偽悪者気取り R18
消灯近くに洗面所から戻ってくると、廊下の隅でひそひそと声が聴こえた。過敏に反応してしまうアンテナが財前の胸を騒めかせる。
「もしもし? うん。…そう。いいんだよ電話で。部屋まで行ったら目立つだろ。うん。うん。わかってるっていつも言ってるだろ。そうだよ。うん。…うん、おやすみ」
そっと覗いてみると、日吉が電話をしていた。口ぶりからして相手は察しがつく。
背後の財前には気づかず何事もなかったかのように部屋に戻るのを見送った。
「電気消すぞ」
「待って、あと5分!」
「うるさい切原、早く寝ろ」
「海堂と日吉がじじくせぇんだよ。んな早々寝れるかっつーの、なぁ?財前」
「俺に振るな。消灯時間なんやから電気はしゃあないやろ」
パチン、と電気が消されて真っ暗になった。渋々ベッドに入った切原の嘆きが聴こえる。今夜は財前もスマホを触らずおとなしく寝ることにした。
目を閉じて浮かんだのは先程の日吉の姿。
(うん。おやすみ)
めずらしく素直な様子を見せられると、また面倒な感情が湧き出してくる。
(あいつの声が聴こえないと落ち着かなくなった)
日吉の言葉を思い出す。
完全に読み違えてしまった。興味本位で手を出しただけなのに、まさかこんな想いに囚われるなんて。
興味本位?
本当にそうか?
吐き出したため息の中に釈然としない思いが滲む。
何やら音が響いているのは切原がこっそりゲームでもやっているのだろう。おかげで財前のため息はかき消された。
「人のことよわよわとか言うわりに自分も弱いよな」
財前のモノを扱いていた手を止めて、日吉が顔を上げる。
「せやから、そこ弄られれば誰だって……」
達した後だけに強く言いづらく、ちょっと口ごもってしまった。
「俺がいってるのはここじゃない。こっちだ」
と、唇に口づけられた。
「好きなんだろ、するの」
「…………」
不意打ちでキスをされて、ぞくりと身体が疼いた。それを隠して何でもないふりをするのは思ったより苦しかった。
(そういうのが煽りやて気づいてへんのやろな…)
してやったりのドヤ顔を見ながら思う。
「日吉ごときに見抜かれるなんて不覚や」
「ごときはよけいだ」
「ん。」
キスしやすいように顔を向けると、ため息で返された。
「なんだよ、その顔は」
「なにて。普通は弱点見つけたら攻めるもんちゃう?」
「俺はそんなくだらないことはしない」
もっともらしく言いつつ、実のところは自分からするのが恥ずかしいに違いない。先程のキスはまぎれもなく『してやったり』だったのだとわかる。
「ちょお、変顔して俺アホみたいやん」
「間抜け面だったぞ」
「うっさいわ」
羞恥で赤くなりそうなのをごまかすために、今度は財前から口づける。
わざとしつこく口づけ、深く舌を忍ばせると日吉が根を上げた。
「っ、もう…いいだろ…」
「全然足りんけど。てかその雑魚っぷりめっちゃ好きやで」
「ざこだのごときだの、さっきから調子に乗りやがって…」
「そこちゃうねん、引っかかるとこ。…ま、アホで助かるけど」
口が滑って本音が出てしまったので、再びキスでごまかした。
財前のモノに沿わせたまま、キスに合わせるように動いていた日吉の手が止まる。屈み込んだかと思うと手でしていたものを口の中に収めた。
「…えらい積極的やん」
何かの動画のように妖艶に誘うわけではなく、無駄に挑発的でもなく、特に上手いわけでもない。勃たせるためだけに作業的にしているのだとわかっている。それでも日吉に口でされているという目の前の光景だけで熱が高まり、硬くなっていく。
音を立てながら出し入れし、時折なぞるように舌が這う。
その前髪を掻き上げると露骨に嫌そうな顔をされたので、嫌がらせついでに髪を撫でてやった。
