アセビが揺れる中で

「同じ飛行機で帰ったらよかったねえ」

 2日後、高専に戻った汐音が私に会った際につぶやいた言葉だ。その顔は泣くのを堪えているような、見ているこっちの胸が痛みそうな表情だった。それだけで、事の顛末を先生から聞いたのだろうと容易に推測できる。

「君の所為じゃない」

 私がそう言ったところで彼女の顔は晴れない。校庭の側の自販機にあるベンチの前。遠くの森で蝉が五月蠅いくらいに鳴いていて、それがかえって喪失感を助長しているように感じた。

「悪いのは、」

 そう言いかけて、やめる。こんなことを言ったところであの子が帰ってくるわけじゃない。彼女もそれ以上何も言わず、この話題は終了した。

 あの一件以降、悟は完全に覚醒した様で以前にも増して強くなった。互いにひとりでの任務が増え、それに比例するように私はだんだんと考え込むことが多くなっていった。足元が崩れるような、今まで自分が絶対だと信じ切っていたものが揺らぐ感覚。こう考えてはいけないと思えば思うほどに、深みを増していくそれはまるで底なし沼のようだ。

「(私達が苦しむしか、ないのだろうか)」

 何故こんなにも死に物狂いで……それこそ命がけで、他人である非術師達の尻拭いをさせられているのか。答えなんて出るわけがないのに考えるのをやめられない。任務に行く、祓う、取り込む。断ち切る事の出来ないその繰り返しの日々の中、確実に自身がすり減っていく。

「(……いっそのこと、呪霊を生み出す非術師がこの世から消え去れば)」

 なんて、机上の空論めいた非常識なことを考えてしまうほどには弱っていた。そんなこと許されるはずがないだろうとわかってる。倫理的にも、常識的にも。考えるたびにそうやって自分に強く言い聞かせるが、その隙間を縫うように『それもありだ』という脳裏に声が響く。先日会った九十九特級術師に、この考えの表面をちらりと吐露した際に言われた言葉だ。まさか肯定されるとは思わなくて、そのせいで私はさらに深みにはまってしまう。悩んでいる間にも月日が流れ、季節が変わり、また夏が近づいてくる。

 ……どうしたらいいのだろうか。
 答えはまだ、出そうにない。


***


「すぐるー、体調悪い?」

 不意に尋ねられて我に返る。声がしたほうを見れば、汐音が心配そうに眉を下げながらこちらを覗き込んでいた。そうだった、今はふたりで任務を終わらせた帰りだった。呪霊の出る時間帯に合わせて任務が組まれたため、周囲はすっかり暗くなっている。ぽつぽつと点る街灯が照らす道を歩きながら、私は辛うじて口角を僅かに持ち上げる。

「別に何ともないよ」

 もうすっかり慣れた言葉を口にする。けれど汐音は「そうねー?」と首を傾げるばかりだ。

「なんかでーじ顔色悪いよ」

 その言葉に、他の人からわかるほどにやつれていたのかと今更ながら気づかされる。仕方なく私は「実はね」と言いながら軽く頬を掻いた。

「昨日読んでいた本がすごく面白くて。そのせいでちょっと寝不足なんだ」
「それだけ?」
「それだけ」
「……本当に?」
「本当だって」

 何か言いたそうだったけど、彼女はきゅっと口を引き結んでそれ以上追究してこなかった。気をつかわせてしまったかな。自分でついた嘘に自分でダメージを負う。こうしている間にも考えがぐるぐると回って、自分ではどうしようもなくなっていた。情けないくらい余裕がない。ため息を噛み殺し、足を進める。

 程なく見つけた補助監督の車に乗り込んだ。私が運転席側で、汐音が助手席側の後部座席に並んで座る。高専に向かう帰り道は夜ということもあって閑散としていて、車通りもほとんどない。窓の外の黒い闇に無数の街灯が浮かび上がって、飛ぶような速さで後ろへ流れていく。汐音はメールに夢中みたいで、液晶から漏れる青白い光が顔を照らしているのが視界の端にちらついていた。

