32僕のお嫁さんはちょっと酷い


ティーチが裏切った…。

サッチは重傷を負い、なまえは海に落ちて行方不明。


「っは…マルコ…俺は悪い夢でも見てんのか…っ?」
「夢なら早く覚めてほしいよい…」

あの日、なまえは見るからに様子がおかしかったのは気がついていた。
何か思いつめているような、そんな感じが見て取れたが…。

その日の深夜だった、見張りの奴が何やら船尾の方の様子がおかしいと船内に知らせが届き、その後なまえとティーチが争っている!と続報が相次ぎ何事かと船尾へ足を進めれば2人が海に落ちたぞーー!と誰かが叫び…
慌ててそこへ向かえばサッチが血まみれで甲板に倒れていた…。

海に落ちたという2人は、クルーの奴らが夜通し捜索に当たったが…見つかったのはなまえが身につけていたあの狐の面のみ。

報告によるとティーチらしき人物が乗った小船が一隻出航されたのも確認されたとか何とか。

全てが絶望的だった。







夜も明けきらない、うっすらと白みはじめた中
大広間で緊急の会議が開かれた。


状況だけをみれば、なまえの立場はかなり危うく。
当初はなまえがティーチとサッチを襲ったのではないか、と話に上がった時はそんな事アイツがするはずねぇ!と俺は声を荒げた。

しかし、見張り台から見ていた奴曰く、ティーチからなまえはサッチを守っている様にも見えた。と話す奴がいて、現にマルコはサッチの刺された傷から毒が検出され、その毒はティーチの持っていた剣から出た事と。

恐らくなまえが失血を防ぐために応急的にサッチの背と、腹にまで貫通した傷口を焼いて塞いでいた事を見ればなまえが2人を襲ったとされる見解は無くなった。


そして1番に現場へ駆けつけた奴は、なまえが逃げようと手摺に足をかけたティーチに向かって攻撃をし、その揉み合いの後海に落ちたのを目撃している。

「…結局、サッチが目を覚まさない事には状況がイマイチわからないじゃん…
マルコ、サッチは…」

シンっとした中、ハルタがおずおずとマルコに問えばサッチの状況はあまり良い状況ではないと言った。

「今、クソジジイがナース達とオペにあたっているが…正直厳しいよい…。
腹ァ刺されただけってなら、なまえが止血したお陰でどうにかなりそうなんだがねぃ…
なんせ毒が身体に回っちまっている、医者の立場から見れば…かなり絶望的だ。」


その言葉に、オヤジも含め皆んな息をのむのがわかった。

「居なくなったティーチと小娘の件だが、俺も海に入って捜索に当たったが。
船から離れた所で巨大なタコのような海王類がまるで雷にでも撃たれたかのように海に浮かんでいて、そん時にあの狐の面も一緒に浮いているのを発見した。
恐らく、海に落ちた時に運悪くあの娘は海王類に襲われちまったと俺は見てるが…」

あたりになまえの姿は確認できなかった、とミュールが報告をし状況はさらに絶望的だった。


その時だった、ガチャリとドアが開き1人のクルーが恐る恐る入って来て
「あの…すんません、俺…あの時、船尾の方に居て…かなり酒に酔っちまってたから、全部はしらねぇんだが…」
と、現場の近くに居たというクルーがぽつぽつと当時の状況を話しはじめた。


「俺、酔いつぶれて船尾の貨物の間で寝ちまってて…何やらガタガタと物音がうるせぇなって思って目が覚めたんだ。そんでその騒がしい方に向かってみりゃ…ティーチが…背後からサッチ隊長を剣で刺してたんだ…あまりの事に驚いちまって…情けねぇ話だが俺ァ腰が抜けちまったんだ…その後、ティーチがサッチ隊長が手に入れたって悪魔の実を奪って逃げる所を、嬢ちゃんが止めようとしたんだが…2人は海に落ちちまった…」

報告が遅くなってすまねえ、と謝るクルーに「これではっきりしたな。」とイゾウが煙管をふかし
「ティーチはサッチから悪魔の実を奪う目的でサッチを襲った、で、嬢ちゃんは何らかでそれを知り、ティーチを阻止しようとした。ってのが事のあらましかねぇ」

