし刺激にはなるよなぁ…と思っているうちにコテ、と肩に重さが掛かる。

 やはり疲れたらしい。どうやら透花は寝てしまったようだ。

 ナルコレプシー…。
 ただふと頭に浮かんだ単語だ。

 透花は眠りが浅いと言っていたし…しかし、これは可愛い…愛着はあっという間に湧くらしい。
 頭を軽く抱きしめそろ〜っと寝かせて毛布を掛けてやる。あぁこれ枕でもクッションでもいいから後で置いとこ…と、安慈はそのまま移行したニュースをつけっぱにしながらデスクへ行き、橋田製薬のリーフレットを眺めた。

 オリバーの依頼としては「ここの会社の営業、気に入らなくて」というものだった。

 気に入らないとはなんだと思ったが、ふと紙袋を開いた際、下になんだか…営業の一環だと言われればそれまでだが、プレゼントに見える箱があった。

 それと…試薬品を何個か持ってきていたようだ。ラボでも今結果を見ているらしいが…。

 試しに奥の“プレゼント”の箱を開けてみた。

 あの人、なんのつもり?

 ただの食いもんなんだが…菓子折というか…こうしてご機嫌伺いする“営業”なんてよくいる…最近じゃ、食べ物は危険か…。

 と思えば「ん?」と、どうやら底上げされているらしい、下に段があった。
 まるで隠されたようにひとつ…なんだこれ、コンビニの餃子とかに付いてくる小さな「どこからでも切れます」袋…切り口は見当たらないけど…。

 下の方に製造年月日と…薬品名っぽい表記…それと“Rat”と刻印されている。

 これは確かに、怪しい。

 …自分のと含め3袋渡しているはずだ。
 “RAT”…ラボだし研究用という意味だろうが…何故こんな形で?
 MRということは、効果をMSに報告する訳だが…。

 確かに?研究し出来た新薬を後に申請するのだろうが、わざわざ大学病院でなくとも自社ラボでいいはずで。
 販売特許を取るのが普通だし、ならば他社へこうして漏らすのはハイリスク…どういうつもりで配っているんだ?

 健康食品でも問題はあった。たまたま組み合わせで新たなる物質が出来てしまったと。
 日本アルバータ大学、確かにクリーンなようだ。ちゃんとこうして“通報”をしている。

 静かに眠っている透花の頭に、枕を敷いた。

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