肆拾参 六人と一匹 in 密室
電話ボックスでいつものように警察に連絡した帰り道。朔はそこで遭遇した浮遊霊に思い切り詰め寄られていた。
「あ! あなた! 私が見えるんですか!? お……お願いします! 私を助けてください!! 一生のお願いですから!」
「一生のお願いって……あんたもう一生終えてるだろ」
朔は慣れたように携帯を耳に当てながら冷静に切り返す。その言葉で冷静になったのか、今にもキスしそうな勢いで朔に詰め寄っていた浮遊霊の男はすみません、と謝りながら距離を取った。
詳しく話を聞いてみると、宅配業者に殺されたうえ、自分の死体がそのトラックに閉じ込められているからなんとかして欲しいとのこと。……思い切り面倒な予感しかしないが、見過ごすわけにもいかない。まずはこの男が言っていることが本当なのか確かめる必要がありそうだ。
「そのトラックってのは……」
「あれです!」
指さした先には『チーター運輸』と書かれた一台のトラック。ちょうど荷台の扉は開いているようだった。近寄って中を覗いてみるとなかなか荷物が多い。
「この中から探すのは骨が折れそうだな……」
「そうですね……見つかっては困るからと、かなり奥の方に積んでましたし」
「じゃあそれは警察に任せた方がよさそうだな」
死体を確認してからにしようかと思ったが、ここまで多いなら話は別だ。耳から携帯を離して110番をタップした途端。首筋にバチリと衝撃が走る。
その衝撃の正体も掴めぬまま、朔は浮遊霊の驚く顔を最後に視界を暗転させた。
***
つんつん、ふにふに。
頬を押されている感覚でゆるりと意識が持ち上がる。
気付けば横たわっていたらしく、床のひんやりとした感触を全身で感じていた。ごうごうと妙に耳障りな音がだんだんはっきりしてくる。ここは一体どこだろうか。
「んぁ……」
ゆっくりと瞼を持ち上げる。すると誰かがこちらを覗き込んでいるのに気づいた。妙に薄暗い空間の中、視界もイマイチ回復していない今の状態でその顔はよく見えない。誰だろうと視界がはっきりするのを待っていると、特徴的な日本語が聞こえてくる。
「なんでこんなトコで寝てるんだい、キミ」
「あれ、大尉……?」
朔の顔を覗き込んでいたのは、あろうことか大尉だった。大尉は肉球を朔に押し付けながら呆れたようにこちらを見下している。その傍にはふよふよと浮遊霊も心配そうな顔をしながら浮いていた。朔はゆっくりと身体を起こそうとして、その身体――足首と手首が縛られていることに気が付く。それと同時にずきりと頭が痛んだ。
「そうだった……俺、この人に頼まれて遺体をこの冷蔵車に探しに来たところで、後ろから誰かに気絶させられてたんだ」
「ヘエ、じゃあ閉じ込められてるヒトってのはキミのことか」
「閉じ込められてる人?」
「この浮遊霊に呼ばれたンだ。ここにヒトが閉じ込められてるからなんとかしてクレって」
「なるほど……」
朔はぐっと腕に力を入れて軽々と拘束を引きちぎる。続いて足首の拘束も解いていたところで大尉は呆れたように言った。
「それにしても、キミが簡単に気絶させられるとはネエ」
「びりっと来たから、多分スタンガンとかじゃねえかな……」
鬼は基本的に身体が丈夫で、地獄で働く朔は人一倍暑さや寒さにも耐性がある。だが電気はまた別だったようだ。未だに痛む首裏のあたりを軽くさする。恐らく朔を気絶させたのは事件の犯人……もとい、配達業者だ。中を見られたと思い、気絶させたのだろう。
拘束を解いてすっかり自由になった朔がさてどうしたものかと考えていると、ふとある事に気付く。
「ところで大尉。その手に引っかかってるその赤い毛糸はなんだ?」
「ン?」
朔の指摘に、大尉はちらりと自身の手を見る。そこには確かに、爪に何やら赤い毛糸が引っかかっているようだった。
「ホントウだ。どこで引っ掛けてキタんだろう……」
ひとりでは取れなさそうだったので、朔が手助けしてやった。大尉は不思議そうにまじまじと今しがたとれたばかりの毛糸を見ている。
すると不意に聞き馴染みのある子どもの声が聞こえてきた。
「大ちゃーん、どこー?」
「あれ、歩美ちゃんの声……」
