22白鯨の中心で愛を叫ぶ


捕らわれていたお姉さん達と子供達を白ひげさんの船へと移動させ、私達はオータルビー島へと帰る。
船に戻る手前、あ。とやり残した事を思い出し、皆さんは危険なので先に戻って下さい、と
疑問を浮かべるエースさん達を船から追い出し私一人奴隷商船の甲板に残る。

甲板にはマストの柱にぐるぐるに拘束された男達が縛り付けられており、その中の一人
あの男、名前はジャンクと言うらしいそいつと目が合いニッコリと笑いかければ「ヒッ…」と怯えた表情を浮かべる。

「オジサン、私ね。やられたら完封無きまでにやり返さないと気が済まない質なの」
ガッとジャンクの顎を、自分がされたように掴み上げ目を合わせる。

「ねぇ、私のカラダ。ご馳走できなくてゴメンネ」安くないの、私。と
思いっきり顔面をぶん殴ってやった。

「さて、じゃぁオジサン達無事に生き延びても、もう悪い事しちゃダメだよ?」
ごめんだけど、お船壊しちゃうね(はぁと)と甲板の床に両手を付き
死柄木の個性を発動させ船を破壊させていく。

メキメキとまるで砂の様に崩れていく船から男達の悲痛な叫び声を聞きながら私は白ひげさんの船へと戻っていった。

「グラララ!見かけによらず中々の悪女なこった!」
「な!白ひげさん!私はヒーローですよ!“悪”とは無縁です!
いつでも私は真っ白な正義しかありませんよー!」と言えば

「「いや!鬼畜の所業だぞ!!!!」」と総ツッコミ頂いた。解せぬ。

あーーつかれたー。と言いながら首をコキコキならす私にルイちゃんが駆け寄って来て
ぎゅうっと足に抱き着いてきた。
どうしたの?としゃがんで目線を合わせれば「おねーちゃん、助けてくれてありがとう…!」と
えぐえぐと泣きながら、ありがとうありがとうとルイちゃんは礼を述べてくる。
それを見た保護した子供達もわーっと駆け寄って来て私にぎゅうぎゅうとしがみつき
「ねえちゃん!かっこよかった!」
「おれもおおきくなったらヒーローになるぞ!」
おれも!わたしも!とキャッキャする子供達に顔を綻ばせる。なんだこれ、かわいすぎない?

「私達からも、改めてお礼させて頂戴…本当に貴女には感謝しか言葉が出ないわ」
「奴隷としての人生は、死ぬよりも苦しいから…本当にありがとう」

ありがとう、ありがとうと感謝の言葉に包まれる
でへでへと照れながら、「みんな無事でなにより!!」と両手を挙げ高々と声を上げる私にルイちゃんが
きゃーー!!と悲鳴を上げた。

「お、おねえぇちゃん!!!ち!!!ちぃ!!!!!」
「ぎゃぁぁあヒーローがしぬー!!!!」
「あら、あなた…!鼻血が!それに耳からも…!」
「大変ッ!誰か!お医者様はいないの?!」

あれ、そういや血の味するかも。と気づいた瞬間
ドパァっと口から血が漏れた。

「「「ぎゃああああああああ!!!!」」」







「いやーーー!個性使いすぎましたわぁー!あっはっは!」
そう言って笑う私にブスリと針を刺すのはマルコさんだ。
「おめぇ…笑い事じゃねぇよい…ったく、今回は倒れなかったから良いものの…」
「ひぃー、面目ねぇっす。
それより…結構島から離れちゃってたんですね…」

ああ、と点滴のクレンメを調整しながらマルコさんは
「思いのほか船の足が速くってねい、エースが単身先に向かってたんだが
本船に付く前に、アイツ等の見張り船2隻に足止めくらっちまってよい…」

まぁ、一瞬でエースが沈めちまったが。

「お、おお、それは、ご苦労様でした。」
「…全くだよい!!おめぇ船から降りた途端行方不明になりやがって!
どんだけ探し回ったと思ってやがる!このじゃじゃ馬娘!!」

ひいぃい!申し訳ねぇっすー!!ご勘弁くだせぇ旦那ぁ!と茶番を繰り広げていると
私の腹の中の怪獣が咆哮をあげた。

「……とりあえず、食堂へ行くかい…」
「……はい…」







カラカラと点滴を連れ食堂へ入れば、子供達が頬をパンパンにしながらも私に気が付き
「「「ほへいひゃん!!!」」」と駆け寄って来た。
ルイちゃんも「おねーちゃん!どこもわるくない?しなない?」と不安げに問いかけてきて
もう大丈夫だよ、と笑顔を見せれば子供達は安心したのか
「まったく!おどろかすんじゃねーよ!」と男の子が言い、食事を再開させた。
子供達の可愛みがやばい。可愛みが過ぎてあたしゃ心臓が痛いよ…。と
少し憎らしくも可愛さあふれる子供達に、捕らわれていた時の恐怖に満ちた表情からは想像できないくらい
キャッキャと笑いあっている様子にとても安心した。


「んんーー!!サッチさぁあーーーん!ごはん!!!!!!」
つかれたぁーー!おなかすいたぁーー!!!と声を張り上げれば、おーーう!とキッチンの方から返事が聞こえる。

