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今日の未明頃、天気が大きく崩れるでしょう、という夕方の報道番組が告げていた予報は如何やら当たってしまったらしい。季節外れの嵐が窓をガタガタと揺らしている。その音で目が覚めてしまった私は、その後なかなか寝付けないでいた。起きてしまったし、少し本でも読んでからまた布団に入ろうかな。時計を見ると丁度日付がかわるくらいだった。明日が午後からの勤務だということに感謝しつつ読みかけの本を手にとった瞬間、窓の外から鋭い光が差し込む。まさか、そう思った次の瞬間、ビリビリと窓を震わせる程の大きな雷鳴が轟いた。嗚呼もう最悪だ。昼間職場で誰かといる時なら我慢できるのに、よりによって一人でいる時、それもこんな夜中に雷だなんて。
昔から、どうも雷だけは苦手だった。というよりは大きな音が苦手と言った方がいいのかもしれない。花火だって、近くで見るより少し遠いとこから見るのが好きだった。
とても本を読むような気分ではなくなったから布団に潜り込んで少しでもこの音を紛らわそうと、ベッドに戻ろうとしたその時、部屋の明かりが突如消えた。よりによってこのタイミングで停電だなんて本当についてない、
真っ暗な部屋の中を恐る恐る歩く私に追い打ちをかけるかのような雷鳴が再び襲った。




「〜〜〜〜〜!!」




あまりにも吃驚してダッシュで部屋に戻ろうとしたら壁に結構な勢いで頭を打ち付けてしまったが、そんなことどうでもいい。布団に潜り、耳を押さえこみ早く何処かに行けと念じていると、微かに呼び鈴の音が聞こえた。こんな時間に?いったい誰が?聞き間違いかもしれないが、念のため耳から手を外すと、やはりピンポン、と特有の電子音が聞こえた。
管理人さんだろうか、、?停電のことについて何か連絡かな。先ほどより目が暗闇に慣れたおかげか、玄関に行くのはそう苦労しなかった。用心のためチェーンをかけたままドアを少し開けたが、来訪者の顔を見た瞬間私はそれを外した。




「な、かはらさん、、?」



「さっきすげえ音したけど、大丈夫か?」



「ああ、あの雷ですね、、いや本当吃驚して心臓が飛び出るかと思いましたよ、、、」



「雷じゃねえよ、その後お前壁にぶつかってただろ?」




は、恥ずかしい。中原さんの部屋にまで聞こえてただなんて。まあでもぶつかったの中原さんの部屋側だったし、聞こえても無理はないか。



「急に停電になるし、雷凄いしで動揺しちゃったんです、、でも、もう大丈夫です。何か中原さんの顔見たら安心しました」



心配かけまいと、まだ落ち着かない心を押さえ込みそう強がりを言った直後、辺りが夜とは思えない明かりに包まれる。あ、これは、ヤバイやつ、と思った時にはもう遅かった。
地面が揺れるほどの雷鳴に、中原さんの目の前で思わず私は耳を強く押さえしゃがみこんだ。



「ううう、、もう嫌だ」



「、、、全然大丈夫そうじゃねえな」



「虫とかホラーとかは平気なんです、、でも雷だけは如何しても駄目なんです、、。誰かといる時はまだ我慢できるんですが、、、」



未だ立ち上がれない私に目線を合わせるようにしゃがみこんだ中原さんは、そっと頭に手を乗せてきた。そして、



「お前の部屋と俺の部屋、好きな方選べ」



「、、、へ?」



「選んだ方で雷が止むまで面倒見てやるって言ってるんだよ」



「、、本当にいいんですか?迷惑じゃないですか?」



「また壁にぶつかられる方が迷惑だ」



「うっ、、じゃ、じゃあ中原さんがいい方で」



「じゃあ、うちにするか。みょうじの家にはいっぺん世話になってるしな」



基本的に優しい中原さんだが、今日はいつにも増して優しい気がする。
図々しくもお言葉に甘えて、私は中原さんのお家にお邪魔することになった。こういう時のために備えていたのか、リビングに入ると橙色の優しい蝋燭の明かりがゆらゆらと部屋を照らしている。
黒を基調とした家具と、整理整頓が行き届いた部屋はすごく彼らしかった。



「適当に寛いどけよ」



そういう中原さんはなぜかキッチンに行き冷蔵庫から牛乳を取り出し鍋に注いだそれを温めだした。何を作る気なんだろう、黒色のふかふかとしたソファに座り待っていると、「おらよ」と渡されたマグカップからは、湯気がたっていた。