「……はぁ…。ティーチ、アイツぁ…。」
ああ…とオヤジが手で目元を覆い、椅子に深く身を沈ませた。

部屋の空気は、重く、暗い。

ナースがマルコを呼びに来て、その日は解散となった。






あれから5日程経ち、サッチは一命を取り留めたが未だに目を覚まさない。

俺は連日、航海士が目星をつけた近隣の島や無人島をストライカーで駆け回っては、なまえの手がかりもなく、ティーチの目撃情報も得られず焦燥に駆られる毎日を過ごした、なまえ。なまえ。と頭ん中ではアイツの笑った顔が毎日過ぎる。

今日も何も得られなかった、と船に戻れば俺に気がついたハルタが慌てた様子で駆け寄って来て、「エース!サッチが目を覚ました!!」と言って俺の腕を取り早く早くと病室へ駆けていく。


「サッチ…!!!!!」
バタン!と大きな音を立てて扉を開ければ、酔いどれのドクターと
ベットに横たわるサッチが、目線だけをこちらに向け「よぉ、エース。」と力無い声で俺の名前を呼んだ。

「ハァ、ドクター、サッチはもう大丈夫なの?」
「あぁー、まぁ、とりあえずは、だな。身体の中回ってた毒はどうにかなったからなぁ…
後は腹の風穴が塞がれば、まあ大丈夫だろ。っつー事で、お前は最低でも1ヶ月は安静だな。」

「サッチ!サッチ!良かった!よがっだぁ!」
「おい…エース…みっともなく泣いてんじゃねぇよ…なぁ、なまえちゃんが…なまえちゃんの居場所が、っ、わかるかも知れねえ。」
「あ、おい起き上がんじゃねえよ、安静にしろって言ったろ」

「え、居場所がわかるかも、って、どういう事!見つかったの!?」

サッチの言葉に俺とハルタはどういう事だ、と詰め寄れば
以前にこの酔いどれドクターがなまえのビブルカードを作っていたと言って、そのカードは今も一欠片も欠ける事なく、なまえの居るであろう方角へと小刻みに動いていると言う。

「ドクター!!何でもっと早くいわねぇんだよ!!」
「やー!!すまんすまん!さっきマルコにもしこたま怒られたわ!俺もついさっき思い出してよぉ!」

「「アホかー!!!!!」」バシィイッ

呑気に笑うドクターに俺とハルタで一発そのハゲ頭に拳骨をお見舞いし、ビブルカードを持って先程病室を出たと言うマルコを追うことにした。

「エース…きっと、なまえちゃんは腹すかせてるだろうから…4番隊によぉ、いつ帰って来てもいいように、飯ィたくさん用意しておけって伝えてくれるか…」

「サッチ…わかった、なまえは必ず見つけて連れ帰る!お前は…早く腹の穴塞ぐのに専念しろよ、」
おめえの作った飯が、なまえの1番のお気に入りだからよ。とサッチに言い残し俺はマルコの所へと向かった。






「マルコ!なまえのビブルカードが!」
バタバタとマルコへ駆け寄れば、どうやらすれ違っていた様で俺の事を探しに船内へ戻る途中だったようだ。

「エース、戻ったって聞いたから探したよい。ほら、なまえは生きてるっ、今船の進路を変えたとこだよい!」

「ストライカーで行った方が早ェよ!俺が行ってくる!」
そう言ってマルコからビブルカードを貰おうとした時、見張り台の奴が「大変だー!!」と叫ぶ声が聞こえ、何事かと甲板に出てみれば…

