24拝啓、愛しの人へ(後編)


なまえ、の…頭が、いかれちまった…!!と騒ぐエース

そして俺も、マジかよ…やっぱあの子色々ぶっ飛びすぎだろ…と呆然としていた。






“フィリアさんを探してくる!”と飛び出して行っちまったなまえちゃん。

え!?話聞いてたよね!?と店にいる奴ら全員がポカンとしている。

「おい…あの娘、一人で行っちまったが…ココに戻って来れるのかよい…」

「「!!!」」
ハッ!!そうだった!とエースと顔を見合わせ青ざめた
「なまえの奴!また迷子になるぞ!俺行ってくる!」
そう言ってエースも酒屋を飛び出して行こうとすれば、「ただいま!!」と元気良くなまえちゃんが戻ってきた。

ひ、ひとりで、戻って、来た…だと…!!

「いやー!良かった!フィリアさん近くにいましたわ!ルイちゃんを心配して店の前ウロウロしてました!」
ひゃー、運が良かった。と意味のわからない事を言うなまえちゃん。

俺ァ、もう君がわからないよ…。

「おい、とりあえず…順を追って、説明しろい」
全く意味がわからん、とマルコがなまえちゃんにこの状況は何なんだと説明を求める。

「ふふふん、昔ちょーっとお世話になったヒーローさんの個性が“霊媒”だったのを思い出しましてね、ウジウジと悩むコルクさんにフィリアさんから直々に喝を入れてもらおうかと思った次第です!」

「えーと、つまり?」
どゆこと?と俺がなまえちゃんに聞けば、

「つまり、フィリアさんの霊を呼びました」

「「「お前何でもアリか!!??」」」
「おお、今日も見事なハモリツッコミ」
パチパチとクルー達のツッコミに関心するなまえちゃん、え?呼んだって…

「なまえ…さん、ちょっと、言っている意味が分からねぇんだが…」
コルクのオッサンが困った様になまえちゃんに問いかける
大丈夫だ、俺も意味わからん!

「コルクさん、フィリアさんは自分の所為で悩み苦しんでいるコルクさんをとても心配していますよ…ほら、」
そう言って、なまえちゃんは自分の背に隠れる様にしていたあの猫兎を前に出した。

「なまえちゃん?ほら、って…それ…猫…」
『みにゃ…ん“っ、ん”ーっ…皆さん…こんな姿で恐縮ですが、ワタシ、フィリアです…』


「「「えええええー!!!?」」」」
「「ミケ丸がしゃべったぁああああ」」

ご無沙汰してみゃす。ペコリ

お、おれは、今、信じられないものを見ている…!
猫が、二足歩行で、お辞儀を、している…!

「ミケ丸…?え…?ほんとうに、おかーさんなの…?」
『ああっ、っルイちゃん!ルイちゃん!怪我は?大丈夫にゃのね!?ワタシ、ルイちゃんが攫われて、もう心臓が止まる思いがしたにょよ!!』

あ!もう心臓止まってるんだったわ、ワタシってば。

猫がルイちゃんに心配そうに駆け寄ればコルクのおっさんは
本当に、フィリアなのか…?と信じられない様に猫を見つめる。

『あにゃた…無理もないわ、ワタシも驚いたもにょ…でもね、ワタシよ、お父さんも皆んなも、元気そうで良かったわ。』

正真正銘、フィリアです。と猫は言う。
「なまえ、本当に、これユーレイなのか?」
「はい、エースさん。フィリアさんの霊をミケ丸に降霊させました。正真正銘、フィリアさんです。」

「しかし、何でったって、猫に…?」
疑問に思ったことをなまえちゃんに聞けば
「動物は、“見え”ますから…降ろしやすいんです。」

「なまえさん…あんた一体、」
何者なんだ、という言葉はルイちゃんの声で遮られた。

「…本当に、おかーさん、なんだ…。」
『そうよ、ルイちゃん…あにゃ、ん“っ、アナタ…随分と心配をかけてしまったわ』
「フィリア…俺ァ…ッ。…ずまながっっだ…っ、あの日っ…お前を無理にでも引き止めでいれば…ッ」
こんなっ、こんな…っ

『アナタ、もう自分を責めないで頂戴…苦しんでいるアナタを今までずっと見てきたの…
お父さんや、町の人たちが言う通り、アナタが気に病むことにゃんてこれっぽっちも無いの…。ね?もう、私の事で自分を責めないで、そして、ルイちゃんのためにも
町の皆んなを、お父さんを、頼ってくれるとワタシも安心できるのだけど…』

「おかーさん、ずっとルイたちの おそばにいたの?」
『そうよ、ルイちゃん。ずっとあなた達を側で見ていたわ…そうね
パパに内緒で、町に遊びに行っていた事も。ワタシ知っているのよ?』
森は危ないからいつもヒヤヒヤさせられたわぁ…

そう言って猫は頭を抱えていた。まじかよ。

「フィリア…俺ァ…良いんだろうか…」
『良いのよ。もう、自分を許して。』
ぽん、とその小さな手をコルクのオッサンの手に乗せた。

「コルクや…フィリアも、こう言っているんじゃ、もう良いじゃろ…」

コルクさん。コルクさん。

町の奴らも皆誰一人として、オッサンを責める奴なんていない。

「おとーさん、おかーさんにしんぱいかけちゃうと ゆっくり おやすみできないから」
「…ッああっ、嗚呼っ…!」

そう言って、オッサンは猫になった妻と、娘を力強く抱きしめ何度も頷いていた。

クッ…!俺ァ、こう言う話はダメなんだよ…ッ!よがっだなぁ!オッザン!!!
周りを見渡せば野郎共もえぐえぐと涙を流していた

オッサン!娘さん大事にしてやれよ!
幸せになりやがれチクショウ!
ゴルグざあぁあああああん!!ウェッ、えぇーん!


