21ヒーローのヒーロ達


つくづく、悪党って奴はどいつもこいつも同じような事ばっかりで
お前たち親戚かなんかなの?ってくらいワンパターンだ。

目の前のコイツもそう、暴力で制圧し、女を組み敷いちゃえば好きにできると思っていやがる。

「へへっ、さっきの威勢はどうしたぁ?随分と大人しくなっちまったじゃねぇか。」
恐怖で怖気ついちまったか?と厭らしく笑う男、

本当に、つくづくバカヤロウだなコイツ…と哀れみすら感じてきた。
「…ねぇ、お楽しみ中悪いんだけど。おまえ、口臭ェよ。」
あまり顔近づけないでくれる?

「〜〜〜ッてめぇ!!!クソガキ〜〜〜!!!!!」
拳を握り私に殴りかかろうとする、ニヤっと笑うのは私だ。

「止まれ。」
ピタッと男の身体が止まる。
「私から離れてくれる?」と言えば男はムクりと立ち上がり、ドアの前まで歩いて行きピシッと立ちすくんだ。


「ねぇ?自分の身体の自由が奪われるって、どんな感じ?」ニヤニヤと男に問いかけれるが、
男の顔は無表情だ。

心操くんの“洗脳”の個性、相手に問いかけそれに反応してしまうと洗脳スイッチが入り相手は自分のいいなりになる。


「お、おねーちゃん…すごい…」
ルイちゃんや部屋の中に居た人達が驚いたように私を見る。

「この人達の手錠のカギを渡して」そう命令すればスタスタと何処かへ歩いて行き、直ぐに男は戻って来た。
どうやら道中殴り飛ばし気絶させたチンピラがカギを持っていたようで部屋の直ぐ近くで伸びていた男のポケットを漁り、私にじゃらじゃらと数本のカギがぶら下がる輪っかを手渡して来た。

「お姉さん達、今錠を外しますからね…!」
輪っかから数本カギを外し、ルイちゃんも手伝ってくれる?とお願いすれば、うん!と元気な返事を頂いた。
ルイちゃんに手錠を外してもらい、自由になったお姉さんが別のお姉さんの錠を外す
そうして貰う間に私はあのクソ野郎に腹部を撃たれ倒れているお姉さんに駆け寄った。

「出血がひどい…」
うぅ…と唸る声が聞こえた。

治癒の個性でお姉さんの傷を治してやりたいのは山々だが…
しかし、今は洗脳の個性であの男の自由を奪っている。
他の個性を発動させてしまえば男にかけた洗脳が解けてしまう
ッチと舌打ちをし、先ほど男に裂かれた服で患部を圧迫止血した。

傷口を抑えたことによりお姉さんは苦しそうに唸った。
「お姉さん、ごめんね、ちょっとの辛抱だからね…ッ」

早くココを脱出して、ちゃんとしたお医者さんに診て貰わなければ…!


「あの…アナタ、本当に…ありがとう、もう私達…ッ助からないかとばかり…」
「……いえ、偶々この部屋を訪れたので…見つけられて良かったですっ」

さぁ、逃げよう!と周りを見渡し、
あ。これお借りします。と部屋にあったシーツを適当な幅に裂き、お姉さんの傷口を抑えるようにぐるぐると巻いた。

「皆さんッ!歩けますか?ここから脱出しましょう!!」
そう言った私に部屋の中の人達は
パァアッと先程とは打って変わり希望に満ちた表情で、はい!と返事をしてくれた。

さて、あとは…

「ねぇ、私達を甲板に案内して。」







前を歩く男に付いて甲板を目指す。
撃たれてしまったお姉さんを背負って歩いていたが、途中「私が変わるわ。」と別のお姉さんが背負うのを変わってくれた。
でも、と渋る私にお姉さんは「私の方が背が高いし…それにアナタがそれじゃ自由に動けないじゃない?」
アナタの強さは目の当たりにした、情けないけど今はアナタが私達の頼りだから…と申し訳なさそうに言うお姉さん。

