10

翌日、おれたちはキャベンディッシュの船を離れて一度ヨンタマリア号へ戻る。

「キャベンディッシュ、お部屋ありがとね」
「構わないさ。でもリネンまで纏めておいてくれるとは思わなかったから驚いたよ」
「…………へへへ」

あんなぐしゃぐしゃのまま出て来られるわけない。

「あ、レオくん。マンシェリーちゃんによろしくね」
「はいれす! また会いましょう、ニア!」

ぴょんっと飛び上がったレオくんとハイタッチしていると、サボくんが作っておいた麦わらくんのビブルカードをみんなが少しずつ千切っているのが見えた。

「おはよ。麦わらくん、良かったらおれにもくださいな」
「おお! いいぞ! 持ってけ!」
「ありがと」

あの麦わらのルフィのビブルカードがこの手にあるというのもなんだか不思議な心地だ。おれはビブルカードの切れ端を、取り出した手帳に挟んでおく。
そんなこんなで集まった海賊どもとはお別れになってしまった。

いざ離れるとなるとなんだか寂しい。みんないい奴だったなあと思いながらも、誘導されるがままにバルトロメオくんの船へ乗り込んだ。

「こんなにやべー船初めて見た」
「だべ? 褒めてもらえっと嬉しいべ!」
「だから褒めてないってば」

天丼か。先ほどウソップくんと彼が交わしたやり取りをなぞりつつ、おれたちはデッキのソファへ腰を下ろした。

「やー楽しい宴だったなー。あいつら好きになった」
「バルトロメオ、とにかくゾウへ急げ」
「サンジ達ちゃんと島についてるかな」
「ゾロくん、新聞おれにも見せて」
「ああ」

ローくんの隣に座ると、ゾロくんが新聞を持ってきたのでおれは彼の手元を覗き込む。

「! おいルフィ、どうやらおれ達懸賞金上がってんぞ?」
「えー? 本当か!」
「おお……まあそりゃそっか」

国ひとつひっくり返してきたもんなあ。七武海をひとり潰して、海軍大将まで相手取ったわけだから当然だろな。

「あれま! ご存知ねがったですか! じゃおれの部屋に手配書あるんで、どーぞどーぞ」

バルトロメオくんは目を輝かせながら麦わらくんたちを部屋へ案内しようとするので、彼のクルーくんたちも口を揃えて「どうぞ!」と声を張り上げる。
すごいな。乗組員みんな麦わらくんのファンかよ。

「おい! トラファルガー」
「?」

おれも見に行ってみよっかなと腰を上げかけたところで、ローくんに声が掛かったのでおれはバルトロメオくんに顔を向ける。

「おめェのは捨てたが五億に上がってた」
「ああ……そりゃどうも。額なんかどうでも、」
「はい?」

弾かれたようにおれはソファから立ち上がって、とんでもないことを言ってのけたバルトロメオの前へ躍り出た。

「手配書とはいえ、うちの船長の顔写真を捨てたって?」
「……ニア」
「やだやだ! ローくんの新しい手配書欲しい! なに捨ててんだよバリア野郎なんとか言え」
「お、おっかねェべ……!」

慌てふためく彼を残して、おれはデッキの端でニュース・クーがまだ飛んでいないか肉眼で探し始める。たまたま遠くを飛んでいた一羽のカモメに大きく手を振って呼びつけてコインを払えば、新聞を一部手渡してくれた。よかったよかった。

「まだ居た!」
「そりゃ良かったな」
「ねえ、五億だって。すごいねー。億越えたあたりから金額のことよく分かんなくなる」

新聞を開いておれはローくんの隣に戻る。折り込まれている手配書をパラっと捲れば、麦わらくんの次にローくんの手配書が挟まっていた。

「…………かっこいーね」
「そうかよ」
「コレクションが増えまし……あれ?」
「なんだ」
「………………多いな」
「あ?」

麦わらくんたちの手配書を見終えて、総額でいくらだろうなと計算していたところに最後の手配書が目に入った。おかしいな。ここにはローくんと麦わらくんたち含めて十枚しかない筈なのに、十一枚目がある。