耳に飛び込んできたのは親しくしている探偵団の少女の声だった。それに続くように他の子どもたちの声もする。どうしたんだろうと思っていると、荷物の向こうからひょっこり少女が顔を覗かせた。
「大ちゃんみつけ……あれ? 朔お兄さん?」
まさか朔がいるとは思っていなかったのだろう。驚いたように目を丸くする。その言葉を聞いた他の子どもたちも驚いたように次々と顔を見せた。
「本当だ」
「なんでこんなところにいるの? 朔兄ちゃん」
「バイトしてんのか?」
「違うよ。これにはちょっと訳があって……というか君たちこそなんでここに?」
まさか浮遊霊に言われるがままトラックに近づいたら気絶させられたのだ、と正直に白状するわけにもいかずそれとなく話を逸らす。すると大尉を抱き上げた哀が理由を説明してくれた。
「この子が私のセーターの毛糸を引っかけたままどこかに行ってしまったから、追いかけてきたのよ」
「なるほど、そういうことだったのか……」
「まったく、人騒がせな猫だぜ」
「本当ですね」
やれやれと息をつく光彦。すっかり猫を被った大尉は知らん顔である。
「それより早く出たほうがいい。ここには――」
――死体があるから。
と言いかけたところで、何やら外の方から話し声が聞こえてきた。どうやら配達員のようだ。扉が開けっ放しであることを注意されている。気を付けろよ、と言いながら配達員はトラックの扉を閉め、ガシャンとロックをかけてしまった。
「ああ! ちょっと!?」
慌てて光彦が声を上げるが、その声は届かなかったらしい。無情にもトラックは発車してしまった。まずいことになったなと朔はため息をつく。事情を知らない彼らは、このまま凍っちゃうの!?と一気に不安がり始めた。そんな子どもたちを落ち着けるようにコナンが冷静に言う。
「本日指定の未配達の荷物が、まだこんなにあるからな。次に業者の人が扉を開けたら出してもらおうぜ」
子どもたちは安心したようにほっと胸を撫でおろした。朔は内心それは難しいだろうな……と考えつつも、決して口には出さない。彼らを必要以上に不安にさせたくはないのだ。
そんな彼らを他所に、浮遊霊の男性はそわそわと辺りを見回している。それに気づいた朔は、子どもたちに気付かれないようにそっと話しかけた。
「どうした?」
「いえ、私の身体は一体どこにあるのかと思いまして……」
「ああ、そういえばそうだったな」
朔はこのトラックに近づいた本来の目的を思い出した。一応それとなく見回してみるが、死体は見当たらない。恐らくこの荷物に紛れ込ませるために、段ボールに入れているのだろう。
そこでふと、ある荷物が目に留まった。ひときわ大きなその妙な荷物に近づき、伝票を確認してみるが何も書かれていなかった。それに角が所々潰れており、とてもこれから配達する荷物とは思えない。恐らくこれだろう。念のため中身を確かめた方がいいかと手をかけたその時、不意にトラックの揺れが収まった。
「止まったぞ!」
嬉しそうに元太が声を上げる。きっとあの人たち驚きますね!なんて言いながら光彦は笑っていた。だがそんな光彦の声を遮るように、哀が鋭く声を上げる。
「駄目! 今出て行ったら許さないわよ!」
その声に驚いたように彼らは揃って後ろを振り向く。時計についたライトで哀を照らすと、コナンは思わず目を丸くした。
「何やってんだオメー、パンツ一丁で」
「セーターの毛糸がどこかに引っかかっちゃって、全部ほつれて持ってかれちゃったのよ! っていうか、照らさないでくれる?」
「おお、悪ィ」
哀に指摘されたコナンはそそくさとライトを消した。そうこうしているうちに、業者のものと思われる足音は近づいてくる。とにかく隠れようと、荷物の奥に身を隠した。ぎい、ときしむ音をたてて扉が開かれ、外の光が差し込んでくる。それと同時に業者の話し声も鮮明に聞こえてきた。
「おい、何してんだ。さっさと配達して来いよ」
「いや、やっぱ中で声がしたような気がしてよ……」
「バーカ、するわけねーだろ」
「だ、だよな」
「早くしろよ」
「ああ……」