「助かります、気になさらないでください!絶対に私がお姉さん達を無事に連れ出しますから!」
「ふふ、貴女は私達のヒーローね」とお姉さんが奇麗に笑った。

私は、この笑顔を守るために戦うヒーローだ。





しかし、はた?と疑問に思うことがあった
こんなに船内を堂々と歩いているが、敵と会わないのだ。

あっれぇ〜〜?と疑問に思いつつも、前を歩く男に
この船には他にも捉えた人は居るか。と問いかければコクリと頷き思わず脳天ぶん殴ってやろうかと思った。

あっぶね!洗脳解かすとこだったわ、落ち着け、自分。
そう自分を制して男にその部屋へ案内しろと命じた。

「お姉さん達、ごめんなさい少し遠回りしますね」
「いえ、かまわないわ!その人達も開放してあげないと!」
そうね!早く向かいましょう!と皆さんが口をそろえて言った。

案内された部屋に入れば、そこには年端もいかない子供が5人檻に閉じ込められていた。
突然部屋を訪れた人に、子供たちはビクビクと泣きながら怯えている。
こんな小さな子まで…。男たちの所業に眉を顰め
この檻のカギを渡しなさい。と命令すれば男はスッとポケットからカギを出して来た。

「君たち!もう大丈夫だからね!直ぐに出してあげるから!」
怯える子供たちに笑顔をむけ、檻のカギを開け子供たちをひとりひとり抱き上げる
「よく頑張ったね、えらい!もう大丈夫だからね!おうちに帰ろう!」
そう言えば子供たちの不安げな表情が少し和らいだ

「おねーちゃんはすごいんだよ!ヒーローなんだから!」
ルイちゃんがニッコリと子供たちに向けて言った

お姉さん達が手分けして子供たちを抱き上げ、また男に付いて甲板へ向かう
囚われていた子があのおじさん、こわいひとでしょ?と疑問をむけてきたが
「私が懲らしめた!」と言えば、すげー!!!と興奮気味に言う。
うん、元気があってよろしい。思いのほか、お姉さん達も子供達も元気そうで安心した。

しっかし、相変わらず船の中は静かだ。
「おねーちゃん、こわい人達ぜんぜんいないね?」

全くである、どうした?コイツ含め、あの殴り倒した奴らだけにしては随分少人数だよな…
うーんと首をかしげていると突然前方の扉が開いた。

思わず身構え飛び出して来た人影に殴りかかれば視界の端をリーゼント頭がヒュンっと横切った。
「ウォアッ!!ッテェッぶねぇなあ!!!コノヤロ…って、
なまえちゃん!!!!???」

「あ、サッチさん!」
ええー!サッチさんも掴まったんですかー!?と驚いていれば「助けに来たんだよ!!!!」と
ガバっと私を抱きしめた。
「よかった!よかった無事で!!!おらぁ、心配で心配で…ってオイ!服はどうした!!?」
あー、この野郎にひん剥かれました。
と洗脳しボケーっとしている男を指さしながら言えば
「…テメェ!嫁入り前の娘に何てことしやがる!!!ぶっ殺す!!!」と拳を振りかざすもんだから
「ああああ!サッチさんだめ!!いまコイツ洗脳して道案内させてるから!!」
「……は?」






道中、これまでの事をかいつまんでサッチさんに説明すれば
怪我をしているお姉さんを早く連れ出そう!と
どうやら知らぬ間に白ひげさん達総出でこの船に襲撃をかけいるそうで
あーはいはい通りで船内静かなわけね、皆さん甲板でケンカおっぱじめてるわけね、と納得し
とりあえず保護した人達は白ひげさんの船へ乗せようと言う事になった。

「…サッチさんそういえば、その袋、なんですか?」
ずっと気になっていたサッチさんが抱えるパンパンに膨らんだ布袋に疑問に思えば
「ん?…お・た・か・ら」俺達は海賊だからな!奪われたもんは奪い返す!
奪われてなくても、しっかり頂く!とガハガハ笑いながら皆で外を目指した。

ちゃっかりしてんなー!おい!と私は内心苦笑いである。




「よし!ここから甲板に出れる!マルコやエース達も来てんだ!あらかた掃除は終わった頃だろ!」
そしてテメェはもう用無しだ!!!とサッチさんが男を甲板に向かって思いっきり蹴り飛ばした。

ドガシャーン!と派手な音を立て甲板に転がる男、
「……はッ!!!!俺は何を…!!」
衝撃で洗脳が解ける男に、あーやっちゃったー!洗脳したままの方が面倒事なかったろー!バカサッチさんめ!