「……ローくん、おれのがある」
「……………………そうか」
「そうか……じゃなくて!」

そこへ、麦わらくんたちが自分たちの手配書を確認し終えて戻ってきた。ローくんは取り合ってくれないので、おれは真っ先にその首に五億を掛けられた麦わらくんに飛びつく。

「どーしよ麦わらくん。おれ、ついにお尋ね者になっちゃった」
「おお! そーなのか! よかったな!」
「んんん〜いいことなのかな?」
「今までは無かったの? トラ男くんのクルーなんでしょう?」

と、おれを宥めてくれたのはロビンちゃんだった。そんな優しい彼女に「そうなんだよねえ」と零せば、ローくんは「当然だろう」と呟く。

「ドフラミンゴが差し止めてたんだろうな」
「あー……ああ、なるほどそれで」

なんだか納得だな、とおれは気を落ち着けてローくんの隣へとぼとぼ戻った。

「嫌がらせだ……おれを捕まえてあの人の余罪を吐かせようって魂胆なんだ絶対そうだ……おれに八千万だなんて海軍あたまおかしい。おれもトニーくんみたいに可愛い額がいい」
「……写真を見る限り、そうでもねェかもな」
「どういうこと」

写真? 写真まではよく見てなかった。

「アイツに喧嘩吹っ掛けたときのだろ。その顔」
「…………ほんとじゃん。いつ撮ったの」
「数分とは言えあのドフラミンゴを食い止めてたんだ。額はこれまでアイツが差し止めてた分を上乗せした上でアイツの……、側近だった経歴なんかも合算した額だろうな」
「……こんな悪人ヅラじゃなくて、もっと無害そうに撮ってほしかった」

つらつら愚痴るおれの手から、麦わらくんがおれの手配書を取り上げる。

「ニア、お前こんな顔すんだなー!」
「しな……し……してたんだろね」
「にっしっし!」
「貸せ、麦わら屋。これはおれが預かる」
「おう。分かった」
「そんなの持っててどうすんの」

ローくんはなんだかご機嫌な様子で麦わらくんから手配書を受け取ると、綺麗に畳んでポケットへ仕舞った。

「いい顔してる」
「は〜……そうですか」
「いい事も言ってたな」
「忘れてくれよもう……」
恥ずかしくて死にそうだ。


   ◆


今まで経験した航海の中でもっとも酷い航海だ。まさかこの船に航海士が乗っちゃいないだなんて夢にも思わなかった。どでかい雹をやり過ごし、大シケを越える。航海というより漂流一歩手前と言い換えてもよかった。怖い目に遭った。

ゴーイングルフィセンパイ号もなかなか苦労するよなあと、その船の手すりを撫でる。
しかしなんとか目的地であるゾウにたどり着くことができたと分かったのは、ローくんが持っていたベポくんのビブルカードがあったからだ。

「ベポくん近い? もう会える?」
「距離までは分からねェが、無事なんだろう」
「……よかった。早く行こ」

目の前に聳えている巨体な像がそのゾウだというローくんの言葉には驚いたけど、なんでもありなのがこの海だった。

「これが……! 麦わらの一味のご神体を運ぶ偉大なる船! サウザンド・サニー号先輩! ありがたやー! ありがたやー!」
「拝むな!」
「おお〜おれも初めて見る! かっこいー!」

一度必要な物を取りに麦わらくんたちが船室へ戻り、いざバルトロメオくん達ともお別れがやってくる。最後の最後まで咽び泣いていた彼らだったけど、麦わらくんに名前を呼ばれて更に泣いてたから見ててちょっと面白かった。

ゾウに上陸しなくちゃならないおれたちは、カン十郎さんの能力によって現われ出でた気の毒な龍の背中に乗って先を急ぐ。

「直角九十度……頭落ちそう」
「あら、大丈夫? ニアくん」
「だいじょぶ……」

上を見ても下を見ても恐ろしいので、おれは終始目を瞑ってローくんの背中にしがみついておくことにした。

途中アクシデントがあって錦えもんさんとカン十郎さんが下に落っこちちゃったけど、おおごとにはならなかったようで一安心。下へ戻ろうとしたところ、先に行ってくれと言う声がする。だけどな……とは思えど、ここまで一生懸命によじ登ってくれた龍くんが気の毒すぎて、誰も「戻ってくれ」とは言えなかった。