 見知った道に出て、あと30分くらいかとぼんやり考える。この間に少し眠ろうとシートに身体を埋めて目を閉じた時、不意に彼女が運転中の補助監督に言った。

「ちょっと用事があるので、駅までお願いしてもいいですか?」

 補助監督は快く了承してハンドルを切った。用事?こんな夜中から? そう思いつつも私は襲ってきた眠気に耐えられずに瞼を下ろした。
 どれくらい眠っていただろう。ふと車が止まった感覚がして、ああ駅に着いたんだなと思う。補助監督にお礼を言った汐音がそのまま私の肩を揺らす。

「ほら、すぐるー 起きてー」
「……え、私も?」

 まさか私も一緒とは思わず、反射的に聞き返してしまう。もう少し眠りたいと考えている私を見て汐音は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにその理由を教えてくれた。

「え、と、……さっき夜蛾せんせーから連絡あったわけよー だから!」
「……」

 そう言って私の手を引いて、ふたりで車を降りた。補助監督の車が走り去るのを見送ってから駅の中に足を踏み入れた。寝起きで頭が回っていないのをいいことに、ぐいぐいと先へ進んでいく。乗り込んだ電車は東京の外に出るもので、まさか間違えてやしないかと指摘したけれど「いいから」と言いくるめられてしまった。

 不安にさいなまれながらも終電間際のほとんど人がいない電車に揺られて辿り着いたのは、隣の県の誰も居ない無人駅だった。そこからさらに少し歩くらしい。街灯だけがぽつぽつと照らしているような道をふたりで歩いているうちに頭が冴えてきて、徐々に思考がしやすくなる。

 しばらく歩いたところで辿り着いたのはやはりというか、海だった。周囲に人の気配がないためか、波の音が響くだけの静かな夜の海。浜辺と道はテトラポットと私の腰くらいの高さのコンクリートブロックで仕切られており、これ以上向こうに進むのは難しいだろう。道に近いこちら側はまだ辛うじて街灯が届いているが、海の向こうは水平線も見えないほどの闇である。

 足を止めた汐音に、私はコンクリートブロックにもたれながら「それで?」と問いかける。

「こんなところに連れてくるってことは、何か話でもあるのかな」
「き、気づいてたの……?」
「気づかない方がおかしいよ」

 君の嘘はわかりやすいから、と付け加えておく。ここに来るまで何も言わないんだもの。何かあると思う方が自然じゃないか。指摘された彼女はそうかなあ、とあまり納得がいっていないようだった。

「でもすぐるーもでしょ」
「え?」
「大丈夫じゃない」

 彼女にしては珍しい、落ち着いた低めの声ではっきりと核心をつかれてドキッとする。

「帰り道に話して、すぐるーが嘘ついてるってすぐわかったさー」

 私の肩幅の半分くらいの距離を開けて、並ぶようにコンクリートブロックに軽く腰かける。少し俯きながら、軽く身体の前で両手を軽く握っていた。

「本当はすぐるーが話してくれるのを待つってだったんだけどね、しおんが我慢できなくなっちゃった」

 それに、と言いながら背後を見やる。

「ここなら、話してくれるかなって思ったわけよー」
「だから海に?」
「うん。静かだし、すごく落ち着くでしょ」

 言われて改めて周囲の静かさを痛感する。こんな時間に騒がしい場所を探す方が難しい気もするけど。
 波の音、潮の匂い。いつかの夏を思い出すけど、冷えた風だけがあの時とはまるで違って。それが私を現実に引き戻してくれる。

「ねぇ、すぐるー」

 不意に名前を呼ばれて汐音の方を見る。彼女もまた私の方を見ていた。大きな瞳が街灯にぼんやり照らされて、その中に私が映っているのがわかる。

「しおんじゃダメねー? ……やっぱり、相談するには頼りない?」

 どこか寂しそうな雰囲気の彼女に、咄嗟に「違うんだ」と言葉がついて出る。

「これはまだ、私にも答えが出ていなくて」
「なら尚更でしょー?」

 彼女は穏やかに微笑んだ。少し強めに吹いた海風が彼女の髪を揺らしている。意識していなかったけれど、彼女の髪は腰に届きそうなほど伸びているようだ。それが私が悩んでいる間に過ぎた時の長さを感じさせる。

