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私は、仕事が定時に終わった日は大抵自宅から最寄りの公園に寄ってから帰る。目的は一つ、彼らとのお喋りだ。



「ニャー」



5時を過ぎるとそれまで遊んでいた子供達は皆家に帰り、公園内は静けさに包まれる。寂れたベンチに腰掛けると、毛並みの良い一匹の三毛猫が寄ってきた。



「うん、元気にしていたよ。そっちは?」


「ニャア」


「そっか、ならよかった」



顎の下を指でなでてやると猫はゴロゴロと喉を鳴らし目を細める。因みに、この子の事はミケ2号と呼んでいる。2号なのは、他にもこの辺りには三毛猫がいるからというすごく安直な理由だ。



『この前、家に男の人あげてたよね』



「えっ、何で知ってるの」




ミケの言葉にどきりと心臓が脈打つ。如何やら、たまたま見かけてしまったらしい。猫が相手とはいえ何て気まずい場面を目撃されてしまったんだ、、。



「あ、あれはね、ちょっとした事情があったのよ」



『ふうん。ま、いいけど。でも、気をつけたほうがいいよ』



「?気をつけるって何を」



『あの男、一般人じゃないから』



「それってどういう、、、」






『中原中也は、この街で最も畏れられてるマフィアの幹部ってわけ」



「、、、ん?」



カァカァと電線の上で鳴く鴉が会話に割って入ってきた。『久しぶりだな』なんて言ってるけど、いや、そうじゃなくて、そんな事より、



「、、、いま、なんて??」



『鴉の言うとおり。彼らにはあまり近寄りたくないから、私達動物は情報を共有してるの』




眠たそうに大きなあくびをしながら猫は淡々と話す。中原さんが、マフィア、とてもそんな風には見えなかった。あんなに泥酔してたのに、、いやそれは関係ないか。



『だから、あんまり中原中也とは親しくならない方が身のためだぞ』



そう忠告すると、鴉は橙色と藍色の混じった夕空へと飛び去り、それに続いて猫も『お腹が空いたから私も帰るかな。じゃあねなまえ』と飼い主の元へ帰っていった。
次第に夜の気配が訪れる公園で一人になった私は、暫く放心状態だった。ていうか、マフィアってもっと高級な高層マンションとか、一戸建てに住むものじゃないの?
そんな如何でもいいことを考えていると、その張本人が鼻歌交じりに歩いているのが見えた。如何やら向こうも私に気づいたらしく、此方へ向かってくる。えっ、気まずっ。



「よお、みょうじじゃねえか」



「こっこんばんは中原さん」



「こんなとこで何してんだ?」




「えっと、、、精神統一です」



我ながら苦しい言い訳だと思うけど、猫と鴉と仲良くお喋りしてました、よりは百倍マシなはず。
私の意味不明な受け答えが可笑しかったのか、中原さんは「ハッ!何だそれ」と破顔した。こんなに楽しそうに笑ってても、マフィアなのか、、、人は見た目で判断してはいけないなとつくづく思う。




「丁度いい。お前、この後暇か?」



「はい、もう今日は何も予定はありませんが」



「この前の件、いまから如何だ?」



この前の件、とはつまり、ご飯を奢ってくれるという話のことだろうか。このタイミングでその話がでるとは思っていなかった私は、何て返事をすれば良いのかわからなかった。断る理由はない、だって彼は隣人、これからもお付き合いしていく仲、でも、それ以前に彼はマフィア。
頭の中で色んな思いが錯綜する。どうしよう、どうしよう。
その時、





グゥゥウ、






「、、、あ」





素直な私の腹の虫は、それはもう、盛大に鳴った。恥ずかしくて死にそう。中原さん滅茶苦茶笑い堪えてるし、、もう一層の事笑ってくれ。




「決まり、、だな、、ククッ」



「お願いです中原さんに我慢するくらいなら笑ってください」



「悪りぃ、いや、あんなにデカい腹の音初めて聞いた」




私だって真逆あんな音が出るとは思わなかった。べつに、そこまで空腹ってわけでもないのに。
それより、この流れは、ひょっとして、




「ちょっと時間は早えが、そんだけ腹空かしてるんだし、行くか」




、、、そうなりますよね。でも、幾ら相手がマフィアとはいえ、ご飯食べるくらいなら特に問題はない、はず。
そう自分に言い聞かせるが、私の頭からさっきの鴉の忠告が離れることはなかった。





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