3食目

「ねぇ。私もナミちゃんやロビンみたいにメロリンされたい。どうすればいいと思う」
「いや知らねーよ」

ココ、サウザンドサニー号地下1階のウソップ工房本部にて定期的に開催されるナナのめんどくせぇサンジ語りに俺は付き合わされているわけだが。

コイツ、まーじでめんどくせぇ。


「いやね、べつにね、あんな目をハートにしてぐるぐるトルネードされたいって訳じゃないの。ただね、私もねサンジの特製おやつが食べたいし。ご飯だってアンタ等と大皿つつくよりもサンジ特製のフルコースが食べたい…うぅっ…なんで…なんでなの…私のチビナス…っあんなに可愛かったのに…っ今じゃ唯の女好きな変態じゃない…っうぅっっ…」


なんで、なんで、とジョッキ片手に泣き上戸へと変貌したナナは。大して酒に強いわけでもなく、そのくせ酒に付き合えって言ってはウソップ様の工房で木箱をテーブルにして酒盛りが始まるんだ。

そして決まってサンジ、サンジ、って何が楽しくて俺はナナのサンジ事情を聴きながら酒を呑まなきゃいけねぇんだか…。しかも毎度内容は決まって”どうすれば私はサンジに女扱いされるのか”ってもう傍から見たらおまえ十分サンジにとっては”トクベツ”なんだから頼むから俺を巻き込むな!!!って言ってやりてぇけどよぉー…。

「おいナナ…もうそこらへんにしとけって。おまえ酒に弱いくせに飲むなって。」
「よわくないもんーー!!おら!!ウソップ!注ぎなさいよ!」
「注げも何もおめぇーまだその2杯目てんで口付けてねぇじゃねぇか!!!並々はいってるわ!」

そんでもって完全にデキ上がってんな!!!?

こりゃぁー今夜もナナのめんどくせぇ泣き上戸に付き合う羽目になるな…って天井を仰ぎ見てからジョッキを煽ってナナを見れば、壁に頭をもたれさて遠くを見つめながらしくしく泣いてた。

「ウソップくんや…私と…他の女子達との…この埋められない差は…なんなんだろうか…」
「………過ごして来た時間…とか?」
「………長く居すぎて寧ろ異性として見られてない…的な…?」
「いや…まぁ…何とも言えねぇが…幼馴染なんだろ?お前ら。その…なんつーか、うん」
「はぁあぁあぁぁ…っっ…無理…私もうこのままじゃサンジの事襲いそう…すき…しんど…」

でっけー溜息。
そんで俺からしたら寧ろ襲ってやった方がサンジも喜ぶんじゃねぇか?って思うも口にはしない。
犬も食わぬなんとやら。

ナナも、サンジもどっからどう見てもお互いを思いやってるのはこの船じゃルフィとチョッパー以外皆知ってる事だ。

サンジも、ナナも、コイツ等はあまり自分の事を多くは語らないタイプだが、見てれば分かるさ。

最初こそあの女なら誰にでもラブハリケーンをしてるサンジがナナへは俺達男共と同じように接する様には凄く驚いたし、思わず俺はナナに「おまえ…実は男でした、とかじゃねぇよな?」って尋ねたくらいだ。そしてめっちゃ蹴り飛ばされた。
チョッパーなんてなにか病気を疑ってたしな。うん。

お互い口を開けばいつもケンカしてる二人、でもある時ふと気づいたんだ。

サンジがナナに向ける表情や、目線が他の誰に向けているものとも違う事に。
その時もしや…?って疑問が湧いて来た時、ナナが酒に酔って千鳥足になりながらこの工房を訪ねてきてアホみたいな事を言ったのをきっかけに俺はいつも無表情で何を考えているのか分からないようで、本音を言えば少し苦手だったナナの本心を見てしまった。

「うそっぷ…好きな相手の心臓を射止める武器…つくって…」

と、

ナナはアホだった。

そしてそれから俺はこのナナの絡み酒に付き合わされるようになって…、合図は決まって夕食後の「ウソップ、ツラかせ」だ。

めんどくせぇ…、めんどくせぇんだよ…

だってよぉ…ナナがそう言って俺を巻き込む時、決まってナナ越しに後ろからサンジのやろーがマジで極寒の地か?って如くブリザード吹き荒れる視線で俺を見てるんだ…、こえーよ…、マジで…、ナナ、おまえはしらねぇだろうが…おまえとのこのサシでの飲みはよ…ウソップ様、命がけなんだわ…。

翌日決まってサンジに探り入れられる身にもなってくれや…、ほんと、お前らめんどくせぇんだよ…!





