03
翌朝、おれはドフィの部屋へ呼び出された。今日はここで公務をこなすらしいので、この部屋の中に居ろとだけ言われたおれは目を見開く。
「……それだけ?」
「ああ」
「退屈……」
「言ったろ。目の届くところに置くと」
「何もしないのもお仕事?」
とは言ってもそれはそれで好都合だった。ドフィの近くにいれば、おれが知りたいことがわかるかもしれないし。
「勿論」
デスクに向かって書類に目を通していくドフィは、すこし気怠げだけど普通の王様みたいに見えた。ガラが悪すぎるけど。
手持ち無沙汰なおれはソファに座ってドフィの部屋に置いてある本を適当に読み進めることにした。とくべつおれの趣味ではなかったけど、他にすることもない。
しばらく経って、おれは本から視線をあげてドフィを振り返った。
「……手伝うことない?」
「ん?そうだな……ねェかもな」
「ふーん。お茶とかいれる?」
「そりゃあお前の仕事じゃねェな」
「だって暇なんだよ。帳簿つけてろとか、書類の仕分けしろとか、肩叩けとかないの」
あまりにも退屈すぎる。
「手伝い、か……」
「なんかあるの? 任せていいよ」
するとドフィはこっちに来いと指を動かしておれを呼びつけたので、ソファを降りてデスクまで寄った。座っていても背の高いドフィは、背を丸めておれの顔を覗き込む。
「なーに?」
「丁度ひと段落ついたところだ」
「そっか。お疲れ様。休憩するの?」
お茶でも持ってこようかと振り向きかけたところで、ドフィは大きな右手でおれの頬を包んだ。浅く首を傾げれば弧を描くドフィの口元。空いていた左手に、おれの右手を取られる。
「……ドフィ」
「お前から、だ」
誘われるがまま、乞われるまま。おれはドフィが腰掛ける椅子の前へと移動する。そうして身を寄せ、ドフィの唇へゆっくり口付けた。
「……お手伝いになった?」
「いいや、こんなじゃ足らねェな」
「まだ朝だよ……どうしろって言うの」
唇を尖らせて言えば、ドフィは愉快そうに笑う。
「やけに献身的だな、ニア」
「煩いならソファ戻る」
「そうは言ってねェよ、気分屋め。猫みたいな奴だ」
ドフィはおれの身体を抱き上げて膝の上に乗せた。ほんとに猫みたいな扱いだ。改めて、すごい体格差だなあと思う。おれの身長なんてドフィの半分とちょっとくらいしかないもんな。
「此処に居ろ」
「邪魔じゃない?」
「問題ねェよ」
「ならいいけど」
満足したらしいドフィは再び書類を手にとって目を通していく。その内容はコロシアムの興行収入の報告だったり、各種貿易の決済報告だったり様々だ。
おれは興味の無さそうなフリをしてデスクへ視線を振る。
なにかローくんの手助けになりそうな情報を得られないかと思ったけど、ドフィがそんな情報を紙媒体で残すはずがないもんな。
大事な連絡事項はいつだって電伝虫で行われる。
結局その日も収穫はなく、気が急くばかりだ。どうかローくんが無事でいてくれますようにと祈りながら眠りにつく。明日はなにか手かがりの一つでも見つかったらいいのに。
◆
それから大きな変化はなにもなく、嘘みたいな穏やかな日々が続いた。日中はドフィの部屋で過ごして、夜は呼ばれればドフィのベッドで眠る。ドフィ曰く「ちょっとした買い物」に付き合う日は商談というやつで、その日はなかなかに楽しい。おれの一声でとんでもない額のお金が動くので、初めのうちは怯んだものの徐々に慣れた。
上手くやればドフィはおれを褒めるし、抱き方も優しくて丁寧だ。おれはおれの安寧のために働いているに過ぎないのに、ドフィはおれの商才をよく褒める。その度に言うのだ。お前が居てくれてよかった。絆されるわけではなかったけど、どうしたってグラついてしまう部分はある。いずれ裏切ってしまうことになるとはいえ、ドフィはおれにとっての大切なひとだ。
騙しておいて、大切もなにもないか。
あれだけ大見栄を切ってローくんと別れて来たものの、未だに工事がどこにあるのかは元より本当にドレスローザに実在するのかどうかすら掴めていない。ドフィがうっかりおれに知らせるようなこともなかった。
