伍拾壱 とんだ置き土産だ……
容疑者の三人がボディチェックと身体検査を受けている。子どもたちは至って純粋な眼差しで「誰が犯人なんだろうな?」と互いに予想し合っていた。その様子を見ていた阿笠に、ジョディがそっと耳打ちする。
「それで、どうなの博士。あの三人の中にあなたの見た犯人は居る?」
その言葉を聞いて、ううむと少し考えるような仕草を見せた。
「まあ、あの杖を突いた老人が怪しいといえば怪しいんじゃが、犯人が持っていたのは三十センチくらいの細い棒。杖はついとらんかったし……。犯人が被っていた帽子も老人のハンチング帽や女性のニット帽ではなく登山帽のようじゃった。それにあの男性のような咳もしておらんかったしのう……」
風邪をひいているふりをしているだけなんじゃないか、という哀の指摘をコナンは即座に否定する。初めに会った時点でこちらが阿笠と知り合いだと知っているわけがないため、風邪をひいているふりをする必要はないからだ。
それなら歩き方はどうなの?とジョディは問う。阿笠は三人の様子を見て、自分が見た記憶と照らし合わせる。あの老人は杖がなければ本当に立っていられないようだったし、残りのふたりも足を引き摺る様子はない。
どうしたものかとその場の誰もが考え込む。
……のを、鬼灯と朔は黙って見ていた。
鬼灯はほんの少しでも見逃すまいと、微動だにせずその場で腕を組んで立っている。朔は変わり映えしない状況に少々退屈してきたところだったが、己の上司が何をやらかすか気が気でなく、その場を離れることができずにいた。
すると、不意に鬼灯が口を開く。
「そう言えば朔さん、少しお願いがあるのですが」
「……はい? 何です」
一瞬自分に話しかけられたのだと気付くことができず、若干反応が遅れてしまう。だが鬼灯は気にすることなく言った。
「子どもたちとお参りに行ったとき、あそこの神が少し表情を変えたのを覚えていますか」
「ええ、覚えてますけど……」
「ならちょうどいい。今から聞いて来てもらえませんか。何があったのか」
「え」
思わぬ申し出に、朔は思わず目を丸くする。
「い、今ですか?」
「はい」
「なんでまた急に」
「……これは私の勘なのですが、なんとなく今回の事件と関係しているような気がするのです。真実を突き止めるために、あの方の証言は必要かと」
至極真剣な顔で鬼灯は言う。傍から見れば事件解決に協力的な人物に映るだろう。だが対する朔はそれとは対照的に少々微妙な顔だ。
「……その心は?」
「話は聞きに行きたいが彼の推理は見逃したくない」
「……」
素直に白状した鬼灯を朔はじとりと睨みつける。だが彼は涼しい顔をしたまますいっと朔から目を逸らしただけだった。どうせ折れる気は無いのだろう、そう思い朔はやれやれと溜息をつく。
「……ちょっと行ってきます」
「はい、よろしくお願いします」
ちゃっかり手を振って見送る鬼灯に、朔は苦笑いを零しながらそっとその場を後にした。
***
お社に行くと、先ほどより人は減っているようだ。みんな事件の方に興味が移ってしまったのかもしれない。最後尾に並んだがあっという間に一番前についた。お参りをするフリをして、目の前の神へ小さく合図をする。それに気づいた神は少々驚きつつも、人のいない裏手に回ってくれた。列から外れ、ふたりきりになったところで神が話しかけてくる。
「あなた先ほど鬼灯様と一緒に来られていた方ですよね?」
「はい。閻魔庁お迎え課浮遊霊回収係の朔と言います」
「お迎え課……ですか」
聞きなれない部署名に少々戸惑いを見せる。
「それで何か用ですか? わざわざ裏手に呼び出すとは」
「はい。先ほど私たちがお参りに行ったとき、少々複雑な顔をされていらっしゃいましたよね?」
「え? ええ……まあ」