次の配達は……と言いながら荷物を探していると、もうひとりの人が配達先の住所と名前を言った。その直後に荷物を見つけたようで、あったあったと言いながら荷物の段ボールを持ち上げる。朔と探偵団の面々は、その様子を荷物の陰からそっと窺っていた。早く行ってくれないだろうかと思っていると、業者のひとりが思わぬことを口にする。
「また玄関先で荷物を落として、顔と名前を覚えてもらって来いよ。大事な証人なんだからな……」
証人、という言葉になるほどと朔は納得する。多分アリバイ工作に配達先の住人を利用しようと企んでいるのだろう。隣のコナンをちらりと見ると、怪しむように小さく眉を寄せている。何かに気付いたのかもしれない。
その間も業者の男たちは色々と話をしているようだ。念のためコンテナの中を調べたほうが、という言葉にどきりとしたが、もうひとりの業者が余計なことをするなと窘める。そして決定的な一言を放った。
「ビビってんじゃねえよ。声なんか出せるわけねえんだからよ」
業者を睨みつける浮遊霊を横目に、朔はそっと目を細める。まだ朔が気を失っていると思っているようだ。コナンもわずかに視線を鋭くする。
どうしたものかと考えているうちに扉は閉められ、再びトラックは走り出してしまった。すると肩を震わせる哀に光彦が上着を脱いで手渡す。
「とりあえず、僕の上着……着ててください」
「ありがとう。助かるわ」
「いえ……」
光彦は照れたように笑う。上着を着たことでようやく外に出られるようになった哀は、寒さに震える元太にもう大丈夫よと笑いかけた。
「でも上着一枚だと心配だな……そうだ、この子を抱いているといい」
朔は近くにいた大尉を抱き上げて哀に渡す。大尉は甘えたように小さくにゃあと鳴いた。ありがとうと哀は礼を言って大尉を受け取る。そしてふと視界の端で、コナンが例の段ボールの中を覗き込んでいるのに気づいた。彼のその表情で朔はすべてを察する。
「じゃあ次に業者の人が扉を開けたら、外に出してもらいましょう!」
「いや、そいつは止めといたほうがいい」
盛り上がる子どもたちを制するように、コナンは低い声で言った。思わぬ横やりに、子どもたちは不思議そうに目を丸くしている。
「どうやら俺たちの前に、もうお客さんが乗ってたようだぜ」
コナンはそう言いながらある荷物の中をライトで照らす。
おそるおそる覗き込むと、予想通り。そこにはひとりの男の死体が入っていた。子どもたちは思わず声を失う。
「……どういう、こと?」
「さあな……この人がどこのだれで、何で殺害されたかはわかんねえけど、やったのは恐らくさっきの宅配業者のふたり組だろうぜ」
「「「ええ!?」」」
「……だろうね」
子どもたちは驚いたように声を上げたが、朔はやれやれと目を細めるだけだった。その様子を見たコナンは意外そうに少し目を丸くする。
「解ってたの?」
「……」
朔はバツが悪そうに視線を逸らす。だがまあ、ここまでくれば白状したほうが早いだろう。
「実は俺も、ここのふたりにこのトラックに乗せられたんだ。手足を拘束された状態でね」
「そうだったんですか!?」
「うん。たまたま通りかかったら業者のふたりがなんかコソコソしてるのが見えて……それで彼らが離れた隙を見てトラックの荷台に近づいたら、後ろからバチっと。んで、気がついたらここに転がされてたって訳さ。まあ、まさか死体があるだなんて思わなかったけど……」
浮遊霊の話をするわけにもいかず、それっぽく嘘を並べる。ただ気絶させられていたのは本当なので、その証拠に首裏を見せればなんとか納得してもらえたようだった。
「それならそうと、早く言ってくれればよかったのに」
「ごめんね。なんかタイミング逃しちゃって……」
じとりと視線をやるコナンに、朔は困ったように笑った。
それにしてもどうしてこんな中に死体を、という光彦の問いかけに、冷蔵設備がついてるからだとコナンは冷静に推理する。この中に入れておけば遺体の腐敗速度が落ち、死亡推定時刻が遅くなる。そうすれば、後でどこかに放置して発見されたとしても犯行時刻にアリバイが成立するのだ。
