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 五条さんの発言に、私は困惑気味に尋ねた。

「あの、私の術式って?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないんですけど!?」

 なんでいつも大事なことを言わないんだよあんた!! 愕然とする私を他所に五条さんはケロッとしている。そこでふと数日前の出来事を思い出した。

「そういえばこの間の学長との面談の前に言いかけてたこと、結局言われてないんですけど……まさかそれですか」
「あーそうそれ。そういえば言ってないや」

 ごめんごめん、すっかり忘れてたとへらへらしている五条さん。ごめんで済まされるのかそれ……。ほら見ろ子どもたちもなんか呆れた目をしてるぞ。私自身もだんだん白けた目になっていくのを否定しきれなくなってきたところで五条さんがとりあえず、と話を切り出す。

「任務は終わったし、高専帰ろっか。話は帰りながらでもできるでしょ」


***


 建物の外に出ると、ここに来たときと同じく伊地知さんが迎えに来てくれていた。ただ車は来たときよりもひとまわり大きいファミリー向けの車種になっている。お疲れ様です、と言いながら乗り込むと、何食わぬ顔でついてきたキューちゃんとゴロちゃんに驚きながらも何も言わずにいてくれる。いつものことながらありがとうございます伊地知さん……。

 後部座席の前列に五条さんと私とゴロちゃんキューちゃん、後列に子どもたち3人が座る。ちなみにキューちゃんは人型のまま座っているが、ゴロちゃんは私の膝の上で丸くなっていた。シートベルトをしめて車が走り出したのを確認したところで私は早速話を切り出す。

「それで? なんなんですか、私の術式って」
「すぐ僕に聞く前に。霙ちゃんはなんだと思う?」

 五条さんは悪戯っぽく言う。そのおちょくるような表情にちょっと苛立ちを覚えながらも私は素直に考える。先ほどまでの言葉を考えれば、知識の乏しい私でもなんとなく予想はつくからだ。

「呪霊を従える能力、ってところですかね」
「うん、大体正解かな」

 五条さんは静かに頷いた。

「君の術式は呪霊や式神を召喚して、従える能力。言ってみれば、恵の能力とちょっと似てるかな」

 ちらりと背後の伏黒くんへ視線を送る。伏黒くんの術式は影を利用して式神を呼び出すものだったっけ……。確かに似ていると言えば似ているかもしれない。それを聞いた釘崎ちゃんが納得したように腕を組んだ。

「じゃあ霙さんが呪霊に懐かれるのって、体質でもなんでもなく術式のせいだったのね」
「そういうこと」
「でも私、ちゃんと襲われたりもしますよ」

 そう、そこが一番の疑問なのだ。キューちゃんもゴロちゃんも、他の呪霊たちも、出会った瞬間に懐かれたわけではなくしばらく戦闘をしたうえでべったりと懐かれているのである。普通に謎でしかない。
 すると五条さんはさらりと言った。

「別に出会った瞬間無条件で従えるわけじゃないからね。従えるためにはちょっとした手順が必要になるのさ」
「手順?」
「そ。呪霊を従えるためには、霙ちゃんの呪力をある程度呪霊に流し込む必要があるんだ。しかもこれは呪具を介したものじゃなくて直接呪霊に触れる必要がある」

 そこで確認なんだけど、と五条さんは面白そうに口角を上げた。

「キューちゃんやゴロちゃんに懐かれる前に、この子たちのこと感情的に叩いたり殴ったりしたでしょ」
「う˝」

 不意打ちの質問に、私は思わず変な声が漏れる。……うん、どちらも図星でしかない。思い当たるフシがありすぎる。私が苦々しい顔をしていると「そういえば気になってたのよね」と釘崎ちゃんはつぶやいた。同じく伏黒くんと虎杖くんも興味ありげにうんうんと頷く。

「……言わなきゃ、駄目ですか」
「その発言でほぼ肯定されたようなもんだけど、どうせなら聞こうかな。面白そうだし」
「……」

 完璧に墓穴掘った……逃げらんねぇやつじゃんコレ……。

 私は仕方なくあの時の事……例のバーサーカー事件のことをかいつまんで話すことにした。因みにゴロちゃんの時も金棒を吹っ飛ばされた時にやむをえず素手で数発殴ったのは確かだったので、それもついでに話す。すべてを知った子どもたちから霙さん……と何とも言えない視線を向けられてしまった。ううっ! 視線が痛い!! 穴があったら入りたい気持ちに苛まれていると、五条さんはやっぱりねと納得した様子で頷いた。

