27ああ、なんて無情な
あっついわ!と寝苦しさに目を覚ませば目の前は肌色。
んん?と顔を上にあげればエースさんがガーコガーコ寝ていて一瞬この状況に頭が追いつかなかった。
だって、こいつ人を抱き枕かの如く、それはもうガッツリと腕を体に巻きつかれているし
なんなら私エースさんに腕枕されてるやないかーい。
「あ、やべ。よだれ垂らしちゃったかも。」
エースさんの腕に触れている頬が、心なしかベチャッとしている気がする。すまん。
とりあえず離してくんねぇかな…と身じろぎをすれば頭上からうう〜んと眉間にシワを寄せながらエースさんが唸った、寝起きのせいかいつもより若干鼻声だ。
「エースさん、離して」
「んん〜…なまえ…もうちょっと…」
もうちょっと…と寝ぼけているのか、もにゃもにゃ言いながら腰に回って居た手がスススと私の服の中に侵入してきて、あろうことか腰から脇腹、胸の横辺りまでを…まぁー撫でくりまわされた。
しかも親指がちょっと横乳むにむにした!!!!てんめぇ!!!
「天誅!!!!!!!」バチーーンッッ!!
「ッッッ〜〜!?!?ッイッテェッッ!?!?」
何だ何だと寝起きで未だ覚醒しきって居ないエースさん、その頬っぺたにでっかい紅葉を咲かせてやり、ついでにベットから蹴り落としてやった私。
え?え?と混乱しているエースさんをよそに、鼻息荒く洗面所へと向かうのであった。
寝起きの一悶着の後、洗面所で身支度をパパッと済ませて食堂へ向かう。
不本意だがエースさんに案内されてだが…いい加減船の見取り図みしてくんねぇかなぁ〜と考えている私に、エースさんは悪かったよーと申し訳の無さが1ミリとも感じられない謝罪を繰り返している。
「なまえ〜、イタズラしたのは謝るからよ〜、なぁ〜あ〜機嫌直せよ〜」
ぐいぐいと私の服の裾を後ろから摘んでくるエースさん。
「ねぇ、服。伸びるからやめてよ」
立ち止まり、くるりと振り返ってエースさんに言えば、「許してくれたらやめる」と返事が返ってきて私のイライラメーターはもう振り切れそうだ。
チッと舌打ちを一つし、進んでいた廊下を歩きだす。服は摘まれたままだ。
廊下の突き当たり、左に進路を進めればグッと服を引っ張る力が加わり
「なまえ、そっちじゃねえ。右だ」と、エースさんが服から手を離し私の手を取り今度はエースさんが前を行き、食堂までの道を進み始めた。
「しっかしよォ、おまえのソレほんっと困ったもんだよなー!」
「エースさんのスケベにもほとほと困り果ててますけどね。」
なまえ〜悪かったって、ついな。つい。
そんな言い訳をしながらも、食堂に到着した私たち、ついってなんだよコンニャロ。
「お〜、なまえちゃんおはよー」
「サッチさぁーん、おあよーござぁまーす」
4番隊の皆さんにもご挨拶をすれば、おーう。とカウンター越しで返事が帰ってきた。
「サッチさん、いつもの2個と今日はお味噌汁もほしいな!」
あいよ!と奥の方へ向かって行ったサッチさんをカウンターのご飯を受け取る所で待つ。
エースさんが「いつもの、って。おまえすっかり馴染んでんな」ニシシとカウンターに肘をついて私を覗き込むエースさんに
確かに…馴染んでしまっている…!と今更ながらハッとしてしまい、なんとも微妙な気持ちに顔をしかめていればキッチンの奥に引っ込んでいたサッチさんがトレー片手に戻ってきて、「はいよ!サッチ様特製爆弾にぎり!と味噌汁ね!」おまけに玉子焼きも、とふわふわと湯気が漂うお味噌汁のいい香りに全てがどうでもよくなった。
いや、良くはないけど…。
「ばくだんにぎり?なんだそれ!良いな!サッチ俺もコレがいい!」
「そう言うと思って。ほらよエース」
