捕まる雑魚

「あーあー、ったく、傷残っちまうな…」
「は…はひ…」

ふわっと掻き上げられた前髪、そーちょーの細くて大きな手が…、か、顔が…、ちかぃぃ…っっ

先日、そーちょーから発せられたトンデモ発言にびっくりしてしまうどころの騒ぎではないくらいに動揺した結果わたしは考えるのすら放棄してしまって卒倒の後、おでこを盛大にテーブルの角とこんにちはしてしまった様で。
ぱっくりと、そりゃぁ、もうぱっくりとおでこの生え際辺りを数針縫う怪我をしまして…、
気が付いたのは医務室にて。
ドクターがとても楽しそうなお顔で「やったわねぇ〜、ミロ」とにっこにこに言うもんですからわたしは一瞬なんのことやら?と疑問を浮かべればドクターの後ろからひょこっと顔を覗かせたそーちょー…。

ええ…、それはもう、脱兎のごとくとは言ったものですね。

はい。迷わず逃げました。





あれから数日、わたしは大好きなはずのそーちょーの髪の毛一本すらも見れなくて…、だ、だってぇ…未だにあの出来事は夢だったのでは…??と思うのです!、いえ!思いたいです!!
あれは夢、アレは夢…、と自らに言い聞かせるようにおでこに貼られた大きなガーゼに時たま現実に引き戻されかけますけれど…そうでもしないとわたし…無理ですぅーー!!!!

どうにかこうにかまるでそーちょーを避けるかの如くこの数日を過ごしてまいりましたが…流石総長と言うべきでしょうか…はひぃ…今日も今日とて、そーちょーの生活リズムを把握しておりますミロはそーちょーが絶対この時間にはいない!だろう時を狙って食堂へと向かいましたのに…!!


「よぉー、ミロ。随分と久しいなぁ〜?んん〜??」


食堂の…一番奥の…一番隅っこの…わたしのお気に入りの定位置に…、そーちょーが長いおみ足を優雅に組んで…座ってらっしゃいました…。

コーヒー片手ににこやかにこちらを見て微笑まれるそーちょー…あぁ…本日も大変麗しゅうございます…けれども…できればお会いしたくありませんでした…。

ひっ、と口の端が引きつりまして、ふと、そーちょーがお着きになられてるテーブルを見ればいつもわたしとテーブルを囲んでお食事をする面々が…何故か青ざめた表情で下をうつ向いていまして…。

「……ミロ、すまん。俺ァ頭蓋骨を割られたくねぇ…。」
「アンタほんと勘弁してよ…この数日間…生きた心地がしなかったわ…」

「ひぇ…、シャロンさん…ミカさん…」

まさに、ズーーーンって感じのお二人と向かい合う形でいつもわたしが座る椅子へと掛けていらっしゃるそーちょー…。
え…笑顔が…大変…素敵ですのに…、どこか背筋の凍るような恐怖を感じるのは何故でしょうか…!

もはや条件反射の様に、ぐるん!!と踵を返して頭の中では「退避ー!!退避ーー!!!」と小さな兵隊さん達が号令を出しまして、従う様に駆け出せば問答無用で絞まる首。

「っぐべぁっっ!!!」
「おいおい連れないなミロ〜?久々に顔合わせたってのに。ほぅら、おまえの大好きな俺だぞ〜?ちょぉーっと、お部屋に行こうか?な?ミロ」

ぎゅぅううっと握られましたお洋服のフード…、ええ、めちゃくちゃ鷲掴みされてますので首が絞まること絞まること…。
そのままそーちょーに首根っこ掴まれる様にして引きずられたわたし。
シャロンさんとミカさんが、そ…っと、合掌して私に頭を垂れましたのがなんとも絶望的で…。

「ぅ、っぐぅ、そ、そーちょ、わたくし、っほほほんじつは任務がありまして…!」
「あ?お前が今日1日待機組って事はもう調べついてんだよ。嘘は良くないな?ミロ?」
「っひ…!!」
「あーあー、おまえは俺に嘘までつくようになっちまったのかー。あーあー。」

躾なおすかぁ?、と…おっしゃったそのにこやかなお顔はとても恐ろしい物でした…。
あぁ…、コアラちゃん…助けてぇ…。








そーちょーのお部屋、ふかふかなベッドの上にて問答無用に引っ掴まれていましたフードを軸にブゥウン!!と投げられまして。ぼよーんと跳ねたわたしに覆いかぶさるは麗しのそーちょー。