「怒りに身を任せた時、無意識に拳に呪力を込めていたんだろうね。それがこの子たちに流れ込むことで結果的に術式が発動する形になって、結果的に懐いてしまった」
「なるほど……」

 それを聞いた私は納得しつつも、どこか複雑な気持ちになる。隣に座っていた五条さんは目ざとくそれに気付いたようだった。

「浮かない顔だね?」
「そりゃそうですよ」

 ご主人?と心配そうにこちらの様子を窺うゴロちゃんを撫でながら私は言う。

「ずっと懐いてくれているんだと思っていたけど、私が無意識に術式で従わせてたなんて……そんなの洗脳もいいとこじゃないですか」

 慕ってくれてるのは嬉しいけど、その気持ちは私が術式によって作り出してしまった架空のものだったなんて。……なんだか、ふたりに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。すると慌てた様子でふたりが言及する。

「落ち込まないでください姉御! 確かに姉御をお慕いするこの気持ちが術式を無意識に使っていたせいだって言われたら、気落ちするのもわかります。けど!! 自分が今命を救われているのは確かなんです。そこだけは本当なんですよ!!」
「そうだよご主人。ぼくだってご主人に出会わなかったら遅かれ早かれ祓われていたんだ。そこを救ってもらったんだもん、そりゃ感謝してるよ!」
「ふたりとも……」

 焦りながらも精一杯慰めてくれるふたり。気持ちはまだ晴れないけど、そのおかげで少しだけ元気がでた気がした。するとそれを見ていた五条さんが「ああそうそう」と思い出したように言う。

「正式に主従契約を結ぶには、呪霊に新しく名前を付けるのが鍵になっているんだ」
「……そういえばふたりとも名前をつけましたね。ゴロちゃんはせがまれてですけど」
「この子はなんとなくわかっていたんじゃないかな」

 そう言って五条さんがゴロちゃんに視線を向けるが、当の本人は「そうなの?ぼく難しい事わかんなぁい!」と言ってごろりと腹を見せるように膝の上で転がった。

「でもぼくすっごく気に入ってるよ! この名前」
「自分もです!」

 すかさず言葉を重ねたキューちゃん。これをきっかけにまたふたりの不毛な争いが繰り広げられそうな雰囲気を感じ取った私はすぐさま五条さんに質問する。

「これって数の上限はあるんですか?」
「契約した呪霊の数に応じて爪に呪印が刻まれる形式みたいだから、10体かな」
「! 本当だ、ひとつ増えてる……!」

 言われてすぐに確認してみると確かに、左手の薬指にもうひとつ赤い呪印が増えている。ゴロちゃんと契約を結んだおかげだろう。そういえばこの小指の奴が出たのに気付いたのもキューちゃんと会ってからだったな……。私がそんなことを思っていると、私たちの話をずっと聞いていた伏黒くんが訊ねる。

「五条先生、霙さんの術式は召喚と主従って言ってましたよね。ということは俺の式神みたいに解除したり呼び出したりも出来るんですか」
「うん、可能だろうね」

 五条さんはあっさり肯定した。

「でもそれよりも……」

 だが言葉をすべて言い切るよりも前に、ちらりと外に目を向けた。

「丁度高専についたところだし、早速試してみよっか」


***


 私達は揃って高専内の建物にある部屋へ移動する。ここは室内で手合わせ稽古を行うのに使う部屋だ。周囲の壁や床は呪術によって強化されており、滅多なことでは破壊されないという凄い部屋である。ほんとなんでもありだなこの学校……。

「それじゃあまず今いる子たちからね」
「解除してもう一回呼び出す、ってやつですか」
「そう。この子たちは契約するときに霙ちゃんの呪力を流し込んだお陰で呪力のパイプが出来ている。だから解除するのは単純に、この子たちに呪力を流さなければいいんだ。あ、その時に名前を呼ぶことも忘れずにね」
「呪力を流さない……」

