18無くし物はなんですか?


新世界、とある秋島の海域にある“オータルビー島”
近隣の3つの島と交易が盛んに行われており、
オヤジのナワバリでもあるこの島には数回立ち寄ったことがあるが、随分と穏やかな雰囲気の島である。

オータルビー島、南側の大きな港に船を停泊させ久々の大地に足を降ろした。

島に到着して10分も経たない内に、最近俺の頭を悩ます問題児が行方不明になった。


「ッダメだマルコ!見失っちまった!」
「ったく、首輪でもつけるかァ?あんのクソ小娘!!」

娘が飛び出していった港から程近い町の方からエースが戻って来たが、どうやら見失っちまったらしい。
港ではクルー達がこの島に運ぶ物資を降ろしており、その内の何人かが
「エース隊長!早速嫁さんに逃げられましたかー!」
「おーい!エース隊長、早速嫁に逃げられたってよー!」などとエースを茶化していた。

「うるせェー!!すぐ連れ戻すわァ!!!!」と目くじら立てながら怒るエース。
嫁って事は否定しねェのかよい。と思いながらも右に行けと言えば迷わず左に行くような小娘に
船内ならともかく、島で迷うのは勘弁してくれ…と思うのであった。

「グラララ!とんだじゃじゃ馬娘じゃねぇか!何だァマルコ、大して広くもねぇ島だ!その内見つかるだろ!」

「オヤジ…あの娘のアレは、もはや能力レベルだよい…探せば探す程、まるで見つからねぇ様に隠れているかの如く見つからねぇんだ。」
「グラララ!そりぁ困ったもんだ!
しかし、まぁ急ぐ旅でもねェ。見つかるまで探しまわりャいいさ!」
グラララと笑うオヤジ、どうやらあの娘を“置いていく”という選択肢は無い様だ。

「まぁーマルコ、船の奴らも殆ど島に降りるんだ。その内誰かが見つけるさ。」
そう困った顔で笑うサッチは手のかかる子程可愛いって言うだろ?とかほざいてやがる。

確かに、1日もあれば島内一周できるような島だ。
南側にこの港と西側に向かって広がるこの島の中心となる町がある。
東側は山間にぽつぽつと民家が立ち並び、麓には島民が暮らす村と海へと向かって流れる川のそばには祭りごとや何かイベント事が行われる広場があり、牧場や農村地帯となっている。

北側の森林地帯は昼間も薄暗く、島民もあまり立ち入らない。
「(…あの小娘、わざわざ森に迷い込んじゃいねぇだろうな…)」
まさかな…と考えない様にし頭を振ればこの島の町長が姿を現した。

「いやはや、白ひげの旦那。久しいの、前に島へ立ち寄ったのは何時だったか…
アンタらの名前を掲げているおかげで、見ての通り島は平和だ!」
「よォ、クソジジイてめぇも見ねえ間に随分とショボくれちまったんじゃねェか?」

「ホッホッホ、なに、ワシももう老体だ、寄る年波には勝てねぇよ。さぁさぁ、宿屋も飯屋も好きに使っていってくれ!」
ただし金は置いてけよ?と言う町長のジジイに金にがめつい所は昔と変わんねぇなあ!グラララと笑うオヤジ

土産だ、もってけ!とこの島では手に入らない様な酒や物資を置いていく。
ありがてぇ、町の奴らと分けるとしよう、と皺くちゃな顔を更にシワシワにさせ喜ぶ町長に
「どうだ、変わりねぇかよい」と尋ねれば、おぉ!マルコ!お前も随分久しいなぁ!と肩を叩かれる。

「そうさねぇ、そういや数年前に親子が二人この島に住み着いたが…
まるで何かから逃げてきたような感じで、この島でも北の森ん中で身を隠すように生活しているよ。たまに町に姿を現すが…町の奴らも気にはかけているんだがなぁ」

町長の話を聞くと。
数年前、幼子を抱えた男が島に流れ着いてそのまま住み着いたようだった。
何かから逃げるように来たその男は、“白ひげのナワバリなら…”とどこか安心した顔でそう呟き
暫くは町で世話になったようだが、ある日突然隠れるように北の森へと姿をくらませたようだ。
心配した町民が何回か森へ向かい不便はないか?と気にはかけている様だが、男は問題ないと
ここは住みやすい良い所だ、と町へは帰ってこなかった。
たまに食糧や物資を求め、町に来ることはあるそうだがそれも頻繁ではない。
幸い森の中には川も流れており、木の実も充実している様で普段は魚を取ったりして生活しているらしい。

「そういやぁ、ここ数年恐らくその男…コルクって言うんだがな、そいつの娘だろうか、
島に住み着いた時はまだ小さかったが、8歳くらいの女の子で
親父には内緒だってたまに町に遊びに来るようになったなぁ。確か…ルイちゃんって言ったか。」
森から町への道は子供にゃあぶねぇから、親父と来いって言ってんだが。
何時も連れてる変な猫が一緒だから大丈夫だ!って聞かねぇんだ。

そう困ったように言う町長の話をいつの間にかエースとサッチも共に聞いていて
「変な…猫…。おい爺さん!変な猫って、こう、耳がなげェ兎みてぇな猫か?!」
「おおぉ、見ねえ顔の兄ちゃんだなぁ。
そうだ、なんでもその猫、森で見つけたウサウサの実ってのを食っちまって。耳が伸びちまったんだと!」
売れば数億する悪魔の実だ、勿体ねぇ事しちまったよなぁ!と笑う町長とは裏腹に、
俺達はもしやあの娘、そこに居るんじゃ…。と考えが過った。