ローくんはといえば、たまに繋がる声をものの三十秒くらい聴く程度。進展はないことを告げても焦る風もなく、そうかというばかりだった。おれから連絡しなければローくんとは話ができないことになっているので、おれは隙を見つけては慎重に電伝虫の受話器を取る。
すっかり禁煙も成功してしまったけど、ポケットにはいつでもライターが入っていた。心が弱ったとき、これはいつでも勇気をくれる。おれとローくんを繋いでくれている気もした。
王宮の中は自由に歩き回れたけど、特に新たな発見もない。こそこそ隠れて手かがりを探すにしたってリスクがある。おれがドレスローザに居る理由だけは、誰にも知られてはならない。そんな日が来てしまえば何もかも水の泡だ。
ジョーカーという男は、なにもかも抜かりがない。こんなに近くに居るおれに何の情報も溢さなかった。その上でおれを上手く使って利益を出すもんだからなんとも歯がゆい。
もちろん街へも特に許可なく出られた。賑やかなドレスローザの街には日毎に新たなおもちゃが増えていく。シュガーがまた悪魔の実の能力を使って、虫やゴミなんかをおもちゃにしているんだろう。彼女もなかなか暇らしかった。
露ほども警戒されていないので、その気になれば国を離れることくらい簡単だ。だけどおれにはおれの目的がある。だから出て行ったりはしない。それをドフィは諦めと取ったのか忠誠と取ったのかは分からないけど、疑われないのならそれが一番いい。
おれがドフィに疑われたときが最後だと思う。おれにとっても、ローくんの目的にとっても。
そんなある日。ドレスローザへ戻って、早数ヶ月が過ぎた頃。おれは普段と同じくドフィの部屋でのんびり過ごしていた。
「ニア」
「なあに?」
しばらく経ってもドフィは飽きもせずおれを部屋に呼びつける。そうして部屋の中でゴロゴロ過ごすおれを視界に入れながら、王様の仕事をこなすのだった。
「フッ……呼んだだけだ」
「……変なドフィ。疲れたの?」
「ああ、疲れた」
「今夜出かけるんだろ。ちょっと休めば」
背もたれに背中を預けたドフィは、黙っておれを見る。サングラスの奥の視線は読めない。
「……どうかした?」
呼ばれているのだと気付いたおれは、読みかけの本をぱたんと閉じてドフィのそばへ寄る。
「ニア」
「んー?」
大きな手がおれの頭を撫でた。悪業の数々を重ねてもまだまだ欲の赴くがままにその手を赤くも黒くも染め続けるその人だけど、こういう一面も持っていることだって事実だ。
どんなに悪いひとだとしても、誰かを優しく撫でたりする。
「おまえ、欲しいモンはあるか」
「欲しいもの……? 例えば?」
「服なり靴なり、指輪もいいな」
「おれ、別に誕生日近くないけど」
するとドフィは笑みを崩さず、おれを抱き上げた。そのまま膝の上という特等席に座らされる。こうして抱えられるのにも慣れてしまった。
「身に付ける物がいいの?」
「ああ、そうだな」
「アンクレットとか……? 傷残っちゃったしね」
いつかにドフィを怒らせてしまって、おれの足首は散々痛めつけられた。お陰でお気に入りの彫り物はズタズタになってしまってどうにも不恰好だから、せめて隠していたい。
「痛むか?」
「まさか。とっくに治ったよ」
ドフィはおれの足首を摩ってくれる。若干擽ったいので、つい身を捩った。
「おれがつけた傷を飾るために」
「そこまでは言ってない」
「いいじゃねェか。考えておこう」
「重たいのはヤダよ。ジャラジャラいっぱいついてるのとか。あと高すぎるのも駄目」
買うと決めたときのドフィはお金の使い方が荒い。先日、おれのスーツを作るのだと言って採寸に出かけた足でオーダーメイドのスーツを手配したときだってそうだ。
おれを着せ替えることが気に入ったのか、その後いくつものショップを渡り歩いて行く先々でどんどんおれを着せ替え人形にして遊ぶ。大量に買った服は部屋に置ききれなかったので、今や隣の物置がおれのクローゼットだとかいう、なんとも贅沢な事態になっていた。