 どうイメージしたらいいかわからずに私が眉を寄せていると、五条さんがさりげなくアドバイスをしてくれる。

「この子たちと呪力が繋がっているのは呪印なんだ。だからそこの呪力を止めるイメージをすればいいんだよ」
「なるほど」

 試しに左小指の呪印……キューちゃんと繋がっているであろう方の呪力を意識的に流さないイメージを浮かべてみた。「キューちゃん」と名前を呼ぶ。
 すると、キューちゃんの身体がふっと薄くなった。キューちゃんの身体の中心から素早く赤い糸が伸び、呪印に繋がったその瞬間、霧が晴れたように姿が完全に消える。

「できた……」

 ほう、と息をつく。意外とできるもんだな。それを見守っていた子どもたちもおお、と声をあげる。それを確認した五条さんは満足げにひとつ頷いた。

「逆に呼び出したい時には呪力を込めて名前を呼ぶといいよ」
「やってみます」

 先ほどとは逆に、小指に意識的に呪力を込めるイメージを浮かべながら「キューちゃん!」と名前を呼んだ。
 すると先ほどの逆再生のように、呪印から赤い糸が伸び、それを中心にキューちゃんが姿を現す。ぱちりと目を開いたキューちゃんの目は感激したように目を輝かせた。

「姉御! 流石です!」
「いやこれは五条さんのたとえがわかりやすかったから……」

 謙遜しながら言う私にへえ、と感心した様子の釘崎ちゃん。

「たまには教師らしいこともするじゃない」
「失礼だなー 僕はずっとGTグレートティーチャーですぅー」

 五条さんがぶうと唇を尖らせる。うわあとげんなりした表情をしつつも内心感謝していると、伏黒くんがぽつりと訊ねた。

「霙さん、ずっと顕現させてて疲れないんですか」
「疲れないって?」
「こいつらを呼び出している間、ずっと一定量の呪力を流し続ける必要があるでしょう。だから呪力が尽きないのかと思って」
「あーなるほど……私は今のところ特別疲れるとかはないかなあ」

 と言われても正直さっき言われるまで術式とか意識してなかったから何とも言えないんだけどね。すると五条さんがしれっと補足してくる。

「霙ちゃんは元々人間の僕たちに比べても呪力量が桁違いだからね。戦闘ならまだしも、普通に維持する分には微々たる量で充分だし、特に問題はないんじゃないかな」
「なるほど」

 そこでふと、車内での会話を思い出した。

「そういえば、さっき車の中で言いかけてたやつはなんですか?」
「ああ、あれね」

 五条さんが人差し指を立てながら言った。

「君の術式は式神や呪霊の召喚と主従、それは確かだ。でも召喚と主従を別々に切り離すこともできるんだよ」
「……ん?」

 五条さんが言っている意味がよくわからず、眉を寄せながら首をかしげてしまう。すると五条さんが「つまりね、」ともう少しかみ砕いて説明してくれた。

「今現在契約関係にない呪霊や式神も、霙ちゃんならある程度呼び出すことができるってわけさ」
「!」

 今のでようやく理解できた。虎杖くんも「すげえ、ゲームに出てくる召喚魔法みてえ!」と興奮したように言う。確かにそれは出来たらかっこいいやつな気がする。

「ただし契約を結ぶにはさっき言った通り呪力を流し込む必要がある。だから召喚した瞬間襲われる、って可能性も無きにしも非ずってわけさ」

 その点は気を付けないとね、といいつつも早速試してみることになった。だがそんなことやったこともない私にやり方がわかるはずもなく。

「……どうすれば?」

 私の問いかけにうーんと考え込むようにして、五条さんはしばらくこちらを見つめていた。五条さんたまにそれやるけど、ほんとその目隠しで何が見えてるの? そんなことを思っていると、しばらくして五条さんが不意に口を開く。

「召喚には何かしら触媒が必要になるみたいだね」
「触媒……なんでもいいんですか?」
「うん。割となんでも大丈夫。出来れば呪力が籠ってたり術式があったりすれば成功率は上がるだろうけど」

