亡者の阿鼻叫喚や動物の唸り声、炎の音が響き渡る血生臭い場所で、私は担当刑場である
ちなみに旃荼処は『病人が用いるべき薬品を病人でもないのに用いた中毒患者(阿片など)』が落ちる地獄。まあ簡単に言えば、ヤク中患者の終着点というわけだ。刑の内容としては烏、鷺、猪なんかが罪人の眼球や舌をつついて抜き出し、私のような獄卒たちが杵や大斧で罪人を打ち据えるという感じ。えぐい? グロい? そう思うならこの世の行いには十分気を付けようね。お姉さん()との約束だぞ〜
「どっせい!」
「ぐぎゃアァ!!」
愛用の金棒を振り回し、亡者を『一般人には見せられないよ!』って感じの血まみれ肉塊に変える。相変わらずここは服が汚れるなー 汚れが比較的目立ちにくい黒い仕事着にして正解だった。
因みにここの亡者達はある程度経ったら復活するから、死後裁判で言い渡された刑期を終えるまでこの苦痛を味わうことになっている。これを見ると悪いことはするもんじゃないなという気持ちになるんだよな。その点では教育にいい気がする。見た目は確実にトラウマもんだけど。
さーてもうひと踏ん張りかな、と思いながら金棒を肩に担ぐと、次のシフトの唐瓜くんがやってきた。交代の時間だ。
「霙さん! お疲れ様です!」
「お疲れー」
今日も疲れたなーと思いながら引継ぎ作業をする。テキパキと進める唐瓜くんにほうと感心しながら私は言った。
「唐瓜くんもだいぶ手慣れてきたね」
「そうですか? ありがとうございます」
へへ、と照れる唐瓜くん。可愛い。私よりめちゃ年下なんだってのもあるけど、小鬼って種族がそもそもちっちゃくて可愛いんだよな。そのイガグリみたいな頭を撫でると恥ずかしそうに顔を赤くした。可愛い……。
撫でがいのあるイガグリ頭を堪能してちょっと怒られた辺りで私は仕事場を後にする。そしてその足のまま不喜処地獄に向かった。シフトは一緒にしてもらってるからあの子もそろそろ終わったころだろう。
不喜処地獄に到着したところでちょうど犬獄卒のシロくんに話しかけられる。
「あ! 霙さんだ! お仕事終わったの?」
「うん。ついでにキューちゃん迎えに来たんだけど知らない?」
「キューちゃんくんならあそこだよ!」
くいっと前足を指し示すそこには、遠目からでもよくわかる亡者たちに容赦なく襲い掛かる巨大なオ〇ムもどきの姿があった。出会った時と同じくらいの大きさに膨張し、触手を使って容赦なく亡者たちをいたぶるその光景はもう完全にアメリカ映画に出てくる敵役モンスターだ。亡者たちのパニック度合いも段違いである。まあ急にあんなのに襲われれば誰だってああなるか。
私はシロくんにお礼を言ってから口に手を当て思い切り息を吸い込み、大きな声で呼びかけた。
「キューちゃーん! 帰ろー!」
「! きゅー!」
私の声にばっとこっちを振り返る。その眼はキラキラと輝いており、先ほどまでの敵役モンスターの面影はない。持っていた亡者をぶん!と適当にぶん投げて(投げ捨てた亡者は見事に地面に叩きつけられてスプラッタになった)、先ほどまで膨らませていた身体をしゅんしゅんと小さくしながらこちらに駆け寄ってきた。
「きゅ、きゅ、きゅ〜」
「おーよしよし」
すごいスピードでこちらに来たかと思えば、まるで犬のようにすりすりとじゃれついてくる。OKキューちゃん、甘えてくるのは可愛いけど、君今自分の身体が血まみれなの理解してる? 服が汚れ……まあ私も似たようなもんだしいっか。
「すっげー、本当に懐いてる……」と周囲の獄卒が息を呑むのを他所に、するりと伸びた触手がぐるりと私の胴に巻き付いて、ひょいと身体の上に乗せてくれた。そしてそのまま刑場内を移動し始める。