辿り着いた国は荒れ果てており、おれは目を丸くする。千年の歴史を持ち文明も栄えていたと見えるこの国はひとを遠ざけていたとは言えども、ベポくんの故郷だ。生々しく残る破壊の傷跡に、おれは胸が痛む。

「かすかに火薬の匂いも、ガスの匂いもしねェか?」

各々検分しつつ歩を勧めるなかフランキーさんが言うので、おれも鼻を効かせて確かめる。

「ほんとだね」
「何なんだよ……たまには平和な国でのんびり……」

その時だった。何かが此方に駆けてやってくる気配を察知する。おれはナイフを抜いて構え、ローくんの半歩前へ出た。

「え! 何だ! なんかいんのか!」
「任せろ……」

そう言ったのは剣豪であるゾロくんなので、おれはすこし肩の力を抜く。前方の警戒は彼に任せて半歩後ろのローくんに目配せをする。
前からやってきたのはやけに身軽な女の子だった。女の子?うさぎ?彼女はゾロくんの居合をふわりと浮いて躱わし、空中でぐるりと回転したあと反撃に出る。するどい爪から繰り出される突き……と電撃だろうか。ひとまずおれは邪魔にならないように身を引こう。

「待て! やめるのだキャロット!」
「え?」

続いて大きな動物に乗ってやってきたのも女の子だった。キャロットと呼ばれた子と同様に動物みたいな出で立ち。

「ミンク族だ」
「おお……あれがミンク族」
「……何だあの武器……! 一瞬電気が走った!」

それから彼女たちは侵入者の話を口早に済ませ、驚異的な身体能力を見せつけてくる。索敵を行なったのであろうことは彼女らの会話から見て取れた。

「ここより右手、右尻の森を進み闇深き沼を左折! 右腹の森へ行け! ゆティアらの仲間の死体がそこに! 右腹の森で待て! 私達も後で向かう!」
「「えェ〜〜〜〜っ!」

言うだけ言って、彼女らはワーニーと呼ばれた動物に乗って走り去ってしまう。おれ達はぽつんと残されてしまった。
なんだったんだ、今の。仲間が殺されたと泣き叫ぶウソップくんを宥めつつ、おれはナイフをしまってローくんのそばへ。

「トラ男君。あなたの仲間達がここにいるんでしょ?連絡手段は?」
「……ない……! また会えるとも思ってなかったからな……」
「?」

ロビンちゃんは「いいの?」って感じの視線をおれに向けてくるけど、おれは浅く頷くので返す。おれは必ず戻るってローくんやベポくんにも言ったし、心にも決めて出て行ったわけだけど。もちろん無事に済むなんて思わなかったし、向こうで過ごすうちに何度も心は折れかけたから。おれがローくんを責めたりする道理があるはずもなく。

「これは、ウチの航海士ベポのものだ」
「そういや喋るシロクマがいたな! あれもミンク族か?」
「ああ。ここはあいつの故郷……! だが当人にもこの島の記憶はあまりなかった。幼い頃に島を出ちまってるからな。十年来のおれの仲間だ。信頼はできる」

なんだかんだローくんはベポくんのことも、クルーくんのこともみんな好きだもんなあ。言葉の端々になんだか暖かいものを感じる。

「正確な情報を得たければまっすぐだ」
「みんなローくんに会いたがってる。はやく行ったげよ」
「……それはお前にも言えることだな」
「…………怒ってないかなあ……怖くなって来た」

そんなおれの頭を、ローくんはぽんと叩いた。



そのあと、おれたちは一旦はぐれた麦わらくんともなんとか合流できた。だけどローくんは突然シャンブルズするからみんなびっくりしてたよ。
麦わらくんと会ってからの念願だった、トニーくんやナミちゃんをひと目見ることができたけど。なんだか素直に喜んじゃいけなさそうなのは、サンジくんの不在を報せるナミちゃんがすごく悲しそうだったからだ。

