来たときと同様に地獄から帰還し、ビルの扉を閉める。時間を確認するともうすぐ日付は変わりそうになっていた。ふあ、と欠伸をする釘崎ちゃんを見て私は申し訳ない思いで謝る。

「ごめんね、こんな時間まで」
「いいのよ。見たいって言ったのは私たちの方だし」
「んじゃ帰ろっか」

 五条さんが言った。ぞろぞろと全員で同じ方向に向かったのを見て私はそういえば、と尋ねる。

「みんな家は同じ方向なんですか?」

 それを聞いた全員はきょとりと面食らった顔をした。そして五条さんがへらりと笑みを浮かべて「まだ言ってなかったね」と言った。

「呪術高専は全寮制なんだよ」
「そうなんですか、なるほどね……って、ことは……」
「そ、霙ちゃんも今日から同じ寮に住んでもらいます」

 衣食住の保証ってそういうことか……と今更ながら納得する。まあいいけどね。獄卒の時も寮だったし。駅へ向かう道中で五条さんは続ける。

「まあ正確には明日学長と面談してから合否を決めるから、今日は来客者用の部屋で休むことになるけどね」
「学長面談……というか、合否?」

 聞き捨てならない言葉が聞こえ、私は眉をひそめる。

「私落とされることあるんですか?」
「まー霙ちゃんなら大丈夫だよ」
「ええ……何その自信……」

 なんでこういうところはテキトーなのこの人……。
 虎杖くんのつぶやいた「頑張ってね霙さん」という言葉にどこか哀愁を感じるような感じないような気がした。うーん、大丈夫かなぁ……。


***


 十数分ほど電車に揺られ、ついた駅を出ると黒くてそこそこ大きな車が止まっていた。いたいた、と言うところから五条さんが呼び出したんだろう。どうりで携帯をいじってるなと思ったら。慣れたように乗り込むのでそれに続く。運転席に座っている眼鏡の男性に五条さんが笑いかけた。

「お疲れ様。お迎えありがとね」
「いえ。……ところで、彼女が?」
「うん。期待の新人」

 期待の新人? 誰が……私が!? 五条さんの紹介に固まっていると男の人は私の肩にいるキューちゃんに少々驚きながらも「なるほど、了解しました」と静かに言った。その慣れた会話を聞きながら、私は隣の席に座っている釘崎ちゃんに聞く。

「あの人は?」
「伊地知さん。呪術高専の補助監督よ」
「補助監督……」

 聞けば術師のサポートを主にしているらしい。こういう人もいるのか。意外と奥が深いんだな。
 車内でたわいもない会話をしていたらあっという間に呪術高専に到着した。現世東京とは思えないほど自然に囲まれており、イマドキ珍しい和風な外観だ。まさかこんな見た目だとは思っておらずいい意味で期待を裏切られた私は思わずおおーと目を丸くする。

「ようこそ呪術高専へ。歓迎するよ」

 五条さんは得意げに言った。
 寮に戻るのだという子どもたちと途中で分かれ、私は来客用の部屋に通される。シンプルながらに洗練されたホテルの一室のようなそこは正直「学校の施設なのか……?」と思うほど綺麗だった。室内の設備説明をしてから、五条さんは「んじゃまた明日。9時に迎えに来るから準備しててね」とだけ言い残して去って行ってしまった。静かに鍵を閉めてから部屋の真ん中に備え付けられたソファに腰かける。

「……なんか、どっと疲れたな」

 久しぶりに静かな時間になったような気がする。というか今日は色んな事が立て続けにありすぎだ。現世観光に来て虎杖くんたちと会って、呪いを退治して、鬼だってバレて、1000年前に会った宿儺さんと再会して、現世は現世じゃなかったことがわかって、求婚されて、一緒に地獄に行って……うん、どう考えても1日の密度じゃないねこれは……。
 そのまま寝そうだなーでもなーと思っていると、すすすと寄ってきたクラゲ姿のキューちゃんが触手を伸ばして私の頭を撫でてきた。お疲れ様とでも言いたげに瞳をにっこりと細める。

