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普段あまり買い物をしない性分なのに、珍しく今日は色んな物を買ってしまった。両手に紙袋を持つことは初めてかもしれない。少し、休憩してから家に帰るとしよう。確かこの辺りに珈琲が美味しいと噂の喫茶店があるはず。
同僚から聞いた情報を頼りに歩いていると、其れらしいお店が見えてきた。きっとあそこに違いない。
重い木製の扉を開けると、可愛らしい給仕さんが「一名様でしょうか?ただいま満席のため、相席という形になるのですが、、、」と申し訳なさそうにそう言ってきた。



「私は構わないんですが、、相手の方が駄目な様でしたら、席があくまで待ちますね」



「畏まりました。少々お待ちください」



頭を深々と下げ、給仕さんは慌ただしく駆けていく。時間はちょうど3時、喫茶店はちょうど混み合う時間な上に人気店だ、こうなることはなんとなく予想していた。



「大変お待たせいたしました!相席でも構わないと仰ってくれる方がいらしたので、そちらにご案内させていただきます」



こちらです、と案内されたのは角の窓際のテーブル席だった。其処には一人の男性が背中を向けて座っていた。



「すみません、失礼します」



私がそう言うと男性は顔を上げ、ふわりと柔和な笑みを浮かべ「いえ、お気になさらず」と返してくれた。よかった、良い人で。



「ご注文がお決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください」



おしぼりとお冷を置いて去っていく給仕さんが去っていったため、私は必然的に向かいに座っている男性と二人きりになった。まあ、相席だから当然のことなんだけど。



「ここのケーキ、美味しいですよ」



何を頼もうか、メニューと睨めっこをしている私に向かいの男性はそう勧めてきた。



「そうなんですか?同僚から珈琲は美味しいと聞いてたんですが、折角だし頼んでみようかな」



「きっと女性は好きな味ですよ」



そう言われたら食べるしかない。机の端に置かれている鈴を鳴らし、給仕さんに注文を伝える。そんな私を見て人の良さそうな笑顔を浮かべる男性は、よく見ると首や手に包帯が巻かれていた。怪我でもしたんだろうか。



「そんなに熱い視線を送られると照れますね」



「すっ、すみません!私ったら失礼なことを、、」



「いえ、こんな美しい方に見つめられるなんて、光栄です」



「??!」



さらりと歯の浮くよな台詞を言ってのけた男性は続けざまに「お名前を聞いても宜しいですか?」と聞いてきた。



「えっ、あ、みょうじなまえ、です」



「ふふ、なまえさんですね。私は太宰治と申します。こんな所で会ったのも何かのご縁かもしれません。如何でしょう?このあと、私と一緒に心中をしませんか?」






「、、、は?心中、、、?」



「はい、心中です」



自分の耳を疑った。いまこの人なんて言った?いつの間にか私の手を包み込み、爽やかな笑顔を携え太宰さんは、「如何でしょう?」と聞いてくるが、如何でしょうも何も意味がわからない。
状況の整理に頭が追いつかないでいると、ズカズカと荒々しい足音を立てて1人の眼鏡をかけた長身の男性がこちらに向かってきた。



「太宰!!人様を巻き込むな!」



眼鏡の男性は勢いよく太宰さんの頭を叩き、「済まないことをした、気にしないでくれ」と私に頭を下げてきた。結構良い音がしたけど、太宰さんは大丈夫なのだろうか。



「痛いなあ国木田くん。折角私が心中したいと思える運命の女性と出逢えたんだ。邪魔しないでくれ」



「貴様の自殺癖に他人を巻き込むなと言っているんだ!仕事に戻るぞ!」



「ええ〜、私はまだなまえちゃんとお話がしたいなあ。ね、なまえちゃん」



いつの間にかちゃん付けで呼ばれているけどもうそんなこと気にしていられない。太宰さん、見た目や物腰はすごく紳士的で素敵なのに。今まで出会ってきた人の中で一番変わっているかもしれない。



「そうですね、私もそうしたい気持ちは山々なんですが、お仕事の邪魔をしては忍びないので」



「そんな事気にしなくていいよ!此処にいる国木田君が全部してくれるから」



「何故俺なんだ!巫山戯るな!全く、帰るぞ。、、、なまえ、といったな?邪魔して済まなかった」



国木田さんはまだ駄々をこねる太宰さんの襟元をつかみ、ずるずると引きずって去っていった。懲りてない太宰さんは、「なまえちゃん、また一緒にお茶をしよう、そしてその後は如何か入水を!」と手を振ってきたので、一応同じ様に手を振り彼らを見届けた。多分、すごい苦笑いをしてたと思う。
太宰さんと国木田さんと入れ違いで運ばれてきたケーキと珈琲は、本当に美味しかった。





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