「いいじゃねェか、せっかくだ」
「お金持ちのお金の使い方全然わかんない」
「フッフッフッ……楽しみにしててくれよ」
「んー、ありがと」
いい子を続行中のおれは、ぐっと背筋を伸ばしてドフィの頬へキスを贈る。そうしたらドフィはおれの額に口付けてきた。
錯覚しそうになる。いまこの瞬間こそが幸せなんじゃないかって。確かに、何年か前だったならこれが幸せのうちの一つだったかもしれない。けど今は違う。ポケットに入ったライターのまばゆい煌めきが、おれの心をずっと支えていてくれている。
ところで、と切り出したのは膝の上に座っているおれの頭を撫でていたドフィだ。昼下がりの室内には暖かな陽射しが射している。
ここ数週間、ドフィがおれに構う頻度が高くなった。夜もほとんどひとりにさせては貰えないし、外に出ようとすればてきとうな口実で引き止められる。これじゃただの飼い殺しだ。おれは今日もドフィに逆らえず、やってくる睡魔に身を委ねかけたときだった。
「なに?」
「……ッフフ」
「ご機嫌なの?」
「いやァ……すっかり大人しいと思ってな」
「大人しいもなにも、ドフィが離してくれないんだろ」
おかげでここ二週間は王宮のこの階からすら一歩も出られてない。ドフィの目もあるばかりに、おれはなんの調査も進められないでいた。
「お前がなにか考えてるように、おれにだって考えてることの一つや二つあるもんだ」
「なにそれ。おれは誰かさんのせいで、今日の夕飯のことくらいしか考えることないんだけど?」
「フッ……そんな風には見えねェなあ。ちょっとはおれの方を見たらどうだ」
「見てるじゃんか。いま」
ドフィと視線を合わせたおれは首を捻る。
「なに、寂しいの?ちゅーする?」
「ニア」
「んー?」
「退屈そうなお前にひとつ仕事をやろう」
「はあい、ドフィ。なんでも言って」
微笑んで返せば、ドフィも愉快そうに笑みを浮かべた。そうしておれの顎を取って上を向かせる。さっきよりも深く視線が絡んだ。
「モネを呼んできちゃくれねェか」
「モネちゃん? 最近見かけてないよ。たまーに会うけど次の日すぐどっか行っちゃうし」
「あいつは何かと忙しいからな」
「ふーん。最後に会ったのいつだったかな」
ドフィの膝から降りて身嗜みを整える。部屋に居る気もしないんだよなあ。
何処にいるんだろ、あの人。他の幹部連中とも生活リズムが合わないのか食事時くらいしか顔を見ないことが多いけど、モネちゃんは尚更だった。
「ドフィ、モネちゃんが何処にいるのか心当たりないの?」
「そうだな……丁度今日はヴェルゴが戻る日だ。今から向かえば港で会うだろう。出迎えついでだ、ヴェルゴに聞いてみな」
「ヴェルゴさん? 分かった。行ってきます」
おれは背中にかかる「行ってこい」を聞いてから部屋を出る。久しぶりの外出だった。モネちゃんにドフィが待ってるよって教えたら、そのままちょっと遊んで帰ろ。
港へ出ると、今日も今日とて市場が賑わっている。おれは人混みの中、辺りを見渡しながらサングラスを掛けた強面の男を探した。すると程なくして、港に面したカフェのテラス席でコーヒーカップを傾ける彼を発見する。
「ヴェルゴさん、おかえり」
「ん……? ニアか。ただいま」
「今回は長く居られるの?最近ドフィがおれにべったりでさ。どっか連れ出してあげてよ」
「考えておこう。それでどうした?わざわざ迎えに来てくれたのか」
「もう着く頃だって聞いたから。ねえ、ヴェルゴさんはモネちゃんが今何処に居るか知ってる?」
するとヴェルゴさんはコーヒーのカップをソーサーへと下ろす。
「…………モネに何か用か?」
「うん。ドフィが呼んできてって」
「ドフィが。なるほど……ならおれはこう答えよう。知ってる」
「ほんと? 良かった。それで今何処いるの?あの人全然見つからないから」
「パンクハザード」
