29焼き付けれられた現実


なまえちゃんに頼み、開けてもらった箱の中身は悪魔の実が入っていた。

これでついに俺も能力者だ!と喜んでいれば悪魔の実に詳しいティーチがこの実の能力を調べてくれる様で、夕食後酒でも飲みながら話そうとアイツのお気に入りと言う船尾の甲板で晩酌しながら話をする事になった。

翌日の仕込みとキッチンの片付けを終えれば夜もいい時間だ。
軽いツマミと酒を手に俺は船尾の方へ例の実を持って鼻歌まじりに待ち合わせ場所へと足を向けた。







角を曲がれば、ティーチが居るはずのそこに何やら騒がしい音がする。
なんだ?と少し不穏な空気を感じ角を曲がれば、信じられない光景が目に飛び込んできた。

なんで…「なまえ、ちゃん…?何して…」

「…!サッチ!!!助けてくれ!この嬢ちゃんがいきなり襲ってきたんだ!」

ッチ。となまえちゃんが舌打ちするのが聞こえ、信じられない気持ちを抑えながら俺はティーチを締め上げているその布を切り裂いた。

「お、おい!どういう状況だ!なまえちゃん、どうしたってんだ!なんでそんな格好で…!」
「サッチさん!退いて!!」

ティーチとなまえちゃんの間に入って何事かと問えば退けと言われる、この状況に全く理解が追いつかず困惑した表情でなまえちゃんを見やれば背後に居たティーチが「助かった」と首元を抑えながら少し苦しそうな表情で近づいてきた。

「っゲホ、い、いきなりこの嬢ちゃんが襲ってきやがった!やっぱりコイツは信用ならねェ奴だったんだ!」
「お、おい、え?ちょっと、ちょっと待ってくれ、なまえちゃん…ティーチと何があった?急に襲いかかったのか?何か嫌な事でも、…ッ!?」

「ッッサッチさん!!!!!!」

ティーチに何か嫌なことでもされたのか、となまえちゃんに聞こうとした時、
ドン、と背後から衝撃を感じた。

え、あれ…なまえちゃん、また血吐いちまったのか?
そう思うほど、俺の名を切羽詰まった様に叫ぶ彼女の狐の面にはべっとりと血が付いている。

「…ぁ、ッ…ッ」あれ、俺…なんで声が出ねぇんだ…?

「貴様ぁあああ!!」
激昂しているなまえちゃんが俺の後ろにいたティーチに飛びかかり殴りかかろうとしていた。

ゼハハハ!とティーチの笑い声がする、振り返ろうとしたのに。
俺の身体は前へと倒れ込んだ。

バシャリ。とその時やっと、頭が追いついた。

あれ、俺…なんで、腹から、血…でてんだ…
「ガハッ…ッ、ぇ…なまえ…ちゃ…ッ」
ゴフッゴフと口から血を吐く、ああ、なまえちゃんはいつもこんなに苦しい思いで吐血してんのか…と、妙に頭ン中は冷静で。
目をティーチとなまえちゃんへ向ければ二人が激しく攻防し合っていた。

「ゼハハハハハ!油断したな!サッチ!悪いがこの悪魔の実は俺様が頂いていく!
恨むならこの実を手に入れちまった己を恨みな!!!ゼハハハ!」

「ティーチさん!!!!その実は渡しません!こんなに暴れればもう誰かが気が付いている筈、数分もしないうちに騒ぎを聞きつけクルーの方が駆け付けますよ!諦めてください!」

誰が諦めるかぁ!と尚もなまえちゃんに襲いかかるティーチ、
ああ…俺は…そうか…、
「ぅぐぁっ…フーッフーッ…ぉい、ティー、チ…てめぇ…ッ裏切りやガッ…ゴフッ」

「ああっ!サッチさん、動いちゃダメ…!!」

なんとか立ち上がろうとしたが、背後から腹を貫いた傷が体の自由を奪う。
ああ、なんて、情けない…!

