15 無限ループである

 ママの知り合いらしい女の子たちと買い物をすることになった。
 デパートで出会ったときは急に話しかけられて対応に困っていたのだが、どこにでもいそうな一般人だったため一安心である。まさかそのまま一緒に買い物をすることになるとは思わなかったけれども。ママは何か考えがあるんだろうか。

 それにしても、このふたりは多分言動からして女子高生とかそれくらいだろうと思うのだが、イマドキの子って発育がいいんだな。背も高いしスタイル抜群だ。成長期がサボらずにちゃんと来たんだろう。その半分でいいから私の成長期も仕事をしてほしかった。

 しばらく歩いていたら、女性向けの服の専門店が集まったフロアに到着した。手前の店から入るらしい。
 ふたりは次々服を手に取り、私にあてがって軽く確認する。彼女たちのお気に召すものが見つかると「これ着てみて色ちゃん」と実に楽しそうな顔で服を手渡し、私を試着室に案内した。

 私は服なんて着られればなんでもいいと思っていたような人間である。そのためこういった凝った服を着るのはほとんど経験が無かった。ベルモット姉さんが持ってきてくれた服もそういう私を考慮してくれたのか、大体がシンプルで動きやすく簡単なつくりのものばかりだったのである。
 そのためふたりが用意してくれた服を着るのにかなりの時間を要し、時には彼女たちの手を借りることさえあった。

 なんとか着て試着室を出ればふたりは私の服を見て可愛いと褒めつつ、ああだこうだと意見を言い合う。裾の形がどうのこうの。そうしてまた別の服を手に取り、私に手渡すのだ。無限ループである。まるで特大の着せ替え人形にでもなった気分だ。

 時折私に「どっちの色がいい?」と少女たちは聞いてくる。正直目のせいでほとんど同じ色にしか見えないんだが、そのことをここで言うのもなんだか違うだろう。申し訳ないと思いつつも適当に指さすと、もうひとりの少女がそれを見て「それもいいわね」と考え込むように言った。そんなに考え込むものなのか。ファッションとは難解なもんだ。そんなことを考えていたら、先ほど考え込んでいた少女が「今度はこれなんかどう?」と私に新たな服を手渡した。

 いい加減この無限ループに終わりを見出そうと、私はママに意見を求める。だがママはいつも通りの笑みを浮かべて、

「何を着せても似合うから迷いますね」

 なんて調子のいいことを言うばかりだった。
 ……ダメだ、ママではこの無限ループを止めることは出来ない。私はまだしばらくこのふたりの着せ替え人形になるしかないようだ。

 そういえば一緒にいた小学生くらいの少年はしきりにママに何かを質問している。話の内容は聞こえないが、その様子を見るに少年は軽くあしらわれているようだ。何の話をしているのだろう。

 一通り店をまわり、今まで経験が無いくらいの服を買い込んだ気がする。ママが全額負担してくれたのだが、本当によかったのだろうか。結構な金額になっていると思うんだが。

「やっぱりその服が一番可愛いわね!」

 ショートカットの少女は満足そうに言った。もうひとりのロングヘアの少女もうんうんと楽しげに頷く。

 私が今着ているのはふたりのイチオシだという色の濃いワンピースだ。ストライプと呼ばれる縦線が入っているデザインで、結構丈も短い。ワンピースと一緒に、少し踵の高い靴とふんわり広がった帽子も着せられた。だがこれ、びっくりするくらい動きにくい。こんなに動きにくかったら仕事の時には絶対着られないな。動きやすかったとしても、汚したくないから着ないだろうけど。

「そろそろお昼にしましょうか」

 ママの提案に少女たちは喜んで同意した。少年も「僕もうおなかペコペコだよ」と困ったように笑って見せる。無限ループファッションショーは小学生男子にはさぞ退屈だったろう。どこで食べようか、何を食べようかと楽し気に話しているところに、

 ――甲高い悲痛な叫び声が、まるで切り裂くようにフロア一帯に響き渡った。

 途端に険しい顔になるママと少年。少女ふたりは「今のは……?」「女の人の叫び声、だよね」と信じられないような顔をしている。
 すると次の瞬間、ママと少年は弾かれたように叫び声の元へ向かうように走り始めた。コナンくん!というロングヘアの少女の止める声は一切聞き入れられず、一目散に走り去ってしまう。慌てて後を追う少女ふたり。私はといえば、初めて履いた踵の高い靴に苦戦し、少女たちのその後ろをなんとかついてきていた。

 ようやく追いついた、という頃にはすっかり野次馬が集まってきてしまっていて辺りはかなり混雑していた。
 ちらりと何が起こっているのか覗けば、そこに転がっていたのはシンプルな女の刺殺体がひとつ。刺されて間もないためかまだ血が水たまりのようにどろりと広がっており、強い鉄錆の匂いが離れていても漂ってくる。少女ふたりは息をのみ、顔を歪めていた。

 死体を調べていたママから話を聞くに、どうやら殺人事件が起きてしまったらしい。警察には連絡したからこれから犯人捜しをするのだという。

「僕が何とかしますから、色は蘭さんや園子さんたちと一緒に居てください」

 真剣な顔でママは言った。私がこくりと頷くと、すぐそばにいた少女ふたりにもお願いしますと声を掛ける。ママが走り去っているのを見ていると、ロングヘアの少女は私を落ち着けるような優しい声色で話しかけてきた。

「大丈夫よ。安室さんがすぐに解決してくれるから」

 そして少女ふたりはママが優秀な私立探偵であることを教えてくれた。少女の父親である名探偵の毛利小五郎に弟子入りしていることも。
 そういえば表の顔は探偵やってるって聞いたことがあったようななかったような。どちらにせよ私はママに言われた通り何もしないほうがいいだろう。

 言われるままにしか動けない"人形"に、推理なんて到底出来っこないのだから。