23拝啓、愛しの人へ(前偏)


エースさんがマジでやべぇ。と、うっかり語彙力を無くすほどの衝撃に打ちひしがれていれば
白ひげさんの船は、オータルビー島へ帰還した。


奴隷商船から保護されたお姉さんと子供達は、町の宿屋さん達がひとまずの間受け入れてくれるようで
心身共に落ち着いてきたら各々の故郷や家族の元に帰るため、近隣の島に出る定期船で帰路を目指すことになった。

帰るにしても、元は誘拐された身。まずは海軍が駐在している島へ行き助けを求める必要がある。

そのため、
お姉さんや子供達は、乗せられていた奴隷船が“不運な事故”で船が難破し、偶々近くを航海していた商船団に救助された。
と言う話で口裏合わせをする事になった。

まぁ、海賊が助けましたなんて、ねぇ…。







「ルイ……!!!!!!!」「おとーさぁん!!!」

ダーッとコルクさんが駆け寄れば、ルイちゃんもコルクさんに向かって駆け出した。
「よかった!無事でよかった!ごめんな!守ってやれなくて、ごめんな…!」
そう言ってルイちゃんを泣き崩れながらも力強く抱きしめるコルクさんに、
「あのね!おねーちゃんがね!助けてくれたんだよ!」
本物のヒーローなんだって!と嬉しそうに語れば、にゃう!にゃう!とミケ丸も駆け寄って来て
ルイちゃんに飛びつき、頬ずりをしていた。

そんな光景に、ふふ。と温かい気持ちになる。

一人ほっこりしていると、エースさんが私の肩をそっと抱きこう言った。
「…ガキか…。何人ほしい?俺は3人は欲しいな。」

「……は?。」

てめぇ寝言は寝て言え!!!!と思わず殴り掛かれば
パシっと拳を手で受け止められ、エースさんに「フフン」とドヤられたのがめっちゃくちゃ腹立ったので
「飛んでくるのは拳だけとは限らねェんだよ!ソバカス野郎!!」と思いっきり蹴り飛ばしてやった。

もちろん、水を纏った足で、だ。
そしてちょこーっとデクくんのシュートスタイルでフルカウらせて頂いたので、なかなかの距離を転がって行った。
ざまあ!!!!

誰かが、「…鬼嫁…。」と言ったのが聞こえ、目を吊り上げながらそちらを向けばそそくさと退散していく白ひげさんのクルー達に「嫁入りした覚えはないから!!!」と誰にあてる訳でもなく言っておいた。


そんな威嚇体制の私に、コルクさんが駆け寄って来て
「なまえさん!無事でよかった!!あんたには感謝してもしきれねぇ!」
ルイを救ってくれてありがとう!!!
そう言って頭を地面にこれでもかと言うほど擦り付けてくるコルクさんに慌てて頭を上げてください!と
その身を立ち上がらせた。







その日の夜、町は賑わいに包まれた。
海賊って、宴好きすぎない?とつくづく思う。

「なぁ、コルクさん。あんたこれを機にと言っちゃなんだが…町の方で生活したらどうだい?」
酒屋の亭主さんがそう問いかければ、しかし…と何やら渋るコルクさん。

「コルクよ…もうお前さん達を狙っていた奴らは居ないんだろう?
…フィリアの事を、気に病んでいるとしたら…あの事はお前さんが責任を感じる事じゃぁ無いんだ。」
この島の住民、誰もお前さんを恨んじゃいねぇ。

町長さんがコルクさんの肩に手を置き諭すように、そう言った。
「だが…!俺はアンタの大事な娘さんを…みすみす死なせちまった…!フィリアはこの島にとっちゃぁ
掛け替えのねェ必要な存在だった!…っ俺がッ…俺が代わりに…ッ」

死ねば良かったんだ…!とコルクさんが言いきる前に、ルイちゃんが「おとーさん!!!!!」と
その身に抱き着き「そんなこといわないでっ」と、
ぎゅうぎゅうと小さな腕に力を籠めて、まるで何処にも行かせはしないと言うかの如く、ルイちゃんはコルクさんにしがみついた。

「ルイ……」
優しくルイちゃんを抱きしめるコルクさんは、また一つ涙を流した。



「…なあ、ジジイよい。フィリアってあの医者目指してるっつてたオメェんとこの娘、かよい?」
「あぁ、マルコ…フィリアはなぁ…」

さて、どこから話せばよいか…。と町長さんは言った。





フィリアさんは町長さんの一人娘さんで、この島で医者を目指し勉学に励んでいたという。
その努力が叶い、島では何人かいるお医者さんの中でも、随一のお医者さんだったそうだ。

