03
国中が揺れている。悲痛な叫び声はここまで届く。
おれにとって、ドンキホーテ・ドフラミンゴという男はどこまでいっても良き兄で、良き親だった。それはもう、何度も考えてきたことだけど、何があっても変わらないんだと思うし、本当の意味で嫌ったり憎んだりできるはずがない。
軟禁されても、足枷を嵌められても、更にはローくんを痛めつけられても。恩というのはそういうものだ。今こうしてローくんを思い続けていられて息があるのでさえ、ドフィが今までおれを育て学ばせ、生かしてくれたからこそ。
世間一般的には間違った認識だとしても、おれの狭い世界じゃそうだった。
だから、ドフィがあんな風に言ったならおれだって揺らぐ。ドフィは強く、そして寂しいひとだ。あの人がこの海でどんな風に呼び据えられていたとしても、あの人は愛しく思う人間に対して情を注ぎ、慈しむ。自分よりも遥かに小さく、弱い者を優しく抱き竦める腕もある。
『おれァ……どこで間違えたんだろうな』
そう呟いたドフィは今までに見たこともない顔だった。痛むような、苦しむような。しかしその胸の内を明かしたりはせずに。ただ、淡々と呟いた。
どこで間違えたのかなんて、おれには判らない。おれが間違えていたのかもしれない。おれが我儘言わなけりゃ、ドフィはあんな寂しい顔をしなかっただろうか。
それでも。
それでもおれはローくんのものだし、ローくんのところに帰りたい。親不孝者だと常々思う。
ローくんは、おれを拾い上げてくれたひとだ。右も左も判らないおれに、道を示してくれたひと。初めて会ったときからずっと、おれはローくんのことが好きで好きでたまらなかった。
気の強そうな眼差しと、おれのふわふわな頭とは正反対に真っ黒で艶やかな髪の毛と。白い肌。冷たい指先。優しい手。
『ニアは弱いから、強くなるまでおれの後ろにいろ』
そんな風に言われたこともあったなあ。あの頃のローくんはどこか危うげで、目に入るもの全部壊してたような子だったけど。おれに向ける目は…………目。
いつだかにベポくんは、ローくんは自分たちをあんな目で見ないと言ってたことを思い出す。なるほど。なるほどな。そういうことなのか。おれはすっかりローくんの眼差しに慣れていたから全然気づかなかったけど。
そっか。わかる。わかるよ。あの目でしょ。鋭いのに暖かくて、不躾なのに愛おしい。そんな眼差しに、さっきも心を揺さぶられた。
ドフィとローくんはよく似てるから。おんなじ目をしておれを見てたんだな。
「……どうしろって言うんだよ」
揺さぶられるもなにも、おれの心は決まってるのに。どうしたって大事なひとは他にもいる。行くな行くなとおれを引き止めて。嫌いになれればどんなに楽だろ。
ローくんがいちばんだ。にばんは無い。おれの「好き」はローくんに向けるのと、ドフィに向けるのでは……やっぱり種類が違う。大事なものに順番なんてつけようとするから悪かった。ひとつだけ選んで、それだけを大切にしてるべきだった。
おれがフラフラしてるのがいけなかったな。ご機嫌取りなんてしなけりゃよかった?だけどそうしてなくちゃ、おれはドフィをローくんから遠ざけておけなかったと思う。
やっぱり酷いのはおれだ。
おれはドフィの気持ちに、ちゃんと気づいてあげられなかった。今もそうだ。彼がなにを思っておれを手元に置き続けるのかが判らない。なにも教えず、聞かせず。ただ側に在ることのみを言い渡されて。
考え直せとドフィは言ったけど、幾ら考えたって変わらない。