朔の言葉を聞くと曖昧に頷く。どうやら記憶にはあるようだ。
「それがどうやら鬼灯さんも気になったみたいで、話を聞いてきて欲しいと頼まれたんです」
「なるほど、そういうことでしたか……」
すると神は原因を話して聞かせ始めた。
「実はあの時、あなた方の前の子どもたちと一緒にいた女性が妙なことをしていったのです」
「妙な事?」
「ええ。長い紐のようなものに通した大量の五円玉を、一気に賽銭箱の中に投入したのです。子どもたちが鈴を鳴らすのに合わせて」
「大漁の五円玉を……?」
なんでそんなものを、とつぶやく朔を他所に神は話を続ける。
「しかもそれはただの五円玉ではなく、何箇所か血に染まっているものもありました。そんなことをする方は初めてで、少々戸惑ってしまいまして」
「!」
朔は思わず目を見開いた。血に染まっていた……ということは、もしかして。ひとつの考えに辿り着いた朔は神に質問を投げかける。
「それって、元の長さはどのくらいだったかわかりますか?」
「元の長さというと」
「紐で束ねた時の五円玉の全長です」
「ええと確か、三十センチくらいだったかと……」
その言葉を聞いて朔は確信した。恐らく彼女が犯人で、凶器はその五円玉を束ねた棒だろう。所持品検査をしたところで見つかるはずがないだろう。
「それがどうかしましたか?」
不思議そうにしている神に、朔はこの神社で殺人事件が起きていることを話した。すべて聞き終えた神はふむ、と納得したようにつぶやく。
「なるほど、それで彼女が犯人だというわけですか」
「はい、おそらくは……」
朔はぺこりと頭を下げてお礼を言う。
「貴重なお話をありがとうございました! これで解決できると思います」
「いえ、私は見たものを言っただけですから。鬼灯様にもよろしくお伝えください」
「はい!」
もう一度神に頭を下げてから、朔はお社を後にした。
***
水色の空が、少しずつ茜色に染まり始めている。
駆け足で戻ると未だに事件は解決していないようだった。目暮や高木、ジョディらが話しているのを少し離れたところで鬼灯は見守っている。戻ってきた朔に気付いた鬼灯がちらりと目を合わせるなり話しかけてきた。
「どうでした」
「興味深い話が聞けましたよ。犯人を特定できる、重要な証言が」
さっそくそれを話して聞かせようとしたところでさっと鬼灯がそれを遮る。
「言わなくていいです。事件に関する重要なことだとしたら、尚更」
「……まあ、鬼灯さんならそう言うと思いましたけど」
ネタバレがどうとか言ってる人がこんな報告を聞くはずもないだろう。朔は気にせず話題を変えた。
「それでどうです? 進展ありました?」
「犯人の変装道具が見つかったこと以外、ほとんど進展はありませんね」
「そうですか」
思ったより進展していないな……と思ったところで鬼灯は「ですが」とつぶやく。
「おそらくもうすぐ……」
「その必要はない。犯人はまだ、凶器の一部を隠し持っておるんじゃからな」
鬼灯の声が小さくなるのと入れ替わるように、阿笠の声が聞こえてきた。途端に鬼灯の目が輝き始める。
「さあ始まりますよ、彼の……いえ、彼らの推理ショーが!」
まるでヒーローショーを楽しみにする子どもの様に鬼灯は言う。その声量は限りなく抑えられているが、声色はどう考えても浮かれていた。
朔は半ば呆れつつ、阿笠の声に耳を傾ける。
「犯人はそれを束ねて、凶器を作ったんじゃよ」
「束ねて……?」
「阿笠さんが見た凶器は一本の棒でしょう? 束ねるも何も……」
困惑したように高木とジョディは言う。だが阿笠は至って冷静だった。
「ひとつにまとめたんじゃよ、あるものを大量にな。そしてそれがたくさん見つかっても怪しまれない場所に隠したんじゃ。子どもたちに声をかけて、うまい具合にカムフラージュしてのぉ」