にげられない…!!これは、逃げられないやつですねぇ!!、と顔を引きつらせていればそーちょーは私の前髪を掻き上げてからおでこに貼られたガーゼをぺりぺりと剥がして、傷の様子を伺うようにしてこの傷は痕に残りそうだ、と。

幸い、生え際の辺りですし、まぁ…今更、傷痕の一つや二つ増えましても…と思っていたわたしに、そーちょーは「顔に傷なんて作りやがって、」と、少しだけ呆れの中に困ったような表情を浮かべて、お、お顔が、とても近っ…っ、とばくばくと胸骨をぶち破ってくるのでは?と思うくらい煩いわたしの心臓。

ちょん、と触れた鼻先に…、そーちょーの、わたしのおでこの傷を見ていた瞳がぱちりと目が合い、そして視線は下へ…、

「、ん、ぅ…っ」

わたしの唇へと向けられた視線は、その…とても色気に溢れておりまして…、流す様に少し閉じられた瞳に、くい、とお顔を傾けたそーちょーの愛おしむような口づけにわたしは身体が硬直しました。


ちゅぅ、ちゅく、と。溶けてしまうのではないかと思うくらいの口づけ。
前髪を掻き上げていた手は、わたしの髪を撫でてから後頭部に回されて、もう片方の手は背中の方に差し込まれまして、逃がさないとばかりにそーちょーはその身をわたしの両足の間に…、
唇を食まれるようなキスは、ぺろ、とそーちょーの舌がわたしの口をこじ開ける様にしてこそばゆくも舌先に込められた力で口を割られればぬるりと這う感触、そして口内で掴まってしまう舌は、そーちょーに触れてぴくんとして。
少し跳ねてしまった腰元を、そーちょーはわたしの舌をからめとりながらも「ふふ、」と鼻から抜ける声で笑いとばしてするりと一撫で。
探る様にして腰元のお洋服の裾から入り込むそーちょーの手は、パーカー、そして中のニット、インナーをするすると順番にたくし上げて…、そわそわと…まるで擽るみたいに指先で撫でられる腰骨、尾てい骨の上あたりに、なにかゾクリと背筋をはしった感覚に、ずっとそーちょーが右へ左へと合わせる口元を変えながら食まれるその隙間から洩れてしまうわたしのだらしのない声に、さらに機嫌を良くされたそーちょーは背中に差し込まれた手を上に、上にと…、

「ぁ、っ、ら、らめ…、んんっ、ん、んっ、」

ぷちん、と外された下着の留め具に、ふわっと解放感に晒された胸元…するすると服の中を這って背中からお腹の方へと回って来た手がお洋服をたくし上げるみたいにしてわたしの胸を下から掬い上げる様に包むそーちょーの手に、お腹がそわそわむずむずして、切なくて…割り開かれてた両足でそーちょーの身を挟み込むみたいにしてしまえば、口の中をとろとろにしてしまいそうなそーちょーの舌先が上あご辺りをつつつ、とゆっくり舐められるのがとても堪らなくて、そーちょーに恐れ多くもしがみつくように両足は閉じようとするものですから…、

「ん、…、ミロ、お腹しくしくするの…?」
「ふぁ、ぁ…、そぉちょ…、だめ、やめて…ください、」
「…なんで?やめてほしい割には、おまえ俺の事離そうとしないな?」

ほら、おまえの脚に閉じ込められちゃったよ?、と、ええ、全く仰る通りで…!
「あ、わっ、ご、ごめんなさっ…!ひゃんっっ!」
「っと、逃げんなって。イイことしようなぁミロー」

今日は俺も待機なんだぁ、

そう言って、そーちょーは不敵な笑みを浮かべながらグイっとお洋服の裾を首元まで捲りあげて、それは下着をも巻き込んでぷるんとさらけ出された上半身に恥ずかしさでどうにかなりそうなのに、そーちょーはその麗しいお顔でただでさえ脳みそが溶けてしまいそうなほど素敵なご尊顔ですのに…そーちょー…それは…いけません…っ!