「答えがわからないなら一緒に考えたらいいさーね」
「でも、こんなことは、……許されるはずない」
「まだしおん何も聞いてないのにそんなこと言っちゃうの?」
「きっと言うよ」
「わからんよ〜? もしかしたらおんなじ考えかもしれんよ〜?」

 おちょくるような表情で彼女は言う。考えこんでいる私を考えてのことだろう。だぁ、と促すように彼女は続けた。

「話してみー?すぐるー 答えはわからなくても、一緒に悩むくらいならできるさー」

 ね?と笑って小首を傾げる。その表情があんまりにも優しくて、慈愛に満ちていて。

 だから。
 ついうっかり、口が滑ってしまった。

「……わからなくなったんだ。自分自身のことが」

 ぽつぽつと、言葉が零れ落ちるように話した。非術師は守るべき存在だと思っていたけど、その考えが揺らいでいる事。呪いが非術師から生まれるのならば、非術師がいなくなれば呪霊はこの世からいなくなるんじゃないかとすら考え始めている事。とりとめもなく思いつくままに言葉を吐き出したせいで随分わかりにくい文章になったように思うが、汐音は終始静かに相槌を打ってくれていた。
 すべて話し終わった後に、汐音が微笑む。

「話してくれてありがとうね、すぐるー」

 ずっとひとりで考えて、辛かったでしょ。そう言った彼女にいや、と否定しかけて止めた。こうして話しただけでわずかに軽くなった胸に気付いてしまったから。すると彼女がちょっとバツが悪そうに言う。

「すぐるーは『受け入れてくれないかも』って言ってたけど、……実はしおんもちょっとだけ思った事あるよ」
「え」

 彼女の意外な告白に私は思わず目を丸くする。いつだって明るくて、みんなに分け隔てなく接している彼女が、私と同じ考えを?
 そんなことを思っていると、少し俯きながら汐音は言う。

「しおんも、色々あったからね」

 せっかくだからと言って彼女は話し始める。それは初めて聞く彼女の昔の話だった。

「しおんの家はね、代々女の人が強い家なの。ユタっていう、沖縄の昔からいる霊媒師というか占い師みたいな人の血が入ってて。だから今の当主はお母の方のおばぁだわけさ。だから非術師でも名前知ってる人がそこそこいるんだよね」

 コンクリートブロックに座る汐音はぷらぷらと足を揺らしていたが、それがぴたりと止まった。

「でもだからって、うちなーんちゅみんなそういうのを信じてるかーって言ったらそうでもないわけよ」

 少し声のトーンが落ちて、俯きがちになる。彼女の顔に影が差す。

「色々言われたよ。『呪霊なんてインチキだ』とか『やーゆくしだろー』とか、『ふらーあらにー』とかね。それだけならよかったんだけど、その後色々噂されたりしてねー」

 それで、結局学校に行けなくなってしまったんだと彼女は言った。それで呪霊に理解のある高専に来たというわけか。彼女の話を聞きながら、転校初日の様子を思い出していた。あれは方言が出ないようにというのに加えて、同級生という存在に怯えていたのかもしれない。
 強い風が吹いたのか、ざざんと波の音が強くなる。

「なんで呪術師なんてやらなくちゃいけないのって思ってたよー あの時は本当に、何もかも嫌いだったさー みんなしおんの敵だって、味方なんていないって思ってた。……だから、ここに来れて本当によかったばーよ」

 顔を上げて私に向かって嬉しそうに微笑む汐音に、私は思わず口を開いた。

「君は、非術師を嫌いにならなかったのかい?」

 私の問いかけに、うーんと唸りながら汐音は答える。

「嫌いな人もいたけど、好きな人もいたからねー しおんの弟も妹も、呪いは見えるけど術式無いからほとんど非術師みたいなものだし。お父なんて呪いも見えんよー」

 だからどっちでもあるかなーとあっけらかんと言った。好きな人も嫌いな人もいる、という言葉が彼女には似合わなくて、やはり不思議な感じがした。

「今更だけど、君も人を嫌うことがあるんだね」
「あたりまえさー!」

 心外だとばかりに彼女の語気が荒くなる。軽く唇を尖らせながら彼女は言う。

「だってしおんは神様じゃないでしょー? ただの人間さーね。人間なら好き嫌いがあって当り前さー」

 少し離れたコンクリートブロックに止まっていた1羽の海鳥が不意に飛び立った。一瞬バサバサと羽音が聞こえたかと思うと、また波の音だけの静かな場所に戻る。
 だからね、と汐音は続けた。

