それから俺は五条と夏油に連行された。数分ほど歩いた所で、ちょうど路肩に止まっていた車の後部座席にさっさと押し込められる。ちなみに俺を真ん中にして左に夏油、右に五条が座っている構図だ。狭いんだからどっちか助手席に座りゃーいいのに。急に増えた乗客に始めは運転手は驚いていたけど、五条が「昨日のやつ見つけたから連れてきた」と言えば納得したようですぐに車は走り始めた。
車内では世間話という名の尋問が繰り広げられる。一見すれば和やかな高校生同士の会話だろうが、その端々に俺がボロを出すのを狙っているようなニュアンスを感じ取れた。今ドキの高校生って怖いわねー 俺なんだかんだで累積年齢でいったら50はとうに超えてるからさ。そこまでギラギラしたのはちょっと……ねえ。
その途中でふと、左側に座っていた夏油が思い出したかのように「ちょっと腕を貸してくれないか」と言った。俺は不審に思いつつも黙って素直に左手を持ち上げて夏油に近づける。すると夏油は俺の手首に触れ、ぎゅっと握ったかと思うと、ゆっくりとはなした。
「……は?」
放された手首を見て、俺は思わず声を漏らす。
何故ならそこには、先ほどまでなかったリングのようなものがはめられていたのだから。
ぱっと見たデザインはシンプルだが、よく見ると何やら毛細血管のような複雑な模様が刻まれているようにも見える。触れた感触はひやりと冷たいが、金属ともプラスチックとも違う感触だ。どんな材料で出来ているのかすらよくわからない。というか本当に無害なやつなの?これ。なんかぞわぞわするんだけど。外そうとしても外れないし。
「なにこれ」
「……なるほどね」
「なるほどねじゃなくって、質問に答えろって」
「まあ、気にしなくていいよ」
「いや気にするだろ普通に」
なんでちゃんと答えてくんないの? めっちゃ怖いんですけど。俺がもっと追究しようとしたところで、右側に座っている五条がふと気付いたように俺の右手を指さす。
「つかなんだよ、その手」
「……あー、まあ、色々あってな」
適当に理由をはぐらかせば「ふーん」と五条は目を細めた。現在の俺の手は爪先の保護の関係で、某バスケ漫画のキャラクターのようにすべての指先に包帯が巻かれている。深くツッコまれたら困ると思ってずっとポケットに突っ込んだりして手を見せないようにしてたけど、流石にバレるよな。それを聞いた夏油がもしやという顔をする。
「もしかして足もかい?」
「よくわかったな」
「バレバレだよ。明らかに歩き方が不自然だったからね」
夏油が目を細める。明らかに爪先に重心を掛けない歩き方をしているのを、そう見えないように我ながら頑張った方だと思ったんだけどな。こいつらの目は誤魔化せないか。ジロジロとこちらに視線を向けながら五条は言う。
「昨日はこんな怪我してなかっただろ」
「……だから俺は知らねーって」
その手には引っかからないぞとばかりに俺が返せば、五条はニヤニヤしながら「あっそ」と言うだけだった。完全にボロが出るのを待ってる顔じゃないですかヤダー(棒)
すると夏油が思いついたかのように提案する。
「高専についたら治してあげようか」
「……そんなことできんのかよ」
「他人に反転術式を使えるのが同期にいるんだよ」
「へえ……」
ぼんやりと相槌を打ちながら原作にそんなキャラいたっけと思考を巡らせる。いたような気がするけど、いかんせん前世で色々犠牲にしすぎて正直前々世で読んだ『呪術廻戦』の記憶がちょっと曖昧だったりするんだよな。だってまさか二度目の転生するとは思ってなかったんだもん。わかってたらもっと大事にしてたわ。
そんなこんなでしばらく車に揺られ、着いたのはなんともまあわかりやすい廃ビルだった。あちこちが崩れたコンクリートを焼けつくような日差しが照り付けていて、周りの空気がゆらゆらと揺らめいている。いかにも悪いものが吹きだまってそうなところだな。前世だったら確実に悪魔が住処にしてたと思う。
「それじゃあ行ってくるけど、大人しく待ってるんだよ」
「逃げようなんて思うんじゃねえぞー」
「わーってるよ」
