予定調和な運命だった

予定調和な運命だった





きっかけは、切原がUFOの目撃情報だと騒ぎ出したことだった。しかしその時刻謎のアイドルが大規模なPV撮影をしていて、撮影機材の影響で上空が光って見えただけかもしれない。と、かなりあやふやな話であるため、審議を確かめようと練習後の夕方に集まることとなった。
財前にはまったく興味がない話で、わざわざ確かめるなんて面倒くさいことをする切原と日吉は物好きな暇人でしかない。さらに切原が触れ回ったおかげで他の部屋の選手も集まっていた。

「お前らは別について来なくていいんだぞ? 興味ないだろ」

財前と海堂に向かって日吉が言う。

「ついてくのとちゃうわ。謎のアイドルが気になるだけや」

「アイドルだぁ?」

日吉が胡散臭そうに目を向けてくる。そりゃそうだ、アイドル好きだなんて今まで一度も言ったことがない。

「…ブログネタになりそうやし」

我ながらちょっと苦しい言い草だった。アイドルもUFOも興味はないが、切原とだけ共通の話題が増えるのはおもしろくない。

「海堂もアイドルが気になるのか?」

「バッ…バカ!んなわけあるか!俺はその…た、ただの暇潰しだ」

「…まぁいい、好きにしろ」

海堂がどういうつもりなのかは知らないが、今の言葉を日吉は何と解釈したのか気になるところだ。

「向日さん。怖いのだめなのになんで参加したんですか?」

「だめとか言うな。ホラーはちょっとだけ苦手だけど、UFOとか宇宙人はおもしろそーじゃん」

「…攫われても助けませんよ?」

「なっ、なんでだよ!後輩なら助けるのが当然だろ!」

「後輩は関係ないと思いますが」

「あっ!ほら、今光った!」

今度は切原が声を上げる。というか切原は本気なのだろうか?

「今のはどう見ても車のライトやろ、大げさやで」

確かコートを越えた林の向こうは一般道だったはずだ。

「交信してるんじゃないのか?」

「…………」

日吉はもはや何かに取り憑かれているかもしれない。
財前は必死で笑いを堪えた。真顔で言う日吉を前にして誰一人笑わない、この中で笑えるほどの勇気は持っていなかった。

「おい、日吉!交信って誰が誰としてるんだよ?!」

向日が焦った様子で聞く。

「さあ、誰だろね〜」

すると知念がぬっと顔を出し、不気味に笑った。
みんなおもしろいくらい切原と日吉に乗せられている。自称ツッコまない関西人である財前だが、ツッコミどころ満載過ぎてツッコミたくなる。

ふと、人混みを抜ける日吉の姿を財前は見逃さなかった。コートを出て、観覧席に上がっていく。高い位置まで来て立ち止まったかと思うと、双眼鏡を取り出し遠くの空を眺めている。

「そんなんまで用意しとるんかい」

「いざという時のため、家から持ってきておいて正解だった」

「いざってなんやねん……アホの子め」

誇らしげに言う日吉はわくわくと楽しそうだ。それを見ながらベンチに腰を下ろす。

「日吉見てると退屈せんわ」

「よほど暇なんだな。こっちは楽しませてるつもりはない」

「俺は勝手に楽しむからええよ。ほら、UFO探しとき」

「バカにしてるだろ?」

「気のせいやって。…ところで、鳳は来ないんやな」

抜け出して鳳と落ち合うのかと思っていた。

「いきなりなんだよ、関係ないだろ」

「ひょっとしてUFOに興味ないとか? いやまぁ、あったらあったで怖いけど」

「信じるタイプじゃないのは確かだが、来ないのは宍戸さんと日課のトレーニングがあるからだ」

「日吉は妬いたりせえへんの?」

「しないね。俺が好きなことしてるように、あいつも自分のしたいことすればいい」

「そうか?自分そっちのけで他の奴とトレーニングだかなんか知らんけど、普通腹立つのとちゃう?」

「別に。あとで電話でもすればいい話だ」

「あ、電話はするんや。なんやかんやいうて、やっぱおもろないんやん」

「なんだよいちいちうるさいな。邪魔するならあっち行け」

図星だったらしく、日吉が怒り出した。わかりやすくておもしろい。

「行ってもつまらんし」

「海堂とアイドル探しに行けよ」

「ないわ〜。てかわかってるやろ、口実やて。鳳も来る思うたんや。そしたら目の前で何かしたろかなと…」

「お前…」

「冗談やて。わかってるわ」

つまらない対抗心で、今の関係を崩したくはない。

「ふん。これだけ人がいれば何もできないだろうけどな」

「……俺やったらようせんわ」

「何だって?」

「いや、なんも」

合宿中ただでさえ一緒にいられる時間は限られるだろうに、自分なら好きな相手といる方を選ぶ。
心の中で思った。
もちろん自分の時間は大事だが、優先するのは今じゃない気がした。
鳳も心配していたはずだ。日吉本人がどうこうより、なんとなく周りが放っておかないというのが危なっかしい。

「おーい、日吉、財前!何か見つかったかー?!」

切原の声がして、振り向くといつの間にか集団はコート脇の自販機の付近に移動していた。

「もう飽きたのか。…ま、切原と向日さんじゃ仕方ないか」

「ほな、UFOはまたの機会っちゅーことで」

「お前はもう来るな。バカにしておもしろがってる奴なんていても邪魔なんだよ」

「まぁまぁ。見つけたらブログで発信したるって」

「……、そういえば」

双眼鏡をしまって出口へ向かいかけた日吉が足を止めて振り返る。

「見たぞ、ブログ。俺には理解できない話ばかりだけど、唯一和菓子の紹介はよかったな」

「お、見てくれたん」

「忍足さんに言われたから仕方なく、だ。 俺もすあまは好きだ」

関西地方ではあまりみかけないすあまだが、謙也の従兄弟である侑士が帰省土産に持ってきたとのことでご馳走になった時の話だろう。


部屋に帰った財前は、さっそくあの時の記事を読み直す。さらりと返したが、日吉が興味を持ってくれて実は嬉しかった。土産話はけっこう前の記事なので、遡って読んでくれたようだ。
よく見ると、記事にコメントがついていた。

「つき合ってる人とかいますか?」

財前のファンを名乗る四天宝寺の2年生女子だ。聞いていないが自己紹介してきた。
記事の内容とはまったく関係ない。今までならスルーだが、今の財前はわりと乗り気だ。

「いるようないないような…」

と打ちかけて手を止めた。

テニス部の部員や同級生も見ているのだ、迂闊なことは書けない。誰だとしつこく詮索されるのが目に見える。
さらに、そのコメントに便乗する形で「好きな人はいる?」とあった。

「おるよ。めっちゃむかつく前髪長すぎの奴」

財前はつぶやいた。
結局、コメントはスルーするしかなかった。

日吉が読んだ時、このコメントはすでについていたのだろうか?





2025.3.1



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