「ふふ、ありがとねキューちゃん」

 今のでちょっとだけ元気が出た私はうーんと身体を伸ばした。
 さて、お風呂入って早く寝ようかな。


***


 次の日。
 コンコン、とノックがあったので私ははーいと返事をしてから鍵を開けた。そこに立っていたのは昨日と変わり映えしない風貌の五条さんだ。

「おはよう霙ちゃん。準備はどう?」
「大丈夫ですよ」
「それじゃいこっか」

 荷物はそのままでいいからね、と言われたのでそこに置いたままキューちゃんと共に部屋を出て鍵を閉める。どこに行くんだろうと思いながらも彼の後についていく。

「にしても和服似合うねー」
「地獄じゃこれが普段着ですからね」

 現世用の服は生憎昨日着ていたものしか持っていなかったため、私が今着ているのは地獄でよく着ていた暗い藍色の着物だ。シンプルな白く細いストライプ柄で、帯の色は白。そこに白澤さんから貰った赤い耳飾りを引っかけている。お揃いのピアスにするにはハードルが高いけど、これなら活用できるかと思ったのだ。そして足元は黒い鼻緒の二枚歯下駄。足袋は履かずに素足のままである。
 そっか、と言う五条さんがふとあることに気付いたようにこちらに視線を向ける。

「あれ? 角は?」
「ああ」

 五条さんに指摘されてから改めて自分で頭を触る。そこには2本角はすっかり無くなっていた。

「擬態薬を服用してるので」
「へえ、ほんとに無くなるんだ」

 面白いねーといいながら無遠慮に頭を触ってくる五条さん。やめれ。

「五条さんが私のことをどう伝えてるのかわからなかった以上、学長にお会いするなら人間の方がいいかと思ったので」
「別にあの人そういうの気にしないと思うけどな」
「気にしないって……ずっと思ってましたけど、ここの人ってあんまり私を怖がりませんよね」

 最初こそ五条さんや虎杖くんたちにも驚かれたけど、今となっちゃ慣れたもんだ。すっかり私が鬼だということを受け入れている。普通鬼なんて見つけたらすごく怖がるか、即研究施設とか見世物小屋行きかと思ってたんだけど……。
 すると、さも当然とばかりに五条さんは言った。

「だって僕ら呪術師だよ? 君なんかよりもっとヤバい姿の呪霊をたくさん見てるからね」
「……それを言われちゃ何も言い返せませんね」
「うん。だから高専ここでは鬼だって別に隠さなくてもいいよ。そういうのに偏見無い子ばっかりだと思うし」
「マジですか」
「一応、外では隠した方がいいとは思うけどね」

 じゃあ別に擬態薬飲まなくてもよかったのか今日……。貴重な薬を無駄にしちゃった感あるな。

「それに僕ら一緒に地獄に行った仲じゃない。霙ちゃんがこちらに友好的なのもわかったし、別に人じゃなかったからって軽蔑したりしないよ」
「……」
「まあ、上がなんていうかはわかんないけど……そこは大丈夫。僕が何とかするから、霙ちゃんは心配しなくてもいいよ」

 こう見えても僕結構権力あるからさ〜なんて得意げに言う五条さんの言葉を聞きながら、私はほんの少しだけほっとした。
 周りとは違う私を受け入れてくれたことがなによりも心強い気がしたのだ。自分は鬼であり、現世では異質な存在である。そう自覚しているからこそ、彼がそうして口にしてくれたことが嬉しかったのだと。

 ……宿儺さんあの人も、嬉しかったんだろうか。
 周りとは違う姿形を忌み嫌われる中、幼い頃の私に肯定されたことが。

「(……いやなんでここであの人が出てくるんだ)」

 ふと浮かんだ考えにむむむと眉間にしわを寄せる。思ったより短期間で毒されてるな……しっかりしないと。

 思い出せ、私がここに来た目的を!! 
 あの人をなんとかして、一刻も早く地獄に帰るんだ!!!

