こちら、ともだちの

少しだけ肌寒くなって来た秋の空の下。
日差しはまだ夏を忘れていなくて、ちょっとだけ空に近い屋上の真ん中には、
私の影だけが黒色を無骨なコンクリートにしみこませていた。


ズズっとあまりお上品じゃない音をたてて紙パックのカフェオレを飲み干す。
ぎゅぅって握りつぶしながら飲み干すのは私の癖だ。

「あっまぁー...」

コーヒーは断然、ブラック一択である。

でも、たまに...なんだか、飲んだら後悔するって分かっていても。

「飲みたくなってしまうんだよねぇ〜…」
「脳が糖分を求めてる、って事だろ。」

ふわり

石鹸の匂いが鼻を擽った。


「きみ、きっと将来はアサシンだね。必殺仕事人!ってやつ。」

はぁ?って、なんか呆れたみたいにへらって笑うのは王子様。



ケガだらけの、おうじさま。



ここなら幾分か涼しいと思ったのに、思ったよりあちぃな〜
なんて、

ぷつん、

ちゅぅー、

「な?」


甘ったるい、紙パックのカフェオレにストローを串刺して
必殺仕事人君は私を見ながら何か同意を求めるみたいに「な、」と言った。

「...な、なー…ナス」
「砂」
「…波」
「水菜」
「……ほんと、きみって性格悪いよね。」
「ハハ、お褒めに預かり光栄です」


ほめてねぇーし。



無骨なコンクリートに、黒い染みが二つ。

音もなく現れたおうじさまは、今日も空を見上げてどこかを見てた。

スン、って鼻が動いて、

「秋の、匂いがするな。」

と、言って、「でも太陽はまだ夏だ」

と、続けた。


「そうだね、まだ、暑いね。」

「ああ、まだ、兄弟の季節だ。」

あいつらは夏が似合う。とか、なんとか。




「...じゃぁ、きみの季節は...?」








「冬...かな、」
「ふぅん」



想像する。

冬のゴリラ。


「寒冷地のゴリラって、もはや雪男だね。ビッグフットじゃん。かっこ、わらい。括弧閉じ。」
「おれ、ほんと、おまえ、好きじゃねぇわ。」
「お褒めに預かり光栄です?」


ズ、ズズッ。

握りつぶしながら、カフェオレは飲み干された。



立ち入り禁止の屋上は

私と、
彼の、

避難場所、だ。







こちら、おともだちのゴリラです。



「髪、切ったんだな。」


「あー......うん、まぁ、いめちぇんってやつ、かな。」

「...ふぅん。」







首元を撫でた風は、やっぱり秋の匂いがした。