キューちゃんと一緒に地獄で働くようになって早1週間と少し。すっかりこの帰宅方法にも慣れた。初めは目立つから恥ずかしいと思っていたけどね。でも唖然とする獄卒や亡者達、そしてなによりも鬼灯様が羨ましそうにしているのを上から見下ろすのが楽しいと感じ始めてからはむしろ誇らしかった。私以外は絶対載せようとしないキューちゃんマジ可愛い。なんだかんだあったけど、あの世に連れてきてよかった〜 それにめっちゃ早く移動できるんだよね。出勤退勤の時短は大切。
閻魔殿に着いたところでキューちゃんに下ろしてもらう。するとちょうど見知った顔がやってきた。
古風な顔立ちに昔ながらの作業着のような着物の着こなしをしている男性と、白衣を身に纏い頭にこれまた白い三角巾のようなものを巻いている男性だ。特徴的なぱっつん風前髪に目尻に赤い印がついている。
「桃太郎さんに白ぶ……白澤さん。こんにちは」
「あ、こんにちは霙さん」
「你好〜 相変わらず辛辣だねぇ、霙ちゃん」
しっかりとした挨拶をしてくれる桃太郎さんに対し、白澤さんはへらへらと軽薄な笑みを浮かべている。
一見対照的に見えるふたりだが、こう見えても天国で薬局をやっており、その従業員と雇い主という関係なのだ。桃太郎さんはその名の通りあの日本一有名な昔話に登場する桃太郎その人であり、その隣の白澤さんも中国で妖怪の長と評されるほどの神獣だったりする。ただとんでもなく女癖が悪くて隙あらば口説いてくるその姿勢のせいで、私はついつい当たりが強くなってしまうのだった。ま、なんだかんだ許してくれるんだけどね。流石億越え老人。心が広い。
「今日はお揃いなんですね」
「この間の叫喚地獄での騒動があっただろ? それで養老の滝の正式な契約に来たんだ」
がっぽりだよ〜とお金サインをしながら笑みを浮かべる白澤さんになるほどなーと納得した。確かにアレは大変だった。すごく。まさかアル中が落ちる叫喚地獄(当然のように酒は持ち込み禁止)で、酒を求めて亡者が暴動を起こすとは思わなかったよね……。それなりに長く働いてるけどあれは流石に焦った。まあ鬼灯様の機転でなんとか解決したんだけどさ。
ところで、と桃太郎さんがおずおずと尋ねてくる。
「あの……こいつなんなんですか?」
「私の可愛いペットのキューちゃんです」
「そんな可愛い名前なのこいつ!?」
この見た目で!?と思わずツッコむ桃太郎に、キューちゃんがムッとした様子で触手を伸ばそうとするからどうどうとなだめてやった。ただその視線だけは鋭く、それを見た桃太郎さんはひい!?と悲鳴をあげながらその身をすくませる。
そんな桃太郎さんの横で白澤さんはキューちゃんを見つめながらふむ、と考える仕草を見せた。
「この子、どこから来たの?」
「現世にいたんですよ。色々あってなつかれちゃったので連れてきました」
「なるほどね」
そっとキューちゃんの身体を撫でながら目を細める。
「純粋な妖怪じゃなさそうだね、この子」
「あ、やっぱりそうなんですか?」
こんなんでも一応中国妖怪の長と呼ばれる彼だ。何かわかるのかもしれない。これ幸いにと色々聞いてみることにした。
「自分でも帰って来てから色々調べたんですけど、結局よくわからなくて……霊体化を自分でコントロールできるので浮遊霊がベースなんじゃないかと思うんですが」
「ベースは確かにそうだね……でもどっちかといえば、核になってるのはもうひとつの方だ」
「もうひとつ、ですか」
「うん。多分怨念とかそういうのが徐々に妖になったみたいなタイプのやつが、浮遊霊をいくつか乗っ取って操ってるんだと思うけど……ここまで強いのは僕も初めて見るよ」
「そうなんですか」
意外な気持ちで私は彼を見た。白亜紀あたりから生きてるらしい彼が初めて見る? それは結構なレア種なんじゃないだろうか。
「核になってるのは現世じゃ相当な怨霊か、いっそ祟り神みたいなものだったんじゃないかな。なんでこんなところで大人しくしてるのか不思議なくらいだ。今は君に懐いて改心してるみたいだけど、本来はすっごい危険なやつだったと思うよ」