 しばらく歩いて到着したのは寮の食事用スペースだった。なるほど、一緒に朝食を摂ろうというつもりだったらしい。五条さんの連れてきた私の姿を見て、釘崎ちゃんはきらりと目を輝かせた。

「霙さん、和服可愛い〜!」
「シンプルでいいですね」
「めっちゃ似合ってる!」
「ありがとね〜」

 そのまま一緒の席についてご飯を食べる。今日のメニューは和食だ。ちなみに五条さんは今日は気分じゃないらしく、砂糖をドボドボ入れたコーヒーを飲んでいる。うーん見てるだけで口の中が甘くなってきそう……。

「昨日は眠れた?」
「おかげさまでぐっすり」

 元気に大盛りの白米を頬張る虎杖くんに私は返答した。それにしても、と窓の外の景色を見ながら目を細める。

「現世の朝は明るくていいね」
「地獄ってそうじゃないんですか?」
「地獄は地下にあるから太陽がないんだよ。上の方にある周期的に発光するヒカリゴケみたいなやつで昼と夜を感じてるの。だから年中薄暗いんだよね」
「なるほど……」

 納得したようにもぐもぐと卵焼きを頬張る伏黒くん。私が白米を片手に納豆を食べようとしたところでさっと虎杖くんに取り上げられてしまった。その行動の真意が読めず、私は目を丸くしてしまう。

「どうかした?」
「いや、霙さん鬼でしょ? なら豆は駄目じゃねえの?」
「あー……なるほどね」

 虎杖くんの行動の理由がわかったところで私は真実を教える。

「言っておくけど、鬼って普通に大豆食べるからね」
「え!? そうなの!!??」
「私たちを何だと思ってるのさ……」

 愕然とした様子の虎杖くん。みんなもそこまでオーバーじゃないにしろ、驚きは隠せてないようだった。まあ五条さんはふーんって感じだけど。

「じゃあ節分の時豆撒いてるのって、あんま意味ない?」
「意味無いっていうか、あれ人間サイドの考えたダジャレだしねえ。『めっする』で『豆』」
「マジで!?」

 全然知らなかったんだけど!と叫ぶ虎杖くん。ふと釘崎ちゃんが何かに気づいたように私の手を指さした。

「霙さん、その小指の爪どうしたの? ネイル?」
「え? ああ、これね」

 指摘されてから私は改めて左手の小指に視線を向けた。そこには円といくつかの三角形を組み合わせたような赤色の小さな模様が刻まれている。

「なんかちょっと前からあるんだよねこれ。洗っても落ちないの」
「え、大丈夫なんですかそれ」

 傍から見ていた伏黒くんが眉間にしわを寄せる。

「今のところ何ともないから放っておいてるけど……もしや何かヤバイ?」
「……見たところ呪印っぽいですけど」
「マジ?」
「マジです」

 伏黒くんが真剣な顔で頷く。ヤバいものだったらどうしようと心配していたら「どれどれ〜」といいながら五条さんが急に割り込んできた。じっと見た後に、少しだけ驚いたような顔をした。そしてふっとゆるく微笑む。

「……なるほどねぇ」
「どうです? ヤバい奴でした?」
「これは心配しなくていいやつだよ」
「よかったー……」

 五条さんがそういうのなら大丈夫なんだろう。とりあえずほっとする。

「でもなんなんですか? これ」
「ま、それは後でゆっくりね」
「ええ……」

 なんで鬼灯様といい五条さんといい、すぐに言ってくれないの……?

「食べ終わったら移動するよ〜」
「はーい」
「え、早。ちょっと待ってくださいよ」

 私は大急ぎで味噌汁の椀に口を付けた。


***


 無事に朝食を済ませ、みんなで場所を移動する。

「なんでみんなもついてくるの?」
「見学希望です」
「見学?」

 学長との面談を見学って何??
 そんな疑問を抱えつつも目的の場所であるらしい部屋に到着した。失礼しますと言いながら中に入る。学長室というにはあまりにも薄暗いような……。そんなことを思っていると、部屋の奥の方にひとりの男が座っているのが見えた。その男はサングラス姿の屈強な体格をしており、静かにぬいぐるみを編んでいる。な、なかなかギャップがすごい……。

「あの人が学長ですか」
「そ」

 私の問いかけににっこり笑う五条さん。よし、ならばこちらからだ。そう思いながら私は姿勢を正した。

「はじめまして、霙と申します。これからお世話になります」
「学長の夜蛾だ。では早速だが入学試験を行う」
「え」

 夜蛾さんの思わぬ言葉に、私はびしりと固まった。そのまま夜蛾さんの隣に移動した五条さんの方を睨む。

「……試験とか聞いてないんですけど」
「当然だよ、言ってないんだもん」
「言えよ!!!!!!」

 思わず大きな声が出た。なんでこういう大事なこと言わないのこの人?? 部屋の壁際の方で見ている3人がああ……と呆れた顔をしている。もしかしたら常習犯なのかもしれない。