「すぐるーももっとわがままになっていいんだよ」
「……でも」
「好きなら何があっても守る! 嫌いなら殺す! って、すぐるーは真面目すぎるばーよ。いいんだよーもっとてーげーで」

 真面目過ぎる、か。そう言われてみれば確かに、考え方が極端すぎたような気もする。考え込んでいるうちにいつの間にか視野が狭くなっていたのかもしれない。
 びゅうっと強めの風が吹いて、彼女は一瞬ぶるりと身を震わせて首を縮めた。着ていた学ランを脱いで渡せば、遠慮しつつも受け取ってくれる。袖を通しながら彼女は続けて言った。

「非術師が嫌なら嫌って言った方が楽さー 疲れるくらいなら、しおんはすぐるー自身の気持ちに素直になって欲しいよ。自分の気持ちに素直になって、それから色々考えたらいいさーね」

 一番大切なのは自分さー、彼女の穏やかな声が先ほどよりも近い位置で耳に届く。自分の気持ちに、素直に……。でもそれだと私の場合は、と考えたところで彼女も気付いたようである。少しきまり悪そうに言った。

「……あ、でも流石に非術師みんな殺しちゃうのはしおんが悲しいなぁ。すぐるーが呪詛師になっちゃうのも、好きな非術師が殺されちゃうのも、どっちも悲しい」

 言いながら想像したのか、寂しそうに彼女の眉が下がる。私が呪詛師になったら君はそんな辛そうな顔をするのか。内心思う私の横で汐音はうーんと唸りながら腕を組んだ。空を見上げるように首を反らす。

「でもそれで呪霊を無くせるかもしれないのかぁ、……難しいねぇ」

 すると何か思いついたように「そうだ!」と声を上げた。ずずいと前のめりになりながらこちらに顔を寄せ、今思い付いた提案を口にする。

「ね、このことみんなに話してみん?」
「みんな、って」
「すぐるーの考えてる事でーじ難しいからさ、みんなで考えたらいいんじゃないかなって。さとるーもしょうこーも、夜蛾先生とか、けんとーとゆーうーも一緒に! これこそゆいまーるさーね」

 そこではっとした表情を浮かべたかと思うと、おずおずと元の位置に戻っていく。

「すぐるーがよかったら、だけど……」

 言葉尻がだんだんとしぼんでいく。自身の指と指を絡めるように握って、こちらの様子をうかがいつつ言葉を選んでいるようだ。

「話して、それでみんなで答えさがそー? そうしたら、ひとりでわからんかったこともわかるかもしれんさー」

 ね?と彼女は小首を傾げながら言った。私は静かに息をする。冷えた透明な空気が肺を満たして、それだけで、私は。

「汐音」
「んー?」

 彼女の名前を呼ぶ。きょとんとした視線がこちらに向けられる。そして。
 正面からそっと抱きしめた。

「ありがとう」

 いきなりの事に驚いて固まる彼女に、私は感謝の言葉を告げる。

「少しだけ、楽になった」
 
 彼女のぬくもりを噛みしめるようにぼそりとつぶやく。
 色んな人の協力があったとしても、この問題に答えが出るのはかなり時間がかかるだろう。もしかしたら私が生きている間に答えなんて出ないかもしれない。

 けどね、私は正直もうどうでもいいんだよ。君に……汐音に、話を聞いてもらえたから。誰にも言えないし受け入れてもらえるはずもない暗く淀んだ感情を、考えを、すべて吐き出しても尚、彼女は笑って受け止めてくれた。それだけで、私の中の何かが救われた気がしたんだ。
 こうして誰かに頼ってもいいんだって。そう思えただけで十分なんだよ。

