3君の個性はなんですか

個性把握テスト。
ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈…以上9種目を個性の使用可として行う。

そしてその記録を総合して最下位は除籍。

理不尽だ、と言うクラスメイト達に対して先生は“日本は理不尽に塗れている”と言った。

理不尽…そうだね、世界は…優しくない。

プルスウルトラ、全力で乗り越えて来い。と言った先生、相澤先生…乗り越えた先には私の望む未来はありますか…?







「みょうじ!だっけ、お前の個性ってなんなんだ!?」
「私も気になったー!!!テレポーテーション?50m走で0.5秒って!」
「でも握力では計測器壊れてたぞ!怪力じゃねぇのか!?」


無事?体力テストも終わり制服に着替えてクラスに戻れば、あー!!と私を指差し叫んだ芦戸さんを皮切りにワラワラとみんな集まってきて個性はなに??と質問責めにあってしまった。

「みなさん!いっぺんに詰め寄ってしまってはみょうじさんが困ってしまいますわ!
…でも、わたくしも気になりましたの、みょうじさんの個性…複合個性にしても、まるでいくつも個性を持っているみたいでしたわ…」

八百万さんが首を傾げれば、流石にそれはあり得ないだろー!と上鳴くんが言って、でもよー!とまた誰かが続けた。

そうだよねー、初見殺しもいいとこだしね…さて、なんで説明するかなぁ〜。と思考を巡らせていれば先程のテスト中からやたらイライラとしていた爆豪くんがガタンッと椅子から荒々しく立ち上がりウゼエ、と言いながらドアがある私のほうへと向かってきた。

「ハッ、精々コピー系とかだろ珍しくもなんともねぇだろうがクソモブどもが」
邪魔だ、どけ。と私の肩に少し体をぶつけてきた爆豪くん。
は?なにこいつ、まじで。


「…ほぉー、まぁ強ち間違いでもないかも。ただのブチギレヤンキーかと思ったけど、雄英に来るだけあって頭はちゃんと機能してたんだー」
「…あ?」

テメ今なんつった。と爆豪くんが私の胸ぐらを掴むと周りの男子達が女子相手になにやってんだ爆豪!と彼を引き離そうとしたがお互いにメンチきりあってバッチバチな私達。

「ねぇ、シワんなる。離して」
「てめぇ、なめてんのかコラ、あ?」
プスプスと空いている方の手を軽く爆発させながら爆豪くんは私を睨みつけその目を釣り上げる。

「アンタさぁ、さっきから思ってたけど…何にそんなイラついてんの?みっともないからやめた方がいいよ、派手な個性持って自分以外は格下とでも思ってんの?周り見てみなよ、アンタよりすごい個性持ったやつが集まってんのがココだよ。」
ヒーロー舐めてんの?と吐き捨てれば「みょうじも挑発すんな!」と切島くんが私たちの間に割って入ってきた。

しかし爆豪くんは切島くんを跳ね除け再度私に掴みかかってきた
「テメェ、オモテ出ろや…ブッ殺す…!」

「あ?やんの?言っとくけどアンタじゃ私に勝てないと思うけど。」
そう言って爆豪くんの胸ぐらを掴んでやれば後ろのドアが開き、ええええー!!!??と驚く声が聞こえた

「か、か、かかかっちゃん!!??なにしてんの!!!!?」
女子と喧嘩してるー!!!!と、緑谷くんがオロオロしながら入ってきた。

「っるせぇ!デクこらテメェ!!!クソナードが!オメェも気に食わねぇんだよ!ずっと俺を、BOOOM!!!…っはっ!?」

「うるさいのはアンタなんだけど。」

「…え、今…かっちゃんの…」
「テメェ…何勝手に人の個性コピーしてんだ…ああ?」

ぱすぱすと小さな爆破を数回繰り出し、うん、やっぱこれ使えるね。と口角を上げニヤリとしながら爆豪くんを見つめて言った。

「“コピー”じゃなくて“記録”したの。私の個性は記録媒体、見たもの全てを脳内に記録できる。それは他人の個性も例外じゃない…、つまり今日、みんなの個性全部貰っちゃった。」