数年前、コルクさんとルイちゃんはこの島の浜辺に打ち上げられて居たのをフィリアさんが発見し保護したそうだ。
憔悴しきった二人を診療所で治療し、その後も大そう気にかけていたと言う。

コルクさんとルイちゃんに、何か事情があると感じた町の人達は
いつまでもこの島に居ると良い、と言い、この島は白ひげのナワバリだから滅多な事じゃ海賊に襲われる事は無い、と言って
コルクさんはそれに驚きながらもどこか安心したようにこの島に根をおろし生活をはじめた。

しかし、突然コルクさんはルイちゃんと北の森へ身を隠すようにそこで生活を始めた
だが、コルクさんは小さな幼子を一人で育てられる程知識も無かったし、器用でもなかった、
しがない、ゴロツキ上がりの下っ端警備兵。

そんな二人を心配し、何かとお節介焼きな性格だったフィリアさんは毎日の様に森へ足を運び二人の生活をサポートしていった。
そしてそんなフィリアさんに、コルクさんが思いを寄せるのも時間の問題で
それはまた、フィリアさんも不器用ながらルイちゃんに接し、日々奮闘しているコルクさんに惹かれていき
いつしかコルクさん達の住む家に、フィリアさんも共に生活をはじめ二人は結ばれた。

ルイちゃんは、一国の王女様という。
ほんの小さな島の、小さな国だったが。その国の歴史は長く独自の技術を発展させながらひっそりと国民達は生活していた。
しかし、その国の代々守られてきた財宝の存在を知ったジャンクの一味と手を組んだ海賊達によって
小さな国は一晩で滅ぼされてしまったという。

その時に、国の警備兵として生活していたコルクさんは国王様が侍女に託したルイちゃんを、どうか、どうか
王女様をお願いします。と大怪我を負ったその人から託され、侍女さんは間もなく息を引きとった。


コルクさんは、ルイちゃんの父親では無い。
家で見た、花の様に笑う女性の写真の中の人はフィリアさんで、ルイちゃんの母親では無かったが
三人はまるで本当の親子の様に生活し、絆を深め。
いつしかルイちゃんも二人の事を、“おとーさん” “おかーさん”と呼ぶようになった。

フィリアさんが亡くなったのは3年前、ルイちゃんが5歳の時
3人で生活するようになってから2年後の事だった。その日は近年稀に見る大雨が連日続き
バケツをひっくり返すような雨の中、フィリアさんは町へと行き
危険だから自分もついて行くというコルクさんに、ルイちゃんを1人家に置いて行くわけにはいかないし
一緒に来るにしてもこの雨の中では危険だから問題ない、と一人町へと向かったフィリアさんは
翌日、大雨が嘘の様に晴れた空の下
大雨により緩んだ地盤の土砂崩れに巻き込まれご遺体となって見つかった。


「あの日、あの時…俺がもっと、強く引き留めていりゃ。フィリアは死ぬことは無かったッ」
何も、深く事情を聴かず、静かに、優しくこんな俺達を受け入れてくれて
世話になった島民に合わせる顔が無い。とコルクさんは今もその事を自分の責任だと責め続けている。




「そんな事が、あったのかい…」
「あぁ…フィリアの事は不慮の事故だった、誰かが責任を負う事じゃねぇと。再三、コルクには言っているんだが…」
この男は自分を責め続けているんだ、と町長さんが静かに言った。

コルクさんも、今更どの面下げて町の世話になれっていうんだ、と頑なに言うが。

家は燃えちまったし、どちらにせよ住む所が無いんじゃルイちゃんもかわいそうだろ。とどうにか説得を続ける町長さんに、コルクさんはずっと渋りを見せていた。



な…っ、なんなんだ…!このもどかしさ!!
責任を感じ、自分を責め続けるコルクさんに私は言い知れぬもどかしさを感じた。

もうむずむずだ!むずむず!だめだ!こういうの!ほんっとに、放っておけない質なんだよー!!!
もはやヒーロー病である。
お節介はヒーローにとっての一種の病気だ。

居てもたってもいられず、私はガタン!と椅子から立ち上がり
静まり帰っていた酒場にいる皆さんの注目を集めながら、コルクさんに言った。


「もう!コルクさん!!フィリアさんが今の状況を知ったらきっと胸を痛めていますよ!
あーもう!これは直接フィリアさんに聞いた方が早いですね!」

フィリアさん呼んできます!


そう言ってルイちゃんに「ミケ丸かりるね!」とキョトンとするミケ丸を抱き上げ、

「ちょっと、フィリアさん。探してきます。」
じゃっ!

と皆さんに軽く挨拶をし、私は酒屋を後にした。







(((えええーーー!!!!????)))