声をかけて、というところで子どもたちが反応する。これまでの容疑者とのやりとりを思い出しながらああでもないこうでもないと話し合っていた。おみくじでもない、柄杓でもない。とすると……。
「あとは鈴を鳴らすところであったあのお姉さんだけだけど……」
「でも鈴はふたつしかなかったぞ?」
うーんと頭を悩ませるこどもたちに、コナンがしれっと助言する。
「オメーら、鈴を鳴らす前に何かしなかったか?」
「あー! そうか、お賽銭!」
「五円玉を入れたぞ!」
「賽銭箱の中に!」
その答えを聞いてコナンは正解だと言いたげに微笑んだ。
「お賽銭は『ご縁がありますように』ってことでそのほとんどが穴の開いた五円玉なんだよ」
「なるほどね。その穴に針金や紐を通して沢山束ねれば細長い棒になる。しかも後で賽銭箱の中から五円玉が大量に見つかったとしても他の賽銭に紛れて怪しまれず、細長い金属製の棒を探している警察の目を欺けるって訳ね」
納得したように哀が言う。だが高木や目暮はまだ納得できていない点があるようだ。
「しかし、それを三十センチくらいの棒にするには五円玉が二百枚くらい要るはず」
「それに、そんなに大量に五円玉を投げ入れたら目だって周りの人に怪しまれるだろう」
「だから犯人は子供たちに声をかけたんじゃよ。『大きな音で鈴を鳴らさないと、神様に届かん』とな」
阿笠の言葉に、三人は犯人の手口に気付いたようである。じゃあ、犯人は……と口走る彼らに、阿笠は静かに告げた。
「そうじゃ。すり取らせた財布に忍ばせたGPS発信機で居場所を把握し、大漁の五円玉を棒状に束ねた凶器でスリの黒兵衛こと矢谷育代さんを撲殺した犯人は……あんたじゃよ。段野頼子さん!」
周囲の視線が一斉に彼女に向けられる。だが彼女の表情は動かない。
「あんたは子どもたちに声をかけ、鈴を盛大に鳴らさせて、大漁の五円玉が賽銭箱にジャラジャラと入る音をかき消したんじゃ。五円玉を束ねた紐の根元をほどき、紐の先をつまんで賽銭箱に垂らせば、大漁の五円玉を一瞬にして投入できるしのう」
阿笠の言葉に、女性の顔は段々と険しいものになっていく。
「しかも殺人事件が起きたのはあんたが鈴を鳴らす前。あの時既に被害者によって財布をすられていたはずなのにそれに気づかず賽銭を入れて鈴を鳴らしたと偽っておるのがその証拠じゃよ」
「確かに……」
目暮は納得したようにつぶやいた。
「賽銭を財布から出した際に気付くはずですな」
「あら、知らないの? 『賽銭箱の前で財布を開けちゃいけない』っていう戒め」
だが女性は臆することなく言い放つ。よほど自信があるようで、一歩一歩阿笠の方に歩み寄っていった。
「財布の中を神様に見られると『そんなに持ってるのにそれっぽっちしか入れないのか』と怒りを買うのよ。だから私、お参りするときは五円玉を裸でポケットに入れてるの」
「なるほど。それで財布が無くなっていたことに気付かなかったと?」
「そういうこと」
女性は得意げに続ける。
「まあ、私が大量の五円玉を賽銭箱に入れるところを見たって言うなら、認めてあげてもいいけど?」
その挑発的な言葉に、朔は咄嗟に名乗り出そうになった。自分はそれを見た人物を知っている、と。だが彼はこの世の人間には見えない存在……確実な目撃者にすることは難しいだろう。
打つ手は無いのかと朔が思っていると、存外さらりと阿笠は言った。
「見なくてもわかりますよ。あんたのその、靴ひもを調べればのう……」
「!」
あからさまに女性の顔色が変わった。何も言えずにいる女性を他所に、阿笠は話を続ける。
