31王様始めました


無人島に流れ着き数日が経ちました。

どうも、私です。

この度不思議な輪っかを手に入れた途端、ヒーローから王様に劇的な昇進を果たしました。

この腕輪を手にした者は、この世界すべての動物達が持ち主を王と崇め奉り
その動物達の声が聞こえ、そして自らの声も動物達に聞こえるそうです。


さて、ここで1つ問題が生じました。

「…私、これからお肉食べられないじゃん…?」

「いえ!我々のこの命!王の血となり肉となるならば喜んでこの身を捧げましょうぞ!」

キュルルンとつぶらな瞳で私を見つめるのはとても可愛らしい子リスさんだった…

おまえ…おまえ…ッ


遣る瀬無い事実を目の当たりにし、腕に嵌めた王の輪と言われる腕輪を見つめた。

昨晩はあの神殿でジャングルの動物さん達が己の毛艶自慢をしつつ、私が、俺が、と誰がいかにフワフワのもふもふで私のお布団兼クッション兼枕になるか言い争っていた。

正直クソ暑いので丁寧にお断りをし、その晩は床についたわけだが。

翌朝目が覚めてみれば私の周りにぐるりと集まるようにリスのような小さい子から熊のようにデカイ子達にまみれていた…獣の匂い…うう…。

朝、動物さん達があれよこれよとジャングルのフルーツや木の実などをこれでもかと私に持ってきてくれ、朝ご飯として美味しく頂いた。

その時にこの腕輪の話を物知りなオランウータンさんから聞いた。

この腕輪は見つけた者が腕輪の恩恵を授けられる訳ではなく、そもそもこの鍵が無いと祠自体開けられない上、鍵があったとしても光を放ち祠の場所を案内するかの如く道を示す事は無いらしい。

鍵が、その器となり得るものを選び
そして腕輪がそのものを呼び寄せる。

この世界にはまだ、この紋章が刻まれ高貴なる一族とやらが遺した”証”がいくつか存在するとオランウータンさんは言っていたが、

どこに、何が、いくつ、まだ現存するかは不明とのこと…。

私も彼らに、この紋章の国は滅びてしまったと言う事と…しかしその王族の血は1人の女の子の存在により、絶えてはいないと言うことを伝えれば動物達は涙を流し憂い、そして喜んでいた。







お日様がてっぺんに登る頃、相変わらずジリジリと身を焼き付けてくる日差しにアチアチHOTになりながら浜辺で海を見つめる。

私の周りには誰かしら動物達が居て、ぼーっと海を見つめている私に小鳥さんがどうしたの?と聞いてきた。

「んー、私乗っていたお船から落っこちちゃってさ、そこに戻りたいんだけど…この島は船からどれくらい離れた所なのかなぁーって…。」

「まぁ!それは大変ね!おうさま!今こそ私達がお役に立てる時かもしれないわ!」
ピチチ!と鈴がなる様な声で青い小鳥さんが私にそう言って待ってて!と一言残し何処かへ飛んで行ったと思えば、
「海の事なら海の民に聞けばいいのさ!」と、昨日からお世話になっているお猿さんがサムズアップしてきた。

暫く小鳥さんが飛んで行った方を見ていると、小鳥さんが数羽のカモメさんを連れて戻ってきた。

「ん?このカモメ、帽子とカバンしょってる!かわいい!」
「ははは、お嬢さんわたくしニュースクーと申しまして、しがない新聞屋でございます」
クークーとお辞儀をするニュースクーさんは、わたくしどもに何か御用で?と可愛らしい頭を傾けた。

ピチチと小鳥さんが私がとある船から迷子になってしまった事を伝えれば、そりゃ大変だ僕たちは海軍から商船、はたまた海賊船にも新聞を届けに世界中飛び回っているから
どんな船か教えてくれれば力になれるかも!と船への案内を買って出てくれた。

「え!まじか!えっとね、白ひげ海賊団って大きな白い鯨の大きなお船なんだけど…」

「「「し、白ひげだってーーー!!!?」」」
私が船の特徴を伝えれば辺りがザワッと動物達が騒ぎ出した。

「え?え?だめだった?白ひげダメなやつだった?ご、ごめん、今のなしで!」
「めめめめ滅相もありませぬ!!なんと、おうさまは白ひげのオヤジさんの船の方だったとは!!これは大変だ!直ぐにあの白鯨を見つけ出しましょうぞ!
さ!お前たち!飛べる者、海の者に急いで知らせるのだ!」