 触媒か。現在持っているもので何かあったっけかな。しばらく考えていると、ふと頭にあるものの存在が思い浮かぶ。うん、きっとこれなら行けるんじゃないかな。

「キューちゃん、金棒」
「! 承知しました」

 私の言葉を聞いたキューちゃんはお腹の辺りに無造作に手を突っ込み、ずるん!と金棒を引き出す。あんまり見たくない光景だな、と思いつつもそれを受け取った。地獄で500年も使っていた相棒ならば、何かしらの触媒になるかと思ったのだ。金棒を地面に軽く立て、両手で持ち手を握る。そして先ほど同様、見様見真似で呪力を込めてみた。
 妖怪でも呪霊でも、なんでもいい。何か、誰か、来てくれれば……。

 ――ずあっ! 

「「「「「!!」」」」」

 私達の正面付近の地面に、突如円形の陣が出現した。呪力で描かれたと思われるそれはぼんやりと赤く光っており、だんだんとそれは出力と光量を増していく。まさか本当に出来るとは思わず、私は開いた口を閉じることができない。

「ほんとに出来ちゃった……!?」
「すごいよ霙ちゃん! まさか一発で出来るとはね!」
「すげえ! マジでアニメとかで見る奴じゃん!!」

 子どもたちも興奮しつつこれからどうなるのかを見守っている。ぱりぱりと光が走り、薄暗い室内が目も開けていられないほど眩しくなった。

「う……っ!」

 耐えられずに思わず目を閉じた。瞼越しにも光が収まったのが分かったところでゆっくりと目を開く。先ほどの陣は消えており、代わりにそこに誰かが立っていた。
 だがそれを自覚した瞬間、私の顔から一気に血の気が引いていく。

 そこに立っていたのは素足に草履、黒い着物、結びきりの飾りのついた赤い帯、両手に抱えた書類、疲れの窺える鋭い瞳、――額の一本角。

「……あ˝?」

 そう。私の上司の鬼灯様、ご本人だったのである。


***


「……で、試しに金棒を触媒に使ったところ、私を呼び出してしまったと」
「本っっっっっっっ当に申し訳ありません鬼灯様ァ!!!!!!!!!!!!」

 一通り経緯を説明したところで私は渾身のジャパニーズDOGEZAを披露する。子どもたちはどうしたらいいのかわからずポカーンとしているし、五条さんはまたツボに入ったのか顔を逸らしつつもばっちり肩を震わせていた。こいつ人の失敗を笑う天才なんじゃないか??? 教師失格じゃん。
 私はちらりと視線を動かして、地面に置かれた山積みの書類を見る。

「その書類の量……裁判の準備中でしたよね?」
「ええ。丁度これから開廷するところでした」

 うわーーー!!よりにもよってそんな忙しい時に!!!! 私は胃が痛むのを感じながら再び地面に頭を擦り付ける。

「申し訳ありません、何と言って詫びればいいか……」
「……まあ、起きてしまった以上は仕方ありませんからね」

 ため息交じりに鬼灯様は言う。

「一先ず頭を上げてください。気持ちはわかりますが、流石に話しにくい」
「はい……」

 言われたとおりに頭を上げて立ち上がり、軽く袴をはたく。やれやれと鬼灯様は呆れたように言った。

「しかし偶然とはいえ私を呼び出すとは、やはり親族ですね。血は抗えませんか」
「…………親族?」

 鬼灯様の口から不意に飛び出した言葉の意味がよくわからず、私は思わず訊き返してしまう。だが尋ねられた鬼灯様の方が意外そうな顔をしていた。

「おや。わかったから試したのではないのですか」
「なんの話ですか?」
「でもまあ、それもそうですよね。あの時は普通に流しましたけど、今思えば現世で確かめる術なんてあるわけがないですし」
「あの、話が見えないんですけど……」

 私は困惑しながらつぶやく。さっきから何の話をしているんだ鬼灯様は……周りを置いて勝手に自己完結しないで?? するとそれを聞いていた五条さんが思い出したように鬼灯様に尋ねる。