「恐らく、五円玉を束ねていたのはその靴紐。だからあんたは現場からすぐに立ち去れなかったんじゃ。片方の靴ひもが無いために、普通に歩くと靴が脱げてしまうからのう。鈴を鳴らした後に靴ひもを戻して結び直したようじゃが、その靴紐を犯行に使ったのならついておるはずじゃよ。撲殺したときに飛んだ、被害者の血痕がな……」
話を聞き終えると、女性は観念したかのように顔を伏せた。ひとこと断って高木が靴ひもを調べる。
「……ありました。血痕です」
その言葉を聞いて、目暮はうむと頷いた。
「だが、なんで黒い五円玉を余分に持っていたんだね? 遺体の傍に置かれた五円玉は今回すられた時に懐にいれられていたものじゃ……」
「それは、さっきあなた方警察に見せた方」
「それじゃあ、あの五円玉は」
「……あいつの傍に置いたのは、去年あのスリに……あいつにすられた時に入れられた息子の命を奪った五円玉の方よ!」
それから女性はこの犯行に至るまでの動機を語り始めた。
去年スリにすられた財布に車のキーが入っていたせいで、喘息だった息子が数時間車内に閉じ込められ、結局病院に行くのが遅れて亡くなってしまったこと。それ以降あのスリのことをネットで調べ、出没しそうな場所で張り込んでいたこと。……お金を抜こうと財布を開いた時に目に留まるように、財布にプリクラを張っていたこと。
「見せ付けてやりたかったのよ、あのスリに。『あなたが盗み取ったのはお金だけじゃない、ひとりの小さな男の子の命もだ』って……」
全てを自白した女性は、警察官によって署へと連行された。その後姿を見送りながら、朔はこっそり鬼灯に尋ねる。
「彼女の言っていた話、もし本当なら被害者の女性の罪に加算されますよね?」
「そうですね……窃盗のみであれば黒縄地獄内のどこかの小地獄に該当します。ですがこの場合は間接的に人を殺したともとれますし、裏が取れれば充分罪に加算できるでしょう。どの程度……となると、またひとことでは言い表せませんが」
今回のように直接人を殺したのではなく、間接的に人を殺している場合の裁判は裁量の判断が非常に難しい。それは朔もよくわかっていた。だが、だからといってその行為をなかった事にするわけにはいかない。少なくともその行為によってひとりの命が奪われているのだから。
「難しいところですね」
「ええ……でも、それが私たちの仕事ですから」
「です、ね」
朔はやりきれなさを滲ませながら微笑む。鬼灯は小さくため息を零しながらキャスケットを深くかぶり直した。そしてさっさと気持ちを切り替えたのか、警察の方に褒められている阿笠に近づいていく。
「阿笠さん、見事な推理でしたね。感服しました」
「へ? いやいやワシはそんな……」
鬼灯の言葉に阿笠は苦笑いを浮かべる。それはそうだろう、推理はすべてコナンが声を変えて行っているのだから。それをわかっているうえで褒める鬼灯も鬼灯だと、朔はその姿を見ながら思った。そんなことより、と阿笠が話題を変える。
「事件に巻き込んでしまってすまなかったのぅ。朔くんの知り合いと聞いたが……何か用でもあったのか?」
「いえ、私はたまたま立ち寄っただけですから。気になさらないでください」
ふたりがそんなやりとりをしていると、残りの容疑者候補だったふたりが帰宅していいかと申し出る。目暮は後日スリの件で改めて連絡することを伝えると、ふたりは快く承諾した。それを見ていたコナンが男性に近づき、何食わぬ顔で話しかけた。
「ねえおじさん。おじさんて、もしかして目が悪いの?」
「え? なんでだい」
「だってあのスリのおばさん、オジサンの顔見てびっくりしてたよ。あれって、ちょっと前に財布をすった相手がおじさんだったからだと思うんだけど……なんでおじさんあの時何も言わなかったの? おばさんと会うの二回目のはずなのに」
「そ、そうなんだよ。僕目が悪くてね」