慌てて駆け寄ってくるなまえちゃんが俺の傷口を強く押して止血しようとしているのが分かった、痛みを感じるのが鈍っているのか…あまり感覚が無い。
何かが焦げるような臭いがしたと思った時、なまえちゃんの背後でティーチがニヤリと笑みを浮かべながらなまえちゃんに剣を振り上げている。

危ねぇ、と口をはくはく動かすが声は空気としてもれるばかりだった。

ティーチがなまえちゃんにお前も仲良く始末してやる。と剣を振り下ろしたがなまえちゃんの手によってその剣は止められ、飛び上がって繰り出された回し蹴りがティーチの顔面に入った。

しかしティーチはその自身の顔面を蹴り上げた足をその手で掴み、なまえちゃんを壁に思いっきり叩きつけ、積まれていた木箱をガタゴトと崩しながらなまえちゃんは倒れこむ。

ああ、これは夢か…?

「ックソガギが…ッ!ハァ…ッハァ…ッ、サッチ、コレは頂いていくぜ」
じゃあな、と転がっていた悪魔の実を手に船の手摺へ足をかけるティーチ。

お前は、はじめからこの船から逃げるつもりだったのか…

情けなさと、信じていた友人に裏切られた虚しさと何も反撃できない自分に悔しくて堪らなかった。

クソッ、クソッ、動け!動け!

いうことを聞かない身体を何とか動かそうとすれば、ガラガラと壊れた木箱の中からなまえちゃんが飛び出し、逃げようとするティーチに掌を爆発させ向かっていった。

数発、大きな爆発がティーチを襲う。

そのまま2人は暗い海へと落ちていった。


バシャーンッ!


その音を最後に、俺の意識は無くなった。

ああ、凄く、寒い。



誰かが俺の名前を、呼んだ気がした。

















パチリ、と目が覚めた。

あれ、ここどこだ…え、俺死んだ…?

うすらぼんやりする頭を働かせながら、あの時のことを思い出した。

そうだ…俺が手に入れた悪魔の実を、ティーチに奪われて…それでなまえちゃんがアイツと戦ってて…2人は、海に…ッ

「なまえちゃん…!!!っぐぁ…」
「おい!まだ動くんじゃないよい」

「ぇ…あ、マル、コ…?」

バッと起き上がろうとすれば全身を痛みが襲い苦悶していればマルコが現れ何かの薬が入った注射を俺の腕に刺す。

「サッチ…おめぇ5日も目を覚まさなかった。
腹の傷は背から貫通してやがる、しかも剣に毒が塗られていたのか…あと少しでも処置が遅けりゃ今頃テメェはくたばっていたよい」

マルコ曰く、なにやら騒がしい船尾を確認しに来たクルーの奴が荒れ果てた甲板の真ん中で血を流し倒れている俺を発見したとの事。

毒…刺されたとはいえ、どうりであん時身体が動かせ無かった訳だ…



って、あれ…

「おい、マルコ…なまえちゃん…ッなまえちゃんとティーチは…!!?」

ぐっと顔をしかめ、もう一度起き上がろうとすれば、落ち着けとマルコに言われため息を一つついた後、なまえちゃんとティーチについてマルコが話し始めた。


「はぁ…流石に今回の事は参った…。
おめぇが意識を取り戻さない間、船中大騒ぎだったからない…。
結果を言うと、ティーチ。あいつはこの船で最もやっちゃいけねぇタブーを犯した。

“仲間殺し”

まぁ、なんとかおめぇは一命を取り留めたがな…。しかしこの船を裏切った事には変わりねぇ。それにアイツは悪魔の実をおめぇから奪い去ったそうだな…。」

そして…なまえの事なんだが。
と、なまえちゃんの話を聞かされた俺は頭が真っ白になった。


「なまえは今、行方不明だ。」
「…っは…、」

見張り台の奴が、船尾の方が騒がしいのに気がつき確認したところ
何やら揉み合っているティーチとなまえちゃんを見つけ、2人はもみ合いの末海に落ちたそうだ。

急いで仲間を集め救助に向かったが…
夜の海に落ちたと言う事は見失えば救助はかなり困難だ。

しかし、もう1人の見張りをしていた奴曰く。
ティーチらしき人物が乗る小船が一隻、その姿を遠目に確認したと言う。

なまえちゃんもティーチと手を組み逃げたのではないか?と言う奴も何人か居たらしいが、その小船には1人の影しか見受けられなかったと言う…かなり距離が離れていたため、確実に1人だけだったか?と言うと確信は得られないと見張りの奴は言っていたそうだ。