(顔にかけたら怒るやろか)
「まだイくなよ」
一瞬、考えを読まれたのかと思った。
「今日はドSモードか」
「お前がいつまでたってもやらないから、俺がやってやるんだよ」
言ったかと思うと財前に跨り、自らで後ろを解し始める。
もちろん何か狙いがあってのことなのだろうが、今は流れに乗ることにした。
「…っ、わりとすんなりいくもんなんやな…」
もっと大それたことのように感じていたが、飲み込まれていく感覚は憶えがあるものとそれほど違わなかった。しかし受け入れる日吉は苦しそうで、財前も強い圧迫が痛いほどだった。
やがて張り出した部分が収まると徐々に馴染んでいく。内側の熱が伝わり、じんじんと痺れるような快楽が込み上げる。
日吉は荒い息を吐きながらゆっくりと腰を上下する。苦しいのではないかと思ったが、息とともに吐き出される声音はそうでもなさそうだった。
「ぁ…っ、ん…っ」
目の前でそそり立つものはとろとろとあふれる液で濡れている。
目的のために仕方なく、だけでもなさそうだ。
誘われるように、それを握る。
「ぁっ、触るな…あぁっ…ンッ」
「っ、無理やて…そんなん」
冷静なつもりが多少興奮していたのかもしれない。日吉のモノを指先で捏ねながら、自然と腰を突き上げていた。そしてお互いに、あっという間に達していた。
「…これで脅す理由もなくなったな。もう人のことどうこう言える立場じゃないだろ」
後始末を軽く済ませて、日吉が言った。
「そういうことやったんか。…身体張って頑張ったとこ悪いけど、そんなんもうどうでもええねん」
「なんだと?」
「脅す気なんかとっくに失せとるわ」
「は…?!ならどうしてこんなこと続けてたんだ」
「どうして? 自分、俺を苛つかせる天才やな。一緒に居りたいからに決まってるやん」
「なっ…何言ってんだよ」
煽るようなキスにしろ強引な挿入にしろ、いつもいつもどこかずれていて、そのたびに財前は感情を振り回される。ホンマ苛つくねんと軽口を叩きながら、日吉の身体を強く抱きしめた。
「こんなんされたら離したくなくなる。憶えさせたらもっと欲しくなるだけや」
日吉の身体が震えているように感じた。思惑どおりにいかなかった怒りなのか、驚愕なのか。
財前が思っていた以上に、日吉は今の状況が嫌だったらしい。こんな無茶をしてまで終わらせたかったのかと胸が痛くなる。言い換えればそれは彼への想いの現われだから。
「鳳に今日のこと知られたくないんやったら、今までどおり俺のいうこと聞いてや」
「…………」
「逃がさへんよ」
「……、なんでお前までそうなるんだよ」
つぶやいた声はひどくがっかりして聞こえた。
「たぶん日吉になんかあるんやろ。引き寄せるもんが」
「テキトーなこと言うなよ」
「他にも誰かおるんちゃう?やたらちょっかい出してくる奴とか」
「いるわけないだろ。お前ら自分の都合を俺のせいみたいに言うな」
確かに日吉にしてみれば言いがかりでしかない。が、財前だけでなくやはりそう感じているようだと言葉の端から読み取れる。そういえば鳳ともこんなやり取りをしていたような。
きっかけは好奇心だった。とはいってもまったく興味のない相手に対してすることじゃない。きっとその頃から惹かれていたのだ。いろいろと理屈を並べてみたけれど、結局は近づく理由を探していたにすぎない。
「そろそろ片付けないと時間がなくなる」
「約束忘れんといてや」
と、日吉の顔を振り向かせて刻印のつもりでキスをした。
「それはこっちのセリフだ」
日吉がじっと見つめてきた。
しかしそこから感情を読み取ることはできなかった。
20250208
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