02



「よし、行くぞ」
レノが言いながらバイクにまたがりゴーグルを下げる。
その彼の背中に手を置いて、私はその後ろに乗り込んだ。
レノのバイクに乗るのは初めてではないが、毎回胸の中で小さな興奮が芽生える。
「レノくんの運転っていつも思うけど、すごいスピードが出るよね」
軽く笑いながら言った私の声は、バイクのエンジン音に少し掻き消される。
「アンタがちゃんと捕まってりゃ、な〜んも問題ないだろ」
レノは笑顔で答える。
その無邪気な笑顔には、いつもなんとなく安心感を覚える。
「それじゃ、飛ばしてくれ〜!」私は楽しげに叫んだ。
「任せろ、と」レノは自信満々に答え、エンジンが唸りを上げた。

バイクが動き出すと、夜の街を風が切り裂いていく。
風が髪を乱し、冷たい夜風が頬に当たる感覚は新鮮で刺激的だ。
レノの運転はスムーズで、彼の背中にしがみつくと、自然と信頼感が芽生える。
私たちは一体となって風を感じながら、夜の街を駆け抜けた。

「なあ、リリカ。こうやって風を感じるの、なんか生きてるって感じがしないか?」
レノが後ろを振り返りながら声を張り上げて言った。
その声には、自由と解放感が溢れていた。
「うん、そうだね。この時は任務のことは一瞬忘れちゃいそう」
私は倣って声を張り上げる。


バイクはスラム街の暗い路地に入ると、周囲の景色が一変し、緊張感が漂う。

「さて、リリカチャンよ。どっから始める?」
レノが問いかける。その声にはいつもの軽快さが戻っていたが、任務に対する真剣さも感じられた。

「まずは、武器の入手経路を突き止めるために情報屋に連絡を取るね。私が先に調べた情報を元に動くね」
私は携帯を取り出し、素早く番号を入力した。
レノはその様子を見守りながら、口笛を吹いていた。
「へー"今回"は、意外としっかりしてんじゃん。」
レノが笑いまじりに言う。
「"いつも"はそうだよ、これでもレノくんの先輩タークスなんだけどな?」
「わかってますよ、リリカセンパイ」
「でも今回は特別に、もっと真面目にやるの」
私は軽く微笑んで返す。

情報屋とのやり取りは順調に進み、私たちは武器が取引されている場所の手がかりを得た。
次の目的地はスラム街の隅にある古びた倉庫だった。
レノと私は静かにその場所に向かい、周囲の警戒を怠らずに進んだ。
倉庫の前にたどり着くと、私はレノに目配せをし、合図を送る。
レノは素早く動き、扉の前に立つ。彼の動きは速いし前線向きで正確だ。
私は彼の後ろに続き、慎重に倉庫の中を覗き込む。

「おっ、思ったよりも簡単に入れそうだな」
「油断しないで、レノくん。中に何がいるかわからない」
レノが小声で言うのに対し、私は緊張を解かずに警戒を続けた。

倉庫の中は薄暗く、冷たい空気が漂っていた。
古びた木箱や鉄の棚が並び、埃っぽい匂いが鼻をつく。私たちは静かに歩を進め、武器の保管場所を探した。

「リリカ、こっちに何かあるぜ」
レノが小声で呼びかける。
その声に引かれて私は彼の方に向かい、彼の指差す先を見た。
そこには、大きな箱があり神羅のロゴが刻まれていた。
「これだ間違いない」
私は箱に近づき、慎重に開ける。
中には見覚えのある銃が入っており、発射熱による問題を抱えたプロトタイプだった。
(やっぱり、これが原因だったのか)
私は心の中で納得し、次の行動を決意した。

「レノくん、この武器を回収して社に帰ろう」
「了解、リリカチャン。無事にセンパイの尻がキレイになってよかったぞ、と」
軽口をたたくレノに、もう……と呆れたが一人で来るより心強かった。

「ん?おい、この番号を見てみろよ。」
何かに気付いたレノが私に銃を差し出す。銃には独自のナンバリングが刻まれていた。
「この番号は……シリアルナンバー?プロトタイプの銃にすべて振ってあるね」
私は銃の番号をメモしながら、頭の中で整理する。
「そういえば、主任から事前にナンバリングリストが送られていたんだ。確認しろってさ。」
レノが携帯を操作し、リストを転送してもらう。
そこにはヴェルドからのメールも受信されていた。
「ありがとう、レノくん。廃工場の方はシスネちゃんが回収してくれたみたい」
「お、シスネがいたのか」
「そうみたいだね、帰ったら会えるかな?」
シスネというのは別動隊のメンバーの手裏剣を使う少女だ。
彼女は歳の割に大人びた性格から、よき友人としても交流をしている。
別動隊として活動し始めてからあまり会えていないが、そんな彼女が少し戻ってきた間に仕事をさせてしまったというのには申し訳なさと、彼女がしてくれたなら取り残しなどないだろうという安心感がある。