おれとローくんは麦わらくんにひと言告げて、ハートの海賊団の面々が居るという森へと向かう。ビブルカードを手に乗せたローくんはご機嫌みたいだけど、おれはどんな顔をしてみんなに会えばいいんだ。

「…………心の準備が」
「……」
「先行ってて。もう近い。気配でわかる」
「おい」

言うなりおれはそばの木の陰に身を隠してしまう。ローくんはおれを引き留めるけど、草木を掻き分けて此方へやってくるジャンバールくんの姿がチラッと見えたので引くに引けず。
直後ベポくんが「キャプテン!」と大声をあげてローくんに向かって飛びつく。ああ……元気そうでよかった。

「来てくれたのかー! もう日が落ちたのにー!」
「スゲーなードフラミンゴに勝ったなんて!」
「いやァ、あれは麦わら屋が……」
「……キャプテン、ニアは? ……一緒に帰って来た……?」

不安げなベポくんの声が聞こえて、おれは出て行こうとも出来ないでその場にうずくまる――はずだった。突然視界がブレて、言いようのない浮遊感。ローくんだ、と思った時にはすでに遅く。おれはローくんのすぐ側まで引きずり出されてしまう。

「あ! ニア!」
「ニア!」
「ニア〜!」
「…………あ、え……っと、ごめ」

するとローくんに飛びついたままだったベポくんはゆっくりとその足を地面につけて、じっとおれを見下ろした。

「心配したんだよ」
「……う……」
「まさかこんなに長い間居ないなんて思わなかった」
「ご、」
「でもねニア」

おれの身体はふわっと浮き上がる。今度はローくんの能力じゃなかった。ふかふかのベポくんの手が、おれを抱き上げた。

「おかえり、ニア」
「…………っ……た、だ」
「うんうん」
「ただいま……」

ぽろりと口から溢れ出たのは甘ったれた言葉だった。なのにベポくんは、おれをぎゅーっと抱きしめて頬ずりしてくれる。
そんなベポくんの頭に、包帯がぐるぐる巻かれてあった。

「え…………怪我したのベポくん、みんなも。なんで? 大丈夫? ローくん、みんなが」
「落ち着け」
「話したいこといーっぱいあるよ! 向こうでゆっくり話そ、ニア」

ベポくんに連れられて森の奥へ移動する間も、みんなはローくんとおれに向かって口々に「おかえり」を言ってくれる。

「…………、」
「どしたのニア。ニアも怪我してるよね?どっか痛むの?」
「……ほっとして、なんか……」

堪えられない涙が膜を作ってすぐ目から溢れた。おれ涙腺緩くなっちゃったのかな。ほっとして、気が抜ける。

「なんか…………、出てきちゃっ……ベポくん〜、ごめん」
「わー! 泣かないでいいんだよお!」

首にしがみついて喚くおれの背中を、ベポくんは優しく撫でてくれた。


   ◆


おれが落ち着いた頃に、ベポくんたちは今まで何があったかを話して聞かせてくれた。この国でなにが起こったのか。みんなの怪我の理由もそこにあった。

「…………生きてて、よがっ……」
「もうニア〜泣きすぎだよ」
「ベポくんまだ頭痛い? ローぐんオペしで……」
「手当てはちゃんとしてるよ〜」

ベポくんのお膝の上でみんなの話を聞いて、おれはタオルを片手に止まらない涙を拭い続ける。もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「ニアは大丈夫だった? 一人で先にドレスローザに行ったんだよね」
「おれなんて全然平気だよ……ローくん達がいっぱい頑張って、いたたたた」

隣に腰掛けてたローくんが、鬼哭の柄でおれのお腹をぐりぐり押してくる。

「嘘はやめろ」
「が……がんばり、ました」
「やっぱり! 新聞読んだよ。やっとニアに手配書出たねって皆と話したんだ!」

お腹をさすってると、すかさずシャチくんが手配書を持ってきてわざわざ見せてくれた。

「……手配書の写真差し替えとか出来ないの」
「いや無理だろ」
「やだ〜やだやだ! みんなで笑ったでしょこんな顔……」

だってこれあの人におれはローくんの右腕だよって啖呵切ったとこだもん。めちゃくちゃ悪い顔してるもん。ご飯食べてるとことか撮ってほしかった。そっちのがまだマシ。

「え? 笑ってないよ」
「……ほんとに?」
「なにイジケてんだ? お前船長に手ェあげたヤツにいっつもこんな顔して笑ってんじゃんか」
「そうだぞニア」
「……嘘だ」