車から降りるふたりを適当にあしらう。そして車内に運転手さんとふたりきりになった。相手も俺をどう扱ったらいいか測りかねているようで、手帳に何か書きこみながらもチラチラとバックミラー越しにこちらの様子を窺っている。正面にあるカーナビには時間帯的にお昼のワイドショーが映し出されていて、政治家の不倫問題についてパネラーがああだこうだと議論を交わしている真っ最中だった。
「(……暇だな)」
俺は腕を組みながらぐぐっと背もたれに体重を預け、目を閉じる。
そしていつの間にか眠ってしまっていた。
***
「なあ、高校卒業したらマジで公安行くの? お前」
俺は半分信じられないような気持ちになりながらも、それを相手に悟られないように話しかける。高2の夏休み前、放課後の教室。窓の外から聞こえる野球部の掛け声が、いつもより遠く聞こえた気がした。
そんな俺の机の上には、ふたりぶんのプリントが乗っている。『進路調査票』と書かれた紙の持ち主は俺と、もうひとり。
「ああ。もちろん」
ひとつ前の席に座るアキは、教科書をテキパキと鞄に詰めながらさも当然のことのように言った。それを聞いて俺はぐっと言葉に詰まる。アキはそんな俺に気付くことなく準備を続けながら言った。
「公安にいる方が、銃の悪魔に関する情報が入ってきやすいだろ」
「でも」
「これは決めたことだ。ハルにどう言われようと、変えるつもりはねーよ」
トントンと机で教科書を揃え、鞄にしまう。その様子を頬杖を突きながら俺は見ていた。……そういう頑固なところ、ほんと昔から変わんねえよな。俺がどんなに死ぬぞって言っても聞きやしねえ。まあ、家族の仇なら仕方ないか。俺は細く長くため息をつく。しゃーない、作戦変更だ。俺は静かに心に決めて、シャーペンを手に取る。
「んじゃ俺もいこっかな、公安」
「はぁ?」
俺の発言が余程意外だったのか、アキはたまらず振り返る。それに構うことなく俺は希望進路先の一番上の欄に『公安(デビルハンター)』と書きこんだ。カチカチとノックして芯を引っ込めると、アキがすごい顔でこちらを見ているのに気づく。その表情を見て俺は思わず吹き出してしまった。
「なんだよ、その顔」
「だっておま……いいのか? デビルハンターなんていつ死ぬかわかんねえんだぞ?」
「今の発言そっくりそのままお前に返すわ」
ちょっと悪戯っぽくそう言えば、アキが一瞬ムッとした顔で押し黙る。そりゃそうだよな? 自分だけ棚に上げるなんて卑怯だもんな? アキは調子が狂ったとでも言いたげにガシガシと頭をかく。
「ハルは俺より頭良いんだし、てっきりそのまま大学行くのかと……」
「一応言っとくけど、俺別に頭良くねえからな」
お前は知らんだろうが、これでも前世では大学生だったんだぜ? そのおかげで高校卒業レベルならなんとかなるから、なんとなーく出来てるように見えてただけだ。それ以上の学問に対するやる気は俺にはない。ぶっちゃけ、受験なんか二度としたくねえしな。やって楽しいもんでもねえし。……それに。
「お前がそんな危険な仕事するって知って、今更フツーに大学なんか通えっかよ」
「……それで本当にいいのか、お前」
「いい。全然いい」
腕を組んで言いきれば、「なんで得意げなんだよ」とちょっと呆れられた。窓から吹き込んだ涼しい風が俺たちの肌を撫で、髪を揺らす。廊下を数名の女子生徒が楽しそうに談笑しながら通り過ぎるのが壁越しに聞こえた。はあ、とアキがため息をつく。
「前から思ってたけど……お前、俺のこと大好きだな」
「そういうお前もだろ?」
「うるさい」
茶化すように言ったら食い気味に言い返されてしまった。そういうことをしてる時点で図星だって自分で言ってるようなもんなのに、なんで気づかないのかねえ。
俺は軽く握った拳をアキに差し出し、にひひと笑う。
「俺たちで最強のバディになってやろうぜ」
「……漫画の読みすぎだ、馬鹿」
そう言いつつもちゃんと拳を合わせてくれるところ、嫌いじゃないんだよな。
***
「……よ、……たよ」
どこかからか、俺を呼ぶ声がする。
ゆらゆらと身体が揺れる感覚と共に、その声は徐々にはっきりとしたものになっていった。
「着いたよ。そろそろ起きたらどうだい?」