おれが心底甘やかしていたいのはローくんだし、キスもセックスもローくんがいい。おかえりって言ってくれるのはローくんがいい。おれを海に連れ出してくれるのは、ローくんが乗ったポーラータングじゃなきゃ嫌だった。
ベポくんとも約束したんだ。ちゃんと帰るって。全部話すって言ったから。
だからドフィと一緒には居られない。例え、今日ローくんが死んでしまうのだとしても、おれはドフィのところには帰れない。だから。あんな顔、しないで欲しかった。あんな声でおれを呼ばないで欲しかった。あんな言葉で、おれを。
……ドフィをあんなにしたのはおれだと思う。
「ニアさま、此方へ」
「…………」
抗う体力も残ってない。武器もない。おしおき部屋に連れていけとドフィから直接命じられてるこの二人につけるような嘘も思い浮かばない。
「…………待つしかないなんて、ほんとなんにも出来ないな」
「ニアさま」
「わーかった、わかったよ……ッちょっと。引っ張んないでよ」
「すみません!」
王宮一階にある礼拝堂の裏にはおしおき部屋というのがあることは知ってたけど、実際に入るのは初めてだ。ドフィの部屋から出られても、また軟禁されたんじゃ笑えもしない。
鍵が開けられて、おれは部屋の中へと押し込まれた。おしおき部屋の扉が重たく閉まる。
「…………あ?」
「わ!」
おしおき部屋の奥。ちいさな格子窓の向こうに、何か居た。
「……こんにちは」
「だ、誰れすか」
そこに居たのはちいさなちいさな妖精さん。トンタッタ族の存在は話には聞いていたけど、実際にこの目で見るのは初めてだった。お花で飾られてるふわふわの髪の毛がとっても愛らしい。おおきな瞳には涙を浮かべている。驚かせたのかな。そう思ったおれはなるべく彼女と視線を近づけるために腰を下げて小窓に近づいた。
「ど」
「ど?」
「ドフラミンゴ王の……仲間れすか?」
「……あー……ううん、違うよ。仲間だったらこんなトコに入れないでしょ。おれはニア」
すると彼女は曇った表情をほんの少しだけ明るく色づかせる。
「私はマンシェリーれす」
「マンシェリーちゃんね」
「……ドフラミンゴ王は、悪いひとだったんれすね……あなたもいじめられたんれすか?」
マンシェリーちゃんはそう言って、ちいさなちいさな指でおれの足首を指差した。
「あー、……ちょっと喧嘩した」
間違っちゃいない。
「やっぱり! 痛そうれす……治してさしあげたい……」
「治せるの?」
「はい! 治療するのは得意れすから!」
花がほころぶような笑顔とは、こういうことか。とんでもなく可愛いな。びっくりする。
「それってさ、疲れとかも取れる?」
「もちろんれす!」
「ワケあって今すこぶる体力落ちてるんだけどさ、そういうのも治る?」
「はい!」
どこか献身的な彼女の声に、ささくれ立っていたおれの心が和らいだ。
「すごいなあ……けど、やっぱ大丈夫」
「ほんとに……?」
「うん。知り合いのお医者さまに治してもらうよ」
治療が得意な妖精さん。素直すぎる彼女が言うには、チユチユの実という悪魔の実の能力だそうだ。こんなか弱い女の子まで閉じ込めるなんてどうかしてるけど、悪魔の実の能力ならばその治癒能力も超人的なものなんだろな。
「……ありがと。優しいんだね」
いいなあ。おれもマンシェリーちゃんみたいに優しかったら、ローくんもドフィも傷つけやしなかっただろうか。
「そんな! 痛そうなの……いやれすから」
おれは格子窓がある壁に背をつけて座り込む。
「でもちょーっと辛いから座らせてね」
「もちろん! もちろんいいれすよ」
「ありがと……ッはー……、疲れた」
頭も身体も心も全部疲れた。だけどドフィの目から離れられたのなら脱出するチャンスはあるかもしれない。幸運にもここは王宮の一階だから、外はすぐそこだし。
