26愛を唄って


あの世とこの世を繋ぐ、なまえの能力に俺は何を思うのか。
もし…アイツとコルクのおっさん達の様に、会話ができるとしたら…

俺はアイツに、
何故この世に“俺”という存在を残したのか、と激情にかられるのだろうか…。







無性に、独りが怖くなった。
なまえを抱きしめ、その首筋に顔を埋めれば、髪がかかり少しくすぐったい。

この世に産まれて来て良かったのだろうか。
未だに、ふとした時に過ぎるこの疑問。
高みを目指し誓った兄弟もいる、掛け替えのない仲間に…息子と呼びその偉大さに慕う家族もいる。

しかし、満たされない何か。
その何かを俺はなまえに求めてしまう。
愛されたい、愛したい、愛が欲しい、愛をぶつけたい
どうしようもない俺の問いになまえが困惑しているのが伝わってくる。

うん、今のは忘れてくれ。困らせて悪かった、と身を少し浮かせるとなまえが思いがけない事を言った。

「…世界は、私達に優しくなんてない。」

「え…?」
はぁ…となまえはため息をつき、俺の背に手を這わせながら身を起こした。

「幼少期の頃、散々ぶちのめされた事実です。私、両親が居ないんです。
物心つく前に死んだので、5歳まで孤児院のような施設で育ちました。
4歳の頃、この個性が発現し。力が力ですからね…それはもう大騒ぎですよ。
“個性特異点”と言って、終末論みたいなのを称える人達が居るんですが、まさに私の存在がそうではないか。と、まだ能力も微力で不安定なうちに国家下での生涯軟禁か…
もしくは、身内も居ない私を“消して”しまおうか、と称えた人も居たそうですよ。」


悲しそうに笑うなまえから、目が離せなかった。


世界が己を否定して、産まれて来たことすらも疎まれ、憎まれたら。お前はどうする…?


「エースさんが、何を思って私にそう問いかけたのかは、深くは聞きませんが…
そうですねぇ…。少なくとも、私はその“世界”に殺されそうになってたようなので。
んんー…
“その力に恐れ、排除しようとした小娘に悪から守られているのは、どんな気持ち?“
って、鼻くそほじりながら聞いてやりたいですかね!」

「は……」
「いやねー!能力が能力ですし、私ガキんちょの頃世の中を恨み倒してたので、まぁ、なんていうか、糞オブ糞な悪ガキだったんですよねー!
クソガキ、問題児、悪魔の子から鬼の子とまで言われてましたよ!どんだけだよって」

「鬼の…子…」
「そう、鬼の子…お前はバケモノだ。と、たった4歳のガキんちょに何ビビってんだよー!って今になっては笑えて来ますわ」

そう言って先ほどとは打って変わり、ニカッと笑うなまえ
「結果的に、私は周りに有難くも恵まれて居たから悪に染まることなく今じゃそいつらをブタ箱にブチ込む仕事をしています!
世界からは、望まれない存在かもしれないけれど…でも少なくとも、愛があって私という存在がこの世に産まれた事に関しては事実なので…まぁ、上手く言えないんですけど…」

「お前達が否定するなら、私はこの世界に居なくてはならないくらいこの存在を世に残してやる!覚えてろ!って、思ってたんですけど。」

異世界来ちゃいましたわー!どーしよー!あっはっはっは!

「存在を…世に、か」
「そ。まぁ、エースさんが何にそんなに憂いているのか知ったこっちゃ無いんですけどー
とりあえず、お腹いっぱい美味しいもの食べて寝れば、もうそれは幸せってやつですね!」

いや、それはお前だけだろ!と思わずなまえの脳天にチョップを落とせば
なにすんだ!と鳩尾に一発いれられた…。

「っう…ッ、お、おま!ほんっっと!おまえ!」
くそこいつ、容赦なく殴りやがって!しかもそのしてやったりな顔腹たつ!
物理攻撃が効かないロギア系の能力を持ってしても、その水の能力で困った事になまえからはしょっちゅうボコられる!

