19乙女の柔肌、触れるべからず


あつい、あつい
目の前に広がるのは燃え盛る炎。

木材の燃える煙で視界も悪い。ッチと舌打ちを一つ。
私はこの家の親子を探すべく、目的の部屋へと向かった。





ガシャンとガラスが割れる音に意識が浮上し、何事かと思う間もなく何かが燃える焦げ臭さ。
只事では無い状況に慌てて下へ降りれば、燃え盛る炎で視界が埋まった。

状況を理解するよりも早く、あの親子とミケ丸の事が頭に過り二人の居る寝室へと向かえば、
寝室の方からも火の手は上がっている様で、ドアを蹴破り中へ入れば床に頭から血を流し倒れているコルクさんを見つけた。
「ゴホッッ…コルクさん!!コルクさん!あぁそんな!ルイちゃんは!?ミケ丸!」
気を失っている様で声をかけてもコルクさんは反応せず、ルイちゃんの姿が見えない事に焦りが隠せない。
ルイちゃん!ミケ丸!と何度か名前を呼べば、ベットの下から力無く鳴くミケ丸が姿を現した。

「ッ…!ミケ丸!!よかった!ルイちゃんはどこに…ッゴホッゴホッ」

火が回るのが早い!窓から出るかとそちらを見やれば床に割れたガラスと共に瓶が2本転がっているのが確認できた。

「(火炎瓶か…!誰がこんな事を…ッ!)」
クソッと悪態をつき、コルクさんの身体に腕を回し、ミケ丸をもう片方の手で抱き上げた。

水の個性で消火する事も考えたが、燃える火を見てこの状況で水をぶっ放せば水蒸気爆発は免れないっ
そんな事をすればどこにいるか見当たらないルイちゃんが危険だ…!

そう判断し、消火よりも脱出を優先させた私は水の個性で自身とミケ丸、そしてコルクさんを水浸しに濡らした。
水を被った事に反応したのか、コルクさんがゴホゴホと咳き込み意識を取り戻した。

「コルクさん…!よかった!あのっルイちゃんは!ルイちゃんは一緒じゃなかったんですか!?」
窓辺は火の回りが早かったので、コルクさんとミケ丸を抱えキッチンの方へ出た。
流しの上の窓から外へ出れそうだ、とそう思いながら意識を取り戻したコルクさんに問いかければ

「ゴホッ…ルイ…ッああ!ルイ!ルイ!!アイツ等に!アイツ等がルイを…!!」
「コルクさん!落ち着いて!アイツ等って!?ルイちゃんはココに居ないんですね?!」

ああ…!アイツ等に連れてかれちまったァ!!と涙を流し悔しそうに叫ぶコルクさん。
ルイちゃんはもう居ない、誰がどうしてルイちゃんを連れ去ったのかは分からないが流しの上の窓を叩き割り
コルクさんとミケ丸を連れ家の中から脱出をした。






「ハァッ…ゴホッゴホ…ッ、コルクさん、大丈夫ですか…?一体何が…!」

嗚呼と狼狽えているコルクさんの肩を掴み問いかける。

「アイツ等が…!っクソ!ルイは連れ去られたッ!!この島なら安全だと…っ…!

ッ…オイッ…!
なまえさん!!!危ねぇ!!!」

危ない!というコルクさんの声にハッと後ろを振り返ろうとしたら頭に強い衝撃が走った。

「ッッ…!!?コンのくそがぁっっ!!!」
BOOOM!!!!と振り返りざまに何やら棍棒の様な物を持った男の手を掴み爆破した。


「ギィャアアアアッッ!!!クソッ!!このアマァ!!」
「おい!!!あの女まだ動けるぞ!!!」

ツー…と頭から血が流れる、人の頭思いっきり殴ってくれやがって!!!と、そこにはガラの悪い男が2人。

ナメ腐りやがって!と続けて掌を爆破させ攻撃しようとした時、後ろからウワァアッとコルクさんの声がし振り返ればどこかに隠れていたのか男がまた3人、コルクさんを羽交い締めにしていた。