ふっと瞼を持ち上げる。声のする方を見ると、そこには夏油がいた。彼の方の車のドアは開かれており、外に五条が立っている。眠気の抜けきらない表情のまま、ぱちぱちとまばたきを繰り返していると夏油がにっこりと微笑んだ。
「おはよう。ずいぶんぐっすり眠っていたみたいだね」
「……はよ」
「出られるかい」
「ん」
言われるがままに車外へ出る。あまりにも日差しが眩しくて思わず目を細めた。
ここはどうやら駐車場のようで、他にも同じ車種の車が数台止まっていた。近くに雑木林が広がっているせいか、蝉の声が五月蠅い。目の前にある建物は今時珍しい和風な木造建築で、随分年期が入っているなと思ってしまう。漫画で読んでいた通りの光景が目の前に広がっていてちょっとだけテンションが上がるが、なんとか表情に出さないように堪えた。なんでかって? ふたりに馬鹿にされると思ったからだよ。
「あんま学校っぽくねえな」
「まあね」
「普通のとこと比べりゃあ、そりゃな」
こっちだよと言われるがままに建物の中に入る。外観に負けず劣らず、中も造りは和風だった。学校というより神社仏閣と言った方が信じられるかもしれないなこれは。広い建物にもかかわらず人の気配がほとんどない。敷地といい建物といい、色々とスペースを持て余している感が否めないのは俺だけだろうか。首筋に伝う汗をぐいと拭う。
歩いている最中、俺たちに会話なんてものはない。だから自然と先ほどの夢の内容を思い出してしまう。
「(なっつかしいなあ)」
それから進路調査票をふたりで提出したんだっけ。高校卒業後は書いたとおりにそのまま公安に進んで。最初は契約してる悪魔の相性とかなんとかのせいであんまり一緒に組んで行動することはなかったけど、俺のバディと姫野さんが同時期に亡くなったのきっかけに組むことになったんだよな。時々それに天使が加わった不規則なスリーマンセルで任務に行って、悪魔の血に塗れながらなんとか生き延びて、悪魔の死体処理した後に着替えてから帰りに夕飯の買い物して、家に帰ってデンジとパワーをなだめながら飯作って食って……。今考えると結構充実した毎日だったように思う。
「(あぁ、そうだった)」
じくりと無い爪が痛む。久しぶりに昔を思い出して、改めて再認識させられた気がした。
「(……"最強"になりたかったんだよな、俺たちふたりで)」
なれるって信じてたんだよな、……俺たちふたりなら。
あの時は転生者で先の展開を知ってる分、本当に何でもできる気になってたから、すっごい自信に満ち溢れてたんだ。今思えば絵に描いたような若気の至り全開でしかないし、ぶっちゃけ恥ずかしくて死にたくなる。実際あれだけ言っておいて何も変えられなかったし。むしろデンジからしてみればダメージ倍だしな。
……デンジもパワーも、今頃どうしてるんだろう。そのまま原作通りにいくなら、多分俺の知ってる通りになるんだろうな。……あーあ、結局なにもかもマキマの思い通りか。最悪でしかねえな。
ちょっぴりおセンチな気分になっている俺を、夏油の「着いたよ」という声が現実に引き戻した。
ガラリと引き戸を開いて中に入るよう言われる。中は6畳ほどの広さで天井がそこそこ高く、壁中にお札が貼られているのが特徴的な部屋だ。外と比べて数度気温が下がった気さえする。いかにもーって感じだな、とその場に相応しくない呑気な感想を抱く。言われるがままに真ん中に備え付けてある一脚の椅子に座ると、それと同時に先ほど閉じた部屋の扉がまた開いた。
やって来たのはひとりのおっさんだ。顔がいかつく、絶対に道でぶつかりたくないその見た目には見覚えがあった。確か、このふたりの担任をしてる人だったような。名前は夜蛾?だった気がする。そんなことを思っていると、おっさんが口を開いた。
「初めまして。こいつらの担任の夜蛾だ」
「……門叶ハル、です。どうも」
合ってたわ。つか貫禄すごすぎだろ。素直な感想を内心抱きつつ、俺は少々緊張ぎみに挨拶を返す。
「さて、早速だが話をしよう」
目の前に夜蛾さん。部屋の扉の両サイドに五条と夏油が立っているという、なんとも逃げようのない状況のまま取り調べは開始された。
