21ーA組

ここは雄英高校正門前、私はその大きな門を見上げながら立ち尽くしていた。

朝7時、寝坊するのが怖くてめちゃ早く起きてしまった。
もう完全に一番乗りのやつじゃん!と学生証が入門時のパスになっているらしく、ピッと音と共に門が開く。

ふんふふ〜ん、と鼻歌交じりに校内へ入りクラス割で1ーA組と書かれた書類を思い出しながら自分のクラスを目指すが…

「あり?どこだここ…!」

やばい、わくわくし過ぎてうっかりしていた…絶対校門ん所で誰か来るの待てばよかった!!

そう!私は超が付くほどの方向音痴である!いやー!参った!どーしよー!!!

この中庭のような場所で、とりあえず落ち着こう。と芝生に座り込み、うーんと考える。

入試の時も、今朝も、チヨさんにタクシーを手配してもらって随分リッチな登校を果たしている。
入試の時はシレッと受験生らしき奴らに着いて行ったので何とかなったが…

「やばー、どうしよー。チヨさんに電話する?…いや、流石になぁ…学校では常に誰かと行動するんだよーって言われてたからなぁー。なんで校門くぐっちゃったかなぁー…あぁああ〜〜〜…」

ぽすん、とその場に寝っ転がり。まぁ、誰かしら通るっしょ!と、呑気に人任せする事に決めた。

「雄英かー…ばーちゃん、何とか一歩踏み出したよ。」
なんとなしに、空に向かって手を振ってみた。
入試の際のロボット相手の市街地模擬戦を思い出す、正直、あ。こんなもんなんだ。って実技の方はめちゃ楽勝に終わり、手ごたえも感じた。
途中、怪我をして動けなくなっていた子の怪我が思いのほか酷く、Tシャツを破り応急処置をした事と。
終盤に何故か自らの個性でボロボロになっている男の子とゲボ吐いた女の子を助けた事がどうやらレスキューポイントと言う隠し得点みたいなシステムがあって、
合格通知が来た時はたまげたものだ。

筆記の方も、個性が個性のため
記憶問題は全て完璧。
若干数学に弱いところはあるが、それも”雄英のレベル”で言ってちょっと不安があるくらいなので、そこら辺の私立や公立で言えば十分なレベルである。

「しっかし…合格通知のホログラムの人…。ばーちゃんの葬式に居た人だったなぁ…」

「お前、そこで何している。」

ひゃっ!と突然かけられた声に驚いてそちらを見れば、通知ホログラムの人が中庭に面する廊下の窓から私を見ていた。

「あ、すんません…えーと、ちょっと迷っちゃいまして…1-A組の教室に行きたかったんですけど、気づいたらここに…」

「……お前、ココ反対方向だぞ…。」
「え、えへ。」

取り敢えず此方に来い。と大きなため息をついたその人は無精髭にボサボサの頭で見るからに小汚いおっさんだ。

あれー、葬式ん時はもっと小綺麗にしてたよなぁ…
窓のそばにある中庭に出るドアをくぐり、室内に入ればその男が「お前、みょうじか。」と私の苗字を呼んだ。

「あれ、私の事ご存じで?…って、祖母の葬式の時いらっしゃいましたものね、えーと…」

「相澤だ、因みに1-Aの担任だ。」
「あ、先生でしたか!相澤…だと、相澤消太さん、でしたっけ?」

「覚えてるのか…、まぁ、お前の個性ならそれもそうか。」

正直受験者名簿にお前の名前があった事に少し驚いたよ
と、先生は言いクラスに行くぞとともに歩き出した。

「はは、まぁ、私…敵予備軍みたいなもんでしたからね…こんなのが入ってきてすんません、ご指導よろしくお願いします。」

私、ヒーローになりたいんです。

そう相澤先生に言うと先生は立ち止まり、私の事をじーっと、その眠そうな目で見つめる。

何か、口を開き言いかけたがふいっと前を向き歩き出した。
「みょうじは、確かリカバリーガールん所で世話になっているんだったか…あの人がお前を1人で出歩かせるなって言っていた意味がわかったよ。
その個性にして…道が分からねぇとは不合理極まりないな。」

え?この先生地味にディスってくるな!