なにそれ全然知らなかった。

「ローくん知ってた?」
「知ってた」
「こんなローくんみたいな悪い笑い方してる?」
「してる」
「……、こんなの似合わないからもう辞める」

なのに皆は「絶対無理」って笑うんだからもうお手上げだ。おれは皆から顔を隠すためにベポくんのお腹に向かってしがみつく。

「…………帰ってこれてよかった」
「うん。みんな二人を待ってたよ」
「……ドフラミンゴにちゃんとローくんのとこの人間ですって言ってきたんだよね」
「スッキリした?」
「した……自由だ……おれも、ローくんも」

ベポくんは「なら良かった」とおれを抱きしめてくれる。ふかふかのベポくんは本当におれを癒してくれるしとっても優しい。

「心配掛けてごめんね。もうおれ、何処にもいかない」
「約束する?」
「する」
「じゃあニア、指切りしよ」

ベポくんと指切りってどうすればいいんだろ。
とは思いつつもおれはベポくんのお腹から顔を離して手を持ち上げた。そしたらシャチくんやペンギンくんたちが、おれの小指に小指を絡めてくれる。

おれ一人に対してクルーくん全員だと小指だけじゃ足りなくて。おれの右手の指は余すことなく誰かの指に絡め取られた。
その上から、ベポくんがぽんと手を置いて肉球でぎゅっぎゅってしてくれる。

「…………おれこんなのまた泣いちゃう」
「泣き虫だな〜ニア!」
「船長もニアも帰ってきたからそれでいいんだよ!」
「ローくん……」

こんなのでいいんだろうか。

帰ってくるだけでよかったなんて、そんな話があるんだろうか。おれをまた受け入れるためになにか利がなければならないんじゃないか。なんておれが一人でぐるぐる考えていると、意外なことにローくんはその手をベポくんの手の上に重ねて置いた。

「…………へ、」
「船長が見届けねェと締まらねェだろ」
「……もう、……なに……」
「さんはい!」
「「「ゆーびきーりげ〜んまん!」」」
「「「う〜そつ〜いたら」」」
「「「シャーンブールズ〜〜♪」」」

歌い上げた終わりがそんななので、おれは感激を通り越してつい笑ってしまう。

「……だそうだ」
「嘘つかなくても、結構シャンブられるんだけど」
「それはそれ!」
「これはこれ!」
「……はは、判ったよ。約束はちゃんと守る。何処にも行かない」

とっぷり日の暮れた森の中は暗くて少しじめじめしてるけど。そんなことはひとつも気にならない。ローくんが居て、皆が居てくれる。おれが帰ってくる場所はちゃんとあったし、皆が守ってくれてたんだなあ。

「あー! ニア!」
「え、なに。びっくりした……」
「脚のそれどうしちゃったのー!」
「……? ああ、これね。見た目酷いから皆心配してくれるんだけど大丈夫だよ」

ブーツを脱いでベポくんによじ登ってたから見えちゃったんだろな。
ベポくんがあんまり大きな声で叫ぶので、皆の視線も集めてしまう。

「ニアはツナギじゃないからこれがウチのだってシルシだったのにな!」
「ドフラミンゴか! ドフラミンゴがやったのか!」
「慣れちゃってて忘れてたや……落ち着いたらローくんに治してもらおうと思ってて」
「絶対治してね! キャプテン!」
「……うるせェな。分かってる」

ふい、とローくんは顔を背けた。

「でもニア、ちょっと痩せた?」
「ちょ〜っとだけね」
「ご飯食べてる?」
「食べてるよ〜」
「怖くなかった?」
「もう……そんなに心配だった? この首ひとつでしばらく遊んで暮らせるレベルの男だよ」
「馬鹿ニア〜!」