「ふうん……」
「祟り神は常に負のエネルギーを放ってるから正直ずっと傍にいるのもあんまり身体に良くないんだけど……そうだ、これあげる」
思いついたようにポケットから取り出してこちらに何かを渡してくる。なんだろうと見てみるとそれは赤い紐の耳飾りだった。白澤さんがつけているのと似ているが、細かいデザインが違うし、織り込まれてるのも赤い石だったりする。指でつまんでまじまじと見ながら尋ねた。
「なんですかこれ」
「簡単に言えば僕の
「でもこれ……白澤さんとお揃いみたいで嫌なんですけど」
「いーじゃないお揃い。可愛いでしょ? 見るたびに僕を思い出してよ」
「デザインは好きですけど、高確率でバーサーカーになっちゃいそうで無理ですね」
「辛辣だねえ」
白澤さんは小さく肩をすくめながら言った。まあなんだかんだ言いつつも一応貰っておくんだけどね。この人の技術は信頼できるからな、技術だけは(強調)。
「それじゃ、僕らはそろそろ行くね〜」
「はい。お気をつけて」
「鬼灯さんにもよろしくお願いします」
「はい、伝えておきますね」
しっかり者の桃太郎さんを他所に面白くなさそうな顔をする白澤さん。本当に仲悪いなふたり……似た者同士のくせに……。
「また何かあったらいつでも相談に乗るよ〜」
「そういうことは上司に訊くんで間に合ってまーす」
さらっとかわしてふたりを見送った。さて、とキューちゃんを見上げる。
「早く準備しなくちゃね」
「きゅ〜」
嬉しそうなキューちゃんにふふ、と微笑んだ。
「現世観光、楽しみだねー」
「きゅ!」
そう、明日はキューちゃんと現世旅行なのだ。ちょっと早めのリベンジである。
前回の分もしっかり楽しむぞー!!
***
「どうして……」
思わず顔を覆って天を仰いだ。
目の前にはこの間の牙付き蜂(仮)がぶんぶんしている。殺意はマシマシだし、なんなら前回よりも量が多い。
「どう、して……」
「霙さん!」
虎杖くんが慌てて叫ぶ。それと同時に背後のキューちゃんが触手を伸ばして近づいてきたやつを払い落としてくれた。お礼を言いつつも正直それどころじゃない。流石にちょっと頭が痛くなってきた。
「なんでこうなったんだっけ……」
私は遠い目をしながら現実逃h……物思いにふけった。
***
――少し時間は遡る。
今度こそ念願の現世観光を楽しんでいた私とキューちゃんは現在、浅草を満喫していた。
ちなみにキューちゃんは霊体化した上に、宙を漂うクラゲのようなもの(手のひらサイズ)に姿を変えている。お前変身も出来たの!?と底知れないキューちゃんの可能性に嬉しくなりながらも一緒に満喫していた。人は多いけど雰囲気はいいし、買い食いは楽しい。昔来たときはまだ東京が江戸と呼ばれていた頃だったけど、あれはあれで楽しかったなあ。なんて現世日本人には一ミリも共感してもらえなさそうなことを考えていると「あれ? お姉さんこの間の」と聞いたことのある声が聞こえてきた。ぱっと振り返るとそこにいたのは……。
「……虎杖くん?」
そう。前回現世に行った際に出くわした制服三人組の内のひとり、薄い茶髪男子の虎杖くんだ。名前を呼ぶと「覚えててくれたんだ」とちょっと嬉しそうにはにかんだ。可愛い。
「お姉さん何してんの?」
「観光〜 浅草来るの久しぶりでさ」
そういう君は?と問いかけると「ま、俺も似たようなもんかな」とのこと。そして私の肩の上あたりに座っているキューちゃんを発見するなり訝し気に眉を寄せた。
「というか何? そいつ」
「君もこの間会ったでしょ?」
「え!? あの時の芋虫!?」
「そー正解」
「お姉さんにめっちゃなついてんじゃん(呪いなのに)……へえ、こんな姿にもなれるんだな」
興味を持ったらしい虎杖くんがそっと手を近づけようとすると、キューちゃんが怯えたように私の背後に隠れてしまった。そして影から虎杖くんに触手を伸ばし、ふしゅー!っと威嚇する。あらら。