「…なまえちゃんは、俺を助けようとしていた。」

ティーチと何があったかは知らねェが…あの時なまえちゃんは確実にティーチが俺から実を奪おうとしていた事に気が付き、阻止しようとしていたように思える。

「…俺も、アイツがティーチと手を組むとは思えねぇ…。この数日、クルー総出でなまえを探しているが…」

コレしか見つからなかった…。

苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべたマルコの手には、シャン…と綺麗な音を立てた鈴が装飾されたなまえちゃんの面が握られていた。

「うそ…だろ…。」

俺も、嘘だと思いてぇよい…。
そう言って項垂れるマルコ、
「…あの場から落ちたのを考えて、航海士達がこの海域の潮の流れやらを調べて近隣にある何島かの無人島に流れ着いた可能性もある。その見解にエースがストライカーで連日探し回っている所だ…」

「っは…は、はは…ッ…くそ…くそッ…!!」

くそッと、何度も拳をベットに弱々しく打ち付けた、傷口が開くからやめろ。とマルコに窘められたがそんな事ァどうでもよかった。

あの時…なまえちゃんを疑っちまった自分がいた。
自然と、咄嗟にティーチと過ごした年数と、なまえちゃんを天秤にかけなまえちゃんを警戒しちまった…ああ、くそ…くそ…。

今思うのは、あの時…あの時…と過ぎた事に後悔してばかりだ。


シャン、と持ち主が不在の面が鳴った。


ガチャリ、と部屋のドアが開く。

「よぉーテメェら、ここは葬式場かなんかかぁ??」
ちゃぷちゃぷと酒瓶を揺らしながら入ってきたのは酔いどれジジイのドクターだった。

こいつは…こんな時でもへべれけに酔っ払っていてもはや呆れるレベルのクソジジイだ
マルコが何の用だとクソジジイに問いかければ、そいつはフンと一つ笑いお前らに朗報だぜ、とベット脇の小さなテーブルに何かを置いた。


「喜べ、嬢ちゃんの行方はコレがありゃわかる。そしてこの紙っ切れが存在いてるってこたぁ…まだ生きてるぜ。」

ビブルカードだ。

と、クソジジイが置いたソレはカサカサと小刻みになまえちゃんが居るであろう方向へと動く。

「「!!」」

「…ジジイ、おめぇ…いつの間にビブルカードなんて…」
「へへっ、あの嬢ちゃんがこの船に現れた日。ちょこーっと爪を拝借してな!
だって、この嬢ちゃん異世界人だぜ?みすみす逃げられた時にまた捕獲できるようにって1枚ビブルカードを作ったのを思い出してな!ガハハハ!」

俺はいつかあの嬢ちゃんを解剖してぇ…!

そう恍惚な表情を浮かべるこのマッドサイエンティストに俺とマルコはドン引きした…
なまえちゃん…逃げて…いや、帰ってきて…や、やっぱこの男からは逃げて…。

「…と、とりあえずは…でかしたよい…それと、もっと早く持ってこいよい…」

「いやーー!!忘れ腐ってたわ!俺もあの嬢ちゃんが死んだと思ってよぉ…せめて死体だけでも上がってくりゃ良かったんだがなぁって、そん時に思い出したもんでよ!」
「アホかァア!このクソヤブが!!」

スパコーン!!!とマルコが丸めた紙束でクソジジイを殴った。

でかした、マルコ。俺の分も殴っておいてくれ。
身体が動かない分、目線でクソジジイに呆れた気持ちを送ってやった。



「まぁ、何はともあれ…一先ずは、エースに知らせてやらねぇとな…、おい、クソジジイ後は頼んだぞ。」

ヒョイっとビブルカードを持って部屋を後にしたマルコ。

この海の、どこかでなまえちゃんは生きている…ソレが分かっただけでも少し心が救われる思いだった。

なまえちゃん…また迷子になっちまって…帰ってきたら、腹一杯…飯食わせてやるからなぁ……なまえちゃん……ごめんなぁッ…ッ。

溢れる涙を拭おうと、力の入らない腕を上げようとした時
ベシャッと目元にタオルを投げられた。

「おめぇもまだまだ若ェな、サッチ」
「…うるぜぇよ、クソジジイ…ッ」






あの子が拾った命


オメェの腹の穴、荒治療だが皮膚を焼いて止血した痕跡があったぞ、あの嬢ちゃんだろうなぁ…ったく…命拾いしたな。

そう言ってクソジジイは俺の腹に巻いている包帯にトンと指を置いた