「町長の爺さんは初めてだったな!コイツはエースってんだ、うちの末っ子だ!
そんでよぉ、最近うちの船に乗った16歳くれぇの女の子が島に着く手前で海で漂流してたその猫兎を保護してんだ。だが、島に着いた途端走って行っちまった猫兎追いかけて行っちまってよ…行方が分からねぇんだよ」

見かけたら保護してやってくれねぇか?と町長に困ったようにサッチが頼めば、
そう広くない島だ、島民が誰かしら見かけるだろう。役場の奴らから島民に知らせておくよ。と清く頼まれてくれた。



しかし俺は、その数年前に流れ着いた親子の話が妙に気になった。
しかもそこの家のガキが例の猫兎の主人ってんだから、まぁ一度その森の家に行ってみるのも良いかもしれねぇ。
と町長にその親子が済む家の場所を聞けば、地面に簡単な地図を書いてくれた。
町側から森へ入れば暫く獣道だが、少し進むと家に繋がる一本道があるそうだ。
少し分かりにくいが、迷わなければ30分もすれば辿り着くらしい。

「んじゃぁ俺ちょっくら森の方に行ってなまえが居るか探してみるわ!」
そう言って駆け出そうとするエースを町長が引き留めた。

「まぁまて若造、もう数刻もすれば日が暮れる。若い娘さんが態々薄暗い道も無い森に入るとも限らねぇ。
仮に迷い込んじまったとしても、町から森へ向かえば町民が誰かしら気が付くはずだ。
東側方からは山を越えないと森へは入れないしなぁ、先ずは町中と東の農村地帯を探した方が早いと思うぞ」

「確かに…あいつ町中で見失ったからな、それもそうか…」
と納得するエースに「なまえちゃんも大食いだからな、飯屋の匂いにつられて飯でも食ってるかもな!」とサッチが言った。

確かに!あいつ食い意地汚ェしな!と笑うエースに、どちらにせよ船番以外の奴らは皆町に向かうから
そいつらにも探すのを手伝ってもらえば直ぐにでも見つかるだろう。と呑気に考えていた時、ふと思い出した。

「いや、あの娘…金持ってねぇだろ…」

「「あ。」」








ゴーーンと鐘が鳴る。
この島の町の小高い坂の上にある役場から鳴らされる鐘は朝の6時から夜の11時まで一時間おきに鳴り、
夜中の2時に一度。その為鐘が鳴り響く役場のある町中に住居を構える奴はそう多くなく、殆どの住民が東側の村に住居を構えている。町中に住んでいる者は大体宿屋か飲み屋を営んでいる奴らだ。

そして娘は夜になっても見つからなかった。
町の奴らに聞き込みをしても、そんな娘は見ていないと言う。
そうかと思えば一人の若い男が東の村の方に走っていく見慣れない顔の女の子を見た。と
情報がクルーから伝えられ、そちらに足を運んでみればそれらしき娘を見たが
その農夫曰く町の方へキョロキョロしながら歩いて行ったぞ。ともはや堂々巡りである。



「おいおい、やっぱり森の方に行っちまったんじゃねぇか?」とサッチが焦ったように言う。
日はとっくに沈み、夜の静けさの中に町の飲み屋からの賑やかな声がかすかに聞こえる。

俺達は町から向かえるという森の入り口に居た。
「でもよ、サッチ…なまえがこん中突っ込んでいくと思うか…?」

そうだよなァと髭を触りながらサッチが言う通り、町長が少し進めば小道があると言ったものの
森の入り口とは名ばかりで、視線の先は鬱蒼と木々が茂っており入ろうと思って進むような雰囲気では無かった。

「しかしよい、あの破天荒娘の事だ…あり得ねぇって事はねぇだろい…」
「「確かに…」」

やはり森へ入るか、と三人考えていれば森の入り口から人影が見えた。

「おぉ?オメェらそんなとこで突っ立って何してやがんだァ?」
「ティーチ!お前こそ森ン中で何してたんだよー!」

森から出てきたのは2番隊のティーチだった
ティーチによれば、この海域にしか自生しない木の実があるらしく。
以前それを食った時に大そう気にいっちまった様で森の中で木の実を採っていたらしい
現にティーチの手には袋いっぱいに詰められた木の実が入っていた。

「ゼハハハ!この実がうめぇのなんのって、サッチよコイツをジャムにでもしてくれよ!」
「おぉ?構ヤしねぇが、おめぇ見ねぇと思ったら…ずっと森の中にいたのか?」

ティーチ曰く、木の実を採るのに森を一周散策したらしい。
エースが娘を見なかったか?森の中に入ったかもしれねぇと伝えればティーチは、

「そういや、あの嬢ちゃんを見かけたぞ」と言う言葉にエースとサッチが反応した。

「おい!見たって!何時!どこらへんで!」
「お、おい落ち着けよエース…見たって言っても、俺が見つけたのはこの森の直ぐそこだ、
船に連れてこうと思ったが、嬢ちゃんが一人で戻れるってぇから俺ァ心配したが…
空から船を探すって森から出て町の方へ走って行ったのを見送っただけだ。」

森の中にはいねえと思うぞ。


「おいおい…アイツ、どこいっちまったんだよい…」




一寸先は、闇。


もしかして、と船へ戻ってみたが娘は帰っていなかった。
ゴーーンと深夜の鐘が鳴る。

その晩、島の森で火の手が上がり
平和だったこの島に緊張が走った。