「大丈夫だよキューちゃん、って……すっかり怯えちゃったな。ごめんね、普段はもうちょっといい子なんだけど……」
「あーわり、そいつのせいじゃないよそれ」
何か思い当たるフシでもあったのか、「そりゃそうだよな」とちょっと寂しそうにつぶやきながら虎杖くんが手を引っ込めた。すると突然何かを思い付いたかのようにそうだ!と顔を明るくする。
「今伏黒と釘崎待たせてんだけど、どうせだったら一緒に回らねえ?」
「え、いいの?」
「いいよ全然! 同じ観光ならひとりより大人数の方が楽しいっしょ」
ワクワクと楽しそうな虎杖くんを他所に、私は少々困惑気味だ。こちとらこの間会ったばっかのほぼ初対面だぞ? 普通友達同士の旅行メンバーに飛び入り参加させるか? 現世のイマドキッ子すげえ……。というかこの子が特殊な気もするけど。
「でも」
「いーからいーから」
手を取って引かれる。その爽やかな笑顔に不覚にもときめきそうだった。お恥ずかしい話、地獄で仕事に明け暮れてるとこういう少女漫画的展開と縁がないものでさ……。まーこちとらなんやかんやでもう1000年近く生きてるような(鬼)女だから流石に恋愛対象にはならn……オイこらそこ、思ったより歳いってんなとか言うな。どつきまわすぞ(金棒で)。
それで手を引かれるままにふたりの元へ行ったらまー驚かれてしまった。そりゃそうだよね、ひとりがふたりになって帰ってきたんだもん。目を丸くしたまま釘崎ちゃんが訊ねる。
「虎杖、そのお姉さんって……」
「さっき出店で買い食いしてるとこ見つけたから連れてきた。かくかくしかじかで一緒に回りてえんだよ」
説明めっちゃ省くやんこいつ。流石にしっかりしてそうなこのふたりは断るだろうなと思っていたら、意外にもOKの返事が返ってきた。思わぬ展開に私は反射的に訊ねてしまう。
「え、いいの?」
「3人も4人もどうせ変わらないわよ」
「変わると思うけどなあ……」
「それに迷子になったら後味悪いのは俺たちですし」
「え、伏黒くん私のことそんな風に見てたの?」
「ま、いーからいーから! とにかく行こうぜ!」
にぱっと笑う虎杖くん。流されてしまった……イマドキッ子怖え……。
すると釘崎ちゃんが思い出したかのように尋ねてきた。
「そういえばお姉さん名前なんていうの?」
「……霙」
「へえ、変わった名前だな」
呑気に頭の後ろで腕を組む虎杖くん。虎杖くんには言われたくねぇ……と思ったけど口にはしなかった。
すると黙って私たちの話を聞いていた伏黒くんが名前を聞くなりちょっと驚いたような顔をして、すぐに何でもなさそうな顔になった。なんだろう、知り合いと同じ名前だったのかな。
***
それから私たちは一緒に観光を楽しんだ。
3人は私とほぼ初対面も同然だというのに流石はイマドキッ子のコミュニケーション能力というか、短期間で凄く仲良くなってしまった。不意打ちで年齢を聞かれて苦し紛れに「いくつに見える?」って訊いたら「多分年上なんだろうけど、ぶっちゃけ同い年って言っても信じる」って言われた時はどうしようと思ったけどね。とりあえず適当に20歳ということにしておきました。わーお、約980歳のサバ読みは世界記録では?
それと、虎杖くんの口から私の肩にいるキューちゃんがあの時の芋虫だと教えられると、すごく驚いた後におそるおそるスキンシップをとろうとしているふたりの姿がとてもかわいかった。結果的にクラゲ姿のキューちゃんにメロメロになったらしい釘崎ちゃんが「あんたずっとこの姿のままでいなさいよ!」と興奮しながらキューちゃんを撫でていたのがすごく印象的だったりする。
観光の合間に色んな話を聞くことができた。なんでも彼らは呪術高専(やっと漢字がわかった)に通っている同級生らしく、まだ1年生なのだそうだ。若いっていいねえ……と思いつつも呪術を学校で習うってヤバくね?とも思っている私がいる。そんな特殊な学校でやっていけてるのがすごい。入学者いるの?と思ったら1年生は3人なんだと。うわー、少子化の波がここにも……。