「ありがとうございます、、。でも如何してホットミルクを?」



「?それ飲んだら眠くなるだろ」



「なるほど、、ふふ」



「何だよ」



「いえ、何でもないです。いただきます」



もしかして、なかなか寝付けない日は中原さんはこうしてホットミルクを飲んでいるのかな、なんて想像したら少し微笑ましくて思わず笑ってしまった。
ふと、口に含んだミルクからは、ほんのりとお酒の香りがすることに気づいた。



「これ、ラム酒入ってます?」



「よく気づいたな。ほんの少しいれてる」



「へえ、ラム酒と牛乳って合うんですね」



ラム酒特有の甘い匂いと味は、牛乳のまろやかさにとても合っていた。今度家でもしてみよう。
ゴロゴロと、窓の外ではまだ空が唸っているが不思議と怖くないのはきっと隣に座っている中原さんのお陰だ。
ホットミルクを飲み終えると、少しずつ眠気が襲ってきた。流石に、このまま寝るのは駄目だろう、、自分の部屋に戻って寝なきゃ。と思ったがまたピカリと大きな稲妻が走り思わず肩がびくりと跳ねる。、、これはしばらく帰れそうにない、でも眠い。



「眠いんなら寝ろ」



眠気と恐怖の板挟みになっている私に気づいたのか、中原さんはまた私の頭に手を乗せそう言ってくれるが、流石にそこまで甘えるわけにはいかない。



「大丈夫です、、起きてます」



「いいから寝ろ、無理すんな」



「、、、じゃあ、少しだけ。すみません、雷が止んだら起こしてください」



「あー、わかったわかった」



「それから、、、ちょっとの間だけ、手を繋いでもらえますか?」



図々しくてすみません、そう謝ると中原さんはぽかんとしたが直ぐに「ガキかよ」と笑って言いながらも手を握ってくれた。ああ、安心できる。
子供の頃も、夜中に雷がなるとよく親の元に行ってこうしてもらってたな。さすがに中高生にもなるとそれはなくなったけど、一人暮らしでこんなひどい雷は初めてだったせいか、中原さんの言う通り子供みたいになってしまった。
繋がれた手から伝わる体温に、安心しきった私は気づいたらぐっすり眠ってしまっていた。




**********





チュンチュンと、鳥が囀る声が聞こえる。目を開けると如何やら夜が明けたらしい、窓の外から光が差し込んでいた。ふと、いつもと違う景色に違和感を抱く。あれ、確か私、昨日中原さんの家にいて、ソファで眠くなって、それから、、、
ガバリと起き上がり漸く今まで寝ていた場所がソファじゃない事気づいた。何で私、ベッドの上で寝てるの?
そして、もう一つ大変な事に気づく。

中原さんは?

そう思った瞬間、隣からスウスウと規則正しい寝息が聞こえる。もしかしてと思い目線を斜め下に向けると、私の隣に気持ちよさそうに眠る中原さんがいた。
思わず声をあげそうになったが、服を着たままの自分と中原さんを見て何もなかったことを悟った私は、ぐっとそれを抑えた。それにしても、、気持ちよさそうに寝てるなあ中原さん。






「何ジロジロ見てんだよ」




「っ?!」



健やかな寝顔につい頬を緩めていると、急にぱちりと目を開けそう言い放つ中原さんは少し不機嫌そうだ。



「おっ、起きてたんですか?!言ってくださいよ!」



「今さっき起きた」



「そうですか、、、というより、何から謝ればよいのやら、、、本当にすみませんでした」



ベッドの上で深々と土下座をする私に中原さんは「いやそんなに謝るなよ」と若干狼狽え気味だ。いや、私としてはこんなものでは足りない、、夜中にお邪魔した挙句結局寝落ちするとか、、あり得なさすぎる。



「ベッドで寝かせたのは俺だし、気にすんな。あ、それから誤解すんなよ。俺は向こうで寝ようとしたけど、お前が手え離そうとしないから仕方なく此処で寝たんだからな」



「うっ、、申し訳ない」



「ったく、、こっちの身にもなれってんだ」



ぼそりとそう呟く中原さん。それはやはりシングルベッドで寝るのはすごく窮屈だったという意味だろうか、、私がもっとスレンダーだったら中原さんに肩身の狭い思いをさせずに済んだのに、、何から何まで頭がさがる。



「私、頑張って痩せます」



「いや何でそうなるんだよ」






ぐうううう、






「、、、、」



「、、朝飯、食ってけよ」



「ありがとうございます中原さん前も言いましたが笑うなら笑ってください」



正直で空気の読めない自分のお腹を恨んだが、その後出てきた中原さん手作りのハムエッグとトースト、スープがすごく美味しかったので、良しとすることにした。





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