「昨日の夜、××高校で高校生が呪霊に襲われる事件が発生した。被害者は4人。全員行方不明で現在捜索中だが、見つかる可能性は低いだろう」
淡々と事件の状況を説明していく夜蛾さん。黙ってそれに聞き入る俺の様子を、五条と夏油のふたりはじっと見つめていた。
「××高校は以前から夜中に呪霊の目撃が報告されていて、昨日はその調査のために五条と夏油を派遣した。到着した時点でもう既に高校生の姿はなく、呪霊の姿もなかった。一通り確認してから立ち去ろうとしたところで……君を見つけた」
先ほどと比べて夜蛾さんの目つきが鋭くなったような気がした。俺は表情を変えずに、夜蛾さんの話を黙って聞いている。
「ふたりの報告によれば君は出会った当初、周囲に2体の呪霊を引き連れており、こちらを認識した途端に逃走。もう1体の呪霊を利用し、校舎の屋上からそのまま逃げだしたらしいな」
ジジ、と蝋燭の火が揺れる。
「……どういうことか、説明してくれるか?」
暫しの沈黙が訪れる。さて、どう話したらいいもんかね。悪魔のこと、ましてや狐を使ってあの呪霊を祓ったことを言えば、それこそ高専入学まっしぐらだ。それだけは避けたい。俺のこれからの平和のためにも、それだけはなんとしても避けなければ。
しゃーない。ここはひとつ、クラスメイトに話したのと同じ感じでいこう。名付けて、「貴方は何を言ってるの?完璧に他人コース」だ。信じてくれるかは賭けだけど。決心した俺は静かに口を開いた。
「……昨日は、あいつらと肝試しに行く予定だったけど、途中で面倒になって。だから適当に用事があるって断って、その辺で適当に時間潰して家に帰りました。だから何も知りませんよ」
「それを証明できる人は」
「いませんよ。俺の家の周り、夜になると人通り減るんで。誰ともすれ違ってません」
夜蛾さんは腕を組みながらふむ、とため息に似た相槌を打つ。俺の話を信じたのか信じてないのかわからない反応だな。夜蛾さんは腕組みを解き、少し前のめりになりながら「それともうひとつ」と言葉をつづけた。
「左目の呪霊との関係は」
「!」
俺は思わず言葉に詰まる。ついさっきのことなのになんで知ってるんだと思っていると「こいつらから報告を受けた」と教えてくれた。
「……知りません。俺は、ジュレイなんて何も」
「ねえ、いい加減に本当のことを白状したらどうだい?」
白々しく嘘を吐こうとしたところで、夏油がさっと言葉を遮る。その瞳は細められ、どこか胡散臭い笑みが浮かんでいる。なんかもう既に将来の教祖様オーラ出てない? そんなことを考えている俺を他所に、夏油は夜蛾さんに「すみません」と軽く断ってから話し始めた。
「ずっと違和感を感じてたんだよ。出会ってからの君の言動にね」
「……違和感?」
「君、左肩に虫がついてるよ」
「えっ」
不意に脈絡なく飛んできた夏油からの指摘に、俺は思わず間抜けな声が出る。なんで早く言わねえの!? そう思いながらバッと左肩を見るが、別に何もついていなかった。
「あ……?」
まばたきを繰り返しながら呆然と自身の肩を見つめていると、夏油がくすくすと笑みを零す。
「普通、自分の身体に何かがついていると指摘されたらそういう反応をするよね。驚き、慌て、言われた部位を見たり触れたり、人に確認してもらったりして異常がないか確認する。でも、さっき会った時の君は違った。左目に呪霊という何か得体の知れないものが住み着いていると言われたのにも関わらず、驚くどころか『そんなに気になるのなら抉り出して確認すればいい』とさえ言い切ってみせた」
淡々と告げられる夏油の指摘に、静かに背中に汗をかく。表情に出ないようにするのが精いっぱいだ。じりじりと確実に追いつめられるのを黙って見ていることしかできないような、そんな気持ちだ。
「私達の言葉を一切信じず、無視したり軽蔑するような言葉を吐いたりするならまだわかる。でもその返答はおかしいよ。君は呪霊なんて知らないはずなのに、どうしてそこまで落ち着き払って……ましてや抉り出してみろなんて強気で言い切れるんだい?」
考えてみれば確かに、夏油の言う通りだった。あの時はこいつらを突き放したい一心で強気に行ったけど、それがまさか墓穴を掘っていたなんて……!