そう言ってサッチさんは私と同じ献立の乗ったトレーをエースさんに手渡した。
本当に爆弾みてぇだ、とおにぎりをまじまじと見て赤ちゃんの頭くらいある大きさの爆弾にぎりを一つ手に取りかぶりついた。
エースさんの手でも少し余るくらいのソレ、海苔がペタペタ貼り付けられて居てご飯と海苔の香りが食欲をそそる。
少し塩が効いているのが中々良い、そして中身はその日その日で違うから楽しみの一つでもある。
「うお。コレ中色々入ってんな!うめぇ!」
「…エースさん、せめて席に着いてから食べましょうよ…行儀わるー」
空いている席をキョロキョロと見渡していれば向こうの方でイゾウさんと目が合い、
こっちこっち、と手招きをされたのでそちらへ向かう。
「おーおー、末っ子夫婦がおいでなすったか!なんだお前ら、食うもんも一緒か!仲良いな!」
「ラクヨウさん…勘弁してください、コイツはただのストーカーです、悪質な方の」
「ククク、エース中々難儀だなァ」
ツン、と頬を指差しながら笑うイゾウさんに、うるせぇ。と口を尖らせて拗ねたように言いながら席に着くエースさんに続き、私も椅子に座った。
いただきまーす、と両手を合わせおにぎりにかぶりつく。うん、今日も米が身にしみる…
やっぱり朝はご飯だわー。しみじみと思い味噌汁をズズッと啜った。はぁ、幸せ。
オータルビー島を出発してから、暫くは秋晴れのようなスッキリした天気が続いたが
どうやら先程に冬の気候に突入したのか食堂を出れば天気はどんよりと厚い雲に覆われ少し肌寒い。
はぁーっと息を吐けば白いそれにまた一つ身震いをした。
「しかし、本当に不思議な世界ですね…島ごとに季節が変わるなんて、体が追いつかないや」
「俺たちにとっちゃぁ、なまえン所も不思議だがなぁー。産まれた時から悪魔の実の能力者みたいな奴らがうじゃうじゃ居んだろ?すげぇなぁー」
「…お互い、不思議世界ですね。」
そうだなぁー、と空を見つめながら言うエースさん。
「やっぱり、帰りてェ…よな。」
「…そうですね、直ぐに、でも。」
そっか…。とエースさんは少し困ったように私を見つめてその手で私の手を取り
「やっぱり攫っちまうか、お前。」そう言って手を引かれ、冷えるから中入るぞ。と私達は船内へ入って行った。
こちらの世界へ来てから度々考える事がある。
個性暴走事故、何らかの原因により発生した爆発に巻き込まれる形でこちらの世界へ来てしまったが。
私はあちらの世界では“行方不明者”となっているのだろうか、
それとも爆発のショックで深い眠りの中、異世界に行ってしまう夢を今も見ているのか。
はたまた…。「(死んじゃった、とかも…ありえるのかな)」
思考を巡らせながら、エースさんに手を引かれ船内を歩く。
どこに行くのかな?と思い始めた頃、後ろからパタパタと誰かが近寄ってきた気配に振り返ればサッチさんが、おーい!と駆け寄ってきた。
「なまえちゃん、頼みてェ事があったんだった!」
頼みごとがあると言うサッチさんの話しを聞けば、取り敢えず昼の仕込みもあるから。と
夕方くらいに談話スペースにきて欲しいと言われた。
二つ返事で了解をし、サッチさんと別れれば今度はクルーの人がエース隊長ー!と駆け寄り、マルコさんが呼んでいた。と伝え、そんじゃ、持ち場に戻ります。と来た道を帰って行った。
丁度いい、私もマルコさんに用があったのを思い出し
エースさんに私も一緒に行くと伝え手を引かれ二人でマルコさんの所へ向かう。
そういえば、エースさんは良く手を握って来る。
まぁ、繋いでいないと私がフラッと違う道を行き、結果迷うからこの方が手っ取り早いが…この人、手の握り方が厭らしいんだよなぁ…、なんか親指とかで掌撫でて来るんだよ!