「廃工場の銃と社内に残った銃の番号も含めて送ってもらうようにいうから、全部揃ってるか確認してくれるかな?」
「リリカセンパイ、人使い荒ェっすよね」
「あはは、でも他の資料探しとかと比べたらレノくんも退屈しないかなって?」
「……ついてけば体動かせるかと思ったのによ」
そう言いながらもレノは銃を片手に番号とリストを見比べ始める。
こういう彼の仕事にストイックなところは評価できるし、見習いたいところだ。

私も他に関連したものがないかさらに倉庫内を調査していると、奥にあるパソコンが目に入った。
スリープモードだったのかパッドに触れると画面は点灯し、これ幸いと中を確認する。
兵器開発部門からのリーク情報の資料や、やりとりのメールだった。
資料を詳しく読むと、いくつかの名前がリストアップされていた。
その中にルーファウスの名前も含まれていた。
(なんで副社長の名前が……?)
私は一瞬疑問に思ったが言葉を飲み込み、レノの方を見る。まだ彼は銃を確認している最中だ。

息を吐いてもう一度画面を見る。

彼がここまでわかりやすく証拠を残すか……?否、抜け目のない彼だ……、意図が気になる。
私は資料の一部を修正し、ルーファウスの名前や関与のある部分をメールも含め削除することにした。

「リリカ、全部回収できたみたいだ。ん?パソコン、何か見つけたのか?」
作業を終えたのか、レノが声をかけてきた。
ドキリと胸が跳ねるが、保存が完了したというポップアップを確認しそれを削除すると顔をあげる。

「うん、リーク情報を見つけた。これで名前が分かる、だからお仕事も終わりってこと」
「よし、これで帰社して主任に報告できるな」
レノは安心した様子で言った。
「そうだね、早く戻ろう。レノくんは出ずっぱりだったもんね?」
「そんなのみんな変わんないだろ、と」
「たすかったぞ、と。帰りもよろしくね?」
「……お代はない胸を押し当ててくれるだけでいいからな〜。あ、副社長に怒られるか?」
武器の箱を片手にもう一方の空いた手を振って先に出ていくレノは、ぴたりと止まって肩越しににやりと笑う。
「怒んないでしょ、さーさーバカなこと言ってないでお姉さんのために頑張って」
私は修正した資料を手に取り、早足でレノに追いつく。
彼の背中をぽんっと叩き、順調に済んだ任務に足取りも軽く共に倉庫を後にした。



私たちは再びバイクに乗り込み、神羅ビルへと向かう。

しかし、戻る途中で後方から複数のバイクと車が迫ってくるのに気づいた。

「レノくん、追手!」
「分かってる、リリカ!しっかり捕まってろ!」
レノは笑みを浮かべながら、スロットルを思いっきり回し込んだ。

バイクは一般人を巻き込まない様、ミッドガルハイウェイを疾走し始め、追手との激しいカーチェイスが繰り広げられた。
レノのドライビングテクニックは見事で、急なカーブや障害物を軽々と避けていく。
後方の追手たちは必死に追いかけるが、レノの巧みな操縦に翻弄される。

突然、ハイウェイは建設途中場所が多い。
それも三層目になると一部が工事中のエリアに差し掛かり、コーンやバリケードが散乱していた。
レノは巧みにバイクを操りながらも、「あ?」と呟いている。
「どうしたの」と聞こうとしたが、追手の一人がコーンに引っかかりバイクがスピンしてそのまま工事用の砂山に突っ込んでいった。それに巻き込まれたもう一人の追手のバイクが、ドライバーを捨て去りアスファルトを削りながら回転してこちらに飛んでくる。

「レノくん、右!」

私は叫びながら指示を出した。
「飛び降りる気かよッ!!!」
彼の言う通り下はプレートの下、つまりはスラムだ。
「いいから!先輩を信じなさい!」
強く言うとレノは身体に力を入れて速度を上げる。

「どうなっても知らねえぞ、と!」
レノは瞬時に右にハンドルを切り、跳ね上がったバイクが宙を舞った。


その瞬間、強い衝撃が走るが下を通る道に無事着地し、追手たちは驚いて減速せざるを得なかった。
「うおっ、今のは凄かったな!」
「リーブ部長に聞いてたの、構造をね」
レノは笑いながら言ったが、後方の追手はまだ諦めていなかった。

彼らは次々に迫ってくる。
緊張感が高まる中、私は咄嗟にバリアの力を発動した。
近づいてくる車に向かってバリアを放つと、その車はバリアに弾かれて隣の車と衝突しスピンしてハイウェイのガードレールに突っ込んでしまった。
その結果、さらに後ろの車も巻き込まれて次々とクラッシュしていく。