 私の想いが伝わったのかどうかはわからないけれど、汐音は穏やかな調子で「ならよかったさー」と言った。

「……ごめんね、気をつかわせていたみたいで」
「いいよー 困ったときはお互い様さーね」

 汐音は笑って私の背中に腕を回してくれる。まるで赤子でもあやすかのようにとん、とん、緩やかにリズムを刻んでいた。それが心地よくて、ゆっくり瞼を下ろす。

 抱きしめ合いながら考えるのは彼女のこと。私の腕の中にすっぽり収まってしまうほど小さいのに、その実とても大きな心を持った、彼女のこと。今まで小型犬だとか散々揶揄してたけど、今日でそれが一新されたような気がした。小犬だなんてとんでもない。
 彼女はまるで、

「(……かみさま、みたいだ)」

 そう思ったところでふと、瞼越しに眩しさを感じる。観念して目を開きそちらに視線を向けると、水平線の向こうがぼんやり明るくなっている。今まで闇一色だった空が藍色やオレンジ色のグラデーションを作っていく。朝焼けだ。思ったより時間が経っていたらしい。
 時間経過に驚いていると、それに気づいたらしい汐音も同じくそちらに顔を向ける。一瞬眩しそうに目を細めた。

「綺麗ねぇ」

 汐音はうっとりと呟いた。そんな彼女の横顔に私は思わず見とれてしまう。大きな潤んだ瞳に朝焼けの光がきらきらと反射して、まるで万華鏡みたいだ。朝焼けなんかより、こちらの方がずっと――

 どれくらいそうしていただろう。不意に彼女がこちらを向いて、思わず心臓が跳ねる。まさかずっと見ていたのがバレたかと思ったが、彼女は満足げに笑った。

「すぐるー、さっきよりだいぶ顔色よくなったねー」

 よかったよかったと言いながら、先ほどまで背中に回していた手で頬を撫でられた。今更ながらそれがなんだか恥ずかしくて、私は咄嗟に話を逸らす。

「さて。そろそろ電車も動いてる頃だろうし、帰ろうか」
「あ、待ってすぐるー」

 さっさと駅に向かおうとする私を汐音が呼び止めた。

「どうせならさ、ちょっと遊んで行かない?」
「え?」

 意外な提案に思わず私は素っ頓狂な声を漏らしてしまった。それと同時に頭の中でスケジュールを確認する。

「でも、確か今日は午後から任務が……」
「それなら大丈夫! 夜蛾せんせーにお願いして、しおんたち5日ぶんお休み貰ったから!」

 得意げに言ってのける汐音にほらこれと携帯を見せられた。画面を見れば確かに夜蛾先生からそのような通達があった。あの時車内でしきりに携帯をいじってたのはこのためだったのかと今更ながら納得する。

「だから、そのぉ……一緒に遊びに行かない?」

 私の具合を窺うように尋ねる。けれどその大きな瞳にはありありと「遊びに行きたい!」と書いてあった。まったく、わかりやすいんだから。ふっと笑って私は言う。

「そんな顔されちゃ断れないな」
「!」
「いいよ。久しぶりに二人で遊ぼうか」

 私がそう答えれば、途端に汐音が八重歯を見せながら嬉しそうに笑う。そういえばここ最近めっきり遊びに行けてなかったっけ。海に背を向けて歩き始めながら、汐音に話しかける。

「さて、どこへ行こうか」
「ここって何があるのかもよくわからんねー」
「なら近くの本屋さんでガイドブックでも買ってみる?」
「そうする!」
「決まりだね」

 波の音、潮の匂い。
 ……でもその風はほのかに暖かく、優しいものになっていた。



【ざっくり! 沖縄語解説】

・だぁ、……意訳:ほら。何かを促す時に使う。

・てーげー……意味:適当。

・ユタ……沖縄に昔からいる占い師のような霊媒師のような存在。知り合いにいないので正直下手なことは書けませんが、地域に根付いたちょっとオカルトチックな相談相手(占い師)、みたいな認識で大丈夫だと思います。実際霊感ある人とかも多いらしいですし……。

・「やーゆくしだろー」……訳:お前噓つきだろ。それぞれ単語に分けると、「やー」→お前、「ゆくし」→嘘つき、です。

・「ふらーあらにー」……訳:馬鹿だろ。単語的には「ふらー」が馬鹿という意味です。

・ゆいまーる……意味:助け合い。