優しく、なにかを確かめるように撫でるそれがちょっと苦手だった。
いや、嫌悪感。とかじゃ無いんだけど…なんか、うん。こそばゆい気持ちになる。
そうこうしている間にマルコさんの部屋に着いた私たち。
部屋に入れば私とエースさんが2人で来たことに少し驚きつつも「昨晩は邪魔しちまったねい」とニヤニヤしながら言うもんだから
「いえ、助かりました。マルコさんこの犬そろそろ去勢した方がいいっすよ」
発情期がやべぇ、と真顔で言った私に「ひでぇ!!」とエースさんが嘆く。
オメェもヒデェ女だよい。とくつくつ笑いながら何か用でもあったかい?と私に訪ねて来るマルコさんに先程思い出した事を伝えた。
「あの、そろそろ…この船の見取り図、見せて頂けないかなぁ〜、と思いまして…。
覚えちゃえば一人で船内移動出来るんで…」
恐る恐るマルコさんに伺えば、それもそうだねい…と少し考えた後
「まぁ、いつまでも誰か着いてなきゃいけぇってのも手間だしねい、良いよい」
と、デスクの引き出しをゴソゴソと漁り、見つけ出した羊皮紙のような束を受け取った。
お礼を言って早速図面を記憶していく、ほほーんなるほどね、こうなってんのねー。
わかってはいたがこの船の広さに改めて関心していればマルコさんはエースさんに冬島の気候に入った事により何やら今後の指示を出しているようだった。
「よっし!覚えた!これで一人でも行動できます!あ、立ち入り禁止の所ってあります?」
「あー、どれ、ここと…あとこの部屋も。それとこのエリアは余りうろつかない方が良いよい」
マルコさんがペンで入ってはいけない所を指して行きそれを記憶する。
頑なに見せて貰えなかった見取り図を、今回見せてくれたのは恐らくこの船での信頼を受け取った証だろう。
しかし…警戒が解けたのはいいが、信用される事に嬉しい反面
私を仲間にしたがっているこの人達に微妙な気持ちになるのも否定できない…ぐぬぬ。
その後、本当に迷わないで移動出来るか確かめるためにマルコさんにナースさんの所へのお使いを受け取りワープでナース室へ飛び、ナースさんからサインを貰ったファイルをまたマルコさんの所へ届ければ未だに部屋にいたエースさんにめちゃくちゃ感動され
それはもう、はじめてのお使いが成功した我が子を褒めちぎるかの勢いだった。
そして褒められた事に少し良い気分になってしまった私は、あれやこれやとマルコさんのお届けものや受け取りものや言伝をワープしながら船内中を飛び回っていれば、気がついた時は「船内郵便係」と呼ばれる様になっていた。
要は便利な雑用係…。
「っはぁ〜〜サッチさん…この船の人達…人使い荒すぎでは…」
夕刻、サッチさんとの約束通り談話スペースへ向かえばサッチさんは既に煙草をふかしながらコーヒーを飲んでいて、お待たせして申し訳ない!と急いでテーブルへ駆け寄ればお疲れ様だったね、とカフェオレを差し出してくれた。
コクリと一口飲めば苦味が強めのパキッとした味がまた身に染みる、味の好みも胃袋も完全に鷲掴みである…。
「いやぁ〜なまえちゃん悪いね、なんかだいぶ頼まれ事されたんだって?