「ねぇウソップってば!!聞いてる!??」
「へーへー、聞いてますよナナさまー、あれだろ?うんうんわかるわかる」

酔っ払いの相手は適当にあしらうに限るな、って、酒盛りにナナが軽くツマミを作って来てたのに手を伸ばして口に放り込めばこの酔っ払い女はとんでもねぇ爆弾を落としてきやがった。


「じゃぁウソップは私を抱けるって事だよね?ね?私女としてちゃんと魅力あるって事だよね??」
「ブフゥウウーーーーーーーーーーッッッ!!???!おまっ!?はぁあああ!!!????」

おいまてまてまて!!!!なにがどうしてそうなった!!!?????

「なんかウソップだけじゃ信憑性ないからちょっと他の野郎達にも私って女として抱けるか抱けないか確認してくるわ」
「だぁああああああああああ!!!!!!やめろ!!!!!!!やめとけ!!!まじで!!!!!!!!!!待て待て待て!!行くな!そこに座れ!ほら!酒飲んどけ!ほら!!!!」

まじで!!!頼むからバカな事はすんな!!!!!!
何なんだよこの女は!!いみわかんねーよ!!!おま、おま、そんな現場をサンジに見られでもしてみろ!!!アイツの中のブリザードが吹き荒れるぞ!!!もうお前らはやくくっ付けよ!!!頼むから!!!!!!!

ガシっと今にも部屋を出て行きそうなナナの首根っこを掴んで元居た場所に座らせてからもうこれは酔い潰して寝かせた方が早いと踏んだ俺は、半ば無理やり飲ませるようにナナに酒を流し込ませた。

コイツは酒にてんで弱い、一定量飲ませりゃブツンって電源切れるみたいにぐっすりと眠りにつくのに気づいたのはナナの絡み酒に付き合わされ出して間もない頃だ。
あまりにもめんどくさいと毎回こんな感じで酒飲ませて寝かしつけりゃ早々に解放されることを学んだ俺は、なんだかんだ毎回この手を使ってナナから解放される手段を選んでいるわけで…、ただ一つ、問題があるとすればこの酔いつぶれて寝こけた女をこの地下のうすら寒い所に置いて行くわけにも行かねぇし、かといって女部屋に連れてはいるわけにも行かねぇ。

ナミとロビンはとっくに寝静まった頃に始まる酒盛りだからよ…、と、時計を確認してから俺は溜息一つ。


「おめーの王子様とやらにでも引き取ってもらうのがなんだかんだ最善なんだよなぁ…、有難く思えよこの拗らせ女め…」

これが最善の策だ、そしてきっと今頃キッチンで内心気が気じゃないであろう我らがコックはもう直ぐ日付が変わろうとしている時間になってもナナがこの地下から這い上がってくるまで眠りにはつかないのも知っている。

やれやれ、ほんとうに手が焼けるコック達だ。
俺は「よっこいせ」と立ち上がって空になった皿やジョッキを持ってサンジがいるであろうキッチンへと向かうのであった。





















「おーい。サンジー、おめぇの”荷物”をウソップ様の工房から運び出してくれや。」


うっすら明かりがもれていたキッチンのドアを開ければ、案の定サンジが何をする訳でも無くダイニングテーブルに肘付きながら煙草をふかしていて、俺は持って来た皿やジョッキをキッチンの流しに突っ込んで水を掛ければサンジが何か言いたげな目で俺を見て来た。


「………お前ら、中々に謎の組み合わせだよな…。」
「俺もそう思う。おめーがナナ連れて来た時俺はこの女とは気が合いそうにもねぇなって正直思ってた。とりあえず、工房で寝こけてやがるから適当に連れて行ってくれや…俺はもうねみぃよ…」

くぁあ、とでっけーあくびをしながら濡れた手をタオルで軽くふいて、やーっと解放されたぜ、と寝床が恋しいウソップ様は未だになにか探るような視線を送ってくるサンジを尻目にキッチンから出ようとドアに手をかけて、ふ、と、言わなきゃいいのについうっかり余計な事を口走ってしまった。いや、眠さの限界で脳が働かなかったからだな、うん。

ドアの前で、ピタリと立ち止ってサンジに振り向く。

ぼやっとする脳では先ほどナナが口走ったアホな事がリフレインしていて…






「なぁサンジ。おめー、ナナを抱けるか?」

「………は?」

何言ってんだコイツ、と言いたげな表情で呆けに取られたあと、すぐさま鋭くなった目線に俺は
あ、やべ、って我ながら何言ってんだ!?ってちょっと焦った。

「いや、いや違う、おまえが思ってるようなことは無い!断じて!!!!!ナナがアホな事聞いてくるからつい!すまん!忘れてくれ!」
「オイ待てウソップてめぇちょっとツラ貸しやがれ、ナナが、なんだって?あぁ??」