よっこいせ。と椅子に座ればエースさんが両手に皿をいっぱいのせて私の前に座った。

「なまえ、もう大丈夫なのか?とりあえず先にコレ食え」
「あ、色々とご迷惑おかけしたようで…いただきます。」

全くだぜ、と頬杖を付き私を見るエースさん。
見つめられて居る事に気まずさを感じ、ふと目を逸らせば食堂から去って行くティーチさんに気が付き
去り際に私とティーチさんの視線が交わった。
あの時と同じゾクリ、と寒気を感じ一瞬、少し身を震わせた。

「ん?おい、寒ぃか?」掛けるもん持ってくるか?と甲斐甲斐しいエースさんに大丈夫です、それよりご飯が覚めちゃう!とスプーンでホカホカのピラフを口に頬張った。

「んんー!美味しさが五臓六腑にしみわたるぅー!」
「おーおーなまえちゃん、今日も良い食いっぷりでコック冥利につきるぜ」
そう言って私の前にお皿を並べてくれるサッチさん。
美味しくいただいてますー!とお礼を述べれば、たんとお食べ、とニッコリ笑いながら私の隣に座った。

「しかしなぁ、そのガス欠どうにかしねぇとな。
しょっちゅう血吐いて倒れられちゃ、気が気じゃねぇよ…」
「うーーん、摂取するカロリーがエネルギー源になりますからね…
使う個性によっても消費されるエネルギーが各々違いますから、今回みたいに多用しちゃうとどうしても…
それを見かねて、元の世界に居る時はヒーロー活動を支援する開発部の方に“タブレット状”の“超高カロリー濃縮食”
なる物を支給して頂いてました。」

これくらいの、と人差し指と親指で1円玉くらいの大きさの輪っかを作りサッチさんにみせた。
「ほぉー…簡単に短時間で摂取できるわけねぇ…」
と何やら考え込むサッチさん。
「でもよ、そんなちっせえのじゃ腹は膨れねぇなぁ!」
腹が膨れるとか、そういうんじゃなくて…と苦笑いしていれば
とてとて、と保護した内の一人の男の子が駆け寄って来てた。

んしょ。とサッチさんとは反対側の私の隣の椅子に座って「おまえなまえっていうんだろ?」と聞いてきたので
「そうだよ、君の名前は?」と聞けば
「おれはカイル!なまえ!おれ、おっきくなったらすっげー!つよい、なまえよりもつよいおとこになって
そしたらよ!なまえをわるいやつらからまもってやるからな!」

ええー…かわいくない…?このこ、かわいくない…?
「そんでよ!なまえのこと、よめにもらってやるからな!!」

ズキューーーーン!!!
「は…はひぃ…!よ、よろこんでお受けいたします…!」
カイル君の手を取り、やくそくだぞ!こんやくだ!と小さくも逞しい未来のヒーローにでれでれしていると
ガッとエースさんが勢いよく立ち上がり、何だお前急に!とぎょっとすればコイツとんでもない事を言いやがった。

「おい!ガキ!なまえは俺の嫁になるんだ!!誰にもやらん!!」

「はぁあああ!?」
開いた口が塞がらない。

「なんだと!おまえ!おれとしょうぶしろ!おれがかったらなまえはおれんだ!」
おとことおとこのしょうぶだ!と息巻くカイル君に
「受けて立つ!表出ろ!」とバカなことを言うエースさん

食堂がドッと笑いに包まれた。
「ダハハハ!エース!随分とちっせぇライバルが現れたなぁ!」
「おいガキンチョ!おめぇがでっかくなるころにゃ、この小娘はババアだぜ?ガハハハ!」
そう言ってビスタさんと私の背中をシバキ始めるラクヨウさんが茶化しに入って来た。
お前いつもそれな!!そして失礼だな!!

「うん、もんだいねぇ。
とーちゃんが“としうえのにょうぼうは かねのわらじを、はいてでもさがせ”っていってたからな!
だからなまえがいいんだ!つええし!かっけー!それにかわいい!」

「かっ…!かわいい…!とな…!」きゅううんと、ときめいていると
お?浮気かぁ?不倫かぁ?とまた食堂内が賑やかになる。

「ボウズ、随分と粋な事言うじゃねぇか、エースもおちおちしてっと嬢ちゃん攫われちまうぜ?」
クククと笑うイゾウさんに「だめだ、なまえは誰にもやらん!俺のだ!」と宣言する。

まーじーでー勘弁しろよお前…!と睨みつけてエースさんに声を上げた。
「いつ私がアンタの物になったかよ!!勝手に決めないでください!」

「ん。さっき決めた。お前は俺んだ、誰にも渡さねぇ」
大丈夫だ、ちゃんと愛してる。

「あ、あああ、あいっ…!あいして…って、ちゃんと、意味、分かって言ってるんですか、あんた…ッ」
「バカにすんなよ?お前を俺の女にするって事だ、それくらい俺にもわかる!」

あ、あぁああっっ!なにこの人!なにこの人!!!!!

「おーおー顔が茹でタコみてぇに真っ赤になってるよい。」
こりゃ脈ありだぜ、エース。マルコさんが愉快そうに笑っている
サッチさんは「嫁に出すのは18になってからだ!まだなまえちゃんには早い!」
でも式のケーキは4番隊がオヤジみてぇにデッケェのを作る!と息巻いている。


まじで勘弁しろよお前ら。


公開プロポーズ!

笑う白鯨は家族の幸せを願う。