すると虎杖くんが不思議そうに聞いてきた。
「呪術高専のこと知らないってことは、霙さんはそこ出身じゃないの?」
「違うよ。私は普通の学校出身だからね(ってことにしとこ……学校行ってたのウン百年前だけど)」
「そうなんだ! てっきり俺先輩なんだと思ってた」
「(高専出身じゃない呪術師か……) なら五条先生が知らないのも頷けるかもな」
「そうね」
「五条先生?」
伏黒くんと釘崎ちゃんの会話に出てきた人物が気になって尋ねてみると、どうやら担任の先生らしい。結構生徒と親密に接してるタイプの先生なんだ、いい先生だねと感想を述べると3人になんともいえない顔をされてしまったのは一体何だったんだろう。
すると不意に伏黒くんの携帯が震える。なるべく聞き耳は立てないようにしていたけど、伏黒くんの口から電話の相手は例の五条先生らしいことはわかった。しばらく応答していたかと思うと通話を切って、大きなため息をひとつこぼす。
「五条先生からだ。ここから少し離れたところに呪霊が出たからとりあえず3人で向かってくれって」
「うへえ、こんな時にかよ……」
「階級は?」
「推定3級。ただ数が馬鹿にならんらしい」
「うーわ最悪。数がいる雑魚ほど面倒なものはないわ」
やれやれと溜息をつく釘崎ちゃん。なんか私を置いてけぼりにしてめっちゃ専門用語飛び交ってるんだけど……要するにこれは急用が入ったからごめんねってやつ? んじゃ自分からおいとましたほうがいいかな。
それじゃー私はこれで、と立ち去ろうとしたところで虎杖くんが慌てて私の手を取った。
「……なんで掴んでるのかな?」
「だって霙さん、(呪術師なんだったら呪い)祓えるんでしょ? キューちゃんに懐かれてるし」
「まあ(妖怪とか霊なら)一応それなりに……」
「だから手伝って欲しいんだよ! 数が多いらしいから俺たちだけじゃ難しいかもしれないしさ」
頼む!と言われてしまえば仕方がない。お姉さんは可愛い年下から頼まれるのに弱いんだよ。力になれるかはわからないけど、と前置きをして3人と共にその場所へ向かうことになった。動きやすい服装で来てよかったわほんと。
到着したのは前回よりもちょっと大きめな廃ビル。高さは5階建て以上に見えるが、風化してるせいで上の方は崩れてしまっている。どんだけ放置されてんだこの建物……と思いつつも中に入っていく。中もかなりに酷い状態だった。前のように全フロアぶち抜きというわけではないけど、そこそこな広さの部屋の中に何かが飛び回っている。よく見るとそれはこの間キューちゃんと戦った時に遭った牙付き蜂(仮)だった。
お前らちゃっかり生きてたんかい!! あの時はすっかり存在を忘れてたけど!! そう思うのは私とキューちゃんだけのようだ。3人は険しい顔で目配せをしあう。
「さて、ちゃっちゃと終わらせて観光の続きするわよ!」
「ああ」
「おう!」
釘崎ちゃんの声に続いて虎杖くんと伏黒くんが往々に構える。そして戦闘が始まった。
……というところで回想終わり。そして、あの……言わせてください。
「(みんなすごくない!?)」
虎杖くんはまあ肉弾戦だからまだ理解できるけど(理解できるだけだ。その怪力は多分一般人と一緒にしちゃいけないレベルのやつ。端的に言ってヤバイ)、他のふたりは式神の犬や釘を使って戦っているし! うん。とても普通の現代人とは思えないね……。
この間までオカルトクラブ的な集まりに所属するただの学生だと思っていたけど、全然そんなことはなかったみたいだ。それともイマドキッ子はこれがデフォルトなの? いつの間に現世日本人こんな能力バトルみたいなことできるようになってたの? 初耳なんだけど!