周囲の音が、突然聞こえなくなった気がする。全ての音が遠くなって、ヴェルゴさんの言葉がおれの頭の中を何度も駆け巡った。
「え、……なんて」
「パンクハザードだ、ニア」
「…………冗談キツイ」
「本当のことだ」
「はは、……あんなとこまで呼びに行けって?」
冗談じゃない。だってその島には、その島には……。ローくんが。
「ニア」
「………………なに?」
「モネは大事な任務中だ。おれが代わりにドフィの部屋へ行こう」
「あ、ああ。そうして」
「お前も来るんだ」
「は……?」
「残念だが、ドフィの決定だからな」
「なんの話……っちょっと! 降ろして!」
立ち上がったヴェルゴさんの肩に軽々担がれてしまったおれは咄嗟に逃げることなんてできなかった。何がどうなってるの。ただ一つ明らかなのは、ローくんの動向はすっかりドフィに筒抜けだったということだ。なんとかしてローくんに伝えないと。
いやだ。ローくんがドフィの手に落ちるなんて、絶対いやだ。
「戻ったか」
ドフィの部屋へ到着すると、ヴェルゴさんはやっとおれを床に下ろした。さっきまでソファに居たドフィはベッドへ移動して足を組んで座っている。
「ドフィ……どういうこと。説明して欲しいな」
「フッフッフッ……まァ、お察しの通りだろうよ」
「……おれで遊んでそんなに楽しい?」
「ああ、これ以上楽しいことはねェ」
ドフィに「外せ」と指を振って告げられたヴェルゴさんが部屋を出て行った。同時におれはドフィに向かって駆け出す。
「……ッなんの、つもりで」
「ここのところ退屈そうだったんでな。趣向を変えた」
「…………なにが目的なの。おれに何をさせたいわけ」
「やけに取り乱すな? いつもの余裕はどうした」
「はぐらかさないで」
「声を荒げない冷静さは流石だがな」
ベッドに上がれと命じるようなドフィの仕草を、おれは無言で拒否した。
「何も今すぐローをどうこうしようってんじゃねェよ」
「当たり前……そんなのおれ絶対許さない」
「お前もローも、おれにとっては大事な弟分だ。だからまだ……様子を見ておいてやる」
おれがローを見守るのなんていつものことだろう、とドフィは嘲笑を混ぜながら言う。それから目の前に居たおれの腕を掴むので、おれは密かに眉を寄せた。
「……ローくんの居所を知ってるって明かしたからには、なにか理由があるんでしょ」
「ああ、ニア。お前は賢いな。もう気づいてるんだろ?」
「…………怒ってるわけね」
「フッ……ああ、そうだ」
腕を引き寄せられて、おれは無理矢理抱えあげられる。そうしていつもの通りにドフィの膝へ乗せられたが、ドフィの声音は普段よりすこし低い。
「いつまで経ってもお前はおれのほうを見ねェもんだから、少々焦れた」
「何言ってるのか分かんないな。おれはドフィのことが好きだし、ドフィの物だよ」
「お前の本心なんざ、おれは何年も前から知ってる」
「…………どういうこと」
「さっさとおれを選んでおけば、お前は苦しむことも無かった」
ドフィがなんの話をしてるのかまるで分からない。冷静なフリは辛うじて出来てるけど、内心は焦り通しだった。はやく、なんとかローくんにこのことを伝えなくちゃいけないのに。そればかり考えてしまって、おれはついドフィから注意を逸らす。
その時、金属の音がした。
「さァ、ニア。サプライズはまだ終わりじゃない」
「…………は?」
ガシャン。
聞いた覚えのあるような音だ。まだ傷跡が生々しく残る足首に、冷たい感覚。目を見開いて見やれば、そこには金色に煌めく大層な足枷がはめ込まれていた。その先は、広くて大きなドフィのベッドへと繋がれている。
「……うそでしょ」
「嘘じゃねェさ。約束のプレゼントだ、ニア」
「アンクレットには見えないけど……?」
まずい。本格的に逃げられないどころか身動きが取れなくなる。この部屋から出られないとなればおれはこの国にいる意味すらないのに。あまりに惨めで悔しかった。
「酷い……こんなの。おれ、いい子にしてたでしょ……」