「おーーーい!!野郎共!!なまえちゃんとおっさんの娘みつけたぞ!!!」
そう甲板に向かって叫ぶサッチさんについて私達は甲板へ出て行った、サンサンと降り注ぐ太陽の光に眩しくてつい目をしかめた。

そして船の甲板を見渡せばそこは死屍累々。この船の奴らだろう、めっちゃ転がっていた。

そんな中サッチさんの声を聴いて反応したエースさんとばっちり目が合い、
「なまえ!!!!!」そう言って駆け寄ってきたエースさんに苦しいほど抱きしめられる
こいつ、私の事抱きすぎじゃない?…いや、今のは語弊があった。すまん。

「ちょ、ちょ!エースさん、っくるしっ」
「なまえ…!なまえ…!」
私の名前を何度も呼び、ぎゅうぎゅうと締め付けてくるエースさん。
うぅ…くるしい…!と腕の中でもがけば、バッと今度は身を離し
「オメェ…!その恰好ッ、何された…ッ!」
「それより!…あ!マルコさん!!!!!このお姉さんを早く診てください!!」

そう言って甲板を見渡し、その特徴的な頭を見つけマルコさんを呼べば駆け寄って来たマルコさんに怪我をしたお姉さんを見せた。

「こりゃぁヒデェ、先にこの女連れて俺は船に戻るよい!」
マルコさんは怪我をしたお姉さんを抱えたマルコさん、

お姉さんの顔は真っ白で、不安げにマルコさんを見れば
「まだ息はあるよい、絶対に助ける。安心しろい」と鯨の船へと駆け出して行った。

とりあえずは一安心、そう思っていれば視界の端をコソコソとする物体に気が付き
あの男がそろりそろりと逃げようとするのが見えた。

「あーー!!!あのヤロウ!!!!まて!!」
「ぎゃー!!!くそアマ!!テメェ白ひげのモンなら早く言え!!!やべぇ奴にケンカ売っちまった!!!クソ!!」
意地でも逃げる!!と豪語する先ほどとはまるで腰抜けな男がせめても!と離れた場所に居たルイちゃんを引っ掴んで船から飛び降りた!
「あ…ッ!!ルイちゃん!!!!」
「おねーちゃああん!!!!!!」
慌てて駆け寄り手を伸ばしたが、ルイちゃんが私に向かって伸ばした手を寸での所で掴み損ね、
男が飛び降りた先を見れば何人かの男が小舟に乗り逃走を図ろうとしていた。

逃がすか!と両腕を樹木に変え小舟ごと巻取り、男たちの悲鳴が響く中船の甲板へと引き戻した。

「…ねぇ、ルイちゃん。かえしてくれない?」
男達に近づき、静かにそう言えば
ヒッ…!化け物…ッ!と怯え涙する男達は中々無様だ。

化け物とは心外だな!と男に掴みかかろうとすれば、後ろから肩を引かれ何かと思えばエースさんが
「お前、そのガキ連れてちょっと下がってろ。」と私を退かして前に出た。

「ヒッ、火拳のエース…!す、すまねえ!その女がお前たちの仲間って知らなかったんだ!
悪かった!この通りだ!この船に居た奴隷達はお前らにやるから!許してくれ!そ、それに!
そのガキは一国の王女だ…!売れば高くうれッ…「うるせぇ!!!!!」

バキィイとエースさんが男を殴り飛ばし、白ひげのナワバリを荒らした時点でお前らはもう許されない。
そう、男達に言ったが…まぁもう気絶して聞いちゃいなかった。

てゆうか
「え?ルイちゃん、お姫様だったの?」
「あーまぁ、そこらへんは島に戻ってゆっくり話してやるから」
「え、あ、はい。」
サッチさんが色々とフクザツなのよとどうやら島に戻ってからここに至る経緯を話してくれるようだ。

「サッチ、お前ちょっと服脱げ。」
「は?え、ちょ…っエース!きゃー!えっち!」

バッカ!おめぇ!なまえに着せるんだよ!!とエースさんがサッチさんの上着をひん剥き、
私にそっと服を着せてくれた。
「なまえ、お前アイツ等に何もされなかったんだな?」
普段からは想像できないくらいの真面目な顔で私に問いかけるエースさん。
何か、とはまぁ、その…“何か”なんだろう。

「…はい、大丈夫です。服を裂かれただけで、その…“乱暴は”されてません。」
数発殴られたけど、と続けて言えばアイツやっば殺す!!と怒髪天の如くエースさんはお怒りになった。





家に帰ろう!

ぶぇっくし!っあー…!

…おめぇ、おっさんみてぇなクシャミだな…。

腹だしてたから冷えたぁー。