「オイ!早くその小娘やっちまえ!トンズラこくぞ!!」
「このクソガキ!能力者だ!油断すんじゃねぇぞ!!」

相手は4人、うち1人はコルクさんを拘束している。

いける…!そう思った瞬間背中に何かが刺さった痛みがした。

「おいおい野郎共何モタモタしてやがる…
用は済んでんだ島民に気づかれる前にさっさと退散するぞ!」

そう言って茂みからまた1人男が出てきた。
その手には拳銃の様なものが握られており、
小脇にグッタリとしたルイちゃんを抱えていた。

「…ッッ!ルイちゃん!!!!」
テンメェ…!!!と駆け出そうとして、膝から崩れ落ちた。

「な、なに…ぇ…ッ」
「ははっ嬢ちゃんよぉ、象も一撃で眠らせられる代物なんだぜ、コレ」
そうニヤニヤ笑う男にルリちゃん…と手を伸ばしたが、ガッと地面に踏みつけられた。

「んん?よく見たら結構上玉じゃねぇか、
このガキもついでに持ち帰ってヒューマンショップにでも売り飛ばしちまうか!」

「おいっっっ!!!なまえさんを!ルイを!!!離しやがれ!!!くそ!!俺が代わりになるから!!!離せ!!離してくれ!!」

コルクさんの声がだいぶ遠くに聞こえる。
霞む目に映ったのは
「この男にゃ用はねぇ、穴ン中にでも捨てておけ」
そう言って男がコルクさんを落とし穴に突き落としたのを最後に、私の意識はブツリと切れた。






















ザザーン、ザザーンと波の音が聞こえる。

ゆさゆさと誰かに体を揺さぶられて目を覚ました。
「……あ、れ…ここは…」
「おねーちゃんっっ!よかった…っっしん…しんじゃったかと…ッッぅうう…っっ」

「ルイ…ちゃん…?…ッ、ルイちゃん!」
ガッッ
「ウグゥッ…ッな、なにこれ…ッ?」

ルイちゃんの方に身を乗り出せば首元をグッと圧迫された。
どうやら首枷の様だった、鎖に繋がれたソレは一本は両手に嵌められた手枷に繋がっており、もう一本は壁に固定されている。

後ろ手に嵌められている手枷と、首の拘束に顔をしかめた。

「おねーちゃん…」そうか細い声でルイちゃんが呼ぶ。

「大丈夫、大丈夫よ。ルイちゃん、私がいる、私が絶対に助けてあげるからね…!大丈夫だから、ね?」ニコッとルイちゃんに笑顔を見せれば、ルイちゃんは涙を流しながら
うんっ、うんっ。と頷いた。

さて、まずはここから抜け出さなければ…と部屋の中を見渡す。
どうやら倉庫の様で、埃っぽい部屋の中には麻袋と木箱が乱雑に置かれていた。

窓もなく、昼か夜かもわからない。
ただ、うっすら聞こえる波の音と、この…地に足が着いてない揺れる感覚に恐らく海の上だ、という事はわかった。

まずいな…どれくらい気を失っていたかわからないが…島から出たとなると…いや、でもルイちゃん抱えて飛ぶくらいなら行けるか…?

「ルイちゃん、とりあえず手枷外してあげるから、こっち来れる?」
まだ、打たれた麻酔が抜けきれていないのか足に力が入らなく動けそうにない。

「う、うん!…でも、カギないよ…?」
と不安げに私を見るルイちゃんにウィンクをし

「私に任せて、ほら、私の後ろに来れる?
うん、そしたら私の手の所にルイちゃんの手枷を当てて…そう、ルイちゃん外すよ?動かないでね…」

こう…?と私の後ろに回り、私の手元に自身の拘束された手を近づけてくるルイちゃん。
その手枷に五本の指で触る。

「(まさかこんな所で死柄木の個性に助けられるとはね…)」
手で触れたものを崩壊させる個性、五本の指で対象物を触れるとその物はボロボロに崩壊してしまう個性で、人体に対しても影響を及ぼしてしまう恐ろしい個性だ。

「…っ!おねーちゃん、すごいね!取れたよ!
すごい!”ヒーロー”みたい!ありがとう!」

「ふふ、ルイちゃん私実はヒーローなの。」
そう笑いかけて言えば更にすごいすごいと自由になった手を振り喜ぶルイちゃん。

私も後ろ手に拘束された手枷にどうにか指を触れさせ、手錠を崩壊させた。

自由になった両手で私とルイちゃんの首輪も壊し、私達は完全に自由になった。

身体を蝕んでいた麻酔もさっきよりかはマシになっている様で、身体に力も入る様になってきた。

「さて、ルイちゃん。逃げよっか!」
「…!うんっ」
さぁ脱出だ!と倉庫の扉に手をかければ、扉が勝手に開いた。

「あれ?自動ドア?」

ガチャリ

「…!!!お、おまえら!どうやっ」
バキィイ!!!