それに、とコナンは段ボールの底の角をライトで照らした。角は潰れ、側面が汚れている。これは適度に箱を転がして死斑を出にくくするために細工した証拠なのだとか。
「じゃあさっきのふたりに、私たちが見つかれば……」
「ああ、俺たち全員ここに閉じ込められちまうだろうぜ。凍え死にさせるためにな」
「そ、そんな……」
光彦は思わず絶句する。何か打つ手は無いのかと色々策を出し合うが、どれもイマイチ上手くいきそうにもないものばかりだ。不安がる子どもたちとは対照的に、コナンは余裕綽々だ。口元に笑みを浮かべながらつぶやく。
「俺たちがふたりを宅配してやろうじゃねえか。監獄にな……」
「でも、あのふたりの配達人をどうやって捕まえるんですか?」
「別に俺たちが捕まえるわけじゃねえよ。外部の人に捕まえてもらうんだ」
コナンの言葉に、子どもたちはぴんと来ていないようだ。何となく言いたいことが分かった朔は代わりに補足する。
「携帯電話で警察に連絡すればいいってことだね。『チーター宅配便の冷蔵車のコンテナに遺体を積んでる悪い配達人が居て、俺たちもその中に閉じ込められているから、検問を張って車を止めて、コンテナの中を調べて欲しい』って」
「そういうこと」
冷蔵車のナンバーは記憶しているから大丈夫だとコナンが言えば、子どもたちはなんだか不満そうだった。もっと奇抜なアイデアかと思った、という言葉に、コナンは笑うことしか出来ない。朔は彼らに言い聞かせる。
「ま、こんな状況なら仕方ないよ」
「そうね」
「だから誰か携帯電話貸してくれ。俺のは博士の家で充電中だからさ」
コナンの言葉に、子どもたちは困ったように顔を見合わせる。
「歩美は博士の家に置いてきちゃった」
「サッカーするのに邪魔かと思ってよ」
「俺のは……多分気絶させられた時に落としてそのまんまだな」
「僕は一応持ってますけど、少し前に電池切れのブザーが鳴ってましたから、使えるかどうか……」
「んじゃ貸してみな、電池を復活させてやっから」
コナンは得意げに言う。周りの面々は半信半疑だ。コナンはそんなことも気にせずに光彦から携帯を受け取り、蓋を外して電池を取り出す。そして両手で包んで温め始めた。こうすることで電圧が上がり、少し使えるようになるんだとか。話をするくらいなら大丈夫だろうとコナンが言ったところでブレーキ音が響き、車が停車する。慌てて遺体を元に戻し、荷物の陰に隠れた。
業者は淡々と荷物を探し、運び出そうとする。そのまま立ち去るかと思われたが、遺体の向きをそろそろ変えておくかとひとりが提案し、もうひとりがそれに賛同した。荷物を置き、荷台のより奥に入ってくるふたり。探偵団と朔は慌てて更に奥に身を隠す。そうとは知らない業者のふたりは、遺体の入っていた段ボールを転がして角度を変える。これで大丈夫だと笑みを浮かべていた。
だが業者のひとりがあることに気付いたようである。
「なんか、ガムテープを一回剥がしたような跡が……」
「ああ? バーカ、誰が剥がしたって言うんだよ」
その時、哀に抱きかかえられていた大尉がたまらず小さく鳴き声を上げる。何やってんだと視線をやるが、もう遅い。
「い、今猫みたいな鳴き声が……!」
「さっきから何なんだお前! ガキの声が聞こえるって言ったと思ったら、今度は猫かよ」
「でも……」
「まあ人ひとり殺っちまったんだから動揺してるのもわかるけどよ」
「悪かったな、俺のせいでこんなことになっちまって……」
少し太り気味の業者が謝ると、もうひとりの眼鏡の業者が仕方ないと慰めた。話を聞くに、どうやら痴情のもつれが原因の成り行き殺人であるらしい。あまり子どもには聞かせたくない話だなと朔は眉を寄せた。
計画によれば頃合いを見計らって被害者の家に遺体を戻し、さも「今発見しました」とばかりに通報する腹積もりのようだ。大丈夫だよと男は笑い、荷物を手に荷台を後にする。荷物の陰からそろそろと這い出し、朔はため息をついた。
「とにかく、高木刑事にこのことを……」
コナンは電池の復活した携帯で電話をする。だがいくら待っても繋がらないようだ。仕方なく電話の相手を阿笠に変える。今度はなんとかつながったが、タイミング悪くそこで電池が切れてしまった。今度は完全に使い切ってしまったため、もう一度温めても復活はしないのだ。どうするのかと元太が訊ねると、コナンは真剣な顔で言う。