「アンタが派手にやるときゃ誘えって言ったけどよ……これは前言撤回だぞ、と!!」
レノはが大声で叫ぶ。
「ね〜!どうにもなんないでしょ?」
私も叫び返しながら、事態の滑稽さに少し笑いが込み上げる。
「ハハハ!確かにこれは始まったら止まんねェな!!!」
レノは興奮と共に笑い声を上げた。

「でも……アンタがいればどうにかなる気がする」
さらに前方には大型トラックが道を塞いでいた。
レノは一瞬の判断でバイクをジャンプさせ、トラックの上を飛び越えた。
後続の車はトラックに突っ込み、爆発が起きた。
その爆発の衝撃でバイクが一瞬宙を舞い、またもや奇跡的に無事に着地した。

「これぞタークスのドライビングテクニックだ ── とォ!」
レノは興奮しながら叫んだ。

そのまま風を切り裂いて進むと、追手たちは次々に撃退されていった。
追ってくる車たちが互いに衝突し、爆発音が背後に響く中私たちは無事にハイウェイを抜け出し八番街の公道にでた。

途端リリカの携帯が鳴り響いた。ツォンからの電話だ。

「緊急だ。八番街で新人の散弾銃が敵対組織と交戦中だ。支援してやってくれ。お前たちが現場に一番近い」
「八番街の新人の支援ね。ツォンくん、私は証拠品を持ち帰るために戦闘には加われないわ。そういう仕事はレノくんが適任。到着したら、バイクを借りて戻る」
「了解、と」
「わかった、リリカ。気をつけて帰れ」
ツォンの声には緊張が滲んでいた。
手近なところでバイクを止めると、レノは新人の位置を確認する。
「魔晄炉の付近か……ほんじゃあ、運転手はここまでだ」
「ありがとう、気を付けてね」
「おう、リリカもな」
レノはバイクから降りると目的地の方へ駆けだしていった。

私はバイクに乗り、神羅ビルへと急いだ。
任務の重要性と証拠品の重さを感じながら、冷静にバイクを操縦する。
朝日は昇ったが初春の風はまだ冷たい。
ミッドガルの街並みが流れるように過ぎ去っていく。
その中で、ルーファウスの名前を隠蔽いんぺいしたことが正しいのかどうかはわからない。
今はただ、任務を完遂することが最優先だ。

バイクを飛ばして神羅ビルに戻ると、オフィスに直行した。
冷たい風にさらされた肌が、ビルの温かい空気に包まれるとほっとした気持ちになった。

「ヴェルド主任、任務は完了しました」
私は息を整えながら報告した。
「よくやった、リリカ。さて、顛末書を作成してくれ」
顛末書という言葉に任務が一段落したことを実感し、ひと安心する。
まあ、起きたことを報告しなければならないのは憂鬱だが、緊張が少しだけほぐれた。

「顛末書ができたら、依頼者に持って行ってくれ。大会議室でお待ちだ」
「依頼者……ですか?新人の戦闘も大変だと聞いています」私は少し戸惑いながら尋ねた。
「ああ、今回の依頼者は特別な存在だ。おそらく厳しい指示があるかもしれないが、君なら大丈夫だろう」
ヴェルドの言葉に、少し不安がよぎった。
誰が依頼者なのか知らされていない状況は心を揺らした。
「それから、散弾銃の戦闘はレノが当たっているなら大丈夫だろう。君は顛末書の提出を優先してくれ」
「わかりました。急いで仕上げます」

私は深くうなずき、デスクに向かった。
その時、もう出ていくであろうシスネが近づいてきた。

「リリカ、お疲れ様。今回の火災は相当派手だったわね」
「ありがとう、シスネちゃん。正直、どう話しても信じてもらえそうにないわ」
私は少し笑いながら答えた。
「でも、本当にありがとう。銃の回収も含めて助けてくれて。定期報告か何かで来たんでしょ?」
「いいのよ、リリカ。私たちは仲間なんだから。それにしても、またショッピングでも行きたいわね。最近、新しいブティックがオープンしたみたいなんだけど、予定が合えば一緒に行かない?」
シスネの提案に、私は少し嬉しさが込み上げてきた。
「それはいいわ!少し息抜きが必要だし、是非一緒に行こう?お互い休みが取れたら……の話だけどね」
そういうと確かにと、二人しておなかを抱えて笑う。
仕事柄休みなどあってないようなもの、鉄板のネタだった。

シスネは私の帰社を待っていたようで、話し終えるとまた仕事に向かって行った。

私はデスクに向かい、顛末書の作成に取り掛る。
報告内容を整理し必要な情報をまとめながら、心の中で依頼者への対応に対する緊張感を抱きつつ作業を進めた。



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