いざ!行かん!!と気がつけば大層な数の動物達が蜘蛛の子を散らす様に海へ空へ大地へと消えていった…

「お…おおう…まかせたぞ…」


その日、王の輪の持ち主が現れた事と。
王の輪の主は白ひげの船に乗る少女だという事が世界中の動物達にあっと言う間に広まった事は…私の知る由も無い。


「なんか…大ごとになっちゃったね…」
「大ごとだなんて!もっと早くにお伺いするべきでした!…なにやら最近、白ひげの船では大層な事件があったそうで…あの船での最大の禁忌、“仲間殺し”を行った不届き者が現れたそうですぞ!」

キューキューと子リスさんがその小さな手足を目一杯使って私に一生懸命話している姿は中々可愛らしい。

「…あー、その不届き者を追って海に落ちちゃった所を…なんかでっかい怪物に襲われちゃって今に至ります…」
「なんと…!恐らく海王類に襲われてしまったのでしょうね…しかし、貴方様はもう我々の王と在らせられる御身…海王類の者達もこれからは襲いかかる事も無くなりましょう。
この度の無礼、お許しくださいまし…」

ぺこり、と子リスさんやお猿さん達が私に頭を下げるもんだから慌てて頭を上げて!と身を起こしてやれば動物さん達は有難や有難や…とその手を擦り合わせながら私を仏様の如く崇められた。
まじ、カオス…。

「(王様、か。)」

そういえば海賊王とかなんとかあったけど…私ってば、成り行きで動物王になっちゃったんじゃね…?
なんか、大層な事になっちまったなぁー。と空を見上げれば先程のニュースクーさん達がパタパタと戻ってきた。

「おうさまー!お待たせいたしましたー!船の居場所がわかりましたよー!」
クークー!と飛んできたニュースクーさん達、あれ、なんか増えてね?

バサバサっと私の足元に降り立ったカモメさん達
「やや、こちらが噂に聞きましたお方ですな!お目にかかり光栄でございます。
わたくし、今朝方白ひげの船に新聞を配達した者でございます!
どうやら船の者達も貴方様をお探しになられていた様で…もうこの島の海域へ入って来ております故、あと1日も船を進めていればこの島に到着する事かと!」

「あ、そうなん。近くまで来てんだ…うーん、こっちから向かうかなぁ…」
「それでしたらご案内しますが…如何様にして海を渡られますか…?」

そう疑問を浮かべる動物さん達に、ふふんとドヤ顔で私、空飛べるから。と告げればさすがおうさま!!!とめっちゃくちゃに感動された。凄かろう凄かろう。

「よっこいしょ、うーーんっ!ほんじゃ、道案内はニュースクーさんにお願いしてっと。
何日も行方不明になっちゃったし、私の方から船に向かうとするよ!」

「…さようですか、お別れは寂しゅうございますが…我々はあなた様の御武運をお祈りしております故、どうぞ我々動物達はいつでもあなた様のお力になる事をお忘れ無く!いつでも、お頼りくださいまし!」
「きっとお力になりますぞ!」
「またお会いしましょう!」
「またヤシの実さ割ってくだせぇ!」

「いや、お前は自分の剛腕で割れるだろって」
「はっ!!!!んだべっさ!おらゴリラだった!!」

王様が出発されますぞー!と誰かが鳴けば、わらわらとジャングルから動物達が現れお気を付けて!と壮大なお見送りをしてくれた。

これを、と大きな葉っぱに包まれツタで結ばれた包みの中には木の実やフルーツが入っていると言う。
道すがら、お腹が減った時にお食べくださいとお弁当を持たされた、ありがとかーちゃん!

子リスさんがお供いたします!!とついてくる気満々だったが、他の動物達に窘められ少しぶすくれている。それもまた可愛い…

大型の肉食獣の皆さんは、いじめられたら俺達がそいつを食いちぎってやるからいつでも仲間に頼れ。と笑えない事を言われちょっと引いた。
3メートルは超えるであろう熊さんにそんな事言われちゃ…迫力が増すってもんよ…。

「お、おおう…皆んな、色々とありがとう。お世話になりました!急だけど…私行くね!」
バサリと上に着ている服を脱ぎ、新しく背中がパックリと開いたホルターネックの服を創造で造りそれに着替えてホークスさんの様に背中から翼をバサッと生やせば、動物さん達がおおお!とざわめいた。