男性は少し腰をかがめてコナンに視線を向けながら言う。その表情はなんら普段と変わりなかったが、終始傍にいる諸伏はなんだか不安そうだった。どこか落ち着きがなさそうな様子でそのやり取りを見守っている。
すると今度は元太が話に加わってきた。
「目が悪いんだったら、眼鏡かけねえと桜見えねーぞ?」
「ひとりでお花見に来たの?」
「実は、お守りを買いに来たんだよ」
「何のお守りですか?」
その言葉に、男性はぴたりと動きを止める。ほんの一瞬の間の後に、艶やかな女性の声が会話に混ざってきた。
「私のお守りでしょ?」
男性の背後には白い日傘をさした女性が優しく微笑みながら立っていた。その腹部は大きく膨らんでいる。
「この子のためのね……」
「そっか、赤ちゃん!」
「安産祈願のお守りですね」
納得がいったように子どもたちは言う。だが男性は「家でじっとしてろって言っただろう」と少し声を荒げる。それに対し女性は「あなたが全然帰ってこないから心配で見に来たんじゃない」と不機嫌そうに返答した。
「じゃああなたはもしかして……銀行強盗の事件の時に私にガムテープを貼った……」
「あら、あの時の外国人さん?」
たった今思い出したかのように女性は目を丸くした。
「ごめんなさいね、あれは脅されて仕方なく……」
そこで女性が不意に口元を抑えた。
そのままよろよろとよろめき、ジョディの方に倒れ込む。慌ててジョディは女性を気遣うように声をかけた。
「大丈夫ですか!?」
「す、すみません。妻の体調のこともあるので、もう帰ってもいいですよね?」
男性が彼女の身体を支えながら目暮に言う。曖昧に頷いたところでふたりはその場を後にした。それに付き添うように諸伏も追いかけていく。
大丈夫かな、と子どもたちが心配するのを他所に、朔は今見たものを信じられずにいた。
彼女はたった今、ジョディにもたれかかるふりをして、袖口から何かを回収したのだ。本来ならば見逃してしまうほどの素早い動きは、どう考えても只者ではない。
「鬼灯さん、今の……」
「今日は」
鬼灯が不意に口を開いた。
「来てよかったです、本当に」
その眼はうっとりと細められており、朔が今日見た中で一番楽しそうな表情をしていた。
今の女性がどうかしたのか、と尋ねようとしたところでさっと鬼灯はいつもの表情に戻る。
「では私もこれで」
そう言って何事も無かったかのようにその場を立ち去ろうとする。だが幼い少年の声がそれを引き留めた。
「ねえ鬼灯さん」
「……なんでしょう」
コナンに声をかけられ、鬼灯はほんの少し間を開けて振り返る。その少々鋭い視線をものともせず、コナンは小学生の可愛らしい声色で尋ねた。
「鬼灯さんって、朔さんの高校の先輩なんだよね? っていうことは今もその辺に住んでるの?」
「ええ、まあ」
「じゃあ今日は観光しにきたの?」
「いえ、どちらかといえば仕事がメインですね」
「へえそうなんだ……なんの仕事してるの?」
コナンの問いにほんの少しだけ間を置いて、鬼灯は答えた。
「……この国のためになるような仕事を」
「……へ?」
思わぬ答えに、コナンは目を丸くする。コナンだけではない。朔も同じように目を丸くして固まっていた。
だが鬼灯は表情を変えずに言葉を続ける。
「冗談です。ただの派遣社員ですよ」
そしてさっさと立ち去ってしまった。その一部始終を見ていたコナンは急に雰囲気を鋭くして考え込み始める。だが、朔は違った。
「(なんてこと言い残してくれてんだあの人は……!)」
ふつふつと沸き上がる怒りを抑えながら内心思う。鬼灯は面白がってそう言ったのかもしれないが、これじゃあどう考えても、後で彼に根掘り葉掘り聞かれるのは目に見えているじゃないか。
……とりあえず後で、抗議の電話をしよう。
怒りに燃える朔は、ひとりそう心に決めた。