ふんふんとどこか楽し気に、そしていたずらっ子の様な表情で片手でわたしの胸を揉みしだきながら口元でもう片方の手に嵌められたグローブの指先を引っ張り噛んでするっと外して、そのグローブを外された方の手が…直に、わたしの胸元を弄るようにされて、今度は反対の手も、同じように…。

情欲的で、とても…、それはいけません…そうちょぉ…、


「ぁっ、ぁ…そーちょー…だめです…、やめて…下さいっ、ん、」
「……だめ。やめないし、…つーかミロ俺のことばっちり避けてたよな?あっちこっち逃げ回りやがって、ったくよぉ、やっと捕まえたんだからもう観念しろ。」

「ひっ、ん、っ…っ、ば、罰は受けますからぁっ、…もうこういった事はぁ、っぁ…やめ、て…下さい、っ」

こんな、こんな、どうにかなってしまいそうです、!
またあの日の様にそーちょーに溶かされてしまってはミロはもうおかしくなってしまいそうで、勘違いしてしまいそうで…、

「こ、んなっ…っ、わたし、う、自惚れてしまいます…っ、勘違いしてしまいそうで、っ身の程知らずにも程がありますのに…、っ」
「は?…勘違いも何も、いいじゃん、俺達付き合ってんだし」
「……え?ぇえ??、わ、わたしと…、そーちょーが…?そんな…ばかなぁっ」
「…おまえ…、え?…俺の事好き、なんだろ??」

「そりゃぁ、もちろん。そーちょーの事はこの世の誰よりもどれよりも大好きで大好きでわたしの生きる全てですけれども!!
そ、そんな、おおおおおおお付き合いだなんて!!!!!おおおおお恐れ多くて!!わっ、わたくしは!!そーちょーをお慕いできればそれ以上の事は望みませんのでぇ!こんな何の役にも立てませんがらんどうな頭で大した取り柄も品も無い様なわたしよりも、っそーちょーにはもっと素敵な女性が…っあぁっ」

きゅぅっ、と押しつぶされるみたいに摘ままれた胸の先にビクンと跳ねる身体、え?え?って驚く間もなくきゅぅきゅぅと押しつぶしては指の腹で捏ねるようにして、そーちょーは険しい顔でわたしを見降ろして、目を細めては溜息一つ。

「ぅぅんっ、ぁ、やっ…ぁっ」
「はぁー…、ミロ…。”俺の女な”、って言ったじゃん。口で言ってもわかんねぇの?じゃぁ、俺の事…大好きな身体になろうか?」

な?、そうしたらもう逃げない?、と…言うそーちょー。

「俺はミロが大好きなんだけどなぁ…、どうすんの?責任、とってくんねぇとコレ…」

俺のココ、ミロが大好きすぎてこんなになっちゃったよ…?

そう言って、わたしの手を取って引かれた先…、

「……っっ、そ、ちょ…、」
「ほら、頑張ったらおまえから取り上げてたおまえのお宝とやら…返してやらないことも無いよ。おまえが知らない俺、いっぱい教えてやるからなぁ」




雲の上の存在だと、わたしとは住む世界の違う御方だと…、そう思っていたそーちょーが。

わたしで…、わたしの、身体で…興奮していらっしゃる、と、思うだけで。


お腹の奥がしくしくと、
初めてそーちょーに溶かされてしまった日の事を思い出してしまって、ぐに、っと押し当てられたそーちょーのお膝に、わたしのはしたない所がぐしゅ…、と。




午前中の、こんな明るい部屋の中で…、身体、見られたくないのに…って思うわたしをそーちょーはお布団被って二人だけの切り離された空間かと思うくらいに、そーちょーの香りに包まれてわたしはまた駄目にされました。
































「……ぅ、ぅぅっ…そーちょーは…ぅぅっ、わたしをどうなされたいのか…また…こんな…あぁ…」
「だーかーらー。どーもこーも、俺はミロを俺だけのものにしたい。それじゃだめなの?」
「ご、ご命令とあれば…いえ、ご命令でなくても、ミロは…そーちょーの為にこの身を投げうってでも盾になる心積もりでありますので…、そーちょーだけの、ミロでありますが…しかし、こ、こういった…、その…コトは…、そ、そーちょーがわたしには”不向き”だと仰ったではありませんかぁ…っ」

まるでダメにされていくみたいで、あんまりですっ!!
うわーーん!
喉もカラカラで、腰も痛くて…一糸まとわぬ姿にされてしまって、恥ずかしいやらなんやらでお布団を頭からかぶってお饅頭みたいに中に籠れば、ギシ、とベッドの縁に腰掛けていたそーちょーが身じろぐ気配。

わたしだって、出来る事ならばそーちょーを独り占めにしてしまいたい!と、欲が出てまいりまして、でもそんなのダメだ、って自分に言い聞かせておりましたのに…こんな風に…や、優しくされてしまわれると…もう、無理です。

「…影になりたい…消えてしまいたい…」
「おまえ…めんどくせぇな。おまえは俺が好き、俺も…まぁ、不本意だが…お前を他の野郎にやるくらいなら俺のものにしたい。それでいいじゃねぇか。つまり…なんだ…俺も、おまえが…」
「気のせいです。」
「……あ?」