「「「…っ!?」」」
「…てんめぇ!!ナメくさるのも大概に…っ!?…なっ!!!?」

「だから、”みんなの”、”全部”貰っちゃった。って言ったじゃん?」

ふわふわと髪の毛を逆だたせて爆豪くんを見れば。
ツー、と彼の額から汗が垂れるのがわかった。

「みょうじ…さん…え、それ…相澤先生の…」

「そ。だから無駄だよ、ばっちゃん?…あれ?かっちゃんだっけ?」

「〜〜〜っっ殺す!!!!!」

わぁあああ!まてまてまて!!と男の子達総出で爆豪くんを私から引き離せば、女の子達も私の身をガシッと掴んで爆豪くんから引き離す、

アンタ何考えてんの!?と耳郎さんに言われたので
「アイツの態度が気に食わなかったからバキバキの自尊心へし折ってやりたくなった。」

そう、しれっと吐き出せば誰かがコイツ、ヤベェやつだ…と言った声が聞こえた。

「ッチ!!!やってらんねぇ!!テメ覚えてろ!クソ団子!!!」
「あ!おい!爆豪!」

ビシャン!!と派手にドアを叩きつけるように閉めて爆豪くんは教室を去っていった。

クソ団子って…、あぁ、お団子ヘアーだから?
え?ネーミングセンスやば…!

「はは…みょうじ、お前見かけによらず…性格悪ぃー…」
「は?ケンカ売ってる?買うけど。」

「ちょっ、ちょ、まてまて、なんでそうケンカっ早いんだよっ」おちつけ?な?
そう言って切島くんが肩をポンポン叩いてきて、上鳴くんは「いやごめんって」と平謝りしてきた。










「つーか、みょうじ。記録の個性って…え?容量とかあんの?」
「んー、今んとこないかなー?4歳の頃個性が発現してからの記憶全部残ってるし。」

…チートかよ。と峰田くんが顔を引攣らせれば
切島くんがもしかして先生の個性使ったみたいにプロヒーローの個性も使えんの?と聞いてきたので「うんテレビで見た」と言えば

上鳴くんがボソリと

「…1人オールスター感謝祭…。」と言って、その一言にブハァ!!と吹き出し確かに!!そうだね!!1人でオールスターだわ!!うける!
と、バシバシ上鳴くんの背をシバいた。

先程まで少しピリついた雰囲気は和らぎ、そろそろ帰るかーと何人かが教室を出る。
またねー、あしたねー、と各々挨拶を交わし私も机から鞄を取り帰るかなぁー。と思っていれば上鳴くんが「みょうじー」と声をかけてきた。

「なぁなぁ、帰り何人かで飯行くけどみょうじもどう?」
「んーー?…うーん、や。ちょっと寄るところあるから、またこんどね!」

そっかー、と残念そうに上鳴くんは言い
また今度行こうな!お前おもしれぇからもっと話してみてぇし!またな!とニコニコ笑って切島くん達の方へ去っていった。



「って!!あああ!ちょっとまってえぇえ!」
「…うおぁ!どどどうした!?みょうじ!え?やっぱ一緒いく?」

ちがう!そうじゃなくって!と慌てて教室から出てすぐの所にいた上鳴くんにガシっとしがみつき職員室まで私を連れてってぇ…!と泣きついた。

お、おお?と狼狽える上鳴くん達。
「…わたし、方向音痴なの…!超迷子になるの!助けて!ヒーロー!」

「えええ?お前記憶力いいんじゃねぇのかよ!!」
「それとこれとは別なのー!誰も私を1人にしないで!自分でも引くくらい方向音痴なの!」

ええーーー…!と上鳴くんと切島くんが私のあまりの剣幕にドン引きしているのが分かるが、気にしている場合じゃない、まじで!頼むぜ!!と両手をバチンと顔の前に合わせてお願いすれば驚きながらも清くお願いを受け入れてくれて、とりあえず俺が連れてってやるからお前ら先に校門んとこで待ってて!と上鳴くんが案内役を買って出てくれた。

「ありがたやー!恩に着るぜ!いつか返す!多分。」
「多分かよ!!…みょうじ…ほんとおまえ、色々予想外すぎるぜ…」

しかしそれもまたギャップ萌えと言うやつなのか…とボソボソひとり言を言ってる上鳴くんに連れられて私は無事に職員室へとたどり着くことができた。




手間かけてすまないな!助かった!また明日ね、と上鳴くんにお礼をして私は職員室のドアを開け
「失礼しまーす、1-Aみょうじです。相澤先生いらっしゃいますかー?」と聞けば視界の端で黒い袖がひょいと上がり「みょうじ、こっちだ」と相澤先生の頭がひょこっと見えた。


体力測定の後、先生は放課後にちょっと顔出せ。と言っていたので私は職員室へと出向いたわけだが。
なにか御用で?と先生に伺えばまさかの校長との面談があると言われ、え?いきなり?と驚いていれば、相澤先生の足元でにぴょんっと服を着たネズミ?さんが跳ねた。