「大丈夫。筆記じゃなくて実技試験だから」
「ならよかったーと私が言うとでも?」

 はあ、と溜息をついている私に夜蛾さんは続けて言う。

「内容は簡単。今から襲い掛かってくる呪骸をすべて破壊すれば合格だ」
「呪骸?」

 聞きなれない言葉につい反芻してしまう。するとムクムクと夜蛾さんの周りにいた大小さまざまなぬいぐるみたちが動き出した。まるで意思を持ったような動きをするそれに私は思わずぎょっとしてしまう。

「なんですかこれ、ポルターガイスト?」
「そういう術式なのさ」

 術式……ってことは呪術の種類的な感じなんだろうか。よくわかんないけど。ええ、どんな能力なのそれ……。

「聞けば君、昨日は呪霊をひとりで退治したそうじゃない。だからどれだけ動けるか僕らも見たいんだよ」
「そういうことですか」

 五条さんの言葉にようやく合点がいった。やるってわかってたらそれなりに準備もしたのに……つか絶対ご飯食べた直後にやるものではない気がする。ちらりと周りをみると、子どもたちがこちらを見守っていた。虎杖くんはハラハラしているし、伏黒くんと釘崎ちゃんは冷静にこちらを観察している。見学ってそういうことね。

「やるしかないかあ……」

 袂の中から紐を取り出し、素早くたすき掛けにする。髪もついでに高い位置でひとつにまとめながら夜蛾さんに尋ねた。

「これ原則素手ですか?」
「いや。術式の使用や呪具の所有は自由だ。何か使いたいものでも?」
「できれば武器を使いたくて」
「わかった。許可しよう」

 髪を結び終わるなり側にいるキューちゃんに呼びかける。キューちゃんはきゅ!と鳴いて金棒を取り出し、こちらに渡してくれた。うん、やっぱこれだね。いつも通りの相棒に、自然と口角が上がる。

「キューちゃん。終わるまで壁の方で待っててくれる?」
「きゅう……」
「大丈夫だから」

 ね?と言い聞かせると、渋々ひゅーんと釘崎ちゃんのところに飛んでいった。そして心配そうにこちらを見やる。

「準備は出来たか」
「はい」
「それでは――試験開始だ」

 夜蛾さんの言葉と共に、ずあああっ!とぬいぐるみたちが動き出す。
 私は金棒を肩の上でトントンと弾ませ、重心を低くし、襲い掛かってくるぬいぐるみたちを睨みつけながら地面を蹴った。

 ――そこからはもう夢中だった。

 前方から飛んできたニンジャ虎を翻すようにして躱し、それと同時に金棒の打点に入ったサムライ兎を思い切り殴り飛ばす。
 向かってきたチェーンソー猪を踏んづけて空中で一回転。その勢いで後方のデビル龍を左手に渡した金棒で殴って地面に叩きつける。
 床に手をつき上体の天地を逆転するようにしてナイフ牛の攻撃を避けて、そのまま金棒を突き上げて天井に叩きつける。

 金棒で殴り飛ばしたぬいぐるみたちは皆ほとんどが壁に叩きつけられてぼとりとその場に落ち、動かなくなった。体制を整えて地面に着地し、金棒を持ち直す。そこそこ跳ねまわったのにも関わらず息は一切乱れていなかった。元来動体視力はよかったのに加え、鬼の身体能力の高さがあるのだ。これくらいの動きはどうってことない。
 気付けば残り一匹になったぬいぐるみを見ながら、私は金棒を肩の上でトントンと弾ませた。

 ラストのボクシング犬はぽこんぽこんとその場で数度弾むと、あろうことか正面から挑んでくる。
 終わったか、と思いながら金棒を構えた。その瞬間。

「!」

 振りかぶった金棒が思い切り右手から抜ける。

「しまっ――!!」

 そっちに気を取られたスキにボクシング犬は思い切り間合いを詰め、私の顔を殴りつけた。

「ぐッ……!」

 中身は綿のはずなのにかなりのダメージが入った気がする。衝撃で思わずのけぞり、数歩よろめくように後ずさった。だが倒れはせず、そのままぐっとこらえる。正面の方でぽこんぽこんとボクシング犬が好戦的に跳ねる音がする。
 身体をゆらりとゆらめかせながら、上を見ていた顔を正面に戻す。