「もしかして地獄で言っていた、彼女に才能があると断言していた件ですか」
「ええ、まあ」

 五条さんの言葉にそういえばそんなこともあったな、と私はぼんやりと思い出す。なんかここ最近の展開が色々ありすぎて忘れっぽくなったというかなんというか。

「呪術師というのはおおむね、血筋で才能が決まるらしいじゃないですか。ならば彼女は逸材だなと思いまして」
「え?」

 鬼灯様の言葉に私は思わず目が丸くなる。血筋から逸材だってわかる? って言っても、私はそんな。

「父さんと母さんは割と普通だったと思いますけど……」

 だって何も言ってなかったし。別に周りから何か言われたりとかもなかったし。すると「時に霙さん」と鬼灯様が突然話を切り出してきた。

「滝夜叉姫ってご存じですか」
「滝夜叉姫? ああ、会ったことはないけど知ってますよ。生前丑の刻の神と契約して現世に妖怪とかわんさか呼び出して突撃百鬼夜行しようとした人ですよね?」

 そして現在は地獄の衆合あたりの屋敷に住み着いていて、義経に片思いをしているという専らの噂である。確かその騒動には鬼灯様も関わってたんだっけか。

「その人がどうかしたんですか」
「実はですね」



「貴方の母親……若葉さんは、滝夜叉姫と血の繋がった双子の姉なんですよ」



 その場の空気が一瞬にして固まった。
 ようやく口を開いた私は信じられない気持ちでいっぱいである。

「双子の、姉?」
「はい。生まれてすぐに亡くなって鬼火によって鬼になってしまったので、現世に正式な記録には残っていませんがね」
「ちょ、ちょっと待ってください」

 焦ったように伏黒くんが口を挟んだ。

「滝夜叉姫って、あの」
「平将門の……娘……」

 ぼそりと五条さんが言った。ようやくすべてを理解したらしい釘崎ちゃんが思い切り声を荒げる。

「平将門って……日本三大怨霊じゃない!!! それの孫!? 霙さんが!?!?」
「そうなりますね」
「嘘でしょ!?!?」
「え、何、そんなにすごいのその人」

 周りの慌てぶりに思わずあっけにとられる私。何、どうしたのみんな。すると伏黒くんが丁寧に説明してくれた。

「すごいなんてもんじゃありませんよ。平将門は呪術全盛といっても過言じゃない時代の大物呪術師です」
「え」
「因みに僕は同じく日本三大怨霊の菅原道真の子孫なんだ」
「え˝」

 思わず変な声が出た。みんなが慌てている理由がようやくわかった私は、愕然とした表情のまま大声を出す。

「それめっちゃヤバイ人じゃないですか!!!」
「だから言ってるじゃない!!!!」

 突然告げられた驚愕の真実に震えが止まらない。嘘だろ!? そんなすごい人と血縁関係にあったのかよ私!!!! 全然知らなかったわ!!!!

「ははは!!! すごいな、まさか平将門の孫が鬼になってこの時代に存在しているとは……!!」

 驚愕の事実を知った五条さんは絶賛大爆笑だ。そんな彼を他所に私の脳裏には、ぽやんとした表情でいつもにこにこ笑っていた母の姿が過っている。いやマジで、なんで何も言ってくれなかったの母さん!!!!娘は今の今まで何も知らなかったんですけど!?!?? ちょっとくらい……こう……さあ!??!

「でも確かにそれなら、霙ちゃんの術式にも説明がつく、か」
「彼女は妖怪や霊を召喚する術を使いますからね。そこに父親の方も混ざったせいで現在のものになったんでしょう」
「……父親の方?」

 聞き捨てならない発言に私は思わず訊き返す。

「まさか……父さんも何かあるんですか」

 正直もうこれでお腹いっぱいなんですけど。そう思う私を他所に、鬼灯様はいつもの表情の読み取れない顔で言ってのける。

「霙さん、安倍晴明ってご存じです?」
「知ってますよ流石に。現世で有名な陰陽師ですよね?」

 そして現在は確か集合花街の一角で、めちゃめちゃよく当たる占いをやっているとかなんとか噂を聞いたことがあるような。
 ……そこで先ほどの流れを思い出した。とても、嫌な予感が、する。