静かに追いつめられてしまった俺に、夏油が容赦なくとどめの一撃を食らわせる。
「もしかして、君は知っていたんじゃないか? 自分の左目に呪霊がいることを。そして何らかの理由があってそれを私たちに隠そうとして、疑われないように逆に啖呵を切って見せた……違うかい?」
そうです、全くもってその通りでございます。……そう白状出来たらどんなにいいか。
俺はバレないように生唾を飲み下し、苦し紛れに言い訳を並べてみる。
「……見えないものは反応しようがねーだろ。俺幽霊とかも信じてねえし」
「いや、君は呪霊を視認できるはずだよ」
「何の根拠が」
「だって現に、君はそれが見えてるじゃないか」
それ、と言って指さしたのは俺の左手首に嵌められたリングだ。それを見た瞬間、こいつの言いたいことをすべて理解した。信じられない気持ちで夏油を見る。やつは実に楽しそうに微笑んでいた。
「ま、さか……」
「そう。君がずっと腕に嵌めていたのは、私が従えている呪霊だよ。こうしていればもし逃走した時に位置をすぐに確認できるからね」
お前、仮にも一般人になんてものをつけてんだよ!!! そう叫びたいのをぐっとこらえる。呪霊だと分かった途端、左手首のリングをめちゃめちゃ外したくなった。どうせ今の俺には外せないようになってるんだろうけどさぁ、気分ってものがさぁ……。
なんともいえない気持ちになっている俺に、夜蛾さんが追い打ちをかけるように尋ねる。
「改めてもう一度聞こう。……左目の呪霊との、関係は?」
正面から見据えられ、俺はぐっと押し黙りそのまま俯いた。……クソ、こうなったら、こうするしかねえな。作戦変更、プランBだ。俺は表情をあまり見られないよう、俯いたままそれっぽい雰囲気を醸し出しながら口を開く。
「……昔から、視界の端によくわからんものがちらついてた」
「!」
「最近はめっきり見えなくなってたから、子どもの頃の妄想か何かだろ思ってたんだ。でも、今日の朝起きたら、また見えるようになってて……。だから目に何かいるって言われた時、そいつのせいだって思ったんだ。そいつのせいで、また見えるようになったんだって」
プランB、「唸れ演技力!真実を絶妙に交ぜながら嘘を吐くコース」。……ぶっちゃけバレたら死ぬほどまずいが、俺はこう見えても前世であのマキマすら欺いた演技力を持っている。このワンチャンに賭けてみるのはそこまで悪い話でもない、はずだ。知らんけど。
ちなみに呪霊が急に見えるようになった話はガチです。昨日の夜、悪魔の存在を認識してからめちゃめちゃはっきり見えるようになりました。どうしてなんでしょうね……。
「でも初対面なのにこんなこと言っていいのかとか、どう考えても見た目が同級生なのに信用できんのかとか、色々考えちまって。それで、あんな態度を取っちまったんだ」
悪い、と小さく謝る。周りの3人が少しだけ戸惑っているのが空気感から伝わってくるようだった。よーしいいぞいいぞ! いい感じに俺のペースに持っていけてるぞこれは……いける!!
『流れるように嘘を吐くじゃないか』
「(いいからお前は黙ってろ!!)」
こちとらこの場を切り抜けるのに必死なんだよ!! 脳内で未来の悪魔に叫びながらも、表情には出さない。
「でも、昨日の事に関してはマジで何も知らねえんだよ。それだけは本当だ」
「そうは言っても、俺らはお前をばっちり見てんだよ。逃げるところもな」
「それは……」
五条からの指摘に、俺はあからさまにたじろぐ。ここはマジで知らないことにして通した方がよさそうだな。そうしたらいい感じに別人だったー!って感じにならないだろうか。ならないだろうなあ……。そんなことを考えていると、先ほどからずっと考え込む様子を見せていた夏油が「もしかしたら」と話を切り出した。
「君の左目にいる呪霊が昨日の犯人なのかもしれない」
「……え」
おっと? これは予想外の展開ですね???