心の中で悪態をつきながら「あはは…すんません。」と取り敢えずヘラヘラっと謝っておく。

相澤先生の後を付いてしばらく歩けば、1-Aと書かれたどでかい扉の前に到着し、ココがお前が今日から通う教室だ。と言いガラガラと扉を開け中に入れば、どうやら私が一番乗りだったようだ。

まぁ、時間も時間だしね。

席は、とキョロキョロ見ればみょうじの席はあそこだ。とどうやら私は窓側の1番後ろのラッキー席だったいぇーい!

鞄を机の横にかけて椅子に座る。
先生はまだやる事がある、と教室から出て行ってしまい私はポツンと、教室に1人。


とりあえず座るか…と机の横にカバンをかけて椅子に座り頬杖をついてぼーっと窓の外を眺めた。

コチコチ、と時計の音が教室に響く。













ガラガラガラ!と勢いよく開いた扉の音に、ハッと意識を浮上させた。
「ふぁ!うたた寝してた!」

「なっ!僕、んんっ。俺が一番乗りだと思ったんだがな!まさかこんな早くに既に登校してきた生徒がいたとは!さすが雄英!生徒の意識も高いと言うことかな!僕、んんっ。俺も君を見習わなければな!」

な、なんかカクカク変な動きしたザ・優等生って感じのキターーー!
宜しく!と手を伸ばしてきた彼におずおずと手を出して私も宜しく、と言えば彼は自己紹介をしてくれた。

「飯田天哉だ!これから3年間共に励もう!」
「あ、みょうじなまえです、どうも。」

君!実技試験では同じ会場だった女子だな!ブンブンと私の手を握り振りながらメガネの彼は言い、あ、そう言えば居たねぇ君。と記憶を掘り返し思い出す。

つか、手ェはなしてくんねぇかなぁ…。
ペラペラとあの時はどうだったこうだったと喋る飯田くんに苦笑いしながら答えていれば、ガラガラと教室のドアが開きチラホラと生徒が登校して来て。

飯田くんは挨拶せねば!と一人一人丁寧に自己紹介し、絡みに行ってた。

やっと、解放された…!と一息付いていれば前の席にポニーテールの女子がカバンを起き、そして振り返り声をかけて来る。

「あの、わたくし八百万 百と申します。どうぞ宜しくお願い致しますわ。」
スと手を差し伸べて来た彼女、八百万さんは少し照れたように私を恐る恐る見つめて来る。かわいいなこの子、と私も「みょうじなまえです、よろしく」と差し出された手を取れば、斜め前の席になんともおめでたい頭の男子が座った。

「(紅白歌合戦…)」
じーっと不躾に見ていると、視線を感じたのか彼が振り返りパチリと目が合う。

「…轟 焦凍だ」
「あ、みょうじなまえです。」

ん、と彼は一言言って前を向き黒板をボーッと見つめて居た。

んんー、無口君だな?ま、うるさいよりはいいか。

コチコチと時計の音と、飯田くんの声がやかましい教室はチラホラと登校して来たクラスメイト達で満たされて来る。

21人のクラス、私は机の列からポツンと1人、飛び出している。
隣は居ない、窓の外を眺める。
前の席の八百万さんは、カバンから本を取り出し読んでいる。
斜め前の轟くんも、静かに前を見据えている。

「(静かな人の近くでよかったー)」
そう、思った。

同年代の子は、苦手だ…どう接していいかわからないから…。


近くの席同士の子で各々挨拶を済ませてる、その中でも飯田くんは相変わらず来る人来る人に絡みに行っていて…コミュ力の塊かよ…とぶっちゃけ引いた。

そんな時、一際大きな音を立てて教室のドアがガラガラ!と響き、ふとドアに目をやれば…

「(うわぁ…絵に描いたようなヤンキー…)」

薄い、ミルクティー色のツンツン頭に着崩した制服。しかも腰パン。
そしてその目つきの悪さよ…。

ヤベーやつ来たーと口を少し尖らせてそちらを見やれば、ヤンキーくんは在ろう事か無造作に席に着いたかと思ったらその足を机に上げ踏ん反り返っている。

「…まじか、こいつ…」
ポソッとつい声に出してしまった。

「そこの君!!!!!」
まぁ、そんなヤンキーくんを見過ごす訳もないくらい真面目そうな飯田くんが早速注意しにヤンキーくんの元へ向かい

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や、机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよてめーどこ中だよ端役が!」