「じゃあ、ニュースクーさん!道案内よろしく!あなた達の後ろを付いて飛ぶから。
島の皆んなも!本当にありがとう!またいつか会いに来るからね!またねー!」

バサバサと数回翼をはためかせ身体を宙に浮かせる、ニュースクーさん達がさあ、行きましょうか!と先を飛び、私は島のみんながお見送りをしてくれている浜辺の上をくるっと旋回し、みんなに大きく手を振ってから先を行くニュースクーさんに付いて大海原の空に飛び出していった。


ティーチさんを逃してしまった…実も結局奪われ、サッチさんも大怪我をしてしまい…私の見た未来を変えられなかった…ただ、どうか…サッチさんに無事でいて欲しい…!
私の見た未来に、私の存在は無かった。私というイレギュラーが加わった事によって、少しでも未来が変わっている事を祈るばかりだ…。

「…それに、あの時…ティーチさんに大きめの爆破でその顔面を掴んだのは確かだ…
結構な怪我をしているはず…」
その怪我で、あまり遠くに逃走できているかもわからないし…まだ追いつく距離にいるかもしれない…。

難しい顔をしていれば、一羽のニュースクーさんが近寄ってきて、大丈夫ですよ。と励ましてくれた。

「白ひげは、仲間殺しを許さないのは我々も知る事実、どうか、ご安心くださいませ。この広い世界を逃げ回ろうと誰にも見つからずに逃げ果せる事は不可能です!我々動物達が、きっとあなた様の目となり足となりましょう!」

そうだそうだ!といつのまにか共に空を飛んでいる渡り鳥さんや大きな翼を広げた鷹さん達も私の周りで翼を広げ優雅に空を飛ぶ。

今更ながら、私…とんでもない代物を手にしてしまったのでは?と冷や汗を垂らした時、
「見えてきましたぞ!」とニュースクーさんが指す方を見れば、大海原にポツンと浮かぶ白い鯨の船が見えた。

バサバサとみんなで降下を始めれば、見張り台にいたクルーの人が気がついたのか慌てた様子で他の人に何やら叫び、甲板はあっという間に白ひげの皆さんでいっぱいになった。

「えぇー、なんかエースさんめっちゃ叫んでるー…って、なんか飛んできた!!!」

ふぁさ、ふぁさと青く、幻想的な青い鳥が羽ばたき、近寄ってきた。

「なまえ!!!!おまえ!無事だったかよい!!」
「…え?どちらさま?」と首を傾げれば、ニュースクーさんが白ひげの不死鳥ですよ、と耳打ちをしてくれて

「えええ!もしやマルコさん?!言われてみれば目元がめっちゃマルコさん!ブッサ!、あ、なんでもねっす…。」
「…おめぇ……とりあえず、これはどう言う状況だよい…」

船の上空を無数の鳥達が近寄ってくると見張り台の人からの騒ぎを聞きつけ出てきてみれば、その中心を私が飛んでいるもんだからマルコさんは確かめるために飛んできたそうだ。

「あー、なんか、まぁ、とりあえず船に戻ってからお話ししますわ…。それより!!!サッチさんは!?」

「サッチは…おめぇの荒治療のお陰でなんとか無事だよい。なまえ、サッチが腹の怪我よりおめぇを心配してろくに治療もままならねぇ。早く顔みせてやんな」

「よ、よがっっだ…!よがっだ!!いぎでるんでずね…!!!」
「…っおう!サッチは生きてるよい…!!」

えぐえぐど溢れる涙をぬぐい、白鯨の大きな背に降り立つ。
共に飛んできて鳥さん達は船の上を何回か旋回した後、いつでもお力になりますから!と方々にみんな飛んで行った。

私は無事だったか!と声をかけてくれる皆さんに謝りながらサッチさんの所へ向かうべく足を進めれば、エースさんがなまえ!!!と腕を広げものすごい勢いで駆け寄ってきた。

「エースさん!!!!!!」
「なまえーー!!!無事でよかった!!!!!」

ダッとお互い駆け寄り、エースさんはガバリと私を抱きしめようと……

したのを、私は横をすり抜け
「ごめん!後でね!サッチさんの所行ってくるから!!!」

と船内へ弾丸の如く入っていった。







超!ただいま!!!


甲板で空気を抱きしめたエースさんは、クルーの人が恐る恐る声をかけるまでその場で固まっていたそうだ。

その余りにも哀れな光景に隊長をいじめないでやって下さい!!とクルーの人から直談判されたのはまた別のお話。