「……まさか」
「実はですね」



「貴方の父親……吉祥さんは、安倍晴明の実の息子なんですよ」



 再びその場の空気が固まった。
 私は震える声で口にする。

「実の、息子?」
「はい。生まれてすぐに亡くなって鬼火によって鬼になってしまったので、現世に正式な記録には残っていませんがね」
「そんなことあるぅ!?!?!?」

 流石に今度は叫ばずにはいられなかった。

「そんな、昔の大物同士の亡くなった子供が偶然鬼になって、偶然夫婦になってって、……そんなことあるぅ!?!?!?!」
「あるから今の貴方があるんでしょう」
「それが信じられないから言ってるんですよ!!!!!!!」

 だあん!!と思わず足を打ち鳴らす。いや、まじで、父さんもなんか言えよ!!!!なんで揃いも揃ってこの夫婦は自分の出自に興味が無いんだよ!!!!!! 50年も前に転生してもう2度と会えない両親へどうしようもない怒りをぶつける私を見ながら、五条さんはヒーヒーと笑いながら崩れ落ちる。そしてこの衝撃の事実には子どもたちも流石に我慢がならないようだった。

「平将門と安倍晴明の孫ォ!??! 霙さんあんた、呪術師として逸材中の逸材じゃないの!!!! 御三家当主も真っ青!!!! 設定盛りすぎよ!!!! 少年漫画の主人公か!!!!!」
「んなこと私に言わないでよ!!!!! こっちだって1000年生きてきて今の今まで一切知らされてなかったんだから!!!!」
「ありえるのか……??? 本当にこんなことが……??????」
「流石の俺でもそれがやべえってことはわかるよ!!! 霙さんすっげえな!!!!」

 あまりにもスケールがでかすぎて子どもたちの声も自然とデカくなる。仕方がないな、これは本当に、多分私が同じ立場でもそうなる。キューちゃんゴロちゃんはふたりとも目を輝かせて「流石姉御ですね!!」「ご主人すごーい!!」と騒ぎ立てている。まさしくカオスとしか言いようがない光景だ。唯一この場で冷静な鬼灯様は涼し気に言ってのける。

「だから言ったでしょう? これを逸材と言わずに何という」
「それはそうですけども!!!」

 確かにこれだけ見たら逸材中の逸材でしょうけども!!!!
 ……ん? というか。

「でもなんで鬼灯様はそれを知ってるんですか。私ですら知らなかったのに」
「そりゃ私は裁判で記録を見る立場ですからね」

 鬼灯様は腕を組みながら言う。

「現世で人間が鬼になったらそれも具象神が記録に残すんですよ。それで過去の記録を見ていた時にもしやと思いましてね、くわしく調べたら大当たりだったんです」
「マジか……」

 私は思わず言葉を失う。そんなことがあったなら鬼灯様も教えてくれればいいのに……。

「霙さん、あなた獄卒が天職だと思っていらっしゃいますが、それ以上に向いてると思いますよ呪術師。血筋が物を言う世界なら向かうところ敵なしでしょうね。やろうと思えば結界張ったり式神使ったりもできるでしょうし、九字切りなんてしようもんなら恐らくえらいことになりますよ」
「うっそぉ……」

 うちのパパとママから受け継いだ血筋これ、強すぎ……???

「ま、頑張ってみるといいですよ。両親から残された術式ものを存分に活かせる機会だというのは事実ですからね」

 突然露見した自分の未知の可能性に打ち震えていると、先ほどまで笑い転げていた五条さんが目に涙を浮かべながら言ってきた。

「うん。霙ちゃん、マジで逸材だわ! いやー鍛えがいがありそうだね〜!!」

 わははと笑いながら興奮した様子でぼふぼふと私の頭を叩く。キューちゃんに噛みつかれそうになるのを軽くかわしながら、そうだと閃いたように言った。

「いっそ地獄に帰らないで呪術師に永久就職しない?」
「やですよ!! 私は何と言われても地獄に帰りますから!!!」

 私はたまらず叫んだ。
 ……いや、マジですからね?!! フリとかじゃないですから!!! 才能どうこう以前に鬼なんで!!! ちょ、聞いてます!?