ぎゅぎゅーっと押し潰されていると、おれは約束を破ったわけでもないのに早速シャンブルズされる。フワッと浮いたかと思ったら、ローくんの足元に座ってた。

「加減しろ。折れて潰れる」
「わ、ごめんよニア!」
「ヘーキヘーキ。過保護なんだよなあ、ローくんは」

するとローくんはじっとりした視線でおれを縫い付ける。

「怖かったと散々泣いたくせに」
「ちょ、」
「え?キャプテンそれホント?」
「ッもう、言わないでよ」

過保護なのはベポくんもローくんと一緒だなあ。
おれは腰を上げてローくんの隣に座り直した。

「大丈夫だから。全部終わったこと。これからは皆とずっと一緒だよ。心配掛けちゃったぶん、いーっぱい働くからね♡」

かくして再集結したハートの海賊団は浮かれ調子に各々声を上げて、おれ達二人の帰還を改めて祝ってくれる。

「……おかえりーって、こんなに優しいんだね」
「何も怖がる必要なかっただろ」
「……それは、そうなんだけど」
「お前も色々心配し過ぎなんだよ」
「……ごめんなさい」


   ◆


同盟海賊団である麦わらくんたちに面通しをするため、お祝いもそこそこにおれ達は麦わらくんのビブルカードを頼りに歩き出していた。

しばらくして拓けた居住区にたどり着く。後ろを歩くベポくんが、ここが自分たちが手伝っている侠客団の居住区だよと教えてくれた。なんだか賑わっているようで、きっと一番騒がしいところに麦わらくんが居るんだろうなあなんて思う。

「何の騒ぎだ?」
「なんかおっきいネコ居る」
「あ! トラ男〜! ニア〜! そいつら仲間か〜!」
「そうだ、紹介しにきた」

つかつかと歩いてローくんが前へ行ってしまうので、おれもついて行こうとするとベポくんに肩を掴まれて止められる。

「え? なに?」
「待っててニア、おれに任せて!」
「ちょっ……うわァ!」
「ウチの船員、総勢二十一人だ!」

両腕に抱えられたおれは天高く持ち上げられて目を回した。なに。なに!

「「「「お見知り置きをォ! 麦わらァ!」」」」
「おう!」

にっこり笑って手を上げてくれる麦わらくんの気持ちはとっても嬉しいし、何よりローくんがイキイキしてるのなんてすっっっごく嬉しい。だけど早く下ろしてほしかった。びっくりした。一通りのパフォーマンスを終えたら、ベポくんはおれを下ろしてくれる。

「話があるんだ」
「んん」
「終わり?」
「「「ぞんざいっ!」」」
「「「おれらぞんざい! キャプテーン!」」」

着地したおれはローくんの後を追いかけて部屋の中へ。ただの同盟だから仲良くする必要はないなんて言いながらも、やっぱりクルーくんたちとのやり取りは楽しそう。

部屋の中で聞かされたのは、サンジくんの動向についてだった。本来の目的である四皇カイドウとは全く別件でビッグ・マムの元へ行ったなんて聞かされれば流石にローくんも頭を抱えてしまう。おれもだけど。

「おれ達がカイドウに狙われるのは時間の問題だぞ! しばらく身を隠せる筈だったこのゾウも奴らに場所が割れちまってる」
「んー」
「次はおれ達が狙いだとしても! また攻め込まれたらこの国は一体どうなる!」

ローくんにしては珍しく、分かりやすく優しいところが見られた気がする。
そんな発言はミンク族の心をしっかり射止めてしまったようで、皆はめいめいにお礼を述べたり泣き出したりだった。おれは眉を顰めるローくんに寄りながら笑い掛ける。

「……はは」
「なんだ」
「おれ、ハートの子で良かった」
「当たり前だ。ハナからお前の行くところなんておれのそば以外に無ェんだよ」
「……おお〜。じゃあ、首輪でもつけて縛っておく?」

冗談っぽく言うと宴の宣言に賑わう皆の声に紛れて、ローくんはおれに耳打ちをする。

「……縛られてんのはおれの方だ」
「なんだよそれ……ズルい」