「お、おい!なんだこりゃ!!」

モビーの周りを何匹もの海王類が囲み、空は沢山の鳥達で埋め尽くされ船の上を旋回する様に飛んでいた。

「ッチ、この忙しい時に…!行けるか?エース!」
「ったりめぇだ!」

じーっと船の様子を伺うかの様に海王類達は俺達を見下ろし、船内にいた他の隊長達も数人出てきていざ攻撃を仕掛けようとした時。

10数匹もいた海王類達はくるりと顔の向きを変え、海にザバザバと戻っていった…

「「「え…?」」」

上空をぐるぐると旋回していた鳥達も、海に潜った海王類達も一斉に同じ方向へと向かって去っていったその様子に、俺たちはポカンと呆けにとられた。

「え、何だったんだ…いまの…」
「さ、さあ…」

「俺、あんな数の海王類…見たことねぇわ…」
「船…喰われるかと思ったぜ…」

驚きを隠せないクルー達がまるで天変地異でも起こったのかと思うくらいの事態を口々にし、俺もマルコも今までになかった状況にただただ驚いた。


また、海王類達が戻って来るかもしれねぇ、と暫く警戒して様子を伺ったが、
海は穏やかに波を立てとても静かだった。








「…で、なんだったか、おめぇストライカーで行くんだっけか」
「…あ、ああ、俺の足で行った方が早ェだろうし…先に行って確かめて来る」

今度こそ、と。ストライカーを準備して海に出ようとすれば
またもや見張り台のやつが何だかんだ騒がしく慌てた様に「空みろー!!」と叫び今度は何なんだ!!!と空を見上げれば、遠く向こうの方からまたもや鳥の大群がこちらへと羽ばたいて来ているのがわかった。

「おいおい!何なんだよ!マルコおめぇの仲間だろ!ちょっくら何事か聞いてこいよ!」

アホかぁ!!と俺にキレるマルコを尻目にこちらへと近づいて来る鳥の大群を見れば、何か違和感を感じた。

んんん?と目を細めじーっとその違和感の原因を探っていた時、見張り台で望遠鏡を覗いてた奴が「ッ!!!帰って!!!帰ってきたぞおおおおお!!!!!」とあたりに響き渡るくらい大声で叫んだ。

「嬢ちゃんだ!!!!!!!嬢ちゃんが帰ってきたぞおおおおおお!!野郎ども!!あの子が帰ってきた!!!空を飛んで!こっちへ向かってきている!!」

なんだとーーーー!!!!!と甲板にいた奴らが手摺へ身を乗り出しながら空を見上げる。

「なまえ……っ!!!」
俺も目一杯手摺から身を乗り出し、まだ遠く向こうの方から船へと真っ直ぐ羽ばたいて来る鳥の群れに目をぎゅーーっと細めながら見れば、確かに人影が1つ確認できた。

「なまえーーーーー!!!!!!!」
大声で群れへとなまえを呼び手を振れば、その人影も降下しながら手を降っていた

「「マルコ!なまえだ!なまえが飛んで帰ってきた!!」」
……。

「「え?」」

俺とおんなじセリフを近くで言う奴が居て、思わず目を合わせればハルタが興奮気味に手を上げた状態で俺を見て固まっている。

「お、おまえ…今、なまえ…って。」

「っちがうから!!違うから!そうじゃないから!なまえ…っあの女が戻ってきて、う、嬉しいとかじゃないから!!!バカ!!!!!」


(((ツンデレか!!!!!!!)))


顔を真っ赤にしてるハルタが面白すぎて思いっきり吹き出せば、笑うなぁああ!と目を釣り上げバコバコと肩を殴ってきた。

そうこうしている間にもなまえはどんどん船へと近寄ってきて、マルコが確かめて来る。とその身体を不死鳥へと変化させ甲板から飛び去っていった。

なまえ!なまえ!はやく、はやくその身を抱きしめたい、強く抱きしめて存在を確認したくて堪らなくて、今か今かと待ち遠しい。

「おーーい!みなさーーん!」となぜか号泣しているなまえの声が聞こえた。

ストっと甲板に降り立ったなまえは、人混みをごめんなさいと謝りながら皆んなの歓迎もそこそこに慌ててこちらの方へと向かってきた。

俺もなまえに駆け寄り「なまえ!!」と名を呼べば「エースさん!!!」と走り寄って来て、早く、その身を抱きしめてやりたくて両手を広げ走り寄れば

「ごめん!後でね!」ヒョイっと俺の横を通り過ぎていった……





「…………え」


…しばらく、そのまま両手でなまえを抱きしめ損ね、空気を抱いたまま固まった俺は、
そっと、膝を折り甲板で三角座りをして…少し、泣いた。

マルコがポンと肩に手を起き、イゾウが俺の頭を撫で、ハルタには憐れみの目で見られ
甲板にいた奴らも、口を揃えて「「「ドンマイ…」」」と言われた…。






ドンマイ……俺…………ぐすっ。





女房の帰還

尻に敷かれるタイプだな、と誰かがボソリと言った声が聞こえた。