 まさかの血縁関係が判明した鬼獄卒
 →初めてジャパニーズDOGEZAをやった。そして今回で少年漫画の主人公か?ってくらい血縁関係がヤバヤバのヤバであることが判明。いやマジでなんで父さんも母さんも言ってくれんかったん!? と思ったけど割とガチで知らなかった説もある。それかあの世って現世的にとんでもない大物が普通に生活している世界なので、誰々の子孫がどうのっていう程度で騒ぐ程度でも〜って感覚がバグっていた説も大いにありうる。……とりあえず無事地獄に帰ったら、おじいちゃんたちには直接挨拶に向かおうと誓った。
 *術式【空拳主従】…呪霊や式神を召喚し、契約して従える能力。パパ(陰陽式神操術)とママ(妖召喚能力)の術式が、種族が変わった&ミックスされたせいで完全にオリジナル術式になっている。従えるには自身から直接ある程度の呪力を流し込む必要がある(相手の強さによってその量は変わる)。契約できる呪霊や式神の上限は10。正式に契約するには新たに名前を付け、それを呼ぶ必要がある。その時に手の爪に呪印が刻まれる。正確には「契約≠従える」なので、呪力流し込んで懐かれても契約しないっていうのもあり。契約した呪霊や式神は術者との呪力のパイプがあるので、もしやられてしまっても術者がやられない限り完全消滅はしない(戦闘不能になるだけ、要するにポ〇モンと一緒)。一時的に引っ込めることもできる。呼び出すには呪印の刻まれた指に呪力を込めて名前を呼べばいい。また召喚するだけして契約しないってことも出来るっちゃできる。その場合は等しく襲われたりもする(契約してないので当たり前)。召喚には何かしらの触媒が必要である。……実はもうひとつ使い方があったりもするけど、それはまたいずれ。


 ご主人の出自に驚きが隠せない呪霊コンビ
 →満場一致で「ぼく(自分)のご主人(姉御)、最強じゃない……??」と思っている。先ほどまで言い争っていたとは思えないほど意見が一致している。ふたりともどこまでいっても主人が大好きな点においては一緒なので。


 何も言わずに転生した鬼獄卒の母
 →ごめんて。生前は滝夜叉姫の双子の姉として生まれたけど、生後まもなく死亡。まだ火葬の文化がなかった時代だったのでそこに鬼火が入り込み、鬼になった。以後地獄で暮らしていたので自分の術式についに気付くこと無く転生。そんなことある???


 何も言わずに転生した鬼獄卒の父
 →許してや。生前は安倍晴明の息子のひとりとして生まれたけど、身体が弱くて幼くして亡くなった。まだ火葬の文化がなかったので同様に鬼火の悪戯で鬼になった。同じく術式に気付くことなく転生。そんなことある???


 呼び出しを食らってMK5(マジでキレる5秒前)だった鬼上司
 →割とガチで忙しい時に呼び出された。本当にこいつら親族は……でも愉快な部下の様子が見れたのでまあいいか、と思っている。宿儺ほどではないが、部下の反応を楽しんでいるのはマジなので。この後折角だからと高専内を一通り見学して帰った。ま、仕事は明日でも何とかなるだろう。知らんけど。


 期待の新人の血筋を知って笑いが止まらない担任
 →確かに呪力量もすごいし術式の内容も六眼でわかってたけど、流石に血筋まではわからんかったからね。だって21世紀の現代に日本三大怨霊のひとりと日本一有名な陰陽師の孫がいるって……そんなことある??? いやーびっくりびっくり。血筋がモノを言う呪術界でこれは逸材すぎるぞ。伸びしろしかなくて先生ワクワクしちゃうんだけど。


 新しくできた同級生の血筋を知って開いた口が塞がらない一年ズ
 →1000年生きてたとか両親が元人間だったとかは聞いてたけど、まさかこんなことある???? 期待のルーキーすぎ、っていうか設定盛りすぎじゃないの????


 未来の嫁(本人は否定)の血筋を知ってワクワクが止まらない呪いの王
 →良い、良いぞ、こんなに才能に満ち溢れているとはますます俺に相応しいではないか!とか素で思ってる。……この王、今回全然喋らなかったくせに器の中ではニッコニコである。次回はがっつり出番あるから許してくだちい。生得領域でアップでもしとってくださいな。夢主ちゃんはその……ごめんね(先に謝っておくスタイル)




 次回、「うっかりハートキャッチ再び?」
 お楽しみに!