「でも……さっき、私……」
「んー?」
「ドフラミンゴ王がわるいひとって知らなかったから、仲間をひとり治してしまったのれす」
「……どんな奴だったか覚えてる?」
「女の子れす。青い髪の……」
「シュガーかあ……」
よりにもよってか……。おれは力なく項垂れるも、マンシェリーちゃんに気を遣わせたくはないのでひとまず笑い飛ばす。
「大丈夫大丈夫。うちの船長が悪いひとみんな懲らしめてくれるから」
「ほんとうれすか……?」
「うん。だから泣かないで。おれと一緒に、助けに来てくれるの待ってよう」
その時カツ、カツ、と足音が聞こえてきた。
「は、はい!」
「……マンシェリーちゃん、ちょっと静かにしてて」
「はい……!」
おれは瞼を下ろして気配を探る。足音はひとつ。ふたつ、ああ、幾らか居るな。あと何か重たいものを引き摺る音。まっすぐこっちに向かって来てる。
麦わらくんのクルーくんが捕まったのなら生かしてここに入れるわけもないし。捕まえておくなら手錠でじゅうぶん。とすれば……狙いはチユチユの能力か。
重たい頭をゆるく振って立ち上がる。背後の格子窓に寄っておれは声を潜めて言った。
「……怖いひとが来るかもしれない」
「えっ?」
じわりと滲む彼女の涙を見ると、どうにも胸が痛む
「悪いんだけど、……やっぱり今すぐおれのこと治してもらえないかな」
「まかせてくらさい!」
悪魔の実の能力は、いつもおれを驚かせてくれる。
チユチユの実の能力者であるマンシェリーちゃんは、ちいさなジョウロを取り出した。そうして格子の間からおれの手のひらに向けて、中の水を注いでくれる。
キラキラしてる綺麗な水をさっき撃たれた左肩に包帯の上から塗り込んでみたら、じくじく痛んでいたのが嘘みたくさっぱりなくなった。
マンシェリーちゃんは、またジョウロを差し出してくる。
「疲れてるのはどうしたらいいの?」
「飲んでくらさい!」
「の、……は、はい」
「はやく!」
基本的には怪我の治療にその能力を使うらしいけど、体力の回復に重きを置くのならば飲むのがいいらしい。ほんとに?そんなムシのいい話がある?
まあ、あるから悪魔の実なんだよな。
「おー……なんか元気出てきた。ありがとう、マンシェリーちゃん」
「足首は平気れすか?」
「ん? うん。こっちはね、主治医の先生に診てもらうから。痛みもないし」
途端、タイムリミットがやってくる。ガシャンと扉の向こうで鍵が開く音がした。おれは即座に身を滑らせて内開きの扉の裏側へ。
「マンシェリー! 仕事ざます!」
「きゃあ!」
おしおき部屋にやってきたのはジョーラだった。ジョーラ……ジョーラか……でもジョーラならおれひとりでもなんとかやれるかも。引き連れてきたら部下は倒れて気を失っている幹部連中を運んできた。やっぱりこいつらの治癒が目的なわけだ。
嫌がるマンシェリーを格子窓から連れ出して、ガミガミ怒鳴る声の喧しさったらない。
「もうこれ以上……! 悪い人達を治すのはイヤれす!」
涙を流して訴える姿に胸が痛んだ。あんまりにも可愛いだろ。ほんとあんなオバさまに捕まっちゃって可哀想に。おれは部下どもを一瞥する。使いやすそうなナイフを持った奴に目をつけて、タイミングを窺った。
「って、惑わされてる場合かーい!」
「ぎゃあ!」
絆されかけた瞬間、ジョーラは近くの部下を殴りつける。今か? 今だな。
だけど、あろうことかジョーラはちいさなマンシェリーちゃんの身体を掴み上げて、さっきのジョウロを出せと迫りだした。
ああもう見てらんない!