ウチの奴らは遠慮ってもんを知らねェからなー!」
「…全くですよぅ、はぁ…お腹すいた…あっ、そう言えば私に何の御用で?」
「はは、夕飯前にごめんな。実はよこの箱なんだが…」
コトリ、とテーブルに置かれたのは中々凝った装飾のされた箱だった。
一見地味なように見えるが、良く見れば所々細かな彫刻がされており上部の中央付近に見覚えのある紋章が刻まれていた。
「あれ?この紋章ってコルクさんから貰った鍵の紋章とおなじですね。」
「そうなんだよ!あの奴隷商船でかっぱらってきたお宝の中に紛れててよ、中に何か入っている様なんだが…この通り鍵穴も見当たらなけりゃ、開きそうな気配もねぇし…
壊してみようと思ったが、かなり頑丈でハンマーで叩いてみたが傷一つつきやしねぇ」
そう言ってコンコンと箱をノックするように叩くサッチさん、私も手に取りまじまじと見てみたが、木材のようで材質は木では無いっぽい。かといって金属かと思えばそうでも無く、見たことも無いような素材で作られた箱だった。
「う〜ん、同じ紋章があるって事はコルクさんが言っていた王国の物なんでしょうねー。
中身、取り出したいんですよね?箱が壊れてしまっても構わないようでしたら開けちゃいますけど?」
「お、さすが話が早いね!なまえちゃんにはそのつもりで頼みに来たんだ!あの時ジャンク達の船壊してた技ならこの箱も壊せっかなぁーって思ってな!」
手の込んだ彫刻には申し訳ないが、元より破壊をするつもりだったらしいサッチさんに
よっしゃ任せろ!と腕まくりをし死柄木の個性、五本の指で触れたものを破壊してしまう能力で箱に触れる。
「お?おおお、おお!行けそうだな!箱が崩れてきたぜ」
「中身を、壊さないよう、にっ…っと。あ!なんか見えてきましたよ!…ん?なんだこれ……果物…?」
慎重に箱を破壊して行けば、箱の中には何やら見たこともないドリアン?みたいなメロンくらいの大きさの果物なのか、野菜なのか良くわからないものが顔をだした。
「…おっおい!!コレ!“悪魔の実”じゃねぇか!!!」
「え?この気味悪いのが悪魔の実なんですか?」
うえぇ〜〜っ!マルコさんやエースさんってこんな得体の知れないもの食ったの?やばない?お腹ピーピーになりそうな予感しかしないんだけど…。
そんな私の考えを他所に、サッチさんはプルプルと身震いしながらその実を手に取った。
「お、おお!なまえちゃん!でかしたぞ!これで俺も“能力者”だ!」
何の能力の実かなぁ〜!!と小躍りしながら喜ぶサッチさんに、なんだなんだと談話スペースに居た人達が近寄ってきて、クルーの人達が羨ましがりつつも隊長もついに能力者っすね!!カナヅチがまた一人増えたと軽口を叩きながらも皆んなワイワイとサッチさんを囲み談話スペースは賑やかになっていた。
能力者になれるとは言え、よくあんあ不気味な物口にできるよな…と、騒がしい輪の外でサッチさんを見ていればトンと肩に誰かが手を置いた。
「よぉ嬢ちゃん、なんだ随分と賑やかじゃねぇか?ゼハハハ」
「よー!ティーチ!これ見ろよ、悪魔の実を手に入れたんだ!これで俺も能力者の仲間入りだぜー!」
「本当かサッチ!やったじゃねぇか!」
ゼハハハ、と笑う声が耳の奥で聞こえる。
賑やかだったはずの部屋の音が、水の中に居るかの様に聞こえなくなった。
深海に沈む様に
う…そ…。
喉の奥が焼ける様に痛い、バクバクと心臓が胸を叩く。
ティーチさんが、私の肩に触れた瞬間、私は“視て”しまった。
それは、まるでその個性が私に知らせる様に、無意識で発動した
サーナイトアイの“未来予知“の力だ。