答えは左胸の中


答えは左胸の中


日吉side



どうして自分の周りには自分勝手な奴ばかり集まってくるのだろう。
日吉は大きくため息をついた。

『たぶん日吉になんかあるんやろ。引き寄せるもんが』

財前の言葉に、実は心当たりがあった。

幼稚舎に上がる前のことだ。目の敵のように意地悪をしてくる奴がいた。その頃の日吉は弱くて、いじめられては泣いてばかりいた。
それがある日、突然キスをされた。幼く疎かったため意味もわからずただ泣いていたら、どこかで見ていたらしい大人がかけつけて、そいつを連れていってしまった。そしてそれきり顔を合わせることはなくなった。
幼稚舎に入ってから、いじめとは違うが日吉のすることにいちいち突っかかってくる奴がいた。確か成績の良い奴だった。だから、自分よりバカだと見下しているのだと思っていた。
しかしそいつはいきなり告白してきたのだ。
「お、俺…お前が、す、好きなんだ!」
顔を真っ赤にしてストレートに伝えられたのを覚えているが、そのあとキスをされて、何と返事をしたのか忘れてしまった。
その後何も言わず転校していってしまった。最後に想いを伝えたかったのだろうか。
さらに鳳は、2年生になってからだ。
正直なところ、鳳とは昔のままでいたかった。友達や仲間などという言葉は氷帝では相応しくないかもしれないが、入学してからずっと一緒の、数少ない腹を割って話せる友だと思っていたのに残念だ。

財前の時には、さすがに予感めいたものを感じた。
だが今回ばかりはもっと嫌な予感がする。

「どうしたの?日吉」

知らないうちにため息をついていたようだ。

「…今日の外周ランニングはきつかった」

鳳になんでもないは通用しない。咄嗟に取り繕った。

「日吉の一番の課題は持久力だね」

「わかってる」

「俺も協力するから地道に頑張ろう」

「あんまりのんびりもしていられないがな」

褒められたことじゃないが、嘘が上手くなった気がする。

「そうだけど…無理して体調崩したら元も子もないよ」

「ああ、……っ!」

鳳にいきなり抱きしめられた。

「心配させないでよ。この間だってホントは調子悪かったんだろ?宍戸さんはごまかせても俺はだませないから」

「こういうのやめろって何回も言ってるだろっ」

「大丈夫だよ、誰もいない隙を狙ったんだ」

「まったく…」

悪びれないのもいつものことだ。

「こうでもしないと合宿が終わるまで触れられないじゃないか」

それをいわれると、後ろめたい気持ちが込み上げてくる。
まさか鳳を差し置いて財前と触れ合っているなんて。
裏切っているという事実が苦しくて、衝動的にすべてをぶちまけたくなる。

半ば強引に胸に押しつけられて、抵抗する気も起きずそのままもたれかかった。

「日吉のこういうところ、大好きだよ」

どういうところだ、と聞き返そうとしたが、また恥ずかしいことを言い出しそうなのでやめた。

「シャンプーが変わっても髪はさらつやのままだね。やっぱり元の髪質かな?」

日吉の髪を撫でながらのんきにつぶやいている。

「もういいだろ、いいかげんにしろよ」

鳳は正義感が強くて、思いやりがあって優しい、性格の良い奴だ。しかし恋愛面ではかなり自分本位だと思う。感情で体当たりしてきて、相手がどう感じるかはあまり考えない。身体のこと関しても、自身の快楽が先だ。

「ねぇ、次の休み出かけようか。二人だけで」

「人の話聞けよ」

「抱きしめても日吉が怒らない場所がいいな。誰にも見られないところ」

「…あるわけないだろ、そんな場所」

「だよね。あーあ、早く合宿終わらないかなぁ。あ、もちろん特訓が嫌って意味じゃないけどね」

そう。早く合宿が終わればいい。財前も大阪に帰り日常が戻ればすぐに興味をなくす。

「ほら、そろそろ夕食の時間だ。行こう」

「わかったよ」

ようやく腕から解放されてベンチから立ち上がる。
すると、練習を終えたらしい四天宝寺の生徒たちがコートから帰ってくるところだった。
一氏、金色、謙也と賑やかな中に財前の姿が見える。

「…………」

そのまま何食わぬ顔で財前とすれ違った。

「なんだかものすごく見てたけど、財前て日吉と同じ部屋だっけ?」

「まぁ、用があるならあとで言ってくるだろ」

日吉はあえて目を向けなかったが、どうやらこちらを見ていたようだ。

「…みんなとうまくやれてる?日吉は誤解されやすいから心配だな」

「大丈夫だ、俺だって弁えてる」

強くなるための合宿、同室だからといって慣れ合う必要もない。自分は自分でやればいい。当初はそう思っていたが、わりと楽しくやれていた。騒がしくいつも会話の中心にいる切原。聞いていないような顔をしながらちゃっかり話に混ざっている海堂や、自称ツッコまない関西人だが切原によくツッコんでいる財前と、おかしな奴ばかりだ。



「ちょお、余所事考えとらんで俺んこと見ててや」

財前に顎を掴まれ目線を合わされる。

何度も口づけられて、何度もいかされて、身体は徐々に馴染んでいく。
脅しだの言うことをきかせるだのと物騒な言葉を使うわりに、ひどい扱いをされているわけじゃなかった。
いつもそうだ。優しくて、甘い。
手も、唇も、声も。

「日吉が声出したら俺の勝ち、出さんかったら日吉の勝ちや」

「勝ったら何かあるのか?」

「俺の自尊心が満たされるやん」

「なんで自分が勝つ前提なんだ」

「そらそうやろ」

皆が知らないような優しい眼差しで日吉を見つめていると、きっと本人も知らない。
怖いくらい真剣な表情で感情を伝えてくる時も、気づいていない。

弱味を握って欲求不満のはけ口にしたかったくせに、どうしてよけいな感情を持つんだ。
心の中で何度も文句を言った。




でも、もしも。思うだけが許されるなら。


……先に、逢いたかった。





2025.6.4



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