「お前ら、持ってるものを全部出してくれ。それで何かできないか考えてみっから」
ごそごそとポケットやらを漁り始めた子どもたちを横目に、朔は早めに白状する。
「一応色々持ってたんだけど、多分鞄ごとあのふたりに持って行かれたと思う。力になれなくてごめんね」
「ううん、大丈夫だよ朔兄ちゃん。いざとなったら朔兄ちゃんには、その頭を貸してもらうから」
「頭?」
朔はコナンの言葉の真意がわからず、単語を反芻する。頭を貸す……とは、被っているニット帽を利用するということだろうか? いざとなれば貸せない事は無いが、これがないと角が隠せなくなるし……。
そんなことを考えていると、コナンは真っすぐに朔を見た。
何もかも見透かしてしまいそうな聡明な瞳が、迷うことなく朔を射抜く。
「だって、朔兄ちゃんって――」
「コナンくん! 出したよ!」
だがその言葉を言い切る前に、歩美がさっと遮った。すると先ほどまでの言葉がまるでなかったかのようにコナンは彼らに視線を戻す。ひとりひとり順に持っているものを確認していった。
「歩美は、ハンカチとポケットティッシュとキャンディとめん棒」
「俺は、絆創膏とチョコバーとしもやけのかゆみ止め」
「僕はですね、手帳とそれにつけてるボールペンとハンカチとお財布とタクシーのレシートです。後は灰原さんに貸した僕の上着だけですけど……クリーニングから戻ってきたのをそのまま着てきたので、何も入ってないかと」
ひととおり聞き終わり、今度は哀に……と話を振ろうとしたところでコナンは思い出したかのように言った。
「ああ、お前はパン一だったっけ」
その瞬間、キレのいいパンチがコナンの頭頂部に炸裂する。そのぶすくれたコナンの顔に、あららと朔は困ったように笑った。
持ち寄ったものを眺めながら、光彦は言う。
「でも、これで何かできるとはとても思えません」
「光彦くんの手帳に『助けて』って書いて、その紙をちぎって車の外に落としちゃうってのはどう?」
その意見に元太も賛同したが、その紙を拾った人が警察に通報してくれるか微妙な点や、紙を上手く出せるかという点、配達人に紙を見られてしまう危険がある点から、止む無く却下された。うーんと考え込む中、コナンが朔に話を振る。
「朔兄ちゃんは何かある?」
「え、俺? えーっと……」
まさか振られるとは思ってなかった朔は素っ頓狂な声を出す。そしてうーんと考え込むように腕を組みながら道具を一通り見た。そこでふと、哀に抱き上げられた大尉を見て、ある考えを思い付く。
「じゃあその紙をこいつに届けてもらうってのはどうかな?」
「こいつって……大尉に?」
コナンは大尉を見ながら朔に尋ねる。大尉は急に話題の中心になったことでぴくりと耳を立てていた。
「そう。それなら紙が途中で引っかかる心配も無いだろうし」
「でも大尉は野良猫ですから、どこに行くのかわかりませんよ?」
「それはほら……こいつの賢さを信じるとか」
「そんなの完全に運任せじゃねーか!」
「だよねえ」
元太の言葉に朔は乾いた笑いを零す。本来の大尉は猫又なのだから十分知性も行く能力もあるのだが……それを知らない子どもたちに説明することはできない。現に当の本人もすましたように尻尾を揺らしている。
困ったなと頬を掻いていると、コナンは何か思いついたようにハッとするが、すぐにまた考え込んでしまう。それを見ていた哀はしびれを切らしたように言った。
「何? 何か思いついたなら言いなさいよ」
「あ、ああ……」
そしてコナンはその考えを語り始めた。次に降りる五丁目は大尉の根城。夕方になると餌をねだりに行くポアロがある五丁目だ。その習性を利用してポアロまで手紙を届けさせようというのだ。
それなら大丈夫だと子どもたちが盛り上がる中、哀は業者のふたりに紙がバレてしまった時のことを指摘する。するとコナンは心配無いと不敵な笑みを浮かべて言い切った。
「あいつらに見られても気づかれねえ、暗号を作ってやっから」