必殺ゴリラぱんち


髪は女の武器だ。

と、母親は言った。


髪は武器だ。
ドレスは戦闘服、化粧は鎧。



私は空っぽだ。



















「会長、生徒会長。」
「あ、うん、はい。」

思考を引っ張り戻されて副会長君が「大丈夫ですか」と言いながら資料の束を渡された。

「だいじょーぶだいじょぶ。今日の晩御飯なにかなぁ〜って考えてた。君んちはなにかなぁ?」
「さぁ...、でも、焼き魚の気分です。」
「う〜ん、いいねぇ〜。じゃぁ帰りにマック行かない?」
「…なんの、”じゃぁ”ですか...はぁ...、しっかり渡しましたからね。それでは、お先です。」


バタン



閉じられたドアに置いてかれて、ぽつんと一人。

ちぇ、つれないのー。

ふと見たグラウンドは、運動部が撤収作業をしていて。

夏が去った秋の夕はもう暗い。

ぴこぴこと点滅する視界の端にあるスマホを手探りで手繰り寄せてから、通知画面をチラリ。

窓からロータリーのようになっている正門の方を見れば、汚れ一つ無い高そうな車たちが列をなしてた。

流石金持ち学校である。




なるべくゆっくりとカバンに荷物を入れて。

なるべくゆっくりと、室内の点検をして。

なるべく、ゆっくり...、と、生徒会室の鍵を閉めた。








「本日も御勉学お疲れさまでした。お帰りなさいませ。」

「はぁ〜い。ただいまぁ」

バタン、と車の扉が閉められて
もうかれこれ長い付き合いの運転手さんが前に乗り込む。

発車いたします、と律義に一声かけて。
私はそれに「うむ、安全運転を心掛けよ」なぁんて、ふざけて言うと。
ミラー越しに皺が増えた顔が微笑んだ。


流れる町並み。

近づく監獄。







「…ねぇ、マック、行こうよ」
「ハンバーガーですか、たまには、ハイカラな物もいいですね」
「などと、言って私は真っすぐ家に連れて行かれるのであった。完。」
「老いぼれを…いじめないで下さいませ。」

「ごめん、って。」



街頭に照らされた町はキラキラとしていて、その中に金色を見つけた。

信号で止まる真っ暗な車の中から見えたともだちは...、


「いいなぁ、まっく。」

「お嬢様、何か?」
「いや、何でも無い。」



青色になって、動き出した車から
見えなくなるまでずっと金色を眺めた。







いいな

いいな


きみは、ちゃんと帰るところがあって。

「いいなぁ…」







きみにあって、ぼくにないもの



「ねぇ、マックたべたい」
「おー?じゃぁ帰りに行くか?」

避難所にて、今日も秋晴れの下。

「行きたい。いつか。」

「…いつか、連れ出してやるよ。」
「信じてるよ、ゴリラ。その腕力で道を拓いてくれ。」

ああ、と、

口の端を上げた様にも、結んだようにも見える顔でゴリラは言った。









おれが全部、払いのけてやるさ。


って。