バタッ…。

「わっ!急に現れるからビックリしてぶん殴っちゃった!」
「お、おねぇちゃん…つよい…」

ま、まぁいっか!!!
よし!逃げよう!とルイちゃんをおぶって部屋を後にした。

途中、何人かを殴り倒しながら外に出る道を探すが見当たらない。
思ったより大きな船の様で、今何人目になるかわからない奴をまた1人ブン殴って気絶させた。

「えーー!もう!この船広すぎなんだけど!!」そう嘆く私に背中にいるルイちゃんが申し訳なさそうに話しかけてきた。

「おねーちゃん、あのね、たぶん、ココさっきも通ったよ…?同じところぐるぐる回ってるとおもう…」
「え…?そ、そうかな?」
うん、あっちの方はいってないと思う。とルイちゃんが指差した方を見て、あれ?こっちに道あったっけ?アハハー…
「あっち、いってみよっかー…」

向かった先に、先程は見かけなかったドアが有った。

「ええい!今度こそ!」
バンッ!!と開けた扉の中には…


ボロボロの服とも言えない布切れを身に纏った女の人達が大勢居た。

「あ、貴女は…だれ…?ッ!もしかして助けに来てくれたの!?」
扉の近くにいた人が私にすがりつきながら言う。
「おねえさんたちも、わるいひとにつかまっちゃったの?」
とルイちゃんがその女性に聞けば、ここに居る人達は皆”奴隷”として売られるんだそうだ。

「ど、れい…そんな、ヒドイ…っ」
今、助けます…!!

部屋へ踏込み、側にいた女性の手錠を外そうとした時

「おいおいおい、なんだ部屋にいなぁと思ったら、こーんな所にいやがったか、クソガキ」

「ッ!お前!あの時の!!」
パァアンッ
「ッア…ッ!」

振り向いたドアの先にはあの時麻酔銃で私を撃った男が立っていた。
男は間を置くことなく拳銃を発砲させ、その弾は私の横を通り…
「お姉さん!!!」
「「「きゃあぁああっっ」」」

私に助けを求めてきたお姉さんの腹部を撃ち抜いた。

「ッアンタ…なんて事をっっ!!!」
「おーっと、動くなよ、テメェが動けばその女、殺しちまうぞ?」

あーあ、商品が一つオメェのせいでムダになっちまったじゃねぇか。と銃を構えながらニヤニヤするその男に虫酸が走った。

グッと押し黙っていれば頬を容赦なく男に叩かれ床に身を転ばせた。
「おねーちゃんッッ!!!!」

「なぁ、おいガキ、オメェ能力者じゃねぇのか?あ?どうやって海楼石の錠を外しやがった?あぁ?」
そう言って私の髪を掴み上げ問いかけてくる男
叩かれた時に口内を切った様で血の味がする。

「そうねぇ、ある意味、私も”能力者”って奴だけどね…ゴメンねオジサン。私どうやらその海楼石、全く効かないんだよね!」

ペッ!と男の顔に血混じりの唾を吐きかけてやればテメェ調子こいてんじゃねェぞ!!!と今度は拳で殴り飛ばされた。

ルイちゃんの悲鳴が聞こえる。
部屋に居た女の人達もガタガタと怯えているのがわかった。

「どうやら身体に言い聞かせねぇとわからねぇみてぇだなぁ?」
そう言って私の顎を掴み上を向かせる男をキッと睨みつけた。

「オメェも商品として売る予定だったが、どうせ奴隷になりゃしこたまヤられまくるんだ。
俺が少しくれェ味見したってイイよなぁ??
よく見りゃガキかと思ったが…出るとこ出てんじゃねぇか、嬢ちゃんよぉ」

俺に逆らったらどうなるか、お前は見せしめにしてやる。と男は私の服を裂いた。


どの世界にもクズな野郎が居るのは変わり無いな。と冷めた目で男を見て、グッと拳に力を入れた。



ヒーローは屈しない

私に、触らないで。