「ははッ――」

 つつーっと垂れてきた鼻血を舐めとれば、自然と笑みがこぼれた。ああ、ムカつくなぁほんとに。
 ……次で必ず、仕留めてやる。

 ぞわ!とボクシング犬が怯えた表情を浮かべたかと思えば、ばびゅん!と明後日の方向へ飛んでいった。ぽこぽこと壁や柱を跳ねまわり、どこから攻撃してくるかわからなくさせる作戦のようだ。私はじっと静かに長い息を吐いて仕掛けてくるのを待つ。

 すると左手の方からこちらに向かって近づいているのが分かった。私はぐっと足に力を入れ、腰を捻りながら滑らかに重心を移動させる。
 そして大きく振りかぶった固い右拳を、渾身の力でそいつに叩き込んだ。

「どぉりゃっ!!!!!」

 ――ぼごん!!! 

 ぬいぐるみとは思えないほどの物凄い音がして、私の拳がぬいぐるみを貫通する。
 腹を貫かれたボクシング犬はしばらくもぞもぞと動いていたかと思うと、そのままぐったりと動きを止めた。……終わった。私は大きく息を吐いてボクシング犬を腕から抜いて地面に置き、たすき掛けの紐を解く。

「すみません。1匹駄目にしちゃいました、って……あれ?」

 そこで初めて周りの状況を見る。ごろごろとあちこちに散らばるぬいぐるみ、驚愕に固まり声も出ない子どもたち。ケタケタと笑う宿儺さん。表情を変えない夜蛾さんと五条さん。
 これは、もしかして……。

「私、ちょっとやりすぎました……?」

 困ったようにそちらを見ると、五条さんは堪えきれないとばかりに大笑いし始めた。

「いやー驚いたよ! まさか君がこんなに動けるとはね! 本当に期待の新人だってわけだ」
「……予想以上だな、これは」

 夜蛾さんも声に驚きを滲ませながらつぶやく。

「ということは……」
「合格だ。……ようこそ、呪術高専へ」
「! ……ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げた。よかったーとほっとしたように笑う。これで首の皮一枚繋がったってとこかな。

「では早速だが……あれ、なんとかしてもらおうか」
「え?」

 夜蛾さんが示した先――ちょうど私の後方あたりに視線を向けると、そこにはなんと大きな穴が開いていた。
 そうだ、そういえばさっき、金棒がすっぽ抜けて……!! 状況を理解した私の顔からだんだんと血の気が引いていく。

「あ゛ーーーーー!!!!! 本当にすみません!!!!」

 渾身の謝罪が呪術高専内で響き渡った。


***


「……まさか連帯責任で俺たち全員で壁直すことになるとはな」

 板を抑えながらトンカチを叩く虎杖くんがつぶやく。元凶である私はどよーんと重い空気をまといながら謝罪した。

「ほんとごめんねみんな……まさかこんなことになるとは……」
「謝らなくていいですよ。こっちもいいもの見せてもらいましたし」
「すっごくかっこよかったわよ!」
「あ、ありがとね……」

 結構やりすぎてしまった対数十分前を思い返してちょっと顔が熱くなる。あーほんと、流石にあれはちょっとな……顔面にキメられて完全にバーサーカーになっちゃってたやつだ。1000歳超えてるのにあんなにやり返しちゃって恥ずかしい……完璧に後悔しかないやつだ。そのおかげで合格したとしても、これはこれ。

「にしてもすごいですねこの金棒。手からすっぽ抜けただけで部屋の壁貫通して外の木まで数本なぎ倒すとか」
「結構重そうだしな〜 何キロくらいあんの?」
「え? えーっとこれは確か、150キロくらいかな?」

 鬼灯様の持ってたやつが約100キロだったからーと脳内で計算して軽い気持ちで答える。
 すると3人が見たこと無いほど驚愕の表情に固まった。

「「「……マジ?」」」
「え?」


***


「うっわ重っも!! 流石に俺でもちょっと持ち上げるのでギリだわ……!」

 両手で数センチほど金棒を持ち上げた虎杖くんが腕をプルプルさせながら叫ぶ。それを聞いた伏黒くんが信じられないとばかりにつぶやいた。

「あの虎杖が持ち上げるので精いっぱいだと……!?」
「霙さん……」
「やめて!!! 新種のゴリラを発見したみたいな目でこっちを見ないで!!!」

 釘崎ちゃんからの視線に耐えられず私は声を上げる。なんだよ!! これでも地獄じゃ割と普通な方だぞ!!!