おれは静かに脚を扉の陰から出して、一気に部屋の中央へ躍り出る。すごい。身体が軽い。これ程までの治癒力なら、なるほどドフィが手離さないわけだ。
「ちょっと借りるね」
「は? えっ、ニアさまっ?」
「ニア!?」
おれは目をつけたジョーラの部下の腰から丁度良さそうなナイフを抜き取る。すぐさまその刃を男の背中に突き立てた。無様な呻き声を上げて転がる部下を足蹴にしつつ、おれはナイフをジョーラに差し向ける。
「やあ、ジョーラ。ご機嫌いかが?」
すごい。身体が自由に動く。
「ニア! あーたどうしてココに!」
「連絡来てない? ドフィったら抜けてるんだか……らッ♡」
「っア゙ァア!」
「あは、上等なの使ってる! ラッキー!」
狼狽する部下たちの塊に向かって飛び出して、ひとりずつその身を切りつける。もう武器を取れないように腕の筋を断った。足りない。まだまだ足りない。敵はまだたくさん居る。
「……ジョ、ジョーラさま!」
「ダッ、ダメざます! ニアに手を出したらあたしくしが若様に……!」
動けないなら好都合だ。おれはモタつく部下たちの足元に身を屈め、その足の腱に向かって深く突き刺していく。もう歩くな。走るな。追っても来るな。
いくら駆けずり回っても息があがらない。マンシェリーちゃんさまさまだ!
「ニア〜!」
「待ってて、今助ける!」
そうして残ったジョーラ目掛けておれは駆け抜ける。泣き叫ぶマンシェリーちゃんの悲鳴なんて聞いてて辛い。その時だった。彼女の涙がこぼれ落ちて、ジョーラの足元に転がる部下の身体に落ちた。ただそれだけ。ただそれだけだったのに。
「うおっ? え? ……おれは一体!」
「……ケガが……治った!」
「うわ、マジかよ!」
ジョーラは不気味なまでの笑みを浮かべ、どんどんマンシェリーちゃんを痛めつける。おれはナイフを向けたまま、ジョーラを睨んだ。
「じゃあ泣けェ! もっと泣けー!」
「キャー!」
「っ、ジョーラ! やめろ!」
「ニア、そんな物騒なモノ早く下ろすざます! マンシェリーに当たるざます!」
「ニア……! ふええーん!」
「…………分かった、ジョーラ。こうしよう」
するとジョーラはマンシェリーちゃんをその手に持ったまま、じっとりした目でおれを見てくる。おれは手に持った血濡れのナイフを自分の首に突きつけた。
「……これならどう?」
「ニア!」
「ドフィに何て報告するの? 目の前で見てたけどウッカリ死なせちゃいました? それだと自分が罪被っちゃうね。何も知らない新入りの部下が刺しちゃったとか? どうする?」
するとジョーラは鼻で笑う。
「どうせ死ぬつもりもないざます!」
「はは、あるよ。やだな。おれが死んだあとのドフィも見てみたいけど……世話になったって言っといてくれる?」
「やめるざますニア! 傷でもついたら!」
「傷でも……ついたら?」
ほんの少しちからを込めてナイフを滑らせる。痺れるような鋭い痛みがおれの首に走った。顎の下あたりがプツリと切れて、細く血が流れてくる。
「やめるざますやめるざます! あーた、若様が……!」
「ドフィが? なに? ッハハ、おれの心配してくんないんだよね、ジョーラは」
一瞬の隙をついて、おれはジョーラと間合いを詰める。次に肩を掴んで、でっぷりとした肉の乗る顎に向かって刃先を軽く滑らせた。
「気ィ抜いちゃうからこうなる。動いたら危ないよ」
「ニア……!」
「今まで散々好き放題してきたんだ。死んでも文句ないでしょ、今更」
「見つけたれすよーっ!」
「へ、なに」
ジョーラの肩から手を離さず部屋の扉へ目を向けたけど、誰も居ない。いや、居る!