「もしやここ、私の想定していた現世じゃない……? それとも知らない間にすごい進歩を遂げていたとか……?」
「霙さん! 危ない!」
「!」
「きゅ!」
考え事にふけっていた私を守ろうと、身体を元の巨大芋虫姿に戻したキューちゃんが触手で払い落としてくれた。ありがとうとお礼を言いつつも私の気持ちは複雑だ。
正直このままキューちゃんや3人に守られっぱなしで見てるだけなんて性に合わない。最初は一般人ぶるつもりだったけど、ここまで若者が体張ってるんだ。彼らより何十倍以上も長生きしてる圧倒的年長者の私がこんなんじゃ申し訳ないだろう。それに虎杖くんにも『手伝って欲しい』って言われたし……。
正体がバレない&現世に影響を及ぼさない程度なら力になってもいいかなぁ。……どの程度なら正体がバレないか、この3人基準だとわからなくなりそうだけど。
「でも素手で応戦するのはちょっとな……うーん、仕事道具(金棒)があればもっとうまくやれるんだけど」
「え、仕事道具(呪具)忘れてきたんですか?!」
私のひとりごとが耳に入ったのかめちゃめちゃ驚く伏黒くん。その驚きように面食らいつつも返答する。
「(なんで君がそこに食いつくんだ) ……そりゃ今日は観光に来たんだし、仕事するつもりじゃなかったから置いてきたよ。それに(金棒)重たいし」
「重たいからって(呪具)置いてくるのはちょっとどうかしてると思いますけど!」
「そうだよ! ダメでしょずっと持ってなきゃ!」
「虎杖お前が言うなお前が」
釘崎ちゃんが牙付き蜂(仮)に釘を飛ばしながら虎杖くんに苦言を呈す。何か勘違いされてるな?と思いつつも訂正が面倒そうなのでそのままにしておいた。それよりも不味いのは目の前の状況だ。
「そうは言われても無いものは仕方が……」
「きゅ〜!!」
そこでぶべばっとキューちゃんの口から触手が伸びてきた。
なんだと思いながらも視線を向けるとそこにあったのは、私が長年愛用している金棒だった。
「キューちゃん!! えっそれ私のじゃん! ずっと持ってたの!?」
「きゅきゅ」
「さっすが〜やるねえ」
そういえば地獄から帰る時いつも代わりに荷物持ってくれてたもんな……それをそのまま持ってきてたのか。用意周到なやつだ。金棒を受け取ってよしよしと撫でてやると嬉しそうに鳴いた。
「か、金棒……!?」
「なかなか意外な呪具使うわね……」
思わぬ武器の登場にドン引きしたり目を丸くしたりする3人を他所に、私は金棒を軽々と持ち上げてバットの要領でトントンと肩の上で跳ねさせる。鬼灯様が機嫌悪い時によくやる癖みたいなやつだ、貧乏ゆすりみたいだなといつも思ってたけど、こうして真似するとちょっと気合が入る気がする。うん。相変わらずよく手に馴染むなぁこいつは。
ぐっと握る力を込め、ぐおん!と勢いよく振って正面の牙付き蜂(仮)に突き付けた。
「さーて……若い子たちのためにやりますかぁ、時間外労働」
これ手当出ませんかねぇ? 出ない? デスヨネー知ってた!!! クソが!!!
結局現世観光リベンジが中途半端になってしまった鬼獄卒
→なんでこうも邪魔が入るんだろう、呪われてるのかな……という気持ちになってきた。間違っちゃいない。好きなものは不労所得と人に奢ってもらう美味しいご飯、嫌いなものは報酬が発生しない時間外労働と年齢&童顔いじり。やっと「ここ私の知ってる現世じゃない気がする!」と現状に多少の違和感を覚え始めた(遅い)。
余談だが霙の金棒は鬼灯の持ってるのと同じシリーズ。つまりいわくつきだし、それに加えて鬼灯の持っているものより約1.5倍くらい重かったりする。振り回すどころか持ち上げるのも常人には無理な重さだけどまあ、虎杖ならワンチャン?
フォルムチェンジを覚えた有能なオ〇ムもどきくん、もといキューちゃん(正式命名)
→ちょっとだけ秘密がわかったような、わからないような。本能的に虎杖の中にいる宿儺を察知したらしく、彼がなんとなく苦手になってしまった。「きゅ〜……きゅ!!(特別意訳:この男、嫌な気配しかしねえ……姉御!こいつ危険です離れてください!!!)」
名前だけ出てきた鬼上司
→オー〇から見下してくる部下のドヤ顔すげームカつく……。
辛辣にあしらわれた(一応)吉兆の神獣
→なんだかんだ言いつつも結局渡した耳飾りを受け取ってくれるところが可愛いと思ってる。実はそれなりにアタックしてるけど全敗してるのだ。うーん、今日も通常運転だね〜 ま、そういうところが追いかけがいがあっていいんだけど。
元日本一有名なヒーロー、現神獣の部下
→威嚇されたせいですっかりキューちゃんが怖い……。
楽しい観光から一転、お仕事モードな一年ズ
→仲良く東京観光してるときにまさかあのお姉さんを虎杖が連れてくるなんて思わなかったけど、まあ結果オーライだからいいかと思ってる。一緒に観光するの楽しかったし。ただし呪霊、お前は許さん。にしても先生全然来ないんだけどまたどっかで寄り道してるな? 別にここは何とかなるけど、だからといって怒らない訳じゃないんだよ先生?
その先生
→連絡を受けてぼちぼち向かってる。ただし、差し入れ用のお土産買うからもうしばらくかかる予定。
次回、「3級呪霊達、死す」
デュ〇ルスタンバイ!