「股間蹴り上げなかっただけありがたく思いたまえ」
「おまえ…ほんとそういうの、やめろ?」な?頼むわ…
男相手に迷わずその手に出てくるのが本当に恐ろしいやつだ…

「こんな仕事してるんです、暴漢に対しては一番手っ取り早い手段ですけど?」
潰す勢いで行かないと、ねぇ。逆上されても困るしー。

「おれ、時々、お前がすごくコワイ…」
「じゃぁいい加減離せよ」

そう言ってベットから立ち上がろうとしたなまえの肩を押し、もう一度ベットに沈めた。

「なぁ、一緒に寝ようぜ?なまえチャン」
ぎゅうっと腕に抱えて俺も一緒に寝転がればギシリと軋む決して寝心地は良くないベットからなまえの甘い匂いがふわりと鼻をくすぐった。

こいつ、なーんか甘い匂いすんだよなぁ。
クンクンとなまえの首元に鼻を埋めれば、「ひっ…!」と身をよじる。

あ、なんかダメだ、これ。


「俺、今物凄くお前を食いたい」
そう言ってまた、なまえにまたがり

愛してる、なまえ。と耳元で囁けばなまえの顔は、それはもう見事な赤になって居た。
なんだこいつ、かわいいな。

その口がどうしようもなく美味しそうで引き寄せられるように近く。


あと、1センチ…


ガチャリ


「あ、ワリィ。邪魔しちまったよい。」

「「あ」」

「…なんだ、お前らイチャつくのはかまやしねぇが、場所は考えろよい」
ここは俺の部屋でもあるからよい。

バタン

そう言ってマルコは悪かったな、と部屋を後にした。

「……とりあえず、おまえ、そこどけ?」
「嫌だ、って言ったら?」

ハラリと顔にかかる髪を優しく払いのけてやれば
「おい、二度は言わせるな?」
そう言ってなまえは片膝をググッと俺の足の間に押し付けて来て
「このまま押しつぶすぞ」
「……スミマセンでした。」





結果、俺は部屋の外に蹴り出された。
や、文字通り。蹴り出されたからな。壁に打ち付けた背中がいてぇ…。いや、実際は俺、炎だから痛くねぇけど、心が…。

思わず廊下で膝を抱えていればガチャリとドアがあきなまえがおずおずと顔を出した。

「……ちょっと、驚いたけど。
おまえ、なんか今日…孤独で押しつぶされそうだった昔の私に似てるから、その
寂しいなら隣のベットで寝るのは許してやろう。」

誰かが隣にいると安心できる夜があるのは、私も知ってるから…。

そう言ってぶっきらぼうに俺に手を差し伸べるなまえを驚きつつも
俺、やっぱコイツ好きだ。と改めて思った。

「〜〜〜〜!なまえ〜〜〜!」
「てゆうか、私風呂。先寝てていいよ」

抱きしめようと両手を広げれば、風呂。となまえは横をすり抜けて洗面器片手に去っていった。

うん…俺も風呂、済ませてこよう……。
ほら、もし万が一ってことも、ある…よな??




急いで部屋へと戻り、風呂を済ませてなまえの寝床兼マルコの診療室へ戻ろうと足を進めて居たが、あ。と思い出し踵を返して俺はマルコの寝室の方へ行き

「おい、マルコ今夜おまえんとこの診療室かりっから。」
じゃますんなよ!とマルコに言い残し部屋を後にした。
その際、コレやるよ、と小さな包みを投げ渡され受け取った俺はホクホクした気持ちでなまえ待つ診療室へと向かうのであった。







「なまえ〜?もう戻ったか?」
締められたベットを仕切るカーテンをそっと開け中を覗けば…






「お、おまえ…マジか…」

「ぐかぁ〜〜むにゃ、あ、あん…暗黒ドーナッツ…が、暗黒ドーナッツが…むにゃむにゃ…すぴーー…。」

「……暗黒ドーナッツ…って…何だよ…!」

カーテンを開ければそこには大の字になり腹を丸出しにして謎の寝言を発するなまえがいた。

もうヤダこの子…と途轍もなく虚しくなった俺は、せめても…となまえのベットに隣のベットをくっつけ、なまえを抱き枕にして眠りについた…。

「据え膳…食えなかった…男の恥だ…うぅっ」







明朝、ぶん殴られたのは言うまでもない。







君の香りにつつまれて

腕の中ですぴすぴ眠るなまえに腹が立ったので乳を揉んでやった。

その柔らかさに余計虚しくなった俺は、その晩なまえを抱きしめながら一人泣いた。

くそぉお……っ