気のせいです、と、そーちょーの言葉に被せるように不躾にも言葉を発すれば流れる沈黙。

「気の迷いです。そーちょーにはもっと素敵な方がお似合いです。わたしなんて…、こんな、ご覧になりましたでしょう…?こんな…、傷だらけで汚い身体で…、学も無ければ品も無いです。わたしは貴方とは到底釣り合わないです…。そーちょーの、ご命令とあれば…ミロは何でも致しましょう…、しかし…、そーちょ…総長と肩を並べるほど…わたしは自分が総長にふさわしい人間とは到底思えません。」

お布団の中、ぎゅぅと自分の身を抱き込むみたいに丸まってそーちょーの気持ちを頂いても、嬉しいはずなのに喜べない自分が居て。
総長を独り占めにしたい、総長が好き、素敵な方と添い遂げてほしいと思う反面なにか黒い物がもやもやする自分が嫌で、なんてわたしは卑しい人間なんだ…とますます自分が嫌いになっていくようで、このままじゃ、ダメだ…と、
総長に、こんな風に絆されてしまったら…戻れない所まで行ってしまいそうでとても怖かった。


「おまえ、それ本気で言ってんの、」
「……ほんきで、っきゃぁっ」

バサッ!とはぎ取られたお布団。
見えたそーちょーは、恐ろしいくらいに怒りの籠った眼差しでグイっと掴まれた腕は痛みを伴う程にベッドへと押し付けられてしまって。
ひぅっと鳴った喉の奥、目を細めて…わたしを見下ろす瞳は静かに怒りが込められていて…、

「ミロ、おまえやっぱ最近生意気だな、随分と言う様になったじゃん。…なぁ、何でも…命令すれば聞いてくれるって言ったよな、じゃぁ、もっと、もっと俺に溺れろよ。ミロ…もっと、俺だけしか考えられないくらいになれよ…なぁ、ミロ、何でも、聞いてくれるんだろう?」
「ぁ…ひっ、…」

ぢゅぅっ、と強く吸い付かれた喉元と…、左胸の、心臓の辺り…。
顔をそろりと上げたそーちょーの表情はとても満足げに、でもどこか恐ろしさをも潜ませた顔でわたしを覗き込む様にして近寄って来て、溺れてしまいそうな口づけを…少し乱暴に。
両手は顔の横に左右押し付けられてしまって、あ…食べられちゃう、と…、獰猛な肉食獣を前にして怯えるだけの草食動物になったような気分でした。


「っはぁ、…ミロ、おまえには…うん、何か、”色々”と…教え込んだ方がよさそうだな?」
「ぁ、あ…そーちょ…、だ、だめです…っ」
「ダメじゃない。俺はお前がいい。…ああ、そうだ。おまえよく、うっかり力加減間違えて怪我させちゃうとか言ってこの両手、縛って下さいー、って言うよな?」

お望み通り、縛ってやる。

そう言って、そーちょーは解いて傍に無造作に置かれたいつも素敵に巻いてらっしゃるスカーフでわたしの両手を頭の上で一括りにしたかと思えば、
布地が切れてしまうのではないか、と思う程にきつく…きつく縛り付けられてしまって。


「……ミロ、好きだよ。」

「…っ、」


好きだよ、好き…ミロ、好き。






大好きなそーちょーの口から漏れる、まるで依存性の高いお薬の様な言葉…。



ぎしっ、ぎしっ、ってベッドが軋む中、そーちょーは深く…深く、わたしの身体にそーちょーの存在を覚えさせるみたいに、刻み込むみたいにして行われる行為に…あぁ…、これは…こんな、この傷だらけで見苦しい身体を恍惚に満ちた表情で弄るそーちょーの手は…存在は…



この消えることの無い傷痕のどれよりも深く、濃く、刻まれてしまう。


そう、思いました。







総長が好き。

大好き。



戻れなくなってしまった時に、突き放されてしまったら…わたしはちゃんと…生きていけるのか…
それだけが怖くて…。




目を強く閉じて恐ろしいまでに襲い掛かってくる、頭の中全てを溶かしてしまう感覚に耐えていれば。

「っ、はっ、ミロ、だめ…だろ、?ほら、ちゃんと目、開けて。俺だけ見てて、」



涙で滲む視界の中、そーちょーを目に映せば
そーちょーは「うん、いい子だね。ミロ、」と…。










このままじゃ溺れて息が出来ない。