あ、この人…いや、人じゃねぇか。


「やあ!久しぶりだね!稲荷さんの時以来かな?」
もうあれから2年も経ったんだねぇ…と喋るネズミさんは祖母の葬式の時に見かけたネズミさんだった。
因みに“稲荷さん”とはばーちゃんの名前だ。

「根津校長…場所を。」
あ、校長ってこのネズミさんなんだ…

場所を変えようと先生が言い、じゃあ校長室へ行こうか。と私と根津校長は校長室へと向かった。




「ささ、座りたまえ。今お茶を用意するからね!」
「あ、お気遣いありがとうございます、失礼します」
そう言ってソファーに座った私の前にカチャンとティーカップが置かれ、ふわふわと湯気が出ている紅茶のいい香りが鼻腔をくすぐった。

「さて…雄英高校はどうかな?入試では完璧な成績をおさめていたね。昔の君を思い出すと、感慨深いものがあるよ」
「…まだ、初日なので何とも言えませんが…日々精進していこうと思っています。ただ、何と言いますが、雄英高校から入学の打診を頂いた時は、正直私監視されるんだなって思いました。」

「はは!手厳しいね君は。…そうだね、君の個性は云わば脅威になりうるからねぇ。国も、ココに在籍するなら、と手を引いてもらったわけさ!」
「ちょっと嫌みのつもりで言ったんですけど、結構正直におっしゃるんですね。」

校長先生によれば、義務教育課程が終わると同時に私は国の管轄下に置かれるという話が出たと聞いた。
まぁ、予想はできて居た事だし、ばーちゃんに引き取られた頃から私の動向や精神状態などを毎日記録した報告書のようなものを、どこかの機関へ出している事は知っていたし。

チヨさんが後見人としてその作業を引き続き亡きばーちゃんの代わりに行っていた事も知っていた。
国はどうしても私の事を監視したいようだ。

そりゃぁ、そうだよね。だってこんな個性が敵側にでも着いた日にゃ、世界征服なんて簡単にできちゃいそうだしねー。と他人事のように私は考えていた。

そんな脅威になりうる私をみすみす目の届かない場所へ置くくらいならプロのヒーローが講師として在籍している“雄英高校”といった箱庭に私を閉じ込めていた方が安心だろう。

「…私って、信用されてないなぁ…担任が個性を抹消できる相澤先生なのも、万が一に備えての事でしょう?」
「はは、君は…たとえるなら、そうだね。潤うことの無い乾いたスポンジの様だ。」

…はぐらかしたな…。


あれも、これも、すべて吸収していってしまう真っ白な子だね。と校長先生は言ったけれど、私はそれを否定した。

「真っ白…ではないですよ。私は、すべてを吸収してしまう“黒色”」
「黒、かい?」

それは、あまりいい方には捉えてもらえないよ?と校長先生はコクリと紅茶を一口飲み、ティーカップを置いて私を真っ直ぐとその小さな瞳で見つめてきた。

「はい、黒色です。だから、大人達が私をいくら恐れていようが構いませんが。私は何にも染まらない。
祖母に、恥じる事なんて絶対にしない。私は、黒色。闇にも染まる事は絶体に無いですから。」

だから、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。と校長先生を見てニコリと笑った。

「まいったね、これは一本取られてしまったよ!君って子は…本当に…!流石稲荷さんのお孫さんなだけあるね!
僕はね、あの日からずっと君の事を気にしていたんだ、あの全てに絶望してしまったかのような目は…今でも忘れられなかった。しかしそんな事も杞憂だったようだ!君はきっと、素晴らしいヒーローになるだろう!」

ぱあぁっと、手放しでその小さな体をソファーの上に立たせ校長先生は私に、世界に君と言う存在を刻み込もう!と言ってくれた。

「ようこそ!雄英へ!今日からココが君のヒーローアカデミアだ!最高峰の教師とカリキュラムを用意していくつもの困難を君にぶつけていくだろう!それを全て、乗り越えた先はきっと君にとって光に満ちた世界が待っているよ!」

プルスウルトラ!雄英は、何があっても君の味方さ!

「…校長先生、私…絶対世界に認めさせる。だから…」
頑張ります、よろしくお願いします!と、先生の小さな手を握った。

「でも、あれだね。直ぐに頭に血が上っちゃうのは、稲荷さん譲りなのかな?」
気をつけようね!HAHAHAと笑う校長先生に苦笑いしかできなかった。

ぜ、善処しまぁす。



教室でのあれ見てたんか…?