やべー、やべー、ちょっと目が冴えちまった、これは逃げらんねぇやつだ!と、いつだったかナミが言ってた「あの二人見ててイライラするからもうどっか狭い部屋にでも1日閉じ込めておけばやる事やって丸く収まるんじゃないの!?」って言葉が過った俺は、ええいままよ!とサンジに胸倉掴まれている状況でポン、とサンジの両肩に手を置いて言った。



「いや、あの、うん。ナナが自分には女としての魅力が無いのではないか、と相談を受けましてだな。アイツは野郎共に自分を抱けるかどうか、と聞きまわろうとしていたのを僕はしっかりと止めました。ほめてください、先生。」
「……オメェら…いつも何の話してんだよ…」
「ナナさまの人生相談に僕は巻き込まれています。ハッキリ言ってめんどくさいのでサンジくん、何とかしてくれ、頼むから、まじで。」
「おい待て…、ナナが…相談…?アイツが、か…?」

ちょっと信じられない、とでも言いたげな表情で俺を見てくるサンジに、なんかもういいか、と投げやりになって来た俺は、ナナとこうして酒を交わすきっかけとなったあの話を…もうコイツ等はきっと周りが押してやんねぇといつまでたってもお互い思ってる方向は同じはずなのお互いそっぽ向いてる状況を打破してやんねぇとなんないなって。



「サンジ君。ナナさまは。この俺の腕を見込んでとある兵器の開発の相談を持ち掛けて来ているのだよ。」
「あ?兵器って…それならフランキーの野郎に頼めばいいだろ。なんでオマエなんだよ。」
「それは俺もわからん!」

いや威張るところか?

そう言いながらも、サンジはナナも自分と同じように武器を持たない戦闘スタイルなのになんでまた兵器なんて…と疑問を浮かべていて
俺は意を決して、コイツ等の背を押してやろうと思った。




「好きな相手の心臓を射止める武器」
「は?」
「もしくは惚れ薬でも可、とナナは言っていた。」

惚れ薬とか、もはやそれはチョッパーの分野だろ。あの時そう思うもナナは完全に酒でデキあがっていたし、俺も俺でまさかあの鉄仮面なナナがこんなアホみたいな事を言うとは思ってもみなかったから中々衝撃的な経験をしたのでは、と恐らくガキの頃を長年共にしてきたサンジですらあんなナナは見た事ないだろう。それが少し申し訳ないなと思った。
すまねぇ、サンジ…おれはお前の知らないナナを知っている…と、言うか、無理やり見せられてるに近いが。



ハッ、と息を飲む声と、解放される俺の胸倉。

何度か俺の顔を見たり、視線を下げて何か考え込んだりを繰り返したサンジが信じられないと言わんばかりの顔で俺を見ながら口から出た一言に最大にコイツの頭を引っぱたきそうになったわ。




「…アイツ…好きな、野郎が…いるのか…!!?」




いやその野郎はオメェだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!













酔いどれお供の生ハムカナッペ




まじか
まじかよ…
サンジの野郎…洞察力には長けていると思ってたし、何となくナナの気持ちを本当は感じ取ってるんじゃねぇか?ってナミやロビンもアイツ等の恋路に色々と考察をしていたが。

ここにきてこのアホコックはまさかの鈍感を発揮するとは思いもよらなかった。

これはあれだな。
明日はちょっとナミを筆頭に会議をせねばならんな。


一人絶望とショックで今にも真っ白に燃え尽きそうになっているサンジに俺は冷めた目でしか語り掛けれる言葉が見つからなかった。


「ナナ…の…好きな…男…だ、と…ハッ…!!!!アイツ…!!!最近やたらめかし込んでる上に何だか色っぽさも増してるしただでさえ胸倉緩い服着てやがるのに最近余計に胸倉開いた服着てやがるしアイツのふわふわで思わず触りたくなっちまう髪も心なしか艶めいてやがるしうわぁああああ!!!!!誰だ!!ちくしょう!!!!!!まさかテメェじゃねぇだろうなクソっ鼻!!!!!!ただでさえクソ可愛いナナを俺じゃねぇ誰かが女にして行くと思うとクソ!!!クソ!!!!!ミンチにして海にばら撒いてやりてぇ…!!!!!」





いや、おめーだよ。