マンシェリーちゃんくらいの大きさの妖精だった。ありがたいな、援軍だ。間髪入れずに部屋に押し入り、そのちいさな身体でぶわりと飛ぶ。
「レオ!」
「姫!」
姫? マンシェリーちゃんってお姫さまなのかよ。
「レオ! どけ! お前はジョーラを仕留めろ!」
「レオくん、そのまま突っ込んでいいからやっちゃって!」
「離すざますニア〜!」
「やーだよ」
黒いカブトムシくんが衝撃の体当たりを見せて、幹部連中の身体を一瞬でジョーラの足元から移動させてくれた。ちいさい身体のどこにそんなパワーがあるんだ。
「んなァ〜にィ〜!」
「ぬいぬいぬいぬい! ぬいぬいぬい〜!」
レオくんは手に糸の通った針を持ってた。その針でジョーラたちの身体を一纏めに縫いつけていく。トンタッタ族ってやっぱり凄いんだなあ。おれはここらでお暇しよ。
「放して欲しそうだから放したげるね」
「ニア!」
「ばいばーい」
巻き込まれるのは嫌だから、床を蹴ってジョーラから離れた。
「!」
「みんな仲良く縫いつけてやるれす!」
「何ざます一体? え!」
「高級仕立! パッチ★ワーク!」
見事な大技だ。幹部たちの身体をジョーラに縫いつけて、硬い地面へ叩きつける。
多分、おれが思ってる何倍もの衝撃なんだろうなあ……と気絶したジョーラの何とも言えない顔を眺めながら思った。
「レオ……こわかったよう……!」
「姫、また重くなったれすね」
「とあーっ!」
すっごく可愛いし、和むやりとりだな。
おれは気を失って仲良く纏まってる幹部連中の塊へと足を向ける。
「……ねえ。これ、殺しとかなくていいの?」
「はっ! まだ敵が!」
「レオ、彼はニア! 敵じゃないれす! 助けてくれたの!」
「ニア……! 捕まってるって話を聞いてるれす! 会えてよかった!」
レオくんたちはチョロチョロ歩いて足元へやってくる。おれも身を屈めて腰を下ろした。
「助かったのはおれの方。ありがとね、マンシェリーちゃん」
「困ったときはお互いさまれす!」
「ふふ、かーわい〜。おれのこと誰から聞いた? ヴァイオレット……あー、ヴィオラちゃん?」
するとレオくんはこっくり頷く。
「よかった。ヴィオラちゃんも無事なわけね」
「すぐ脱出を!ぼくらは一旦ひまわり畑へ向かいます。姫の奪還が目的れした!」
「じゃあおれもそうしよ。君らの方が足はやいよね。先に行って……んー、そうだな。麦わらくんの仲間に、ニアは大丈夫だったよって伝えておいて」
「了解れす!」
「レオ♡足をケガしたの。おんぶしてもよくってよ♡抱っこでも可♡」
「出たれすよ!姫のわがまま!」
そんな可愛いやり取りを横目にみつつ。おれは割と本気で、この幹部連中は殺しておいたほうがいいんじゃないかなあなんて考えていた。
トンタッタの子たちは凄まじい速さで王宮の外へ飛び出して行った。おれはというと、最後にもう一度幹部連中を一瞥したのちにおしおき部屋を後にする。
王宮の上の方からは今尚轟音が響いていた。
レオくん曰く、そこでローくんと麦わらくんがドフィとやり合っているらしい。
そこへ飛び込むつもりはなかった。行ってもどうせ足を引っ張るし、庇われるのなんてまっぴらごめんだ。
さてどうするべきか。
屋上へ登って身を隠し、最後まで見届けるか。それとも麦わらくんのクルーと合流するか。勿論本音を言えば今すぐローくんの元へ駆けつけたい。彼が抱えた本懐の、行き着く先を見ていたい。
しかしこれは戦争だ。
一瞬の迷いやスキが敗北に直結する。万が一おれが近づいて戦局を傾けてしまっては元も子もなかった。ローくんと麦わらくんに集中してもらうには、やっぱり他の人たちと合流するのがよさそうだ。
おれにもっと力があったなら、悩まず屋上へ駆け出しただろうか。
最初に切りつけて倒れたままだったヤツの身包みを剥いで、それに着替える。今まで着ていたお気に入りのジャケットなんかを小脇に抱えて、おれはこっそり王宮をあとにした。
後ろ髪を引かれる思いで、王宮から離れていく。強い衝撃に石造りの王宮が欠ける音。床に叩きつけられる音。戦況が読めないながらにも、まだ戦闘が終わってないということはまだ負けてないということだ。
忌まわしい鳥カゴによってすっかり以前の面影をなくしてしまったドレスローザの街を眺め、一呼吸おいてから小走りになってひまわり畑を目指す。