いやマジかこいつやべーな!と少しプッと吹き出して笑ってしまっった。
ヤンキーくんと飯田くんが言い争い、飯田くんが本当にヒーロー志望か君は!と言った言葉にさらに笑いのツボを突かれた。

プククと笑いを堪えていれば、教室のドアの所に入試の時のボロボロくんを見つけた。
飯田くんもその彼を見つけたようで、ヤンキーくんに絡むのを辞めてボロボロくんに自己紹介をしに絡みに行って、ボロボロくんが「聞いてたよ!僕は緑谷…」と彼は緑谷くんと言うらしい。

飯田くんが緑谷くんに入試の時のあれは…と話しているとヤンキーくんが「…デク」とポツリと言ったのが聞こえた。

…デク…?木偶?

「あ!そのモサモサ頭は!!地味めの!」
そう言って少し慌てたように入ってきた女の子で、このクラス全員揃った。

ガイダンスはどんなのかな、先生はどんな人かな、と緊張しつつも楽しそうに話す彼女に緑谷くんは変な照れ方をしていてちょっと面白い。

その時、廊下から気怠げな声が聞こえた。
「お友達ごっこがしたいなら他所いけ…ここはヒーロー科だぞ。」

ズモモと、朝ぶりの相澤先生がなぜか寝袋を脱ぎながら現れた…。なにしてんすか、あんた…。

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね。」

ヌーっと先生は寝袋を脱いで「相澤 消太だ、よろしくね」と簡単に自己紹介をし、寝袋に手を突っ込みゴソゴソと中から体操着を出し。

「早速だけど、コレ着てグランドへ出ろ。」と突拍子も無い事を言った。


先生…自由かよ…。







「「「個性把握テストォ!?」」」

は、はあ…。
体操着に着替えてグランドに出てみれば、これから体力テストをおっぱじめるときた!

にゅ、入学式、しなくてええのん…?と疑問に思えば入試の時にゲロしてた子が先生に同じ事を聞いていて、どうやらこの学校。
校風は“自由”だが、それは教師陣も然りらしい…まじかよ。

相澤先生は、個性禁止の平均を取るためだけの小中学校での体力テストは合理的じゃない、と言い。ヤンキーくんもとい爆豪くんに中学の時のボール投げの記録を聞き、それに彼が答えれば「じゃあ個性ありでやってみろ、思いっきりな」と言った。

ボール投げの円の中に入った爆豪くんは肩のストレッチを軽くした後
「んじゃまぁ」と大きくその腕を振りかぶり…




「死ねえ!!!!!」
BOOOOOM!!

…なにか…爆発させながらボールを投げた…投げ…?

(((……死ね?)))

「え?やば、ボール殺された?」
「ブッ!!!」
「え?」

つい思った事を口に出せば、隣に居た前下がりボブの子が思いっきり吹き出してて
思わずその子を見れば
「あ、あんた…ツボるわ…っはぁ、ウチ耳郎 響香。アンタは?」
「みょうじなまえ」
「ん、みょうじね宜しく。ってか、アイツやばいね」
そう言って耳郎さんは爆豪くんを見てヒーローって顔じゃないよね、と言って苦笑いしてた。

たしかに、あれはヒーロの顔じゃないな…でも…
「…あの個性いいな」
「え?何か言った?」

「んーん、なんでも。」

そう言って、私は少しルンルン気分で先生の“最下位は除籍処分”と言った入学早々の個性把握テストとやらを受けるのであった。





まずは爆豪くんの個性頂きぃ〜