「ってオイ!!!何で誰よりもなまえちゃんが泣いてんだよ!!!」
「ザッヂざぁあん!だっでぇー!」

おーよしよし、と頭を撫でてやればエースが
「なまえおめぇ、ったく、ほら、女が鼻垂らしてンじゃねぇよ。
ちーんだ、できるか?ほら、ちーん」

「う“ん”。」ズビビビィッ

ほら、もう一回。となまえちゃんの鼻をかませていた。

なんだこいつら…。かわいいな、おい。

「う“ぇっ、フィ、フィリアざん…もう、そろそろ…。」
『ええ、その様ね…』

ふわり、と猫の体が光を帯びている様に見えた。
それはまるで蛍が飛んでいる様にふわふわと体から空に向かって飛んでいる。

「フィリア…!」「おかーさん!?」

『二人とも、元気で、ルイちゃん。あまりパパを困らせてはだめよ?…できれば一緒に素敵な女の子に成長していくのを、見守ってあげたかった。ダメなママでごめんなさいね。アナタ、ずっと、ずっと二人を見守りますからね、もう安心して。ね?』



『愛しているわ』




ありがとう。と優しい光に包まれて花の様に綺麗な顔で微笑む女性が見えた気がした。

ふわっと、天に無数の光が昇っていった。


にゃんと一声猫が鳴く。












奇跡的な夜を過ごし、迎えた翌朝。

今日俺たちはこの島を出る事になっている。
せかせかとクルー達が船に補給物資を積み込んでいるのを見ながら煙草を一本ふかしていたらなまえちゃんがテコテコと近づいてきた。

「サッチさん、煙草吸うんですね。」
「ん?まぁねー、たまにね」
「私も、一本貰っていいですか?」

「おー、ほらよ………ッてダメだろ!!っぶねぇ!あまりにもナチュラルすぎて渡す所だったわ!」

「ちぇーーー!お忘れかと思いますがね!私!25歳ですからね!!!!!」
「ダメだ!タバコは身体に悪りぃ!元気なガキ産むんだろ!」

ひょいっとエースがなまえちゃんに思わず差し出した煙草を取り上げボッと燃やした

「ああああ!!おま!エース!俺の!!」
「あ、わり」

あ〜〜あ〜。と項垂れているとなまえちゃんが目をめちゃくちゃ吊り上げながら
「オマエ!!!どんだけ私に子供産ませたいんだよ!!」とめっちゃキレてた。
「え?めっちゃ。」

愛してる、なまえ。と自然な流れでなまえちゃんをエースが抱きしめれば。
たまに爆破させる掌じゃなくて、顔をこれでもかってくらい真っ赤にさせたなまえちゃんの頭からボンっと爆発した様な効果音と共に湯気が出ている様に見えた。

「おーおーお熱いですねぇ〜〜オジサン熱くて倒れそうだわ」



「オヤジィ!孫の顔見る日も近ェかもなぁー!!」

誰かがそう言えばオヤジはいつもの様に笑い、「楽しみにしてらァ!」と今日も大気を揺らす勢いでグラララと笑った。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!きさまらぁ〜〜〜!!!」
「フッ、25歳のオバサンが何いっちょまえに照れちゃってんの?ださー」

「テメクソコラ王子クソがぁ〜〜!!!」
わぁ〜こわ〜い!と逃げるハルタをエースの腕から抜け出したなまえちゃんが目くじらを立て追いかけていった。

その様子が面白すぎてクルーの奴らやオヤジ、そして見送りに来ていた島の奴らや
コルクのオッサン達もゲラゲラと笑って港は大変賑やかだ。

「ああ、そうだった、白ひげの方。コレを…なまえさんに渡してはくれないか?」
そう言ってコルクのオッサンが俺に一本のカギを渡した。

それはジャンクの野郎が狙っていたというカギだ。
「おい、これ大事な奴なんじゃ…」

「いいんだ、ジャンクの奴らに怯える事も無くなった。海を行くアンタ達なら
きっとこのカギが役に立つ時が来るかもしれねぇ、あの国は滅んじまったが…
あの国の遺したモンは、この広い海のどこかにまだあるかも知れねぇ。
この紋章を見てくれ、コレと同じ紋章を見かけたらこのカギの存在を思い出してくれ。」

きっと役に立つから、とオッサンは言った。
「おねーちゃんにわたそうとしたのに はしっていっちゃうから」
「ははは、なまえさんには本当に世話になった!最後にもう一度礼をしたかったんだが…」
そう言ってなまえちゃんの走って行った方を見れば、ハルタが一人戻ってきた。


「……おい、ハルタ…おめぇ、娘はどうしたよい…」
「ハァッハァ、あれ?戻ってない?」

「お、おい…これ、やべぇんじゃ…」

なまえーーーー!!!!!戻ってこーーーーい!!!!!!


エースが慌ててなまえちゃんが走っていった方向へ追いかけて行けば
マルコも「もうすぐ出航ってのに!あの小娘!!」と空から探す!そう言って不死鳥になり飛んで行った。

クルーの奴らも大変だ!と、結局、島の奴らも巻き込み総出でなまえちゃん捕獲作戦が開始された。





貴方は今、幸せですか?


程なくして、なまえちゃんはマルコに首根っこ掴まれ空から降りてきた

「エース、オメェの嫁!首輪つけておけよい!!」
「いや、嫁じゃねぇし…首輪は、その…面目ねぇっす…。」