あまりにも予想外すぎて完璧に素の「え」が出た気がする。どういうことだと尋ねる夜蛾さんに、夏油は自身の考えを話し始めた。
「高校で事件を起こした後に逃げた先に彼がいて、そのまま左目に入ったのか。それか……彼の身体を乗っ取って、事件を起こしたのか」
「っでも俺、本当に高校には」
「記憶の改ざんくらい、階級の高い呪霊なら難なくやってのけるだろう。それこそ、無意識下で"縛り"を結んだっていうのもありえない話じゃない」
ま、まじか。器用なことできる呪霊もいたもんだな。
……いやまて、この話の転がり方ってまずいんじゃないか? これもしかして、あんまりよくないんじゃないか? 俺のサイドエフェクトがそう言ってる。未来の悪魔? 知らない子ですね……。
なんだか嫌な予感がしてきた俺を他所に、めんどくさそうな顔をした五条が頭の後ろで手を組んだ。
「それがマジかどうかは、完全にその呪霊に訊いてみるしかねぇだろうな」
「そうだね、でもそれは今のところ難しそうだけど……どうします? 先生」
意見を求めた夏油に、「ではこうしよう」と夜蛾さんがひとつの提案を持ち掛けた。
「君にはこれから呪術高専に通ってもらう」
――それを聞いた瞬間、俺は完全に言葉を失った。嫌な予感が完全に的中した瞬間だった。
呪霊が非術師の身体に住んでいるなんて聞いたこともないから貴重なサンプルケースとして要保護&観察だとか、"もしも"のことがあったときの対処を学んだほうがいいだとか、どうしようもなくなった時にストッパーが常に近くにいた方がいいだとか、色々言われたが正直頭に入ってこない。
「(オイオイオイオイ、
高専入学を避けたくてここまで頑張ってきたってのに、そりゃねーだろ……!!!)」
人目もはばからず盛大な溜息をつきたいところだが、そういうわけにもいかない。対する未来の悪魔はといえば、『なかなか大袈裟な対応だな』なんて言いながらケタケタ笑っている始末だ。こいつマジぶん殴りてえ。
「あの、一応聞きますけど、俺に拒否権とかは……」
「すまないな。これは決定事項だ」
ですよねー!! 知ってた!!!!
表情には出していないが雰囲気で伝わったのか、夜蛾さんに「すまない」と謝られてしまった。違うんです、夜蛾さんは何も悪くないんです……。
「これからよろしくね」
「精々長生きしろよー」
すっかり言葉を失ってしまった俺を見ながら、最強コンビがニヤニヤしながら言う。その眼はどう考えても馬鹿にして楽しんでいるようにしか見えなかった。
……先生、入学してないのにもう既に退学したい場合はどうしたらいいですか?
早速人生諦めモードな転生者お兄さん
→原作軸と関わりたくねえって思った途端にこれだよ……(白目) アキとふたりで最強になりたかった。前世はもう少し明るくてアキを引っ張っていく感じの性格だったんだけど、現世はご覧の通り。前世での死因とか諸々のお陰で見事に色々こじらせて、だいぶダウナー系な仕上がりになっている。「過去に縋りつきすぎ」「"空きくん"はお前の方じゃねーか」って誰か言ってやって。
ふたりは最強(黒)
→またの名を名探偵スグル。ニコニコしながら相手の痛いところ突いてじわじわ追い詰めるの得意そう(偏見) もっと他に隠してることがありそうだなと思っているので、いずれボロをだしてくれないかなーとニコニコしているどうしようもないやつ。流石クズの片割れ。
ふたりは最強(白)
→こんな雑魚と同級生とか面倒だなって思ってるクズ。弱っちそうだし早死にしそうだなー(失礼) 名探偵スグルに出番を全部持ってかれちゃったせいで今回はそこまで出番がなかった。次回からはもうちょっと出番あるんで機嫌直してください。