弾丸の雨が彼女に集中していたおかげか、予想以上に早くたどり着くことが出来た。目的のゴンドラ付近で少女を下ろしてその場から去ろうとすると、少女は焦ったように声をあげた。
「待って! どこへ行くつもり!?」
「キュラソーを、助けに」
「あなた、そんなの無茶よ! だって、彼女はきっと……もう」
「キュラソーは私の数少ない友人だった。友人なら、助けに行くのが当たり前」
再び背を向けて立ち去ろうとしたが、それは叶わなかった。少女が今にも泣きそうな顔をしながら、そっと、私の服の端を掴んでいたからである。
「……行かないでって、言ったら?」
「……」
弱々しく眉を下げる。大人びた表情が多かった少女の、また違った一面を知った気分である。私はほんの少し迷った末に、服の裾を掴む少女の小さな手を取り、1本1本その指を緩めていった。
「ごめん。……私は彼女を、見捨てることは出来ない」
私はもう一度小さく謝って、少女に背を向け、来た道を戻る。来た道と言っても、弾丸が撃ち込まれたおかげであちこち崩落して、元の形なんてほとんど留めちゃいなかったけど。
必死でキュラソーの姿を探すが、見当たらない。弾丸の雨も先ほどから車軸――正確に言えば車軸に取り付けられた爆弾――を狙って撃ち込んでいるようだし。もしかして、少女が言ったように、もう……。
そこまで考えた時ふと目の端に、行くときには確実に見かけなかったものを見つけた。器用に飛び移り、よく観察すれば、やはり。
「血、か」
瓦礫にべたりと、かなり大量の血液が付着している。しかもその血液は様々なところに点々としていた。下に行くにつれ、その量は多くなる。もしかしてこれは……――
そう思った次の瞬間、ドウン!と大きな爆発音がして、観覧車が大きく揺れた。大きな音を立ててあちこちにヒビが入ったり崩れたりしている。爆発こそしなかったものの、観覧車は崩落するらしい。早くキュラソーを見つけないと。
そう思った途端、足場にしていた瓦礫が崩れ、私はあちこち身体をぶつけながら、真っ逆さまに落下した。
ああ、まずい。これは流石に危ないかもしれない。
瓦礫に埋もれそうになりながらぼんやりそんなことを考えていると、瓦礫の隙間のそのまた向こうに、ずっと探していた彼女の姿を見つけた。
一気に意識が覚醒した私は、懸命に瓦礫を押しのけながら、彼女の後を追う。やっと追いついたと思った頃には、観覧車を脱出していた。
ヨロヨロと身を起こす彼女を助けるように手を添えてやれば、彼女は驚いたようにこちらを見る。
「色、なんでここに……」
「あなたをひとりにするわけにはいかないから」
少女を無事に子供たちの元へ送り届けたことを告げると、キュラソーは安心したように息をつく。その腹部には深々と鉄骨が突き刺さり、彼女の腹を変色させていた。きっとそこから流れ落ちた血が、あの瓦礫を変色させたのだろう。
とりあえず先生を呼んで、彼女を何とかしてもらわなければ。携帯を取り出そうとしたところで大きな音がして、キュラソーが焦ったように視線を観覧車に向ける。つられて私も視線をそちらに向けるが、自分の目に映った光景が信じられなかった。
観覧車は、ゆっくりと、だが確実に、転がり始めていたのだ。
あんなのがもし、他の施設に突っ込もうものなら、大変なことになる。
――止めなければ。
瞬時に私はそう考える。だが身体が動かない。こんなちっぽけな"人形"風情に、一体何が出来るというんだ。そんな思いばかりが頭の中を駆け巡っていく。だがそんな私とは対照的に、キュラソーは弾かれたように駆けだした。重傷だというのに、そんなことも気にかけないほどの素早い動きである。慌てて私も後を追う。
彼女が入ったのは施設内の、まだ開発中だという場所。『関係者以外立ち入り禁止』の立札をまるっきり無視し、彼女は誰もいない開発中の土地の中に入っていく。
真っすぐ向かったのは、無数に放置されていた重機だ。その中から一つの重機を選び、運転席に乗り込む。彼女の考えが瞬時に理解できた。よじ登り、運転席を閉める直前で腕を差し入れて無理矢理こじ開ける。
「キュラソー、そんなことをしたって、あの観覧車は止まらない」
「やって見なくちゃ分からないわ」
「もし仮に、止まったとしても、君の命は保証されない」
「それがなんだというの」
エンジンをかけながら彼女は淡々と言う。
「私がやらなきゃ、いけないの」
その瞳には強い決意の光が宿っている。ちょっとやそっとじゃ揺らぎそうにないくらいの、強い光だ。
まずい、このままでは、彼女は行ってしまう。私はわなわなと口を開き、ありったけの力を込めて、思いついた言葉をそのまま口にして彼女にぶつけた。
「私は、君に生きて欲しい!!」