「いい子じゃねェから、こうなったんだ」
「………………おれの本心って、なに」
「言わなきゃ分からねェのか? おれァ悲しいよ」
足枷のはめられたおれの脚を、ドフィの指がなぞっていく。
「……おれ、ドフィとずっと一緒に居る」
「フッフッフッ……嬉しいねェ」
「ローくんの話、もうしない。ドフィのこと、おれ、ちゃんと好きだから……だから」
「だから?」
「…………ローくんに、酷いことしないで」
ドフィの指がおれの脚の付け根まで登ってきた。
「ああ、約束しよう。おれからは手を出さねェ。今まで通りな」
「ほんとに?」
「勿論だ。元々、ローひとり生かすも殺すもおれの心ひとつだからな。可愛いお前がそれを望むなら恋敵と言えど叶えてやりてェ」
言ってることとやってることがめちゃくちゃだ。それがドフィという男だけど、いざ目の当たりにすると冷や汗が出る。なんなの。この人本気でおれのこと、そんなに欲しいわけ? 分からないな。おれそんなに大した人間じゃないのに。どうしてそんなに躍起になるんだ。
「……ドフィの言う通りにする。だからこれ外して欲しい」
「それはダメだ」
「なんで」
「ひとの心は簡単には変わらねェ。おれが納得するまでそのままだ。どうしても外したいなら」
言葉を切るドフィの手が、おれの胸元まで伸びてくる。心臓のすぐ上を軽く叩いた。
「きっちり、心を入れ替えることだ」
「…………わかった」
とにかく今はこの状況をやり過ごさなくちゃいけない。なるべくドフィの神経を逆なでしないように、素直に従っていよう。
「聞き分けのいいやつだ。そういうところを気に入ってる」
「どうしておれなの。ドフィなら選り取り見取りでしょうが」
「ああそうだ。だからおれはお前を選んだ」
ドフィは心底愉快そうにおれをベッドに押し倒す。
足枷の鎖が重たく引き摺られた。まるで生きた心地がしない。だけどおれがドフィの言う通りにちゃんと従っていれば、ローくんの安全は保証されるかもしれない。いま選び取れる最良の選択肢だった。ここで暴れて逆らっても好転しない。
ドフィはおれとの約束は守ってくれるはず。ここまでしておれを欲しがるなら、ひと一人の命くらい見逃してくれるはず。今はそう願うしかなかった。
「待たせて悪かったな」
「……なにが?」
「丁度今日届いたんだ。全くいつになるかと思った」
「この素敵なアンクレットのこと? オーダーメイドだとは思わなかったな」
するとドフィはその大きな手で、小瓶を取り出す。見覚えがある。薄い桃色の錠剤がぎっしり詰まったその小瓶。
「い…………ッやだ! ドフィ、おれ、それ嫌だよ」
「そう暴れるな」
「もう飲みたくないって! 帰ってきたとき言ったじゃんか!」
「おかしいな。そりゃァ、こんなのが無くてもいい子にしてられるって話をしたときだったろ」
返答に詰まる。おれはなす術なく、口を閉じて首を横に振ることしかできない。
「お前はいい子になるまで、ここから出られねェ。外にはヴェルゴを立たせてある。おれが居ないときにはしっかり見張ってもらえよ」
「…………っ」
ドフィが小瓶の蓋を取る。一粒摘み上げて、愉しそうにおれに向かって差し出した。
「飲むとわけわかんなくなっちゃうから……怖いんだよ」
「そういう薬だ、これは」
「なんでドフィはこれを飲ませるの……そんなにブッ飛んでるおれ抱くのが楽しい?」
するとドフィは意外なことに口をへの字に曲げる。そうしてすっかり抵抗する気の無くなったおれの口の中へ錠剤をねじ込み、水の入ったボトルを煽った。当然その水は口移しでおれに飲まされる。飲まなきゃ後が怖いので、嫌々飲み下しておいた。
「楽しかったら毎晩でも飲ませてるさ」
「……遠慮したい。どうなってるの、最中のおれ」
ドフィは濡れたおれの口元を指で拭いながら、皮肉っぽい笑みを作る。
「そいつァ、お前が頑張って意識を保っておくんだな」
「…………無理だから聞いてるのに」
それからドフィは薬の効果が現れるまでの間、黙っておれを見ていた。