「鬼ってみんなこんなゴリ……力持ちなんですか?」
「(今ゴリラって言いかけたな伏黒くん) まー人間よりも力は強いかな。獄卒は体力もあるし。でも正直私よりすごい人はいっぱいいたから」
「これ以上のゴリ……体力自慢で溢れかえってるとか、地獄って怖いところね……」
「(釘崎ちゃんまで!) まあ体力がないとやってられないからね、獄卒って。担当刑場によっては色々重いもの持ったりするし、一日中亡者追いかけまわしたりするし」

 ふたりからゴリラ認定を受けたことに少々ショックを受けていると、金棒をキューちゃんに渡しながら虎杖くんが言った。

「はー、そんなところでよく500年も働けたね。すげーよ」
「そこは私も不思議に思ってるんだけどさ」

 なかなかひとつの職が長続きしなかった私が500年も獄卒を続けられたのはきっと、鬼灯様のお陰だろう。あの鬼神の厳しくも部下思いなところがとても尊敬できて、本当に大好きなのだ。上司的な意味で。え? 異性として? いやーあれは流石に私には無理ですよ……手に負えないって……。
 すると不意に軽薄な声が聞こえてきた。

「おつかれ〜 調子どう?」
「五条先生」
「だいたい終わったわよ」
「おーほんとだ。綺麗に塞がってるね」

 壁の状態を見ながら五条さんはふむふむと感心した様子だ。今までどこ行ってたんだという嫌味を込めて私はその無駄に高い身長を見上げながら言う。

「五条さんも手伝ってくれればよかったのに」
「まー僕忙しいからさ。そういうわけにもいかないんだよね」
「ほんとかなあ……」
「そんなことより、終わったら全員で教室集合ね」
「何かすんの?」

 虎杖くんの問いかけに、五条さんはよくぞ聞いてくれましたとばかりに口角を上げる。

「霙ちゃんがこの世で生きていくために必要なものを作るよ。みんなでね」



 狂気の笑みが似合いすぎるゴリ……鬼獄卒
 →久しぶりにバーサーカーしちゃった(苦し紛れのてへぺろ) いやーだって急に顔狙われたら殺意ぐらい湧くじゃん??? そういうことよ(?) でもそのくせすぐに我に返って恥ずかしくなってしまうのだった。一時のテンションに身を任せたやつは身を滅ぼすって本当ですねー……うう……。


 なんだか誇らしげなキューちゃん
 →実は霙が無双するたびにくるくると嬉しそうに回っていた。「きゅきゅきゅ〜!!(特別意訳:最高ですぜ姉御!! かっこいい!!)」


 器の身体の中からじっくり見ていた呪いの王
 →「なかなか悪くない動きをするではないか。よいよい。強い女は嫌いではないぞ」なーんてニコニコしていたりして……。もういっそ霙全肯定botに名前を変えたほうがいいのでは?


 期待の新人の繰り出す渾身の右ストレートを見た学長
 →顔に当てたのは本当にすまないと思っている。そんなつもりは全然なくて、マジの不慮の事故なんだごめんな。にしてもあのパンチは…………流石にちょっと寒気がする。


 期待の新人の繰り出す渾身の右ストレートを見た先生
 →あれまともに食らったら確実に死ぬやつじゃんあっぶね〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!(有言実行で殴られたことを思い出している) この日以上に自分の術式に感謝したことはなかった。持っててよかった無下限術式。


 軽い気持ちで観戦した一年ズ
 →霙さんを怒らせちゃいけないことがよくわかった。いやこっわ……完全に戦闘民族の顔だったじゃんあれ……。というか150キロの金棒を軽々振り回すとかゴリラ以外の何物でも無くね??? 




 次回、「作ってワクワク」
 お楽しみに!