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『お掛けになった電話は現在、電波の届かないとこにあるか、電源が入ってーーー』



「っ、またかよ!」


おかしい、普段なら2回もかけ直せば繋がるはずの電話が今日は5回以上かけてるのに出やしない。一応、数十分前に今夜は空けておけという連絡はした。にも関わらず繋がらないとは、一体どういうことだろうか。
何故か分からないが、妙な胸騒ぎにも似た何かをさっきから感じている。電話が繋がらない、何てことは別段珍しいことではない。俺だって部下からの連絡に気づかない事だってある。みょうじも、もしかすると何か事情があって電話に出られないだけかもしれない。例えば急な来客が来ただとか、何か手が離せないことをしてるだとか、あの後電話が壊れてしまったとか、そういった理由も十分に考えられる。しかし、どれだけ自分に言い聞かせるようにそんな事を考えても、胸のざわつきが消えることはなかった。もう少しで家に着く。普段ならあまり飛ばさない道だが今日はアクセルを踏む足に無意識のうちに力が入っていた。


ブーッ、ブーッ


「!」


サイドドアのポケットに入れていた携帯が震えだす。みょうじからだと思い手を伸ばし画面を見るが、表示されていた名前は部下のものだった。


「何だ」


「御帰宅中のところ、失礼します。今しがた、情報屋から少し気になる話を耳に挟んだもので、一応報告をさせていただきます」


「チッ、手短に話せよ」


車を停め、早足で階段を登りみょうじの部屋へと向かう。呼び鈴を押せばきっと、申し訳なさそうな顔をして彼奴が出てくるに違いない。


「以前、我々が取引を阻止した麻薬商人のものと思われる船が港に泊まっているらしく、街で彷徨いてる目撃情報もあったとのことです」


「何だ、それだけか」


インターホンの釦を押してみるが、返事はおろか、中から物音の1つも聞こえない。電話をした時、微かに聞こえた雑音の中には車のエンジン音も混じっていた。ということは、電話に出た時、時間帯からして彼奴はすでに帰路についていて、もうとっくに帰宅しているはずだ。


「はい。それから、我々とは関係無いとは思うのですが、港で女が一人、商人の部下に担がれ船に連れて行かれたようです」


「、、、なんだと?」



「情報屋いわく、おそらく一般人なので私達の関係者ではないかと」


「どんな奴だった!?特徴は、何かないのか!?」


それまで話半分に聞いていた部下からの報告だったが、状況が変わった。まさかとは思うが、その一般人てのはみょうじじゃねえだろうな。


「青いパンプスを履いていた、という情報しかないです。それがどうかされたんですか?」



「っ、場所を教えろ!」


俺の記憶が正しければみょうじは青いベロア素材のパンプスをよく履いていた。青い靴を履く女なんて、横浜に数多くいるだろう。彼奴じゃない可能性だって十分ある。頭ではそう考えるのに俺の足は駐車場に向かっていた。繋がらない電話、帰宅している筈なのに人の気配がしない部屋、部下からの連絡、そしてさっきから消えない胸騒ぎ。噛み合って欲しくないピースが、カチリカチリと音を立てるように嵌っていく。
電話を切り、車に乗り込むや否や部下から伝えられた場所へと向かうべくエンジンをかける。

中原さん、と今にも泣きそうな切羽詰まった声でみょうじが俺を呼んでいる、そんな気がしてならなかった。





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